河原田盛美著「淸國輸出日本水產圖說」正規表現版・オリジナル電子化注 下卷(九)乾魚並に䀋魚の說(その11) 乾梭魚
[やぶちゃん注:底本・凡例その他は、第一始動の記事、及び、「(一)鰑の說(その2)」の前注の太字部分を参照されたい。今回はここから。本文は貧弱なので、注は最後に回した。]
乾梭魚(ほしかます)
梭魚(かます)は「かます」と訓じ、又、魳(かます)、𩶸(かます)、鮊(かます)等(とう)の文字をも用(もち)う[やぶちゃん注:ママ。]。「本朝食鑑」に、『近世、「魳(しう)」の字を用ふ。字書に惟名(いめい)の名と爲すのみ[やぶちゃん注:これは、惟(ただ)、「魚」と示すだけであり、それ以外の固有種名・形状・性質などを含んでいない漢語であることを言う。後注する。]。長崎の市人(しじん)、中華の船客(せんきやく)に逢ふて、此の魚を指して問ひしに、『梭子魚(しゆんしぎよ)なり。』と答(こたへ)たり。』と。『「閩書」に『梭魚(しゆんぎよ)、織梭(をりをさ)の如し。豐肉脆骨(はうにくぜいこつ)、此れを魳魚(しうぎよ)と謂ふ乎(か)。』と載せたり。
此ものは全國の海にあり、『鮝(しやう[やぶちゃん注:最後は「ふ」にしか見えないが、正しい歴史的仮名遣で「う」と判じた。])』と作(な)して賞美し、脂(あぶら)多きものは、色、淡赤(たんせき)、脂少きものは、色、黃白(こうはく[やぶちゃん注:ママ。])なり。
[やぶちゃん注:「乾舒(ほしかます)」アジ目カマス(魳・梭子魚・梭魚・魣)科カマス属 Sphyraena の干物。同属は、世界では二十七種を数えるが、本邦産食用種として重要な種は、
ヤマトカマス(大和叺・大和梭子) Sphyraena japonica
アカカマス(赤梭子魚) Sphyraena pinguis
アオカマス(青梭子魚) Sphyraena japonica
の三種である。今回は、当該ウィキは内容的に不満足なので、小学館「日本大百科全書」「カマス」の項を引用することとする(太字は私が附した)。『硬骨魚綱スズキ目カマス科Sphyraenidaeの海水魚の総称。口を大きくあけて餌物』『を大食するさまが、蓆(むしろ)を二つ折りにして穀物や塩などを入れた袋(叺(かます))に似ているので、この名があるという。体は細長く頭は細くとがる。下顎(かがく)は上顎より突出し、上下両顎に牙(きば)状の強い歯がある。背びれは2基で互いによく離れており、第1背びれは小さくて5本の棘条(きょくじょう)しかない。胸びれは短く、腹びれは胸びれの基部よりやや後方にある』。『沿岸の表層を遊泳し、小形魚は群れをつくるが、大形魚は成長とともに群れなくなり、しだいに単独で行動するようになる。代表的な肉食魚であり、群れをつくる小魚を追って食べる。サンゴ礁海域では』、『大形魚はサメ類やハタ類などとともに食物連鎖で最高の地位にあり、イワシ類、アジ類、ベラ類、スズメダイ類などを餌』『としている。他物の形や行動に敏感に反応する性質があり、異常な行動をするもの、光るものなどに興味を示し、目にも留まらぬほどの速さで相手を攻撃して大きな傷害を与える。大形魚はとくに気が荒く、ダイバーや海水浴中の人間を襲う。場所によってはサメ類による被害よりも多いことがあり、暗い水中や濁った水中での被害が多い』。『産卵は春から夏にかけてなされるが、多くの個体は1産卵期に数回に分けて放卵する。卵は分離浮性卵であり、卵径は1ミリメートル以下である。アカカマスの熟卵は卵膜が透明で多くの亀裂』『があり、油球は1個ないしは2個である。1回の産卵で20万粒を産むので、産卵期間を通じて多いものでは100万粒前後を放卵する。水温23℃では受精後1日余りで孵化(ふか)する』。『熱帯のサンゴ礁にすむものは、シガトキシンciguatoxin』(同全書の当該項から引くと(以下でダブりがある)、『名前はカリブ海に生息する巻き貝のシガcigua(チャウダーガイ)』(腹足綱古腹足亜綱ニシキウズガイ目ニシキウズガイ上科クボガイ科 シッタリアム属チャウダーガイ Cittarium pica )『による食中毒に由来する。世界の熱帯、亜熱帯海域に生息する400種以上の魚種から報告されている。魚の餌(えさ)になるサンゴ礁で育っている石灰藻類を藻食魚が食べると、それに付着する渦鞭毛藻(うずべんもうそう)Gambierdiscus toxicus でつくられた毒が、藻食魚から食物連鎖を通して、ほかの魚の体内に蓄積することがある。毒は筋肉より内臓に多い。