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カテゴリー「畔田翠山「水族志」」の28件の記事

2021/03/25

畔田翠山「水族志」 チヌ (クロダイ)

(一五)

チヌ 一名「クロダヒ」【備後因島】マナジ(紀州熊野九木浦勢州松坂此魚智アリテ釣緡ヲ知ル故名紀州日高郡漁人云チヌハ海ノ巫也】

形狀棘鬣ニ似テ淡黑色靑ヲ帶背ヨリ腹上ニ至リ淡黑色ノ橫斑アリ

腹白色長乄二尺ニ及ベハ橫斑去ル大和本草曰「チヌ」「タヒ」ニ似テ靑黑

色好ンテ人糞ヲ食フ故ニ人賤之㋑カイズ物類稱呼曰小ナルモノヲ

「カイズ」ト稱ス按今秋月ニ及テチヌノ子長シテ二三寸ナルヲ通テ「カ

イズ」ト云㋺黑チヌ 一名「マナジ」【勢州慥抦浦】形狀「チヌ」ニ同乄黑色ヲ帶背

ヨリ腹上ニ至リ黑條アリ腹白色餘ハ「チヌ」ニ同シ

 

○やぶちゃんの書き下し文

ちぬ 一名「くろだひ」【備後因島〔いんのしま〕。】。「まなじ」【紀州熊野九木浦・勢州松坂。此の魚、智ありて釣緡〔つりいと〕を知る。故に名づく。紀州日高郡、漁人云ふ、「『ちぬ』は海の巫〔みこ〕なり」と。】。

形狀、棘鬣〔まだひ〕に似て、淡黑色、靑を帶ぶ。背より腹の上に至り、淡黑色の橫斑あり。腹。白色。長くして二尺に及べば、橫斑、去る。「大和本草」に曰はく、『「ちぬ」、「たひ」に似て、靑黑色。好んで人糞を食ふ。故に、人、之れを賤〔いや〕しむ』と。

「かいず」 「物類稱呼」に曰はく、『小なるものを「かいず」と稱す』と。按ずるに、今、秋月に及んで、「ちぬ」の子〔こ〕、長じて、二、三寸なるを、通じて「かいず」と云ふ。

「黑ちぬ」 一名「まなじ」【勢州慥抦浦〔たしからうら〕。】。形狀、「ちぬ」に同じくして、黑色を帶び、背より腹の上に至り、黑條あり。腹、白色。餘は「ちぬ」に同じ。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。これはまず、

スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii

としてよい(属名アカントパグルスの‘Acantho-’ はギリシャ語由来のラテン語で「棘のある」の意)が、宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)もこちらでクロダイに同定しているが、少し気になるのは次の「キチヌ」

クロダイ属キチヌ Acanthopagrus latus

で、『多く前種と混同してゐる』と注している。但し、その直後に宇井は『水族志にはハカタヂヌ一名アサギダヒとある』(太字は原本では傍点「●」、下線は傍点「ヽ」)と記しているので、問題とする必要はない(畔田がちゃんと「キチヌ」相当を別種としていると考えられる点で、という意味でである。ただ、畔田は決して厳密な分類学的視点で項を立てているわけではなく、採取した資料を網羅的に並べている傾向もあるので、絶対とは言えない)と判断した。しかし、異名に「まなじ」を挙げているのは、やはり問題がある。「マナジ」は現行、属の異なる、

ヘダイ亜科ヘダイ属ヘダイ Rhabdosargus sarba

の異名としてよく知られているからである。ただ、「マナジ」は今も一部地域で「クロダイ」の異名でもあるし、標題とする「チヌ」は今も確かなクロダイの異名であり、形状・色彩の記載からみてもクロダイとして比定同定してよいと思われる。因みに、サイト「渓流茶房エノハ亭」の「海釣りの定番魚 クロダイ・チヌの方言(地方)名」は異名を驚くほど分類的に調べ上げてあって必見なのだが、そこでやはり、「クロダイ」の異名として「マナジ」を挙げ、このクロダイとしての異名は『静岡、三重、和歌山、岡山の一部で見られる』とした上で、「マナジ」の『「マ」は岩礁周辺、「ナ」は「ノ」、「ジ」は魚を表すので』、『磯の魚を意味するとも聞いている』とあった。なるほど!

「備後因島〔いんのしま〕」現在の広島県尾道市にある因島(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。島の北側は「安芸地乗り」と呼ばれた、古くからの瀬戸内海の主要航路であった。これは四国と大島の海峡である来島海峡が瀬戸内海有数の海の難所であったため、そこを避けるように、この島近辺に航路ができたことによるもので、中世においては、かの村上水軍の拠点として、また、近世は廻船操業、近代以降は造船業と、船で栄えた島として知られる。

「紀州熊野九木浦」三重県尾鷲市九鬼町(くきちょう)の九木浦。九鬼水軍は戦国時代に志摩国を本拠としたことで知らているが、九鬼氏の祖は、熊野別当を務め、熊野水軍を率いた湛増に遡るという説があり、彼らは紀伊国牟婁郡九木浦(現在の三重県尾鷲市九鬼町)を根拠地とし、鎌倉時代には既に志摩国まで勢力を拡大しており、南北朝時代に志摩国の波切へ進出して、付近の豪族と戦い、滅亡させて本拠をそちらに移したとされるのである。

『智ありて釣緡〔つりいと〕を知る。故に名づく。紀州日高郡、漁人云ふ、「『ちぬ』は海の巫〔みこ〕なり」と』「釣緡」は音は「テウビン(チョウビン)」。「緡」には「釣り糸」の意がある。さても。この言説はすこぶる面白い! 通常、クロダイの異名のチヌは、現在の大阪湾の古名(厳密には和泉国の沿岸海域の古称で、現在の大阪湾の東部の堺市から岸和田市を経て泉南郡に至る大阪湾の東沿岸一帯)であるが、ここでクロダイが豊富に採れたことによる。である「茅渟(ちぬ)の海」(その名の元由来は、一つは人皇神武天皇の兄「彦五瀬命」(ひこいつせのみこと)が戦さで傷を受け、その血がこの海に流れ込んで、「血(ち)沼(ぬ)」となったからとも、瀬戸内海から大阪湾一帯を支配していた「神知津彦命」(かみしりつひこのみこと)の別名「珍彦」(ちぬひこ)に由来するとも、また、「椎根津彦命」(しいねづひこのみこと)に基づくともされる)で、そこで獲れる代表的な魚がクロダイであったというのが定説である。しかし、この畔田のそれは「チヌ」の「チ」は「智(ち)」であって、猟師が釣糸を垂れて狙っていることを賢しくも察知してそれを避けて捕まらぬように「知(し)んぬ」、「智()を以って知ん」とでも謂いたいような雰囲気を醸し出しているからである。しかも、それを傍証するかのように、畔田は「紀州日高郡、漁人」の直話として、「『ちぬ』は海の巫〔みこ〕なり」と添えているのだ! 語源説としてはちょっと異端っぽいかも知れぬが、ちょっとワクワクしてきたぞ!

「背より腹の上に至り、淡黑色の橫斑あり。腹。白色。長くして二尺に及べば、橫斑、去る」クロダイは、幼魚期には銀黒色の明瞭な横縞を六、七本有するが、成長とともにそれらは薄くなっていく。あまり知られていないが、クロダイは出世魚で、関東では、

チンチン→カイズ→クロダイ

関西では

ババタレ→チヌ→オオスケ

という風に大きさで呼称が変わる(釣り人の間では五十センチメートル以上のクロダイの巨大成魚を「トシナシ(歳なし)」と呼んで釣果の目標とすると、釣りサイトにはあった。私が言いたいのは、ここでの改名ポイントが専ら魚長にあることにある。魚体の色や文様の有意な変容がないことを意味しているからである。それがクロダイに比定出来る一要素でもあると言えるからである。

『「大和本草」に曰はく、『「ちぬ」、「たひ」に似て、靑黑色。好んで人糞を食ふ。故に、人、之れを賤〔いや〕しむ』と』「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」の一節。

   *

○海鯽(ちぬ) 「閩書」に出たり。順が「和名」に、『海鯽魚 知沼』〔と〕。鯛に似て靑黒色、好んで人糞を食ふ。故に、人、之れを賎〔しむ〕。「黑鯛」・「ひゑ鯛」も其の形は「海鯽」に似て、別なり。此の類、性・味共に、鯛にをとれり。佳品に非ず。

   *

そちらの私の注も是非、参照されたい。

「かいず」個人サイト「釣魚辞典」の「クロダイ」のページに『若魚をカイズと呼ぶ』とある。

「物類稱呼」江戸後期の全国的規模で採集された方言辞書。越谷吾山(こしがやござん) 著。五巻。安永四(一七七五)年刊。天地・人倫・動物・生植・器用・衣食・言語の七類に分類して約五百五十語を選んで、それに対する全国各地の方言約四千語を示し、さらに古書の用例を引くなどして詳しい解説を付す。「かいず」は巻二の「動物」の「棘鬣魚(たひ)」の小見出し「烏頰魚」に出る。一度、「烏頰魚」(スミヤキ)で電子化していたのだが、忘れていたので、再度、零からやり直してしまった。以下の引用はPDFで所持する(岡島昭浩先生の電子化画像)昭和八(一九三三)年立命館出版部刊の吉澤義則撰「校本物類稱呼 諸國方言索引」に拠った。23コマ目。

   *

「烏頰魚  くろだひ○東武にて◦くろだひと云ひ、畿内及中國九州四國tもに◦ちぬだひと呼。  此魚、泉州茅渟浦(ちぬのうら)より多く出るゆへ[やぶちゃん注:ママ。]「ちぬ」と號す。但し、「ちぬ」と「彪魚(くろだい[やぶちゃん注:ママ。])」と大に同して小く別也。然とも今混(こん)して名を呼。又小成物を◦かいずと稱す。泉貝津邊にて是をとる。因て名とす。江戶にては芝浦に多くあり[やぶちゃん注:句点なし。]

   *

「黑ちぬ」クロダイの異名。

「勢州慥抦浦〔たしからうら〕」三重県度会郡南伊勢町慥柄浦。]

2021/02/20

畔田翠山「水族志」 メダヒ

(一四)

メダヒ

形狀棘鬣ニ似テ淡紫黑色遍身黑斑アリ頰及下唇淡紅色ヲ帶脇翅淡黃色腹下翅淡黑色背鬣淡黑色ニ乄上鬣黑淡ヲ混シ下鬣ノ末尾上ニ至リ淡黃色尾岐アリテ淡紫紅色淡黑斑アリテ下尾外黃色ナリ腰下鬣本淡黑色ニ乄端淡黃色味不美腹ニ臭氣アリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一四)

