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2026/07/28

河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 下卷(九)乾魚並に䀋魚の說(その2)

[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここの右ページの六行目から。]

 

元來、乾魚(ほしうを)の效用は、久しく貯藏して、形狀、色澤(しよくたく)、眞味(しんみ)を失はざるを、貴(たつと)べり。然(しか)るに、近世は、其製の眞(しん)に佳良(かりやう)なるものは。甚(はなはだ)、鮮少(すくな[やぶちゃん注:二字へのルビ。])し。反(かへつ)て、今を距(さ)る一千餘年の昔(むあ)しは、淡乾(しらほし)、鹹乾(しほほし)、ともに精品を製出(せいしゆつ)したり。卽ち、「延喜式」に載する所の者、是なり。其後(そのこ[やぶちゃん注:ママ。])、德川時代に至りては、各藩より、幕府への獻上を良品なりとすれども、近來は、濫造に流れ、其良法の世に行はるゝは、甚(はなはだ)、少なく、產出も僅少(きんせう)となれり。統計年鑑によれば、明治十六年、全國乾魚(かんぎよ)の產額は、貳百六拾六萬九千百九十二貫目に過ぎず。

[やぶちゃん注:「淡乾(しらほし)」しらすを生のまま、または、蒸して干したもの。

「明治十六年」本書刊行は明治一九(一八八六)年。

「貳百六拾六萬九千百九十二貫目」十万九・四七トン。]

 

本邦の水產物中には、淸國の需用に適すべきもの多しと雖ども、彼(かれ)は、我產あるを、知らず、我は、亦、彼の嗜好を解せざるか[やぶちゃん注:ママ。「が」。]爲に、輸出の品類、少しと雖ども、年を逐(をふ)て、其額を增和(ぞうか)[やぶちゃん注:熟語はママ。「增加」の誤植であろう。]するの勢(いきおひ)ありて、明治元年の乾魚輸出額は十七萬八千八百二十七斤、其價五千五百五十五圓に過ぎざりしも、十七年には三百八十五萬八千二百四十八斤、其價拾萬〇九百拾四圓に至れり。

[やぶちゃん注:「十七萬八千八百二十七斤」百七・八八二七トン。

「三百八十五萬八千二百四十八斤」二千三百十四・九四八八トン。]

 

淸國は、陸地、廣くして、海を距(さ)ること、太(はなは)だ、遠し。是を以て、乾魚の需用、多し。其䀋(そのしほ)を用ひずして、乾燥せし魚類を、『柴魚(リヤンユ)』、又は、『乾魚(チユンユ)』と稱して、甚(はなはだ)、貴(たつと)べり。然(しか)れども、我產は、乾製(かんせい)の粗(そ)なるにより、腐爛(ふらん/くされ)し、貯藏に耐へざること、屢(しばしば)あるを以て、終(つひ)に、望みを絕(たゞ)しむること、あり。故に、其種類、甚だ少なく、目今、輸出するものは、田作(たつくり)・目刺(めざし)・鰯乾(いはし[やぶちゃん注:ママ。略訓。])・乾玉筋魚(ほしいかなご[やぶちゃん注:中国語名に和訓したもの。])・乾鱈(ひだら)・乾蝶(ほしかれい[やぶちゃん注:ママ。「ほしかれひ」が正しい。])・乾舒(ほしかます)・𩷧乾物(かさごのひもの)・大鯖(おほさば)・小鯖(こさば)、乾飛魚(ほしとびうを)・三摩乾物(さんまのひもの)・鰺乾物(あじのひもの)・乾火魚(ほしかながしら)・乾鯛(ほしだい[やぶちゃん注:ママ。])・鰹節(かつをぶし)・細魚物(さよりのひもの)[やぶちゃん注:「乾」の脱落であろう。]・乾鯖(ほじにしん[やぶちゃん注:ママ。「ほしにしん」の誤植。])・永良部鰻(えらぶうなぎ)等(とう)の數種に過(すぎ)ず。

[やぶちゃん注「柴魚(リヤンユ)」現行の拼音(北京語をベースにした標準中国語)は“chái yú”(チァィ (ユ)イー)である。「リャンユ」は清の公用語であった満州語で、サケ科Salmonidae、或いは、サケ属 Oncorhynchus を指す語であったようである。

「乾魚(チユンユ)」現行の拼音では、広東語などの南方方言では、“qián yú”(チィェン (ユ)イー)とあって、これに近い。無論、意味は文字通りの広義の「乾し魚」である。

「田作(たつくり)」正月の御節料理の「ごまめ(鱓・五万米・五真米・古女)」としてお馴染みの、カタクチイワシ(条鰭綱ニシン(鰊)目ニシン亜目カタクチイワシ(片口鰯)科カタクチイワシ亜科カタクチイワシ属カタクチイワシEngraulis japonicus )の幼魚の乾燥品。以下、概ね、後で独立解説があるので、詳しくは、そちらで注する。

「目刺(めざし)」カタクチイワシやウルメイワシ(潤目鰯:ニシン目ウルメイワシ科ウルメイワシ属ウルメイワシ Etrumeus micropus )などのイワシ類の小魚を塩漬けした後、目から下顎へ竹串や藁を通して、数匹ずつ束ね、乾燥させたもの。

「鰯乾(いはし)」硬骨魚綱ニシン目Clupeiformesに属する海水魚のうち、代表されるマイワシ(真鰯・真鰮)属マイワシSardinops melanosticta、及び、広義にはウルメイワシ・カタクチイワシの総称、または、これらの近縁種を含めたものの総称で、それらを乾製品化したもの。

