河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 下卷(九)乾魚並に䀋魚の說(その1)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページ。]
淸國
日本水產圖說下卷
輸出
河原田盛美 撰
(九)乾魚(ほしうを)並に鹽魚(しほうを)の說(せつ)
本邦の海、河、湖、沼、に產する魚類(うをるい[やぶちゃん注:ママ。])凡(およそ)二百餘種にして、其數(そのかず)、千餘(せんよ)あり。而して、乾魚・䀋魚の法も、千有餘年前より行はれたりと雖も、之に製する魚類は百餘品に止(とヾ)まれり。其中(そのうち)、現今、淸國に輸出するものは、僅(わづか)に二十餘品に過(すぎ)ず。
乾魚は「本朝式」に『䐹(しやう[やぶちゃん注:ママ。正しくは「しう」。])』又は『脯魚(ほぎよ)』とし、「和名抄」に『腊(ほしうを)』または『魥(をさし)』或(あるひ[やぶちゃん注:ママ。])は『炒㷶(ひほし)』とあり。是れ、卽ち、乾魚(かんぎよ)にして、『魥(をさし)』とは、繩、或は、竹の類(るひ[やぶちゃん注:ママ。])を以て、貫(つら)ぬき、風乾(かざほし)したるもの、『炒㷶』(しやうび[やぶちゃん注:この「㷶」に当てている崩し字は判読出来ない。カタカナの「ス」に近いが、合わない。取り敢えず、音の一つである「ビ」を相当させた。])とは火乾(ひほし)のものなり。又、「本朝食鑑」に載するところ、生乾(なまほし)、牧乾[やぶちゃん注:これは「枚乾(ひらきぼし)」の誤記である。注で「本朝食鑑」の当該部を示す。]、串貫(くしぬき)、魚條(すはやり)、醃乾(しほほし)、切暴(きりほし)、割乾(わりほし)等(とう)あり。現今、世上に於て製するものは、開乾(ひらきほし)、丸乾(まるほし)、割乾(わりほし)、䀋乾(しほほし)、白乾(しらほし)、簀乾(すほし)、吊乾(つりほし)、串差(くしさし)、切乾(きりほし)、薰製等(とう)なり。淸國に於ても、古しへより、種々(しゆじゆ)の乾製法あり。卽ち、䀋を着(つけ)て乾(ほす)ものを『鯫魚(すうぎよ)』といひ、䀋を着(つけ)す[やぶちゃん注:ママ。「ず」の誤記。]して乾(ほす)ものを『膽魚』、又、『鮝魚(しやうぎよ)』といふ。肉を切(きつ)て乾(ほす)を『脯脩(ほしう)』とし、肉を割(わり)て乾(そす)を『脡脯(ていほ)』とす。亦、陶朱公「致富全書」には、『灸魚(あぶりうを)』、『風魚(かざぼし)』等を載せたり。
[やぶちゃん注:「本朝式」何度も注しているが、「延喜式」に同じ。
「䐹(しやう)」「䐹」は現代仮名遣で音は「ショウ」。意味は「干し魚」。他に「肉を刻んで混ぜる」・「羹(あつもの)/スープ」の意もある。
「脯魚(ほぎよ)」魚の干物。乾し魚(ざかな)。
『「和名抄」に『腊(ほしうを)』または『魥(をさし)』或(あるひ)は『炒㷶(ひほし)』とあり』国立国会図書館デジタルコレクションの寛文七(一六六七)年板で推定訓読しておく。「卷十六」の「飮食部第二十四」「魚鳥の類第二百十二」である。但し、以上は順序が違う。順に、ここの右丁冒頭、次いで、同右丁の次、最後は、左丁の後ろから四行目である。
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魥(をさし/よちよさし) 「唐韻」に云《はく》、『魥は【音、「佉」[やぶちゃん注:これでは、通音にならない。他の資料を点検したところ、これは「怯」の誤刻
である。これならば、呉音「コフ(コウ)」・漢音「ケフ(キョウ)」で完全に一致する。]。今、案ずるに、和名「乎佐之《をさし》」、一《いつ》に云《はく》、「与知乎佐之《よちさし》」。】竹を以《もつ》て、魚《うを》を貫ぬく。復州《ふくしう》[やぶちゃん注:遼寧省に嘗つてあった州。]の界《さかい》より出づ。』≪と≫。
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炒𤏛(ひほしのいを) 「唐韻」に云《はく》、『炒𤏛【「早」「備」の二音。「漢語抄」に《はく》、『炒𤏛魚は、【比保之乃以乎《ひほしのいを》」。俗。云《いふ》、「火旱《ひぼし》」。】火乾《ひぼし》なり。』≪と≫。
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腊(きたひ) 「唐韻」云≪はく≫、『腒腊《きよせき》【「居」「昔」の二音。和名、『木多比《きたひ》』。】は、乾肉《ほしにく》なり。方言《はうげん》に云≪はく≫、「鳥腊《てうせき》」[やぶちゃん注:鳥の肉を乾した肉。]を「膴《こ》」と曰ふ。【音、「無」、又、音、「武」。】』≪と≫。