メダヒ

形狀、棘鬣〔マダヒ〕に似て、淡紫黑色。遍身、黑斑あり。頰及び下唇、淡紅色を帶ぶ。脇翅〔わきのひれ〕、淡黃色。腹下の翅〔ひれ〕、淡黑色。背鬣〔せびれ〕、淡黑色にして、上鬣〔うへのひれ〕、黑淡を混じ、下鬣の末、尾〔をの〕上に至り、淡黃色。尾、岐ありて、淡紫紅色、淡黑斑ありて、下尾外〔したのをのそと〕、黃色なり。腰下鬣本〔こししたのひれのもと〕、淡黑色にして、端、淡黃色。味、美〔うま〕からず。腹に臭氣あり。

 

[やぶちゃん注:久々の更新だが、これは、スズキ目スズキ亜目フエフキダイ科ヨコシマクロダイ亜科メイチダイ属メイチダイ Gymnocranius griseus と比定してよいように思われる。「WEB魚図鑑」の本魚の記載によれば、『南日本では本種が最も多いもの。体高が高く、本種の体長は体高の2.2倍以下』で、『幼魚には暗色の横帯が体側と頭部に複数あり』、『よく目立』ち、その中で『頭部のものは』、『眼を通る。尾鰭は中央部が透明。成魚では横帯が不明瞭になる。これら』は、『また、瞬時に出したり』、『消したり』も『できるようだ。頭部にサザナミダイ』(メイチダイ属サザナミダイ Gymnocranius grandoculis )『にあるような青色線が現れるものもいる。体長40cmに達する』。『分布』は『千葉県・新潟県以南の』『海岸』・『九州沿岸』・『琉球列島』・『太平洋』及び『オーストラリア』で、『水深100m以浅の砂底、岩礁域に生息する普通種。幼魚は浅瀬でもよく見られる。産卵期は夏~秋(南日本)』。『魚や甲殻類などを主に捕食する』。『本種は』『中でも温帯域に多く生息して』おり、『他の種は、琉球列島以南に多い』(これが私が本種を限定する根拠でもある)。『本種は釣りや沿岸、沖合の定置網で普通に漁獲される。食用魚で肉は白身で淡白、刺身などにすると美味しい』とある。因みに、宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)を見ると、「オホメダイ(メイチダイ) 大眼鯛 Gymnocranius griseus」(これは同属でインド洋と西太平洋に棲息する一種)として挙げられており、紀州地方の「方言」として、『メイチ』(『田邊』その他)、『メダイ(和歌浦)』、『メイチ(太地)』、『メイチャ(尾鷲)』を掲げられ、ヘダイ(タイ科ヘダイ亜科ヘダイ属 Rhabdosargus sarba )に『類し、全體美しき光澤あり帶紫灰白色で、不明瞭に橫帶狀の暗色斑紋を有する。體長八九寸。近海に棲み、七月產卵する。四季を通じて漁獲せられるが、秋冬の候多い。夏美味』とある。味? 既に述べた通り、畔田は実は魚食が好きではなく、味覚記載は全く当てにならんのですよ!]

2020/11/23

畔田翠山「水族志」 スミヤキ 烏頰魚

 

(一三)

スミヤキ 烏頰魚

按ニ異魚圖賛𨳝集曰烏頰身狹側視之則稍員厚鱗少骨多處水崖中漁人以釣得之色近黑脊上有棘鬣數十枝長二三寸或亦借此以防患者漳州府志曰烏頰興化志曰全以棘鬣但其烏頰ト云者全ク「スミヤキ」也續修臺灣府志ニ烏頰身短濶ト云者ハ「クロダヒ」也閩書ニモ烏頰魚似奇鬣而稍黑當大寒時ト云閩中海錯疏ニモ烏頰形與奇鬣相同二魚俱於隆冬大寒時取之然奇鬣之味在首トタヒト相等ク云リ「スミヤキ」ハ棘鬣ノ類ニ非ス棘鬣類ハ口中細齒並ヒ分レ生ス「スミヤキ」ハ其齒口外ニ尖出シ上下俱ニ板牙ニ乄細齒ワカレズ其鱗細ニ乄棘鬣ニ類セズ且鱗上ニ涎沫アリテ棘鬣ノ類ト大ニ異也クロダヒ【物類稱呼曰「チヌ」ト「クロダヒ」ト大同シテ小ク別也然レドモ今混シテ名ヲ呼】形狀棘鬣ニ似テ短ク濶ク口微尖リ唇厚ク棘鬣ノ如ク眼上ヨリ隆起シ鱗狀棘鬣ノ如ク遍身黑色背腹ノ鬣棘鬣ノ如ク黑色尾黑色ニ乄「タヒ」ニ乄岐ナク腹白色也大和本草曰黑ダヒ其形ハ「チヌ」ニ似テ別ナリ性味共ニ「タヒ」ニヲトルスミヤキ 一名ハス【紀州若山】シマダヒ【同上】モンパチ【勢州阿曾浦】イワシナベ【紀州熊野勢州慥抦浦】コリイヲ【伊豫西條】ワサナベ【熊野新宮田邊】コロダヒ【防州岩國】クチグロ【備州岡山】ムト【播州網干】クロイヲ【播州姫路備中玉島】タンシチ【尾州常滑】コウロウ【土佐浦戶】アサラギ【紀州熊野日置浦讚州八島】鍋ワリ【漁人云此魚冬月脂多故ニ鍋ワリト稱ス】ナ乄リ大者二三尺形狀「チヌ」ニ似テ口小ク其牙口外ニ出板牙ニ乄尖尖白色ナリ細鱗靑黑色其頰黑色此魚小ニ乄四五寸ノ者身淡藍色ニ乄背及扁ニ淡黑斑アリテ背ヨリ腹ニ至リ深黑條七八道アリ頭ノ黑條ハ眼ノ上ヨリ喉下ニ至ル頰淡紅色ヲ帶背鬣淡黑ニ乄黑斑ヲナシ脇翅淡黑ニ乄淡藍色ヲ帶腴翅本淡黑ニ乄末黑色背ノ下鬣黑色ニ乄尾上ニ當テ上下鬣相等ク截斷スルガ如シ腰下鬣黑色ニ乄背鬣ニ同乄背鬣ト相幷ヘリ尾本淡黑ニ乄藍色ヲ帶末小ク岐ヲナシテ黑色ナリ若山ノ俗此ヲ狂言袴ト云紀州田邊ニテ「米カミ」ト云其尺餘ニ及フ者身淺藍色ニ乄背腹黑斑多ク背ヨリ腹ニ至ル黑條色淺クナリ頰黑色尾淡黑端微黑色也其二尺ニ及者ハ此黑斑去大和本草曰「スミヤキ」性不好或曰其腸有大毒不可食ドロ 「スミヤキ」ノ一種也形狀「ハス」ニ似テ齒短ク眼上ヨリ背ニ至リ隆起シテ身「ハス」ヨリ扁濶也大者二三尺背淡黑色腹淡靑色細鱗アリ脇翅淡靑黃色腹下翅黑色背淺黑色淺深班ヲナス背ノ後鬣ト腰下鬣トノ末上下ニ相並尾上ニテ截斷カ如シ黑色也尾狀小岐ヲナスヿ「ハス」ノ如シ五六寸ノ者ハ背ヨリ腹ニ至テ黑條七ツアリ其條モ「ハス」ヨリ太シ形狀ハ「ハス」ニ同乄剛シ紀州海士郡田納浦漁人皆云「ハス」ト「ドロ」トハ異也「ハス」ハ身狹ク頭低ク口細ク濶ク張テ身短ク濶シ棘鬣ト赤鬃トノ分チヨリ尙其形狀ヲ異ニセリ○クロバス 一名トモヽリ【紀州九木浦漁人云イハシナベノ黑キ㸃アル者ヲトモヽリト呼】コメカミ【勢州松坂】「ハス」ニ似テ頭隆起シテ身濶也全身黑色ニ乄腹靑色ヲ帶頭黑色遍身深黑色ノ圓㸃アリ口牙皆「ハス」ニ似タリ一種斑㸃ナク全ク黑色ノ者アリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一三)

スミヤキ 烏頰魚

按ずるに、「異魚圖賛𨳝集」に曰はく、『烏頰、身、狹〔せば〕く側〔そく〕す。之れを視るに、則ち稍〔やや〕員〔はば〕厚く、鱗、少なし。骨、多し。水の崖〔がけ〕の中に處〔を〕る。漁人、釣りを以つて、之れを得る。色、黑に近し。脊の上、棘鬣、數十枝、有り、長さ二、三寸、或いは亦、借〔か〕りに、此れを以つて患ひを防ぐ者か』と。「漳州府志」に曰はく、『烏頰、「興化志」に曰はく、「棘鬣を以つて全きとす」と』と。但だ、其の「烏頰」と云ふ者、全く「スミヤキ」なり。「續修臺灣府志」に、『烏頰、身、短くして濶〔ひろ〕し』と云ふ者は「クロダヒ」なり。「閩書」にも『烏頰魚、奇鬣〔タヒ〕に似て、稍〔やや〕黑し、大寒の時に當りて取る』と云ふ。「閩中海錯疏」にも、『烏頰、形、奇鬣と相ひ同じうして、二魚、俱〔とも〕に隆〔たか〕し。冬、大寒の時、之れを取る。然して、奇鬣の味、首〔かうべ〕に在り』と。「タヒ」と相ひ等しく云へり。

「スミヤキ」は棘鬣〔タヒ〕の類〔るゐ〕に非ず。棘鬣の類は、口中、細き齒、並び分かれ生ず。「スミヤキ」は、其の齒、口外に尖出し、上下、俱に板齒にして、細齒、わかれず。其の鱗、細かにして、棘鬣に類せず。且つ、鱗の上に涎沫〔ぜんまつ/よだれ〕ありて、棘鬣の類と、大いに異なり。

クロダヒ【「物類稱呼」に曰はく、『「チヌ」と「クロダヒ」と大いに同じくして、小さく、別なり。然れども、今、混じて名を呼ぶ』と。】形狀、棘鬣〔タヒ〕に似て、短く、濶く、口、微かに尖れり。唇、厚く、棘鬣のごとく眼上より隆起し、鱗の狀〔かたち〕、棘鬣のごとく、遍身、黑色。背・腹の鬣〔ひれ〕、棘鬣のごとく、黑色。尾、黑色にして、岐、なく、腹、白色なり。「大和本草」に曰はく、『黑ダヒ、其の形は「チヌ」に似て、別なり。性・味共に「タヒ」に、をとる。

