河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 中卷(八)乾貝並貝柱の說(その9) 乾潮吹
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページから。]
乾潮吹《ほししほふき》
潮吹貝(しほふきかい[やぶちゃん注:ママ。])は「本朝食鑑」に『潮吹蛤(しほふきはまぐり)』とし、『此の蛤(かう)、最(もつとも)、潮(しほ)を吹く故に、名(なづ)く。白貝(しろかい[やぶちゃん注:ママ。])と殊(こと)なり、小(しよう[やぶちゃん注:ママ。])なるものは、淺蜊(あさり)に似て、白く、紋、なく、殼、紫黑(しこく)』色(しよく)とす。而して、此ものは、諸國の沿海中、泥沙(でいしや)にして、干潮(ひかた)[やぶちゃん注:ママ。「干潟」の誤記か誤植。]の場所に產するものなれとも[やぶちゃん注:ママ。「ども」。]、煑食(しやしよく)には、細沙(さいしや)を含みて、味、佳ならざるを、以て、下等のものとす。下總(しもふさ)の海岸、撿見川(けみかは)等(とう)には、夥しくあれども、東京には買ふもの、なく、僅かに野州(やしう)地方に賣(うる)なり。然(しか)るに、近年、肥前・筑後・肥後等(とう)にてハ、「ほしうばかひ」と稱し、淸國へ輸出せり。其價(あたひ)、昨(さく)十八年十月、長崎にて、百斤七、八圓なり。此ものは、十月より翌年の四月頃までは、殼付(から《つき》)、七、八石にて、乾貝(ほしかひ)百斤を得らるヽも、五月よりは、十石以上の數(すう)より、百斤を得るものとす。乾燥器を以て製したるは、殊に美にして、價(あたい[やぶちゃん注:ママ。])、貴(たつと)し。上海(シヤンハイ)・香港(ホンコン)ともに、輸出し、販路、極めて廣きものなれば、諸國に於て製するを、よろし、とす。其製法は、殼のまヽ煑て、殼を去り、能(よ)く洗ひ、乾燥するに過きす[やぶちゃん注:ママ。「ぎず」。]。
[やぶちゃん注:これは、
斧足綱異歯亜綱バカガイ科バカガイ属シオフキ(現行では正式和名を「シオフキガイ」とするものが多いが、私は、少年の頃から今まで、一度も、この和名を使ったことはない。因みに「BISMaL」では「シオフキ」である) Mactra veneriformis
である。小学館「日本大百科全書」の尊敬する奥谷喬司先生の記事を、まず、引く。『東北地方以南から九州までのほか、韓国、中国沿岸に広く分布し、内湾の潮間帯の砂泥底にすみ、潮干狩の獲物になる。殻長45ミリメートル、殻高38ミリメートル、殻幅26ミリメートルに達する。殻は丸みのあるハマグリ型で、殻頂部はよく膨らむ。表面には細い成長脈を明瞭』『に刻み、黄褐色の殻皮に覆われているが、縁は紫色を帯びる。漁獲してむき身にするが、えらに粘液で砂粒を集めているので生食には向かず、加工品にされ、干物はヒメガイなどと称されている』とある。附け加えておくと、所謂、アオヤギ(青柳)=バカガイ属バカガイ Mactra chinensis の斧足を干した物は、「桜貝」「姫貝」の商品名で知られるが、実は、バカガイは減少傾向が止まらず、このシオフキが代用品としされていることが多いことを御存知の方は少ない。次に、当該ウィキ(ショボい。というか、私の数十冊の貝類図鑑でも記載はごく短い)を引く(注記記号はカットした)、『和名について、シオフキとする文献もある。和名の由来は、出水管から噴水のように海水を噴き出すこと』に由来し、『別名』を『ショウベンガイ』とも呼ぶ。分布は『中国沿岸。沿海州から朝鮮半島にかけて。日本国内では宮城県以南、四国・九州まで』。『殻長45ミリメートル。薄い殻は前後に短く、三角形に近い。膨らみは強い。殻表には低い同心円肋が発達する。殻皮は黄褐色で薄い。輪肋及び放射彩はない。腹縁は緩い曲線を描く』。『殻の内面は白色または淡褐色(後端は紫褐色)。殻頂近くの前後両側に長い歯がある。外套線湾入は丸く、浅い』。『内湾性で、潮間帯下部から水深20メートルの砂泥底に生息。産卵期は4 - 7月。2年目の成貝を漁獲する』。『食用。潮干狩りでは』、『アサリ・ハマグリなどに混じってよく獲れる』(そこでは「外道」とされるが、私は昔から好きで、よく食べたものである)。『冬にうま味が増すと言われる。ただし、砂を吐かせる際に』、『ポンプで送気し続ける必要があり、あまり喜ばれない。身もあまり美味ではないとする文献もある』(私は物言いを言うものである! 「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページでも、『おいしくないと思い込んで捨てる人がいるが、非常にもったいない。』と述べておられる。至当!)。『アサリの代用として佃煮や干物に加工する。貝柱を天ぷらにすることもある。春の季語である』とある。前の項で述べたが、私の『毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 鹽吹貝(シヲフキ) / シオフキ』を見られたい。而して、面倒でも、私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十七 介貝部」の「蛤蜊(しほふき)」を見られたい。シオフキの潮吹きは、実は、如何に情けないかが、判るリンクを添えてあるから。
「本朝食鑑」国立国会図書館デジタルコレクションの元禄一〇(一六九七)年板の当該部を示す。
「白貝」前のリンク先に、直前に立項されている。これは、
異歯亜綱オオノガイ(大野貝)目オオノガイ亜目オオノガイ超科オオノガイ亜科オオノガイ科オオノガイ属オオノガイ亜属オオノガイ Mya (Arenomya) arenaria oonogai
である。次の次の「尾斧貝」で詳細に解説する。
「撿見川(けみかは)」現在の千葉市花見川区(はなみがわく)検見川町(けみがわちょう)。ここ(グーグル・マップ)。干拓により、完全な内陸となっているが、「ひなたGIS」の戦前の地図を見られれば、シオフキが採れる場所であったことが判る。
「野州(やしう)地方」旧下野國(しもつけのくに)の別称で、現在の栃木県相当。]
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