河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 下卷(九)乾魚並に䀋魚の說(その4)
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの左ページの四行目から。]
夫れ、本邦の地況(ちけい[やぶちゃん注:ママ。「ちきやう」の誤植。])たる魚䀋(ぎゑん[やぶちゃん注:ママ。誤植。])の利に富むこと、東洋に其比(そのひ)なく、外(ほか)には、淸國に䀋藏魚類の需用者、億を以て數(かぞふ)る、あり。若(も)し、彼(かれ)の需用に適する精製品を輸出するに至らば、其利、巨額に登るべし。目今、本邦より淸國輸出する䀋魚類(ゑんぎよるい[やぶちゃん注:ママ。])は、僅(わづか)に、七、八種にて、其額も、甚だ、少なく、七、八萬圓に過(すぎ)ず。然(さ)れども、明治一、二年頃は、䀋魚を輸出せることなきを以て見れば、漸(やうや)く、其步(そのほ)を進めたりといへども、之を、淸國の需用者(じゆようしや)に比すれば、九年(きうぎう)[やぶちゃん注:ママ。「九牛」の誤植。]の一毛(いちまう)に過ず。然(しか)れば、本邦產䀋藏魚類の輸出は、將來、巨額に登る可きを信ずるなり。現に、長崎・神戶・橫濱等(とう)に來舶の淸國人は、其本、國產の䀋藏魚類を食用となすもの、少(すくな)からず。曾(かつ)て、或淸國人に聞(きく)こと、あり。「該國(がいこく)にて、嗜好する䀋藏魚類の數は、二百餘種にして、一年に消費するの額は、算(かぞ)ゆべからず。」と。然(しか)れども、淸國內部に漫遊せし人の說によるも、古今の書籍の上に就て見るも、其魚類の貴重、且(かつ)、高價(かうか)にして、貧民の口に及ばず。又、香港(ほんこん[やぶちゃん注:ひらがなはママ。])其他、南部の地方にては、西洋人の食用とするもの、あり。然(しか)る時は、之に適する精良品を出(いだ)す計畫、宜(よろし)きを得(ゑ[やぶちゃん注:ママ。])ば、必らず、盛大に至るべし。今、此編には、是まて[やぶちゃん注:ママ。濁点ナシ。誤植。]、多少、淸國に輸出せしものヽ槪況を擧(あげ)て、當業者の參考に供す。
[やぶちゃん注:以下の段落は、本書では特異的に一字下げとなっている。それは、取りも直さず――前の『淸國內部に漫遊せし人の說による』とする内容が――まさにその人の語った内容が――以下であることを意味している、と判断出来るものである。されば、ブラウザ上、一字下げでは上手く出来ないから、二重括弧で括って示すこととした。]
『凡そ、乾魚(ほしうを)、䀋魚(しほうを)、共に濕敗(しゆうはい[やぶちゃん注:「しつはい」の誤植。])し易く、貯藏者をして、大(おほい)に遺憾ならしむるは、本邦の氣候濕潤、殊に梅雨(ばいう)等(とう)の如き、多濕(たしゆう[やぶちゃん注:ママ。])のことあるに因ると雖も、尙、世人(せじん)の濕敗の理を知らざると、乾燥するの方法、宜(よろし)からざるとの、二つに、あり。今、若(もし)、乾燥は何の理(り)により、濕敗は、何の理によると云ふ、物理上より、眼(がん)を注ぐときは、乾燥するの方法より、貯藏して濕敗せざるの方を、案出すべし。岩手縣下にて、鰑(するめ)を乾す噐械の發明などは、即ち、乾燥は、空氣の流通を速(すみやか)ならしむるにあるの理(り)にして、實(じつ)に、物理に恊(かな)ふもの、と、云ふべし。又、世上に『亞米刺加乾(あめりかぼし)』と云ふ͡と[やぶちゃん注:約物。「こと」と読む。]、あり。長き竿上(さほのうへ)に吊りて、乾(ほ)す。是(これ)に日温(じつおん)の爲(た)めに非(あら)ずして、空氣通暢(くうきつうちやう)の爲(ため)なることは、理に於(おい)て、明(あきら)かなり。今(いま)、世(よ)の乾魚(ほしうを)、䀋魚(しほうほ[やぶちゃん注:ママ。誤植。])等(とう)の水氣(すいき)、去(さ)る度(ど)は、果(はたし)て、前(まへ)の理(り)に、合ふや否(いなや)を究(きは)むべし。此外(このほか)鹽の良否は、鹽魚に於て、最(もつとも)、關係、多し。又、乾魚にハ、油脂(ゆし)の性質に就(つ)き、硏究を、せざるべからず。是(これ)、乾方改良(ほしかたきりゃう)の要點なり。』≪と≫。
[やぶちゃん注:「亞米刺加乾(あめりかぼし)」幾つかの古い報告書の中に「亞米刺加乾貨物船」というフレーズはあったが、鰑に関してのそれは、見当たらなかった。識者の御教授を乞うものである。
「空氣通暢(くうきつうちやう)」空気がよく通る・換気がスムースに行われるといったシステムとしての表現としては、腑に落ちる。]
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