スミヤキ 一名「ハス」【紀州若山。】・「シマダヒ」【同上。】・「モンパチ」【勢州阿曾浦。】・「イワシナベ」【紀州熊野。勢州慥抦浦〔たしからうら〕。】・「コリイヲ」【伊豫西條。】・「ワサナベ」【熊野新宮。田邊。】・「コロダヒ」【防州岩國。】・「クチグロ」【備州岡山。】・「ムト」【播州網干。】・「クロイヲ」【播州姫路。備中玉島。】・「タンシチ」【尾州常滑。】・「コウロウ」【土佐浦戶。】・「アサラギ」【紀州熊野日置浦。讚州八島。】・「鍋ワリ」【漁人云はく、「此の魚、冬月、脂、多し。故も「鍋ワリ」と稱す」と。】。「ナ乄リ」[やぶちゃん注:「ナシテリ」ではよく判らぬ。「ナベワリ」或いは後に出る「イハシナベ」の誤字か誤判読であろう。]、大なる者、二、三尺。形狀、「チヌ」に似て、口、小さく、其の牙、口外に出で、板牙にして、尖尖として、白色なり。細き鱗、靑黑色。其の頰、黑色。此の魚、小にして、四、五寸の者、身、淡藍色にして、背に及び、扁〔へん〕に淡黑の斑〔まだら〕ありて、背より腹に至り、深黑の條、七、八道、あり。頭の黑條は、眼の上より喉の下に至る。頰、淡紅色を帶ぶ。背鬣、淡黑にして黑斑をなし、脇翅〔むなびれ〕、淡黑にして、淡藍色を帶ぶ。腴翅〔はらびれ〕の本、淡黑にして、末、黑色。背の下の鬣、黑色にして尾の上に當りて、上下の鬣、相ひ等しく截斷するがごとし。腰の下の鬣、黑色にして、背鬣に同じくして、背鬣と相ひ幷〔なら〕べり。尾の本、淡黑にして藍色を帶び、末、小さく岐をなして、黑色なり。若山の俗、此れを「狂言袴〔キヤウゲンバカマ〕」と云ひ、紀州田邊にて「米〔コメ〕カミ」と云ふ。其れ、尺餘に及ぶ者、身、淺藍色にして、背・腹、黑斑多く、背より腹に至る黑條、色、淺くなり、頰、黑色。尾、淡黑、端、微黑色なり。其の二尺に及ぶ者は、此の黑斑、去る。「大和本草」に曰はく、『「スミヤキ」、性、好からず。或いは曰はく、「其の腸、大毒、有り。食ふべからず」と』と。

ドロ 「スミヤキ」の一種なり。形狀、「ハス」に似て、齒、短く、眼上より背に至り、隆起して、身、「ハス」より扁濶〔へんくわつ〕なり。大なる者、二、三尺。背、淡黑色。腹、淡靑色。細鱗あり。脇翅〔むなびれ〕、淡靑黃色。腹の下の翅、黑色。背、淺黑色、淺深の班をなす。背の後ろの鬣と、腰の下の鬣との末、上下に相ひ並び、尾の上にて截斷〔きりたつ〕がごとし。黑色なり。尾の狀、小岐をなすこと、「ハス」のごとし。五、六寸の者は、背より腹に至りて、黑條、七つ、あり。其の條も「ハス」より、太し。形狀は「ハス」に同じくして剛〔こは〕し。紀州海士郡田納浦の漁人、皆、云はく、『「ハス」と「ドロ」とは異なり。「ハス」は、身、狹く、頭〔かしら〕、低く、口、細く濶〔ひろ〕く張りて、身、短く、濶〔ひろ〕し。棘鬣と赤鬃との分〔わか〕ちより、尙ほ、其の形狀を異にせり』と。

○クロバス 一名「トモヽリ」【紀州九木浦。漁人云はく、『「イハシナベ」の黑き㸃ある者を「トモヽリ」と呼ぶ』と。】・「コメカミ」【勢州松坂。】 「ハス」に似て、頭、隆起して、身、濶なり。全身、黑色にして、腹、靑色を帶ぶ。頭、黑色。遍身、深き黑色の圓㸃あり。口牙、皆、「ハス」に似たり。一種、斑㸃なく、全く黑色の者あり。

 

[やぶちゃん注:一つ、確実に最有力候補の一種としては、

条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目スズキ亜目スズキ上科シマイサキ科 Terapontidae の類、或いはシマイサキ科シマイサキ属シマイサキ Rhyncopelate oxyhynchus

を挙げてよい。本種はイサキの名を含むが、スズキ上科イサキ科 Haemulidae とは全く無縁なので注意が必要(一部のイサキ科の類には見た目が似ているものがいることはいる)。体長は三十~四十センチメートルに達し、腹は金色で背中に墨で書いたような黒い縦縞模様が四~七筋走る。頭部から背にかけては直線的で、吻がやや突出して頭部全体が尖った感じを与える。尾鰭にも細かな薄い褐色の縦縞模様がある。これらは概ね記載と一致を見る。同種の産卵期は晩春から夏で、浅い内湾の穏やかなところを好む。危険を感じると、鰾(うきぶくろ)を使って「グーグー、ググッ、ググ」と鳴く特徴を持つ。宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のシマイサキのページを見る(属名が「Therapon」となっているが、種小名は一致しているのでシノニムらしいが、調べても見当たらない)と、『體は長形側扁し、前端は稍尖つてゐる。背部は蒼灰色で、體側には幅廣き四條の黑褐色の縱帶と、之よりも淡い三條の點線とありて、交互に平行する。但し幼魚にはこの點列がない。下部は吟白色に少しく靑味を帶びる。奇鰭』(きき:魚類の背・腹の正中線に沿ってついている対を成さない鰭(背鰭・尻鰭・尾鰭・サケ科 Salmonidaeの類の背鰭の後ろにある脂鰭)を指す。「奇」一で奇数、体側左右に対を成す「偶鰭(ぐうき)」の反対語である)『には黑褐色の斑點を有する。體長一尺内外。近海に產し』、『五』『六月頃產卵する。普通』とあり、まず、以上の記載と比して、同一対象種を説明しているとしてよかろうか。「方言」の項に「スミヤキ」として、湯浅・田辺・周参見を挙げている。ただ、他に「シマイザサギ(白崎)」「ホラフキ(和歌山)」「シヤミセン(和歌浦)」が方言名としてあるのだが、これだけ畔田が挙げているものとその三つが全然一致しないというのは、これ、不審である。それがまた、私がこれだと同定比定出来ない理由でもある。また、宇井は同書の「イサギ」で、真正の「イサキ」である、

スズキ目スズキ亜目イサキ科コショウダイ亜科イサキ属イサキ Parapristipoma trilineatum の幼魚

を、「シマイサギ」と称することがある、と述べてもおり、魚体からは完全にその説を排除出来るとは私は思わない(排除してよいと思われる方は多かろうが)。

「異魚圖贊𨳝集」の「𨳝」は「閏」(ジュン)の誤り。「本来あるものの他にあるもの。正統でない余り物」の意。いわば、本巻に添えた「別集」の意。清の胡世安の魚譜「異魚圖贊補」の「閏集」。「漢籍リポジトリ」のこちら最初の[004-2a]から読め、原本画像も見られる。それは以下である(原本画像で自分の目で再校閲した)。

   *

  烏頰 赤鯮

二魚異産形味稍同色羣可辨或釣或罿

 烏頰身狹側視之則稍員厚鱗少骨多處水崖中漁人以釣得之色近黒脊上有刺數十枝長二三寸或亦藉此以防患者 赤鯮一名交鬛似烏頰而稍短結陣而至大小交錯因名交鬛色淺絳故又名赤

味不下烏頰黒赤之分衆寡之異小者名紅翅葢其子也

   *

「漳州府志」(しょうしゅうふし)は、原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。

「興化志」「興化府志」。明の呂一静らによって撰せられた現在の福建省の興化府(現在の莆田市内)地方の地誌。

「棘鬣を以つて全きとす」恐らくは背鰭の隆々たるマダイの類いを正統なタイプ種とする、という意であろう。

「續修臺灣府志」清の余文儀の撰になる台湾地誌。一七七四年刊。この「臺灣府志」は一六八五から一七六四年まで、何度も再編集が加えられた地方誌である。その書誌データは維基文庫の「臺灣府志」に詳しい。早稲田大学図書館「古典総合データベース」の巻十八PDF)の「物產二」の「蟲魚」の33コマ目の左頁七行目に、

   *

鳥頰[やぶちゃん注:ママ。]【身短濶】

   *

と確かにあった。因みに、「維基文庫」の同「臺灣府志」の「蔣志」の巻四の「麟屬」(鱗属に同じ)には、

   *

烏頰【形似過臘而小、隆冬天寒時取之。】

   *

とあった。後者の「過臘」はこれでマダイ(スズキ目タイ科マダイ亜科マダイ属マダイ Pagrus major)の漢名異名である。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。ネットでは電子化や画像は残念ながら、見当たらない。

「閩中海錯疏」明の屠本畯(とほんしゅん 一五四二年~一六二二年)が撰した福建省(「閩」(びん)は同省の略称)周辺の水産動物を記した博物書。一五九六年成立。中国の「維基文庫」のこちらで全文が正字で電子化されている。また、本邦の「漢籍リポジトリ」でも分割で全文が電子化されており、当該の文は「上卷」で以下(原本画像と校合した)。

   *

烏頰形與竒鬛相同二魚俱於隆冬大寒時取之然竒鬛之味在首

   *

「涎沫〔ぜんまつ/よだれ〕」粘液が纏わり付いているということであろう・

ありて、棘鬣の類と、大いに異なり。

「クロダヒ」既に「(三)」として挙がった『畔田翠山「水族志」 クロダヒ』を参照。

「物類稱呼」江戸後期の全国的規模で採集された方言辞書。越谷吾山(こしがやござん) 著。五巻。安永四(一七七五)年刊。天地・人倫・動物・生植・器用・衣食・言語の七類に分類して約五百五十語を選んで、それに対する全国各地の方言約四千語を示し、さらに古書の用例を引くなどして詳しい解説を付す。「甘鯛」は巻二の「動物」の「棘鬣魚(たひ)」の小見出しに出る。以下の引用はPDFで所持する(岡島昭浩先生の電子化画像)昭和八(一九三三)年立命館出版部刊の吉澤義則撰「校本物類稱呼 諸國方言索引」に拠った。

   *

烏頰魚  くろだひ○東部にて◦くろだひと云、畿内及中國九州四国ともに◦ちぬだひと呼。  此魚、泉州茅渟浦(ちぬのうら)より多く出るゆへ[やぶちゃん注:ママ。]「ちぬ」と號す。但し「ちぬ」と「彪魚(くろだひ)」と大に同して、小く別也。然とも今混(こん)して名を呼。又或物を◦かいずと稱す。泉州貝津邊にて是をとる。因て名とす。江戶にては芝浦に多くあり。

   *

「泉州茅渟浦」は現在の大阪湾の東部、堺市から岸和田市を経て泉南郡に至る海岸一帯(グーグル・マップ・データ。以下同じ)。「泉州貝津」は不詳。「貝塚」の誤りか?