「乾玉筋魚(ほしいかなご)」条鰭綱ベラ(倍良・遍羅)目 Labriformesイカナゴ(玉筋魚・鮊子)科イカナゴ属イカナゴ Ammodytes japonicus の干物。当該ウィキに拠れば、『イワシなどと並んで、沿岸海域における食物連鎖の底辺付近を支える重要な魚種で』、『釘煮(くぎ煮)』が知られるが、ここは、煮干しを指す。

「乾鱈(ひだら)」広義には、条鰭綱タラ目タラ亜目タラ科 Gadidaeに属するタラ類を指し、本邦では、タラ科マダラ(真鱈)属マダラGadus macrocephalus・タラ属スケトウダラ Gadus chalcogrammus・コマイ(氷下魚)属コマイ Eleginus gracilis の三属三種が分布する。但し、狭義にはマダラを指す。ここは、それらの干物である。

「乾蝶(ほしかれい)」狭義には、アジ目カレイ亜目カレイ科 Pleuronectidaeの干物で、本邦には凡そ三十種が棲息する。しかし、河原田氏は後の各個解説で、「鮃」を一緒に記しているから、広義の「ヒラメ類」=カレイ亜目ヒラメ(鮃)科 Paralichthyidae・ダルマガレイ科 Bothidaeも包括している。詳しくは、そちらで注する。

「乾舒(ほしかます)」アジ目カマス(魳・梭子魚・梭魚・魣)科カマス属 Sphyraena の干物。世界では二十七種を数えるが、本邦産食用種として重要な種は、ヤマトカマス(大和叺・大和梭子) Sphyraena japonica・アカカマス Sphyraena pinguis・アオカマス Sphyraena japonica の三種である。詳しくは、各個解説で注する。

「𩷧乾物(かさごのひもの)」狭義には、条鰭綱カサゴ(笠子・瘡魚)目カサゴ亜目メバル亜科カサゴ属カサゴ Sebastiscus marmoratus の干物であるが、この「𩷧」は「廣漢和辭典」にも載らない国字である。但し、しっくりは、くる。私の大好物である。しかし、何故か、河原田氏は、各個解説を立項していない。狭義のカサゴ属は、当該ウィキでは、四種を掲げている。他には、アヤメカサゴ(文目笠子・文目瘡子)Sebastiscus albofasciatus ・ウッカリカサゴ Sebastiscus tertius Sebastiscus vibrantus である。しかし、最後の和名のないそれは、インドネシア・台湾の海域で新たに発見された、ウッカリカサゴ似た種であるものの、本邦で採集された記載を見出せなかった(二〇一八年で、記載者には日本人の三人が名を連ねてはいる。)。BISMaLにも掲載がない。

「大鯖(おほさば)」条鰭綱サバ目サバ科サバ属マサバ Scomber japonicus の大型個体の干物。

「小鯖(こさば)」これは、マサバの小中型個体の他、マサバ属ゴマサバ Scomber australasicus ・南西諸島にのみ棲息するグルクマ(虞留久満)属グルクマ Rastrelliger kanagurta・同前の分布に稀に棲息するニジョウサバ(二条鯖)属ニジョウサバ Grammatorcynus bilineatus が挙げられる。

「乾飛魚(ほしとびうを)」条鰭綱ダツ(駄津)目トビウオ(飛魚)科 Exocoetidae の干物。詳しくは各個解説に譲る。最も「くさや」で美味いのは、これ!

「三摩乾物(さんまのひもの)」ダツ目ダツ上科サンマ(秋刀魚・青串魚・秋光魚)科サンマ属サンマ Cololabis saira の干物。各個解説に譲る。

「鰺乾物(あじのひもの)」代表種は条鰭綱アジ目アジ科アジ亜科マアジ(真鯵)属マアジ Trachurus japonicus であるが、広義のアジは、マアジを含むムロアジ(室鯵)群・ヨロイアジ(鎧鰺)群・ギンガメアジ(銀紙鯵・銀亀鯵・銀河目鯵)群に分類され、非常に種が多い。各個解説に譲る。

「乾火魚(ほしかながしら)」狭義には、カサゴ目ホウボウ科カナガシラ((金頭・方頭魚・六角魚)属カナガシラ Lepidotrigla microptera であるが、ここでは、ホウボウ科 Triglidae の三赤九属百三十種を含む。各個解説(但し、短い)に譲る。

「乾鯛(ほしだい)」表向きは、条鰭綱ニザダイ目 Acanthuriformes、或いは、タイ科 Sparidaeの、ごく広義のタイ類の干物であるが、本邦で「~タイ」と和名にあってもタイ科に含まれない種が、多数ある。各個解説で検証する。

「鰹節(かつをぶし)」使用種は複数ある。サバ目サバ科マグロ族カツオ属カツオ Katsuwonus pelamis を筆頭に、マグロ族ソウダガツオ属 Auxisの宗田節(そうだぶし)等がある。各個解説で検証する。

「細魚物(さよりのひもの)」真正のサヨリの干物は、ダツ目ダツ亜目トビウオ上科サヨリ科サヨリ属サヨリ Hyporhamphus sajori である。他に、大型のテンジクダツ属オキザヨリ Tylosurus crocodilus crocodilus もある。各個解説で検証する。

「乾鯡(ほじにしん)」条鰭綱ニシン目ニシン科ニシン属ニシン  Clupea pallasii 。「身欠きニシン」で知られる。各個解説に譲る。

「永良部鰻(えらぶうなぎ)」これは、魚類ではない、南西諸島に棲息し、時に黒潮に乗って、九州以北まで漂流することもある、猛毒を持つ爬虫綱有鱗目コブラ科エラブウミヘビ(伊良部海蛇)属エラブウミヘビ Laticauda semifasciata の干物。各個解説に譲る。]

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