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カテゴリー「畑耕一句集「蜘蛛うごく」【完】」の162件の記事

2012/12/07

HP版 畑耕一句集 蜘蛛うごく (+同縦書版)

「やぶちゃんの電子テクスト:俳句篇」に畑耕一句集「蜘蛛うごく」(+同縦書版)を公開した。デビュー作「怪談」の電子化に添える土産とする。

2012/12/06

畑耕一句集 蜘蛛うごく 序 北原白秋序「言葉」

      言  葉

             北 原 白 秋

 蜘昧うごく。

 この一卷の中から感知されるものは、寧ろ本體そのものにあちずして、その動きの速度や投影の妖かしにある。

    壁上の蜘蛛うごくとき大いなる

 又、

    燈をまともすばやき蜘蛛として構ふ

 この蜘蛛、おそらくは爛々と兩の眼を輝かしてゐやうが、人ならば洋風の一すばしこい身のこなし、細みといふものが、近代のスマートな都會生活者を思はせる。而も深夜向うむきに跼んで、酸素溶接でもしてゐさうである。

 私は句を作らないから押して云ふのは憚られるが、天爾速波といふリベツトの打ち方に些かの緩るみがありはしないか。しかしながら、その速度の投影のすばやさは、さながらシネマ風景のそれであつて、また人事は戲曲の一齣の個處々々を巧みに切りとつて映畫としてゐる。たとへ人事を主にしたものでなくとも、動物にまれ、植働にまれ、時候にまれ、天文・地理にまれ、いづれにしても主役たる人の詩情や體臭や擧作、隨時の心理の波動といふものが纏りついてゐないことはない。鮮やかな知性に加へて、江戸派を昭和の色に替へたやうな都雅性もあり、洒落、快笑、機才に混へたある種の不逞、禍を齎らさぬ程の微苦笑、轉身の巧智等々々、時としてポケツトの時計に香水の香も染ませ、齦のねばりも口に含ませてゐる。かと思ふと、ほのぼのとした新幽玄の匂もあり、俳趣らしい閑寂昧もある。本來の寫生ではないと云ひながら寫生もしてゐる。かう云つた種々相を通じて、成程と思はせるものは、それはやり畑耕一といふ今の人の句だといふことである。一と筋繩ではない。この蜘蛛の手八本で、ことごとくに動いてゐる。

 さてこの人、二十幾年かの昔に、「寶惠籠」といふ浪花風流の名調子で、その手だれは私を驚かしたが、右の後その一囃子だけで、ぱつたりと詩は止めで了つた。東都はお茶の水、晩涼の空の蒼みに白いアパートの稜線、その人の棲む四角の窓を仰ぎ見ては、なぞらへた 「煙突雀」の童謠を私から贈つたことも、また思ひ出はあの頃の夢になつた。

 句集を編むから序文を書けといふ君であるゆゑ書かしてはもらつた實を云へば、この白秋によく似てゐたといふ面ざしの人の忘れがたさに、それ、その蜘蛛の觸手が、すすつとすばやく動いたのである。

     大つごもりの前の五日

            阿佐ヶ谷にて

[やぶちゃん注:「跼んで」は「かがんで」「しやがんで」のいずれにも読める。

「齦」は「はぐき」(歯茎)と読む。

「寶惠籠」不詳。本書の次の「小記」で、その冒頭に示される「學生時代」に書いた白秋に認められた「詩」であることは分かるが、私の所持している最新の畑耕一著作目録等にも所収しない。私の所持している最新の畑耕一著作目録等にも所収しない。識者の御教授を乞うものである。

「煙突雀」昭和二(一九二七)年五月発行の『赤い鳥』(十八巻五号)に載る白秋の童謡である。]



この序文、ちょっと忠告をも含みながら、畑耕一の俳句の核心を実に鋭く解き明かして、最後にモダンに幻想的に賛美している点、実に出色の出来であると言える。そうして、何より、友情、愛情にに満ちている。畑耕一と白秋のこの関係は、もっと掘り下げられてしかるべきもののように僕には思われるのである。

2012/12/05

地理 全十句 畑耕一 「畑耕一句集 蜘蛛うごく」 全巻終了

     地  理

春潮は畫架の人より高かりき

   肩並めて佇める人に
君がうなじこの春潮は濃からずや

射的屋のはやらぬ燈なる春の泥

雲に犬を放ち夏野の人となる

鏡多き遊覧汽船夏の海

くろぐろと照る日をつらね土用波

秋の日のわたる音聞ゆなり

大日輪枯野のどこぞ猫鳴けり

落日遠しそれより遠く枯山あり

冬浪にまぢかく星の線正し

ブログ420000アクセス記念 畑耕一 怪談

ブログ420000アクセス記念として、「やぶちゃんの電子テクスト:小説・戯曲・評論・随筆・短歌篇」に畑耕一「怪談」をフライング公開する。

只今、2006年5月18日のニフティのブログ・アクセス解析開始以来、419986アクセス……まだ……420000アクセスは誰だか分からないのだが……でも今日……それが……「怪談」だ……♪ふふふ♪

突風に背をむけてゐて別れたる 畑耕一

突風に背をむけてゐて別れたる

[やぶちゃん注:以上で、「天文」の部を終る。以下、「地理」10句で「畑耕一句集 蜘蛛うごく」は終わる。]

霰やんで螺蠃は光投げかはす 畑耕一

霰やんで螺蠃(すがる)は光投げかはす

[やぶちゃん注:「螺蠃」蠍座。]

温室のみどりあかるし冬の雷 畑耕一

温室のみどりあかるし冬の雷

2012/12/04

雪女郎を天井たかく語りける 畑耕一

雪女郎を天井たかく語りける

[やぶちゃん注:秀逸である。]

吹雪三句 畑耕一

おのおのに募る吹雪の酒場の夜

歩み連れてまむかふ吹雪聲あはす

自動車に手をあげてゐて吹雪かるる

雪四句 畑耕一

降る雪の竹見れば竹に降りしきる

わが佇てる眼の高みより雪降れり

鍵かけて夜の浴槽(バス)たのし雪降れり

諏訪の湖の雪ふりやみしオリオン座

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