『「大和本草」に曰はく、『黑ダヒ、其の形は「チヌ」に似て、別なり。性・味共に「タヒ」に、をとる』「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」。原文はリンク先を見られたい。

   *

○海鯽(ちぬ) 「閩書」に出たり。順が「和名」に、『海鯽魚 知沼』と。鯛に似て靑黒色、好んで人糞を食ふ。故に、人、之れを賎(いや)しむ。「黑鯛」・「ひゑ鯛」も其の形は「海鯽」に似て、別なり。此の類、性・味共に、鯛にをとれり。佳品に非ず。

   *

「ハス」シマイサキの異名としては確認出来ない。しかし、これは、

スズキ亜目イシダイ科イシダイ属イシダイ Oplegnathus fasciatus

の異名としてかなり広く行われている。以下もごっそりイシダイの異名が並ぶ。さすれば、この「㋺スミヤキ」はイシダイと見た方が無難である。「バス」というのもある。

「シマダヒ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のシマイサキのページの「地方名・市場名」欄に、石川県木場潟・河北潟・今江潟での地方名として挙がる。

「モンパチ」異名として確認出来ない。

「勢州阿曾浦」三重県度会郡南伊勢町(ちょう)阿曽浦(あそうら)

「イワシナベ」イシダイの異名として確認出来る。

「勢州慥抦浦」三重県度会郡南伊勢町慥柄浦(たしからうら)

「コリイヲ」イシダイの異名として確認出来る。

「伊豫西條」愛媛県西条市

「ワサナベ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページの「地方名・市場名」欄に「ナベッカス」を「神奈川県小田原市・二宮町」採取として挙げ、『小型で縞模様のはっきりしたもの』をかく呼び、『漢字で書くと「なべ滓」だろう。「みそっかす」の「かす」でイシダイとは言えない、数に入らないほど小さいという意味合いか。成魚(大形)を「ナベ」という地域もあり、小田原でもイシダイを「ナベ」と呼んでいたのかも』知れないとあった。他に「ナベ」もあり、これは「三重県尾鷲市・南伊勢町」とされ、「やや大型、成魚

を言い』、『漢字は「鍋」で煮るなどすると鍋をさらえるほど美味か?』とある。他にも同ページには、「アサナベ」・「アサラベ」・「ナベダイ」・「ナベワリ」・「ユワシナベ」と鍋テンコ盛り状態である。

「コロダヒ」やはり「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページで、イシダイの異名に「コウロウ(コーロ)」(高知県室戸市三津・愛媛県宇和郡愛南町)、「コロ」(高知県宿毛市田ノ浦すくも湾漁協)の他、「チョウメンコロバ」「チョンコロバ」「コロゲ」(京都府宮津市・伊根町新井崎漁港)ともある。但し、スズキ亜目イサキ科コロダイ属コロダイ Diagramma picta という和名総本家がいるので、注意が必要だ。

「クチグロ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイシダイのページで、「クログチ」「クロクチ」を見出せ、「キチグロ」で私もイシダイの異名として知るが、これは見当たらないものの、「シマイサキ」の異名としてあっても腑には落ちるものである。

「ムト」不詳。

「播州網干」兵庫県姫路市網干(あぼし)区

「クロイヲ」同前で、三重県志摩市大王町でイシダイを「クロメ」(黒目)と呼ぶとある。これも見た目の印象的にはシマイサキでもそう呼びたくはなるだろう。

「備中玉島」岡山県倉敷市玉島

「タンシチ」似たようなイシダイの異名に「シチノジ」がある。

「尾州常滑」愛知県常滑市。焼き物ばかりで、世の中には伊勢湾に面していることを知らぬ御仁もいるので、特にリンクを配した。

「コウロウ」イシダイの異名。スズキ亜目イシダイ科イシダイ属イシガキダイ Oplegnathus punctatus の異名でもある。イシガキダイはイシダイに似るが、幼魚・若魚の体表に広く黒い不定形斑紋があること、大型になるに従って、イシダイに反して口の周りが白くなる点で区別できる。

「土佐浦戶」高知県高知市浦戸(うらど)

「アサラギ」既に示した通り、イシダイの異名に「アサラベ」がある。

「紀州熊野日置浦」和歌山県西牟婁郡白浜町日置(ひき)

「鍋ワリ」既に示した通り、イシダイの異名。

「若山」前意もそうだが、和歌山。

「狂言袴〔キヤウゲンバカマ〕」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」によれば、

スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ属マハタ Epinephelus septemfasciatus

カゴカキダイスズキ亜目カゴカキダイ科カゴカキダイ属カゴカキダイ Microcanthus strigatus(異名採集地は和歌山県湯浅・周参見・白崎)

スズキ亜目チョウチョウウオ科ハタタテダイ属ムレハタタテダイ Heniochus diphreutes

スズキ亜目チョウチョウウオ科ハタタテダイ属ハタタテダイ Heniochus acuminatus

の異名とする。個人的には、この前の記載と魚体からは、畔田が指示するのはマハタのように思われる。

「米カミ」「コメカミ」は先のイシガキダイの異名が圧倒している。

『「大和本草」に曰はく、『「スミヤキ」、性、好からず。或いは曰はく、「其の腸、大毒、有り。食ふべからず」と』と』益軒は同書の「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」で、

   *

○烏頰魚(すみやき/くろだひ[やぶちゃん注:前が右ルビ、後が左ルビ。]) 「閩書」に曰はく、『竒鬣に似て、形、稍〔(やや)〕、黒し。大寒〔(だいかん)〕の時に當り、之れを取る。性、好からず』〔と〕。或いは曰はく、其の膓、大毒有り、食ふべからず。頭、短く、口、小なり。形は鯛に似たり。此類、亦、多し。

   *

と記している。私はそこの注で、

   *

まず、これは、その叙述の内の、「性、好からず」「其の膓、大毒有り、食ふべからず」という特異な注記から、釣通に人気で美味な「くろだひ」、スズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii ではなく、現在でも別名で「スミヤキダイ」と呼ぶ、

スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属オオクチイシナギ Stereolepis doederleini

に同定比定する。本邦では各地に分布し、美味い魚であるが、肝臓には大量のビタミンAが含まれており、知っていて少しにしようと思っても、味わいがいい(私も試しに少量を食べたことがあるが、実際、非常に美味い)ため、つい、食が進んでしまうことから、急性のビタミンA過剰症(食中毒)を起こす虞れが高い。症状は激しい頭痛・嘔吐・発熱・全身性皮膚落屑(はくせつ)等であり、食後三十分から十二時間程度で発症する。私の「栗本丹洲自筆巻子本「魚譜」 スミヤキダイ(オオクチイシナギ)」も参照されたい。

   *

と注した。これを私は変更する意志はない。

「ドロ」『「スミヤキ」の一種なり』これは如何なる種を指しているか不詳である。識者の御教授を乞う。

「紀州海士郡田納浦」この地名では現認出来ない。思うに和歌山県和歌山市田野(たの)(グーグル・マップ・データ)のことではあるまいか。漁港名は「田ノ浦」であり、畔田が盛んに採取地として挙げる、「雜賀崎浦」と「若浦」(和歌の浦)の丁度、中間に当たる海辺に当たる。

「赤鬃」既注であるが、再掲する。「鬃」は「鬣」と同じ意。但し、これは本種として同定してよいかどうか、やや疑問がある。まず、本種チダイの分布域が問題で、現在は北海道南部以南の日本沿岸(琉球列島を除く)及び朝鮮半島南部に分布するとされるから、中国で本種を指したとは考えにくい点がまず一つ。また、調べてみたところ、中文版の「維基百科」の「赤鯮」の学名データを見ると――これ――おかしい――のである。そこでは、「赤鯮」を Dentex tumifrons とし、「異名」(この場合はシノニムとなるはず)として、Taius tumifronsChrysophrys tumifronsEvynnis tumifrons の三つの学名を置くのであるが、最後のそれは確かにチダイだが、Dentex tumifrons はチダイではなく、タイ科キダイ亜科キダイ属キダイ Dentex tumifrons で、後にあるTaius tumifronsChrysophrys tumifrons の二つのシノニムも、やはりキダイのシノニムなのである。これは、非常に悲しいことだが(私はウィキぺディアのライターでもある)、このページを書いた人物が、本邦で獲れるタイ類には詳しくなく、似たタイ科の種を同種として並べてしまった結果、とんでもないことになってしまったものと思われるのである(私はウィキペディアの致命的な誤りは通常、その場で直ちに修正するのだが、中文のそれまで直す気にはなれない。論争に展開しても中国語では話し合うことが出来ないからである)。さすれば、これは思った通りの誤認が、今も平然と行われている証左であり、ますますチダイではないという感じが確信的になってきたのである。そこでさらに調べて見たところが、台湾のサイト「宅魚」の「台灣的十大好魚(三)」に、「第七名 赤鯮」とあるのを見出した。そこには冒頭に、『赤鯮、學名為黄背牙鯛 (Dentex hypselosomus)』とあったのである。しかもこれもやはり思った通り、キダイ Dentex tumifrons のシノニムなのであった。データシステム「BISMaL」(Biological Information System for Marine Life)のこちらを見られたい。因みに、同じビスマルのチダイのツリーはここである。則ち、「赤鬃」は中国大陸沿岸には棲息しないチダイなんぞではなく、東シナ海大陸棚からその縁辺域に広く分布する「絵に書いたタイらしいタイ」であるキダイのことだということである。まんず、間違えても仕方ないかとは思うぐらい、両者は遠目にはよく似ているようには見える。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のキダイ(別名レンコダイもよく知られる)の画像を見られたい。

「クロバス」宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のここによれば、イシガキダイを畔田翠山「水族志」では紀州九木浦でこう呼ぶ、と比定している。

「トモヽリ」宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)は、まず、ここで、田辺で、スズキ亜目イサキ科ヒゲダイ属セトダイ Hapalogenys analis を「トモモリ」呼称していることを記す。しかし、本種は素人が見ても、シマイサキにもイシガキダイにも全く似ていない。また、同書の別なところでは、田辺・白崎でスズキ目ニザダイ亜目マンジュウダイ科ツバメウオ属ツバメウオ Platax teira を「トモモリ」とするが、これも魚体が全く異なり、話にならない。なお、この名は平清盛の四男の平知盛で、平家一門の最後を看取って入水した名将由来と思われるが、魚体といい、個人的にはピンとこない、厭な異名である。