これらの魚を食べると、口や手足などのしびれ、ドライアイスセンセーション(温度感覚異常)、めまいなどの神経障害、腹痛、嘔吐』『、下痢などの胃腸障害をおこし、ときには死ぬことがある。日本での死亡例は報告されていない。神経障害は回復が遅くて数か月続くことがある。日本では亜熱帯の沖縄、奄美』『諸島周辺にいるハタ類(バラハタ、マダラハタなど)、フエダイ類(バラフエダイ、イッテンフエダイなど)、ニザダイ類(サザナミハギなど)、カマス類(オオカマスなど)のほか、ある種のブダイ類、ベラ類、カマス類など20種ほどがこの毒をもつことが知られ、これらを食べて食中毒がおきているが、2000年ごろから、地球温暖化によって本州でも疑われるような症状が報告されている。』とある)『という毒素をもつことがある。この毒素をもった魚を食べるとシガテラciguatera『とよばれる中毒症状をおこし、ときに死亡することがある。この中毒症は神経障害が主であり、感覚がしびれ、全身に悪寒やふるえ、吐き気があり、ひどくなると腕や足の筋肉や関節に激痛がおこる。この徴候は徐々に』、『または』、『急激に現れる。毒素は地域や季節によって著しく異なるが、カマス類が食べた餌から体内に蓄積されたものである。毒素はもともと海藻類に含まれており、これを食べたサザナミハギなどの藻食魚に移され、さらにこれらを食べたカマス類に蓄積される。大形魚は小形魚より毒性が大きい傾向がある。オニカマスは国によっては』、『産卵期に販売を停止することがある』(以上、落合明氏)。『カマス類は世界には20種余りが知られている。そのうち世界的にもっとも有名なのは、英名でバラクーダbarracudaとよばれるオニカマス(別名ドクカマス)Sphyraena barracuda である。世界中の熱帯から亜熱帯に分布しており、日本でも』、『南日本の太平洋岸、琉球』『諸島海域の内湾や、サンゴ礁域に生息する。鱗』『が大きく、側線に沿って75~87枚、側線より背方に数列に並ぶこと、体側の側線の上半分に青色の横縞』『があることが大きな特徴である。カリフォルニアカマス Sphyraena argentea も体長が1.2メートルになり、カリフォルニア沿岸を中心に北アメリカ太平洋沿岸の広い範囲に生息している』。『日本の沿岸では体長数十センチメートルになるアカカマス Sphyraena pinguis 、アオカマス Sphyraena nigripinnis 、ヤマトカマス Sphyraena japonica などは漁獲量が多く』、『産業的に重要である。とくにアカカマスは一般にカマスとよばれ、美味である。琉球諸島以南の太平洋や』、『インド洋の熱帯域にはオオカマス Sphyraena putnamae 、南日本からインド洋にかけてはオオメカマス』(大目梭子)『 Sphyraena forsteri などが広く分布している。オオカマスは体長2メートルほど、オオメカマスは体長90センチメートル前後になり、毒性は弱いが、まれに中毒することがある。そのほかに、日本からタイワンカマス Sphyraena flavicauda 、ホソカマス Sphyraena helleri 、オオヤマトカマス Sphyraena africana が知られている』(以上は落合明・尼岡邦夫氏)。以下、「食用」の項。『肉は白身で淡泊な味であるから、料理には幅広く利用できる。新鮮なものは、身がしまっていて刺身にもなるが、一般的には水分が多いため、薄塩干しにして食用にすることが多い。なまの場合は、塩をしてしばらく置き、身をしめてから塩焼きにするとよい。洋風ではフライ、ムニエルによい。秋に味がよいとされるが、年中とれる。良質のかまぼこの材料でもある』とある。
『「本朝食鑑」に、『近世、「魳(しう)」の字を用ふ。字書に惟名(いめい)の名と爲すのみ。長崎の市人(しじん)、中華の船客(せんきやく)に逢ふて、此の魚を指して問ひしに、『梭子魚(しゆんしぎよ)なり。』と答(こたへ)たり。』と。『「閩書」に『梭魚(しゆんぎよ)、織梭(をりをさ)の如し。豐肉脆骨(はうにくぜいこつ)、此れを魳魚(しうぎよ)と謂ふ乎(か)。』と載せたり。』国立国会図書館デジタルコレクションの当該部(「卷之八」の「鱗介部之二」の「江海有鱗部之二」の「魳」を示し、推定訓読する。読みでは、河原田氏の読みに従はず、私が正しいと判断したものを用いた。また、訳であるが、東洋文庫版を一部参考にした。
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魳【「帀(ソウ)」・「沓(タウ)」・「師(シ)」三音、義、同じ。「加麻沫(かます)」と訓ず。】