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『「本朝食鑑」に載するところ、生乾(なまほし)、牧乾、串貫(くしぬき)、魚條(すはやり)、醃乾(しほほし)、切暴(きりほし)、割乾(わりほし)等(とう)あり。現今、世上に於て製するものは、開乾(ひらきほし)、丸乾(まるほし)、割乾(わりほし)、䀋乾(しほほし)、白乾(しらほし)、簀乾(すほし)、吊乾(つりほし)、串差(くしさし)、切乾(きりほし)、薰製等(とう)なり』これは、「本朝食鑑」の「鱗部之三」の「乾魚」の方である(同書には別に「乾魚」の項が、ここにあるが、そこではないので注意が必要)。これは長いので、国立国会図書館デジタルコレクションの元禄一〇(一六九七)年板を示して、各個注としておく。ここが冒頭で、当該箇所は、次のこのコマの【集觧】の三行目以降である。但し、最後の「割乾(わりほし)」は前後を見ても見当たらない。
・「生乾(なまほし)」原文では「生乾(ナマヒ)」である。
・「牧乾(ひらきほし)」本文で割注した通り、誤植で、正しくは「枚乾(ヒラキホシ)」である。
・「串貫(くしぬき)」原文では「串貫(クシヌキ)」。
・「魚條(すはやり)」原文では「魚條(スハヤリ)」。魚の身を細長く切って干した、保存食。漢字では「楚割」とも書き、同じく「すはやり」と訓ずる。現代仮名遣では「すわやり」である。
・「醃乾(しほほし)」原文では、訓読で「醃めて乾す有り」である。読み方は「(䀋(しほにて))しめてほすあり」であろうか。
・「切暴(きりほし)」原文では、訓読で「切て暴す有り」である。読み方は「きりてさらすあり」。
「淸國に於ても、古しへより、種々(しゆじゆ)の乾製法あり。卽ち、䀋を着(つけ)て乾(ほす)ものを『鯫魚(すうぎよ)』といひ、䀋を着(つけ)す[やぶちゃん注:ママ。「ず」の誤記。]して乾(ほす)ものを『膽魚』、又、『鮝魚(しやうぎよ)』といふ。肉を切(きつ)て乾(ほす)を『脯脩(ほしう)』とし、肉を割(わり)て乾(そす)を『脡脯(ていほ)』とす。亦、陶朱公「致富全書」には、『灸魚(あぶりうを)』、『風魚(かざぼし)』等を載せたり。」各個注する。
・「䀋を着(つけ)て乾(ほす)ものを『鯫魚(すうぎよ)』といひ、」「鯫」は、いい意味が、殆んど、ない。「廣漢和辭典」では、第一義に「みごい・にごい」とする。これはコイ目コイ科カマツカ亜科ニゴイ属を指す。ニゴイ Hemibarbus barbus は日本固有種であるから、属レベルとした。「みごい」は、その異名である。当該ウィキ(本邦固有種の記載なので注意されたい)に拠れば、『小骨が多いが、白身の上品な肉質で食味は良好な魚であ』るとしつつも、『味は良いが』、『骨が多く食べにくい雑魚』(ざこ)『として扱われ』るとある。更に『近縁種コウライニゴイ H. labeo 』『は朝鮮半島から中国、台湾まで分布する』とある。さて、戻すと、以下、辞書は「ざこ」・「小さい」等である。印象からは、中国では、塩漬けにして保存食とすることが多かった、ということなのかと思ったが、「百度百科」の同属の「䱻属」を見たところ、『肉質は美味しく』、『高品質な経済魚である』とあるので、私の判断は誤りのようだ。
「䀋を着(つけ)す[やぶちゃん注:ママ。「ず」の誤記。]して乾(ほす)ものを『膽魚』、又、『鮝魚(しやうぎよ)』といふ」「膽」は「きも・胆嚢」の意であるから、それを味わうために塩漬けにしないのであろう。「鮝」には「ひもの・ほしうお・干した魚」の意があるから、干物のまま塩味を添えず味わう、ということであろう。
「肉を切(きつ)て乾(ほす)を『脯脩(ほしう)』とし、肉を割(わり)て乾(そす)を『脡脯(ていほ)』とす」「脯」は「ほじし」の訓で知られる、動物・植物の乾燥品に用いる漢字である。「脩」も、ここでは、同義。中国では好まれる処理法である。十全に乾燥させた保存食として、長く保存が可能である。「脡」は「まっすぐに伸ばした干し肉」を指す語であるから、単に乾すだけでなく、魚肉を圧を加えて、薄く平らにして、乾燥させたもので、保存に使い勝手が良く、持ちもよい。しかも、味も濃厚になるであろうとは思われる。魚ジャーキーである。
『陶朱公「致富全書」』別タイトルは「汝南圃史」「圃史」「周光祿圃史」で、明の宮廷娯楽を司る光祿寺吏の書記官であった周文華(生没年などの事績不詳)が万暦四八(一六二〇)年にものした全十二巻からなる庭園文化史・園芸書である。画像がネット上に複数あるものの、部分であったり、画像の質が判読出来るレベルでなかったりで、諦めた。しかし、こうした植物記載の中に『灸魚(あぶりうを)』・『風魚(かざぼし)』等が記載されているというのは、解せないのだが⋯⋯。識者の御教授を乞うものである。]
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