「紀州九木浦」現在の三重県尾鷲市九鬼町(くきちょう)か。

「コメカミ」既注。]

2020/11/08

畔田翠山「水族志」 ホウザウダヒ (クロホシフエダイ)

 

ホウザウダヒ

大和本草曰寳藏ダヒ海魚ナリ其口嚢ノ口ヲ括ルカ如シ偏鄙人帶腰火打嚢ヲ寳藏ト云此魚ノ口似之常ノ「タヒ」ヨリ身薄ク味淡クシテヨシ色淡白不紅尾ニ近キ處黑㸃多シ牙ハ口中ニカクレテ口ヨリ見ヱ[やぶちゃん注:ママ。]ス尾ニ岐ナク直ニ切ルガ如シ常ノ「タヒ」ニ異レリ一種形狀「コロダヒ」ニ似テ細長頭短ク圓ク口小ニ乄鷹ノ羽ノ口ノ如シ口内赤色身薄扁淡靑黑色ニ微淡紅ヲ帶腹白色淡藍ヲ帶鱗淡黑色遍身黃色ノ黑㸃アリ背ノ㸃淡黑色ヲ帶尾岐少ナク淡黑色ニ乄黑星㸃アリ尾端黑也脇翅淡黑色腹下翅淡黑色ニシテ竪ニ黑斑アリ背鬣上下ヲ不分尾上迄連續シテ淡黑色ニ乄黑色ノ星㸃アリテ端黑色也一種同形ニ乄尾鬣ニ黑星㸃アリテ身ニ黑色ノ太キ斜文背ニ一條眼後ヨリ尾ニ至リ一條其下ニ一條アリ下ニアルハ色淺シ其身長ク扁シ「コロダヒ」ノ子ノ紋ノ如シ「コロダヒ」ハ身此魚ヨリ短ク厚シ味亦此魚ニ勝レリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

ホウザウダヒ

「大和本草」に曰はく、『「寳藏ダヒ」 海魚なり。其の口、嚢〔ふくろ〕の口を括〔くく〕るがごとし。偏鄙〔へんぴ〕の人、腰に帶ぶる火打嚢〔ひうちぶくろ〕を「寳藏」と云ふ。此の魚の口、之れに似る。常の「タヒ」より、身、薄く、味、淡くして、よし。色、淡白、紅〔あか〕からず。尾に近き處、黑㸃、多し。牙〔は〕は口中にかくれて、口より、見ゑず。尾に、岐、なく、直〔ちよく〕に切るがごとし。常の「タヒ」に異れり』と。

一種、形狀、「コロダヒ」に似て、細長、頭、短く、圓〔まろ〕く、口、小にして、鷹の羽の口のごとし。口の内、赤色。身、薄く扁〔へん〕し、淡靑黑色に微淡紅を帶ぶ。腹、白色、淡藍を帶ぶ。鱗、淡黑色。遍身、黃色の黑㸃あり。背の㸃、淡黑色を帶ぶ。尾、岐、少なく、淡黑色にして、黑き星㸃あり。尾の端、黑なり。脇翅〔むなびれ〕、淡黑色。腹の下の翅〔ひれ〕、淡黑色にして、竪〔たて〕に黑斑あり。背鬣〔せびれ〕、上下を分かたず、尾の上まで連續して、淡黑色にして黑色の星㸃ありて、端、黑色なり。

一種、同形にして、尾鬣〔をびれ〕に黑星の㸃ありて、身に黑色の太き斜文〔しやもん〕、背に一條、眼の後ろより尾に至り、一條、其の下に一條あり。下にあるは、色、淺し。其の身、長く扁〔ひらた〕し。「コロダヒ」の子の紋のごとし。「コロダヒ」は、身、此の魚より短く、厚し。味も亦、此の魚に勝れり。

 

[やぶちゃん注:次にリンクさせた「大和本草」の注で、私は、

   *

体が扁側し、尾に近い位置に明白な黒点があり(但し、益軒はそれが多くあると言っているのが悩ましいのだが)、さらに歯が「口中にかくれて」いて、普通の状態では見えない(これが大事!)『尾に岐(また)』がなく(中央の凹みと上下の伸長が全くない)『直ちに切れたるがごと』き尾鰭を持つ点で、これは

スズキ目スズキ亜目フエダイ科フエダイ属クロホシフエダイ Lutjanus russellii

と断定していいように私は思う。ぼうずコンニャク氏の「市場魚貝類図鑑」のロホシフエダイのページを是非、見られたい。そこに上顎上顎の口内のイッテンフエダイ(同属のフエダイ属イッテンフエダイ Lutjanus monostigma)との比較画像がある。上顎の近心部の前歯がクロホシフエダイにはないのだ! なお、ぼうずコンニャク氏の解説によれば、本種は『シガテラ毒を持つ確率の高い魚』とある。要注意!

   *

と同定した。これを変更するつもりはない。

『「大和本草」に……』『大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)』に出る。

   *

「寳藏鯛」 常に鯛より身薄く、味、淡くして、よし。色、淡白、紅ならず。尾に近き處、黑㸃、多し。牙は口中にかくれて、口より見ゑず[やぶちゃん注:ママ。]。尾に岐(また)、なく、直ちに切れたるがごとし。常の鯛に異れり。

   *

というより、主文全部を「大和本草」から引くのは、ちょっとまずくありませんか? 畔田先生?

「コロダヒ」スズキ目スズキ亜目イサキ科コロダイ属コロダイ Diagramma picta である。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のコロダイのページを見て戴きたいが、その「由来・語源」の項に、「ころだい」という和名は「胡廬鯛」で、『「ころだい」は和歌山県での呼び名を標準和名にしたもの』とあり、『和歌山県では猪の子供を「ころ」と呼び、コロダイの稚魚にある斑紋が』『その猪の子供のものに似ているため』とあり、メインの写真の下に、幼魚の写真が二枚あるので確認されたい。成魚とは驚くばかりに似ていない。而して、畔田がここで、二箇所で言っている「コロダヒ」は、後は『「コロダヒ」の子の紋のごとし』と言っているからいいとして、こののそれも成魚ではなく、幼魚を指しているのではないかと私は考える。而して、「㋑」」ともに背鰭の形状や尾の黒点、及び、「」では斜体紋の数が気になるが、私はスズキ目スズキ亜目タカノハダイ科タカノハダイ属ミギマキ Goniistius zebra を候補の一つとして挙げてよいのではないかと思っている。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のミギマキのページを見られたい。にしても、「クロホシフエダイ」の一種には見えないのが、致命的だな……三、四日はあれこれと比定同定を考えてみたのだが、もう、疲れた。悪しからず。これで暫くは放置しておく。]

2020/10/25

畔田翠山「水族志」 アヲ (アオブダイ・アミメブダイ・スジブダイ)

 

(一一)

アヲ【熊野通名】 鸚哥魚

形狀「イソアマダヒ」ニ似頭癭アリ齒口外ニ出テ鳥嘴ノ如シ上下齒板牙ニ乄端ニ小鋸齒ヲナス本藍色細黑㸃アリ末ハ白色也頰藍色ニ乄褐斑アリ癭灰白色鱗粗大ニ乄淡黃褐色ニ褐色ノ斑每鱗アリ腹淡紅色ヲ帶背鬣腰下鬣倶ニ本褐色末藍色脇翅本淡黃色端藍色腹下翅藍色尾ニ岐ナク藍色眼上眼前ニ褐色ノ斑アリ續修臺灣府志曰鸚哥魚鳥嘴紅色週身皆綠孫元衡有詩朱施烏啄翠成襦臺灣縣志曰鶯哥魚狀如鯉週身綠嘴烏而勾曲似鶯哥故名臺灣府志曰鸚哥魚嘴如鸚鵡而皮綠色一種形同乄背深藍色腹淺藍色翅黃ヲ帶ル者アリ八丈物產記曰ク「マノミ」色靑黛ノ如ク異形ナル魚也丈ケ一尺二三寸身柔ニシテ味平ナリ一種遍身綠色ニ乄齒紅色ノ者アリ此餘品類アリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一一)

アヲ【熊野。通名。】 鸚哥魚〔いんこうを〕

形狀、「イソアマダヒ」に似て、頭、癭〔こぶ〕あり。齒、口外に出でて、鳥の嘴〔くちばし〕のごとし。上下の齒、板牙〔ばんが〕にして、端〔はし〕に小鋸齒〔しやうきよし〕をなす。本〔もと〕は藍色、細き黑㸃あり。末は白色なり。頰、藍色にして、褐斑〔かつぱん〕あり。癭〔こぶ〕、灰白色。鱗、粗大にして、淡黃褐色に褐色の斑〔まだら〕、鱗每〔ごと〕にあり。腹、淡紅色を帶ぶ。背鬣〔せびれ〕・腰下の鬣〔ひれ〕、倶に、本〔もと〕、褐色、末〔すゑ〕、藍色。脇翅〔むなびれ〕、本、淡黃色、端、藍色。腹下の翅〔ひれ〕、藍色。尾に岐なく、藍色。眼の上、眼前に褐色の斑あり。「續修臺灣府志」に曰はく、『鸚哥魚、鳥の嘴、紅色、週身、皆、綠。孫元衡、詩、有り。「朱施烏啄翠成襦」』と。「臺灣縣志」に曰はく、『鶯哥魚〔いんこうを〕、狀〔かたち〕、鯉のごとく、週身、綠。嘴、烏〔からす〕にして、勾曲〔こうきよく〕し、鶯哥〔いんこ〕に似たり。故に名づく』と。「臺灣府志」に曰はく、『鸚哥魚〔いんこうを〕、嘴、鸚鵡〔あうむ〕のごとくにして、皮、綠色なり』と。

一種、形、同じくして、背、深き藍色、腹、淺き藍色。翅〔ひれ〕、黃を帶ぶる者あり。「八丈物產記」に曰はく、『「マノミ」。色、靑黛〔せいたい〕のごとく、異形なる魚なり。丈〔た〕け、一尺二、三寸。身、柔らかにして、味、平なり』と。

一種、遍身、綠色にして、齒、紅色の者あり。此れ、餘品の類〔るゐ〕あり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。主記載は、