釋名 𩶤(せん)【「先」・「顕」の切(せつ)。音「銑(セン)。」。】・𩶧(きう)【釋師練。】・梭子魚(さしぎよ)【按ずるに、「𩶤」「𩶧」、「字彙」に曰く、『倶(とも)に魚の名。、音「臼(ハク)」。「其(キ)」・「九(キユウ)」の切(せつ)』。師錬の「下學集(かがくしふ)」、此の字を用ゆなり。近世、「魳」の字を用ゆ。字書(じしよ)には、惟(ただ)、魚の名のみ。「梭子魚」、今、間(まま)、之(これ)を稱す。或いは、曰はく、『長﨑の市人(いちびと)、中華の船客に逢(あふ)に、而(しかして)、此の魚を指し、問ひて曰はく、『本邦、何を以つて、之を名づくや。』と云ふに、客(かく)、曰はく、「梭子魚。」と』。愚(ぐ)[やぶちゃん注:筆者人見必大の卑称。]、謂(い)へらく、『諸魚を「水梭花(すいひくわ)」と曰ふ時は、則ち、魚(うを)に於いて、相當(あひあた)れり。然(しかれ)ども、「閩書南産志(びんしよなんざんし)」に、『梭魚、織梭(しよくさ)のごとし。豊肉脆骨(はうにくぜいこつ)、此れを、「魳魚(せんぎよ)」と謂ふか。】
集觧【形、鰺(あじ)のごとくして、細鱗(さいりん)は、光色(つや)、有り、色、淡黒(あはぐろ)有り、鉛白(なまりじろ)なる有り、嘴(くしばし)、尖(とが)りて、鋒頭(ほこさき)のごとく、首尾、狹(せま)く尖(とが)り、身(み)、圓(まろ)く、肥えにして、最も、織梭(しよくさ)[やぶちゃん注:機織(はたお)り機の「梭(ひ)」。]に似たり。大なる者、數寸に過ぎず、脂(あぶら)、多く、味、美なり。又、細刺(ほそきとげ)、有り。惟(ただ)、炙食(あぶりぐひ)に宜(よろ)し。膾(なます)・烹(に)には、堪(た)へざるなり。𠙚𠙚(しよしよ)、江海、之れ、有り。鮝(ほしもの)に作(な)して、多く賞美す。脂、多き者は、色、淡赤、脂、少き者は、色、黃白(わうはく)、京師難波(けいしなんば)の漁市(れふいち)、其の子(こ)、一、二寸なる者を採(と)りて、「美(よ)し。」と稱す。一種、色、淡黒(あはぐろ)、形、短小、漸(やうや)く、三、四寸の者に過ぎざる者の、脂、少なく、味、佳なり。「志豆岐魳(しづきかます)」と曰(い)ふ。其の魚、黒き腸(わた)、美味なる者、有り。亦、「志豆岐」と曰ふ。海市(うみいち)、醢(しほから)と作(な)して、國守に獻(けん)ず。國守、上厨(じやううちゆう)に獻じ、四方に贈る。世(よ)、以つて、「珍。」と爲す。尾・勢の産、最も、上品たり。賀・越も亦、出(いづ)れども、佳(か)ならず。
肉 氣味【微温。毒、無し。】。【主治】五臓を補ひ、氣血を調へ、陰精(いんせい)を添へ、肌肉(ひにく)を潤(うるほ)し、身を輕くし、髮を黒くす。、惟(ただ)、蟲積(ちゆうしやく)[やぶちゃん注:現在の口経性の寄生虫症を指す漢方用語。]・濕痰(しつたん)[やぶちゃん注:漢方で、体内の水分代謝が滞って、余分な水分(湿)や粘り気のある老廃物(痰)が体に溜まっている状態を言う。]の者は、食ふべからず。多き時は、嘔吐(わうと)せしむなり。鮝(ひもの)と作(な)して、尤も、人に、可なり。赤鮝(あかのひもの)、脂、多くして、血を潤(うるほ)す。白鮝(しろきひもの)は、脂、少くして、氣を順(なごやかに)するのみ。
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・「𩶧(きう)【釋師練。】」「師錬の「下學集(かがくしふ)」、此の字を用ゆなり。」この人見の記述は、おかしい。「下學集」は室町中期の国語辞書(全二巻)であるが、著者未詳。文安元(一四四四)年成立で、天地・時節・神祇・言辞など十八部門に分類し、用字・意味・語源を簡単に記したものである。この不明の作者を「釋師練」とは、決して言わないからである。見た瞬間に、私は、鎌倉後期から南北朝にかけての臨済宗の名僧であった虎関師錬(こかんしれん)を考えたが、彼が、カマスに係る記載を記することは、あり得ないからである。
・「大なる者、數寸に過ぎず」このスケールから、必大の視認しているカマスは、最全長三十五センチメートルであるヤマトカマス Sphyraena japonica に比定出来る。
・「膾(なます)・烹(に)には、堪(た)へざるなり」嘗つては、カマスの鮮魚は流通しておらず、専ら、塩焼き魚とされたからである。]
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