スズキ目ベラ亜目ブダイ科アオブダイ亜科アオブダイ属アオブダイ Scarus ovifrons

を指しているとしてよかろう。ここで「ブダイ」というブダイ科 Scaridaeの総称和名について言っておくと、漢字では「舞鯛」「武鯛」「不鯛」「部鯛」といった字が当てられ、サイト「FISH WORLD」のブダイによれば、『姿が武士のいくさで着る鎧のようにウロコが大きいから「武鯛」。泳ぎ方がヒラヒラと舞うようだから「舞鯛」。不細工な姿をした鯛ということで「不鯛」などと、名の由来にはいろいろな説があ』るとある。さて、ウィキの「アオブダイ」によれば、『岩礁やサンゴ礁に生息する大型魚で、名の』通り、『青みの強い体色が特徴である』。『体長は最大90 cmほど』で、和名が示すように、『体色は青みが強いが、体の各所に赤褐色、白、黒などの斑点が出るものもいる。成魚は頬に白っぽい斑点が出て、前頭部がこぶのように突き出るが、若魚は頬に斑点がなく、額にこぶもない』。『歯は上下それぞれが融合して、鳥のくちばしのような形状をしている。これは他のアオブダイ亜科の魚にも共通する特徴で、人間の指を噛み切るくらいの顎の力もあるので注意が必要である』。『東京湾、朝鮮半島以南からフィリピンまでの西太平洋に分布し、浅い海の岩礁やサンゴ礁に生息する』。ハゲブダイ属ナンヨウブダイ Chlorurus microrhinos や、ブダイ科アオブダイ亜科カンムリブダイ属カンムリブダイ Bolbometopon muricatum)など、『他のアオブダイ亜科』Scarinae『の魚が熱帯のサンゴ礁に生息するのに対し、アオブダイは温帯域にも生息する』。『食性は雑食性で、藻類、甲殻類、貝類などいろいろなものを食べる。強靭な歯と顎でサンゴの骨格をかじるとされてきたが、これはサンゴではなく、サンゴの枝についた藻類を食べるための行動とみられる。現在のところ、生きたサンゴを餌にするのが確認されたのはアオブダイに近縁のカンムリブダイだけである』。『昼間に活動し、夜は岩陰などで眠る。眠る際は』、『口から粘液を出して、自分を覆う薄い透明の「寝袋」を作り、その中で眠る行動が知られている』。『釣りや網などで漁獲され、食用になるが』、食中毒による複数の死亡例があるので、食べるべきではないと私は考える。『また、特徴的な魚だけに、古来から各地方独特の方言呼称もある』。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアオブダイのページによれば、「ハチ」(頭部の「鉢」であろう)「バンド」「ブダイ」「アオイガミ」「アオタ」「イガミノオバ」「コブ」「ハースマイラブチャー」「ハッチイ」「ハトイガミ」「バンド」「モハミ」などの多様な異名が記されてある(但し、これらの多くはブダイ類に共通する異名として考えねばなるまい)。『日本では1953年以降、5人のアオブダイによる食中毒での死亡例がある』。『アオブダイはスナギンチャク』(刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱スナギンチャク目 Zoanthidea の多様な種を指す)『を捕食するため』、『パリトキシン』(palytoxin:最強の海産毒素の一種。海産毒素として最も毒性が強いとされるマイトトキシン(maitotoxin)に次ぐ猛毒とされ、呼称名は一九七一年にハワイに棲息する伝説的に猛毒を有するとされていたイワスナギンチャクの一種 Palythoa toxica から初めて単離されたことによる)『という強力な毒成分を蓄えており、内臓を食べてはいけないとされている。また、フグ毒で知られるテトロドトキシン』(tetrodotoxin:TTX)『が内臓から検出された事例もあ』り、しかも『パリトキシンは』テトロドトキシン同様、『加熱や塩蔵によっては分解されない』。『日本においては、有毒成分を含むことを理由として、アオブダイの販売自粛を求める通知が厚生労働省から』出されている、とある。パリトキシン中毒は横紋筋融解症(筋肉が溶け出すと考えてよい)を発症させ、急性腎不全を引き起こして重篤な状態に陥るので、本種の食用は厳に慎むべきである。

「鸚哥魚〔いんこうを〕」口吻の形状から、鳥のオウム目インコ科 Psittacidae のインコ類に比したもの。

「イソアマダヒ」既に複数の条で見てきた通り、スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio を指すと考えてよい。

「齒、口外に出でて、鳥の嘴〔くちばし〕のごとし。上下の齒、板牙〔ばんが〕にして、端〔はし〕に小鋸齒〔しやうきよし〕をなす」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアオブダイ属の口吻部画像を見られたい。

「續修臺灣府志」清の余文儀の撰になる台湾地誌。一七七四年刊。この「臺灣府志」は一六八五から一七六四年まで、何度も再編集が加えられた地方誌である。その書誌データは維基文庫の「臺灣府志」に詳しい。「中國哲學書電子化計劃」によって、以下は、同書の巻十八にあることが判った。

   *

鸚哥魚、鳥嘴、紅色。周身皆綠。孫元衡有詩云、『朱施鳥喙翠成襦 陸困樊籠水厄罛 信是知名無隱法 曾聞眞臘有浮胡』。相傳眞臘有魚、名爲浮胡。嘴似鸚鵡同上。

   *

孫元衡(生没年未詳)は清の官吏で文人。「罛」(音は「ロ・ク・コ」)は大きな漁網の一種を指す。詩の意味は判らぬが、ブダイ類は現在、刺し網の漁網に掛かって、網を食い破る厄介者とされている。「眞臘」は現在のベトナム。

「臺灣縣志」清の王禮撰になる台湾県誌。一七二〇年完成。同じく「中國哲學書電子化計劃」によって、「土產」の部に、

   *

鶯哥魚、狀如鯉魚而闊。色綠、嘴尖而勾曲、似鶯哥嘴、故名。澎湖所產。

   *

とあって、畔田が「烏」とするところが、「尖」となっており、その前も、体幅が広いことを言っているようで、この方が躓かずに読める。「澎湖」は澎湖(ほうこ)諸島で、台湾島の西方約五十キロメートルに位置する台湾海峡上の島嶼群。ここ(グーグル・マップ・データ)。

「臺灣府志」これは先のそれとは別編集のもので、恐らくは先行する「臺灣府志(蔣志)」(蔣毓英(いくえい)撰・一六八四年刊)或いは「臺灣府志(高志)」(高拱乾撰・一六九六年刊)の記載で、「中國哲學書電子化計劃」によって後者に、

   *

鸚哥魚嘴如鸚鵡。而皮綠色。

   *

とあるのが確認出来た。

一種、形、同じくして、背、深き藍色、腹、淺き藍色。翅〔ひれ〕、黃を帶ぶる者あり」八丈島で獲れるこの様態となると、一つ、

アオブダイ亜科アオブダイ属アミメブダイ Scarus frenatus

を挙げていいような気がする。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアミメブダイを見られたい。本種の♂は派手で、西洋の博物学者が狂喜乱舞しそうな図譜向きの多色で、しかも頭部側面に人工的な印象を受ける独特の紋を持ち、一目見れば、まず忘れられない。「異形」と言うに相応しい。体長は三十六センチメートル近くになるから、「一尺二、三寸」もぴったり一致する。食味も(私は食べたことがない)、ぼうずコンニャク氏の評によれば、「身、柔らかにして、味、平なり」と大きな隔たりは感じられない。

「八丈物產記」大村某なる人物が寛延四・宝暦元(一七五一) 年に書いた「八丈物産誌」か。現物を確認出来ないので判らない

「靑黛」化粧用の青い眉墨(まゆずみ)。特に歌舞伎でメーキャップに使う藍色の顔料が知られ、月代(さかやき)に使う羽二重鬘(はぶたえかつら)に塗るほか、藍隈(あいぐま:歌舞伎の隈取りの一つ。藍で青く顔を隈取るもの。怨霊・公家悪(くげあく)などの役柄に用いる)などに用いる。

一種、遍身、綠色にして、齒、紅色の者あり」歯が赤いというのは、誤認のような気がする(歯が赤い種というのはちょっと知らない。口吻部が赤いということか)が、それを無視すると、全身が緑色であるという点では、

アオブダイ亜科アオブダイ属スジブダイ Scarus rivulatus

を挙げてよいだろう。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のスジブダイを見られたい。私がこれを一押しにする理由は、リンク先に本種の棲息域として、高知県柏島・愛媛県愛南が挙げられているからである。和歌山の畔田が全く現認出来ない南西諸島のブダイ類が、本書に載ると考えるのは甚だ無理があるからである。

「此れ、餘品の類〔るゐ〕あり」こうした類似した個体群は他にも有意にいる。]

2020/10/21

畔田翠山「水族志」 コブダヒ (コブダイ)

 

(一〇)

コブダヒ 一名エビスダヒ【紀州田邊】ノブシ【大和本草】

大和本草曰「ノムシ」「タヒ」ノ類ナリ頭鵞ノ如シ大ナルアリ色紫紅ウロコハ鯉ノ如シ味淡シ按形狀「アヲ」ニ同乄齒出ルヿ「アヲ」ノ如ク鱗大ニ乄赤色也

 

○やぶちゃんの書き下し文

(一〇)

コブダヒ 一名「エビスダヒ」【紀州田邊。】・「ノブシ」【「大和本草」。】

「大和本草」に曰はく、『「ノムシ」、「タヒ」の類なり。頭、鵞〔がてう〕のごとし。大なるあり。色、紫紅。うろこは鯉のごとし。味、淡し』と。

按ずるに、形狀、「アヲ」に同じくして、齒、出ずること、「アヲ」のごとく、鱗、大にして、赤色なり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。これは、標題通り、

スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科コブダイ属コブダイ Semicossyphus reticulatusValenciennes, 1839

でよい。宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)こちらから次ページにかけて、「コブダイ 瘤鯛 Semicossyphus reticulatus (Cuvier. & Valenciennes.)」(学名が斜体でないのはママ。命名者はシノニム)として(下線は底本では傍点「ヽ」、下線太字は傍点「●」)、

   *

方言モムシ又はモブシ(紀州各地)・・・・・・・・藻伏の義、コブ(白崎)、コベダイ(廣)、カンノンダイ(太地)、水族志にはエビスダヒ(田邊)とある。

體形カンダイ[やぶちゃん注:宇井の言うそれは既に複数回出たスズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio の地方名であるので、注意。]に似て、遙に大形である。成魚は前頭著しく隆起して瘤狀を呈する。眼は小さく、口に鋭齒を有する。鱗は稍小さい。全體暗褐色で腹部は稍淡く、鰭は暗色を帶びる、體長二三尺、目方數貫[やぶちゃん注:一貫は三・七五キログラム。]に達する。近海の岩礁間に棲み、海藻を食する。肉は不味く主に蒲鉾材料とする。東京市場でカンダイというのは本種の事であるといふ。

   *

とある。ウィキの「コブダイによれば、『コブ鯛と名前がつくが鯛の一種ではなく、ベラの一種で』、『日本南部の太平洋、日本海、東シナ海、南シナ海に分布』する。『雄は体長』八十センチメートル、『大きいもので』一メートルを『越え』、大型個体は十キログラムを超えるものもいる。『体色は茶色や黒、白色などが入った赤色』。『雌性先熟で、大きく育つまではメスで、卵を産む』。五十センチメートルを『超えるとコブが張り出してきて、オスに性転換する』。『見た目があまりに違うため、かつて雌は別種の魚だとさえ思われていた』。『雄は頭部に名前の由来である大きな瘤がある。特に大型のものは、顎にも同様な瘤ができる。瘤の中には脂肪が蓄えられている。口には巻き貝を砕くために大きな歯と強力な顎を持つ』。『幼魚は体色がオレンジ色で上下の鰭が黒く、白い線が体の横に入り、成魚とは大きく異なる』(成魚とこもごも出るが、グーグル画像検索「コブダイ 幼魚」をリンクさせておく。別種と間違えられたのが激しく腑に落ちる)。『本種はハーレムを創る魚として有名であり、雄は自分のテリトリーを主張し、そこに入ってきた他の雄を容赦なく攻撃して、縄張りを確保しながら、複数の雌を呼び寄せる性質を持つ。また、幼魚には手を出さず、幼魚はそうして成魚に守られながら成長し、学習していくともいわれる』。『非常に強力な顎と硬い歯でサザエやカキ、カニなどをかみ砕き、喉の奥の咽頭歯で更に砕いて中の肉を殻ごと食べてしまう。繁殖は雄と雌が海上付近で体をくねらせながら産卵、受精する』。『本種は暖海性だが、死滅回遊魚でもあり、黒潮に乗って、北海道付近にまで北上することもある』。『寿命は』二十年『前後とされている』。『磯釣りの際』、『その強力な顎で餌に食いつき、引きが強いので釣りごたえがある。流通量が少ないため』、『一般に食用としての知名度は高くないが』、『大型の物は味が良い。日本海側の市場の方が人気がある』。『旬は冬であり、市場では「寒鯛」(カンダイ)とも呼ばれる。刺身や焼き物、吸い物、酒蒸し、フライなどで食される』とある。「寒鯛」はイラの別名としても、とみに知られるので、要注意

『「大和本草」に曰はく、……』以下は、「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」の一節。私はそこでは、スズキ亜目フエダイ科フエダイ属フエダイ Lutjanus stellatus に同定したが、修正する。

「鵞〔がてう〕」鵞鳥(ガチョウ)で、カモ目カモ亜目カモ科ガン亜科 Anserinae の野生の雁(ガン)類を家畜化したもの。現在、飼養されているガチョウ類は、ハイイロガン(マガン属ハイイロガン Anser anser)を原種とするヨーロッパ系種の「ガチョウ」と、サカツラガン(サカツラガン Anser cygnoides)を原種とする中国系の「シナガチョウ」のグループの二つに大別されるが、「シナガチョウ」系は上の嘴の付け根に瘤状の隆起があることでヨーロッパ系の「ガチョウ」類と区別出来るので、ここは後者を指すと考えてよい。詳しくは私の「和漢三才圖會第四十一 水禽類 鵞(たうがん(とうがん))〔ガチョウ〕」を参照されたい。

「ノムシ」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑のコブダイのページに、福岡県福岡市長浜鮮魚市場での採取名として「ノムス」がある。これは宇井の指摘する「藻伏」(もぶし)の音が訛ったものと理解出来る。なお、同ページの「歴史・ことわざ・雑学など」で、『古くは大型魚と小型魚は別種と考えられていた? 紀州魚譜に「カンダイ、体長」一、二『尺」、「コブダイ、体長』二、三『尺」とある。いずれもありえない大きさ』とあるが、実際に別種として誤認されていたことに加えて、「紀州魚譜」が、「イラ」を和名標準名のように「カンダイ」と表記してしまっていること(ここ)、それに続けて「コブダイ」を載せているところにも、そうした大きな誤認或いは混同が、恐らくは全国的に長くあったことが推定されると言える。]

2020/10/19

畔田翠山「水族志」 イダ (イラ)

 

(九)

イダ【紀州熊野總稱】 一名イソアマダヒ【紀州若山】

形狀方頭魚ニ似テ鱗大ニ乄滑也背紅色ニ乄黃ヲ帶頭上ニ紅㸃アリ橫翅ノ上ヨリ背ニ至リ黑斑太キ條ヲナシ條ノ下白斑アリ白斑ノ下ヨリ尾ニ至リ淡紅色ニ乄黃ヲ帶黑㸃アリ腹白色黃紅ヲ帶尾岐ナク黑色黃ヲ帶背鬣紅黃色ニ乄端黑色腰下鬣紅黃色ニ乄淡黑色及淡黑條アリ脇翅淡黃腹下翅淡黃ニ乄下淡黑色唇黃ニ乄上黑色一種頭淡紫色ナル者アリ紀州ニテ漁人「モブシ」ト云「モブシ」ハ海磯葉ニ住ト云義也一種同形ニ乄橫ニ綠色大斑斜ニ一ツアルアリ一種同形ニ乄短者アリ一種「メアカ」ト云者アリ形狀短ク圓ク鱗大ニ乄眼大ニ赤色此魚頭大ニ乄身小也鱗色綠褐色ニ乄滑也

 

○やぶちゃんの書き下し文

(九)

イダ【紀州。熊野。總稱。】 一名「イソアマダヒ」【紀州若山。】

形狀、方頭魚〔アマダヒ〕に似て、鱗、大にして、滑らかなり。背、紅色にして、黃を帶ぶ。頭の上に紅㸃あり。橫翅〔むなびれ〕の上より背に至り、黑斑、太き條をなし、條の下、白斑あり。白斑の下より、尾に至り、淡紅色にして黃を帶び、黑㸃あり。腹、白色、黃紅を帶ぶ。尾、岐なく、黑色、黃を帶ぶ。背鬣〔せびれ〕、紅黃色にして、端〔はし〕、黑色。腰の下の鬣〔ひれ〕、紅黃色にして淡黑色、及び、淡い黑條あり。脇翅〔むなびれ〕、淡黃。腹の下の翅〔ひれ〕、淡黃にして、下、淡黑色。唇〔くちびる〕、黃にして、上、黑色。一種、頭、淡紫色なる者あり。

紀州にて、漁人、「モブシ」と云ふ。「モブシ」は「海磯葉に住む」と云ふ義なり。

一種、同形にして、橫に綠色の大斑、斜に一つある、あり。

一種、同形にして、短き者あり。

一種、「メアカ」と云ふ者あり。形狀、短く、圓〔まる〕く、鱗、大にして、眼、大にして、赤色。此の魚、頭、大にして、身、小なり。鱗の色、綠褐色にして滑らかなり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ。重複になるが、これも先の「イソアマダヒ」と同じく、

スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio

ととってよいように思われる。寧ろ、こちらの方の記載が、よりよくイラの細かな様態と一致するようにも思われるぐらいである。頭に出してある「イダ」が「イラ」に音が近いのも同一種である可能性を示唆しているものとも言えるように思う。宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のこちらの「カンダイ」(これは紀州に於けるイラの地方名)にも「方言」の記載に、「イラ」の次に「イダ(堅田:現在の和歌山県西牟婁郡白浜町堅田。グーグル・マップ・データ)」と挙げているのである。記載の色彩におかしなものを感じる方もいるかも知れぬが(個人的には共通属性のように「頭の上に紅あり」とあるのはちょっと引っ掛かる)、イラは♀♂の体色や斑紋の差が大きいだけでなく、成長過程に於ける色や斑紋なども、全く別の魚であるかのように見えるので、何ら問題ないと私は思う。不審な方はグーグル画像検索「イラ」を見て戴きたい。

 なお、畔田は決して一項一項を別種として立てるのではなく、呼称が異なったり、呼称が同じでも実際には別種と思われるものだったりするという経験から、違った部分が少しでもあるように見受けられるところがあれば、新しい項立てをするという形で記載しているように思われる。分類体系化するという点では甚だ問題があるが、基礎資料としては漏れがないようにした、博物学的資料としては大切な観点に立って記載しているように私には見受けられ、頭が下がる思いさえするのである。

『「モブシ」は「海磯葉に住む」と云ふ義なり』私は「イソアマダヒ」で「モブシ」という異名について「藻伏」と解釈した。これはそれが正しい可能性を支持するものと言える。「海磯葉」は一応、「うみいそば」と読んでおくが、所謂、磯近くの海底に繁茂する海藻の謂いであろう。

一種、「メアカ」と云ふ者あり。形狀、短く、圓〔まる〕く、鱗、大にして、眼、大にして、赤色。此の魚、頭、大にして、身、小なり。鱗の色、綠褐色にして滑らかなり」「メアカ」という異名は沢山の魚の異名にあるが、思うに、これはイラの幼魚を指しているのではないかと私は思う。ウィキの「イラ」の幼魚の画像を見られたい。凡そ成魚とは全く違う姿・色・斑紋であり、目が赤い。]

2020/10/17

畔田翠山「水族志」 イソアマダヒ (イラ)

 

(八)

イソアマダヒ 一名テス【勢州松坂】シホヤキ【仝上】モブシ【熊野和深】

形狀方頭魚ニ似テ滑ニ乄背黑褐色腹淡紅褐色細鱗上唇二牙口外ニ出尾ニ岐ナク紅褐色背鬣腰下鬣同色翅亦同腹下翅本紅褐色ニ乄端黑色味劣レリ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(八)

イソアマダヒ 一名「テス」【勢州松坂。】・「シホヤキ」【同上。】・「モブシ」【熊野和深〔わぶか〕。】

形狀、方頭魚〔アマダヒ〕に似て、滑かにして、背、黑褐色。腹、淡紅褐色。細鱗。上唇、二牙、口外に出づ。尾に岐なく、紅褐色。背鬣〔せびれ〕・腰下の鬣、同色。翅〔むなびれ〕も亦、同じ。腹の下翅〔したびれ〕の本〔もと〕、紅褐色にして、端〔はし〕、黑色。味、劣れり。

 

[やぶちゃん注:本文はここ宇井縫藏著「紀州魚譜」(昭和七(一九三二)年淀屋書店出版部・近代文芸社刊)のこちらの「カンダイ」(これは紀州の地方名)の学名によって、

スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio

と判明した。同書では、方言として、イラ(田辺・串本)を最初の挙げ、以下、イダ(堅田:現在の和歌山県西牟婁郡白浜町堅田。グーグル・マップ・データ。以下同じ)、イザ(周参見(すさみ:西牟婁郡すさみ町)・和深東牟婁郡串本町和深)、オキノアマダイ(田辺)、イソアマダイ(和歌山)、アマ(太地)、アマダイ(塩屋(和歌山市塩屋)・切目(きりめ:日高郡印南町西ノ地切目漁港周辺)、テス(和歌浦・白崎(日高郡由良町大引のこの一帯)・塩屋・二木島(三重県熊野市二木島町))を並べ、

   *

體は略楕圓形で側扁し、前頭は大に隆起する。背部は淡紅色に黃を帶び、下方は淡い。幅廣き暗褐色の一帶は胸鰭の腋部より背鰭の第七及び第八棘に至るまで斜に走り、この色帶の後方は大なる白斑をなし、白斑の下方より尾にかけて淡紅色に黃を帶びる。背鰭と臀鰭は淡黃色である。體長一二尺。近海の岩礁間に棲息し、六月頃產卵する。多く釣獲せられ、或は刺網を以て漁獲せらる。煮付・刺身とし、又蒲鉾材料とする。從來下等魚とされてゐるが、冬季稍美味である。

   *

とある。この「カンダイ」という異名は美味しくなる時期で「寒鯛」なのであろう。ウィキの「イラ」によれば、南日本(本州中部地方以南)・台湾・朝鮮半島・東及び西シナ海を棲息域とする。幼魚・成魚では模様が大きく異なるのでリンク先の写真を見られたい。全長は約四十~四十五センチメートル、『体は楕円形でやや長く、側扁』する。なお、このイラ属 Choerodon はベラ科 Labridae の『魚類の中では体高が高い』という特徴を持つ。『額から上顎までの傾斜が急で、アマダイを寸詰まりにしたようである』(これで畔田の似ているという表現が正しいことが判る。但し、私はアマダイに似ているとは思わないのだが)。『老成魚の雄は前額部が隆起・肥大し』、『吻部の外郭は垂直に近くなる』。『アマダイより鱗が大きい』。『両顎歯は門歯状には癒合せず』に『癒合し』て、『鋸歯縁のある隆起線をつくる』。『しかし』、『ブダイ科』(ベラ亜目ブダイ科 Scaridae)『魚類のように歯板を形成することはな』く、『前部に最低』一『対の大きな犬歯状の』後犬歯と呼ぶ歯があって、この歯は非常に大きく、上下の顎から隙間から見えるほどである(ネット上の画像を縦覧するに上・下額一方の場合や両方に生えている個体もある。英名の一つである「Tsukfish」(タスクフィッシュ)は「牙の魚」の意)。『側線は一続きで、緩やかにカーブする』。『前鰓蓋骨の後縁は細かい鋸歯状となる』。『尾鰭後縁はやや丸い』。『体色は紅褐色』『から暗紅色で腹側は色が薄く』、『尾鰭は濃い』、『口唇は青色』『で、鰭の端は青い。背鰭と腹鰭、臀鰭は黄色。背鰭棘部の中央から胸鰭基部にかけ、不明瞭で幅広い黒褐色の斜走帯が走る』(この斜帯が本種の特徴で、英名の一つの「Scarbreast」(スカールブレスト)は「傷跡のある胸」の意でこの帯状紋に由来する)。『その帯の後ろ』に『沿うように』、『白色斜走帯』(淡色域)があるが、『幼魚にはこの斜走帯はない』。『雌雄の体色や斑紋の差』も『大きい』。『沿岸のやや深い岩礁』性の強い海域や、『その周りの砂礫底に見られ』、『単独でいることが多い』。『日本近海での産卵期は夏』。『夜は岩陰や岩穴などに隠れて眠る』。♀から♂への『性転換を行う』ことが知られている。『付着生物』『や底生動物などを食べる肉食性』で、『これはイラ属の魚類に共通する』。『食用だが、肉は柔らかく』、『うまく捌けば上品な白身だが、評価は普通』、『または』不味いとに『分かれる。また』、『水っぽいという意見もある』。『他種と混獲される程度で漁獲量も少なく、あまり利用されない』。『刺身、煮つけ』『などにされる』とある。畔田の記載が孰れもしっくりくることが判る。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイラのページによれば、「イラ」は「苛」で「苛魚」「伊良」と漢字表記し、もとは『和歌山県田辺、串本での呼び名』とし、『つかまえようとすると』、『逆にかみつきにくる。そのために「苛々する魚(いらいらするさかな)」の意味』とあり、他のネット記載を見ても、可愛い顔の割に、かなり攻撃的で、フィッシング系のイラのページでは釣り人への注意喚起が必ずのようにされている。『旬は晩秋から初夏』で、『鱗は柔らかく大きい。皮はしっかりしているが、柔らかい』。『白身でまったくクセがない。柔らかくつぶれやすい身だが、熱を通すと締まる。ほどよく繊維質で口に入れると適度にほぐれる』。『いいだしが出る』とある。ぼうずコンニャク氏のページの最大の魅力は、それぞれ殆ど全ての海産種について、調理されたものの写真と味が載ることである。なお、「地方名・市場名」の一つに「ブダイ」が挙っており、『最近、市場でもスーパーでもブダイと書かれて入荷するのをみている。また』、『沼津魚の達人で仲買をしている菊地利雄さんによると』、『近年』、『沼津でもブダイと呼ぶことがあるという。これなどは形態からブダイと混同しているのかもしれない』とあった。ベラ亜目ブダイ科ブダイ属ブダイ Calotomus japonicus ということは、時にはブダイと言われて、イラを食わされるケースもあるということだ。ご用心。

「テス」これは多く額部の張り出した「シロアマダイ」・「コブダイ」・「テンス」(これには「天須」の漢字名が当たっている)などの魚の異名に認められる(「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」に拠る)から、思いつきに過ぎぬが、「出頭」(でず)が訛って「てす」となったものか?

「シホヤキ」語源不詳。「鹽燒」で「塩焼きにして美味い」か? 或いは、「潮燒」で「潮」に焼けて赤くなっている魚か?

「モブシ」「藻伏」と思われる。これも「オオモンハタ」・「ホウセキハタ」・「ムラソイ」・「コブダイ」・「ヨロイメバル」・「タケノコメバル」・「クロソイ」と多様な魚の異名としてある(「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」に拠る)。]

2020/10/15

畔田翠山「水族志」 アマダヒ (アマダイ)

 

(七)

アマダヒ 一名ナベクサラシ【淡州北村】シラ【紀州田邊】クズナ【大和本草】ヲキツダヒ【本朝食鑑】コビル【物類稱呼出雲】方頭魚

華夷考閩中海錯疏漳州府志八閩通志俱曰方頭魚似棘鬣頭方味美閩書曰福州人謂之國公魚言其方如國公頭上冠也或云當作芳言芳香也華夷考曰其頭味芳香也本朝食鑑曰一種有頭角扁小而嘴尖鱗鬐淺紅者比タヒ則細小不過一尺餘許然味極甘美肉亦脆白名曰甘鯛或曰興津鯛是駿河興津多產也大和本草曰方頭魚鼻ノ上他魚ヨリ高シ目モ高ク付ケリ色ハ「タヒ」ノ如ニシテ長シ「タヒ」ヨリ性カロシ肉ヤハラカ也此魚紅白ノ二種アリ白色ニ乄微ニ淡紅色ヲ帶ルヲ白アマダヒ【紀州若山】ト云一名ドウマ【同上】本朝食鑑ニ或曰甘鯛之大者色帶白而味不美此謂白皮甘鯛云々白色ノ者味美乄魚價モ貴ク漁人甚賞之物類稱呼曰駿河興津ニテ多ク是ヲトル鱗ニ富士ノカタチ有ト云傳フ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(七)

アマダヒ 一名「ナベクサラシ」【淡州北村。】・「シラ」【紀州田邊。】・「クズナ」【「大和本草」。】・「ヲキツダヒ」【「本朝食鑑」。】・「コビル」【「物類稱呼」。出雲。】・「方頭魚」

「華夷考」「閩中海錯疏」・「漳州府志」・「八閩通志」、俱〔とも〕に曰はく、『方頭魚、棘鬣〔タヒ〕に似て、頭、方〔はう〕なり。味、美〔よ〕し』と。「閩書」に曰はく、『福州の人、之れを「國公魚」と謂ふ。言〔いひ〕は、其れ、方にして、國公の頭上の冠のごとければなり』と。或いは云はく、『當〔まさ〕に「芳」に作るべし。言〔いひ〕は「芳しき香」あればなり』と。「華夷考」に曰はく、『其の頭の味、芳香あるなり』と。

「本朝食鑑」に曰はく、『一種、頭に角〔かど〕ありて、扁〔ひらた〕く、小にして、嘴〔くちばし〕、尖り、鱗・鬐〔ひれ〕、淺紅なる者、有り。「タヒ」に比するときは、則ち、細く小なり。一尺餘許りに過ぎず。然れども、味、極めて甘美なり。肉も亦、脆く、白し』。『名づけて「甘鯛」と曰ふ。或いは、「興津鯛」と曰ふ。是れ駿河の興津に多產するなり』と。

「大和本草」に曰はく、『方頭魚(クズナ)、鼻の上、他魚より高し。目も高く付けり。色は「タヒ」のごとくにして、長し。「タヒ」より、性〔しやう〕、かろし。肉、やはらかなり』と。

此の魚、紅白の二種あり、白色にして微〔かすか〕に淡い紅色を帶〔お〕ぶるを「白(しろ)アマダヒ」【紀州若山。】と云ふ。一名「ドウマ」【同上。】。

「本朝食鑑」に、『或いは、曰はく、甘鯛の大なる者は、色、白を帶びて、味〔あぢは〕ひ、美〔び〕ならず。此れを「白皮(しら)甘鯛」と謂ふ』云々。

白色の者、味、美にして、魚の價〔あたひ〕も貴〔たか〕く、漁人、甚だ之れを賞す。

「物類稱呼」に曰はく、『駿河興津にて、多く、是をとる。「鱗に、富士のかたち、有る」と云ひ傳ふ』と。

 

[やぶちゃん注:本文はここから次のページまで。これはアマダイで、京阪で「グジ」の名で親しまれ、西京漬けなどにされるスズキ目スズキ亜目キツネアマダイ(アマダイ)科アマダイ属 Branchiostegus のうち、本邦近海産は以下の四種。

アカアマダイ Branchiostegus japonicus

シロアマダイBranchiostegus albus

キアマダイ Branchiostegus auratus

スミツキアマダイ Branchiostegus argentatus

孰れも全長は二十~六十センチメートルほど。体は前後に細長く、側扁する。頭部は額と顎が角張った方形で、目は額の近くにあり、何となく、とぼけた、或いは、可愛らしい顔をしている。現行、食用ではシロアマダイを最美とする。畔田が人見必大の「本朝食鑑」に反論するように付け加えているのは賛同出来る。

「ナベクサラシ」「鍋腐らし」。これは実は不名誉な名前で、どうも、煮ると生臭くなり、勢い、誰も手を出さない結果、鍋をダメにしてしまう(生臭さが移る)という謂いらしい。特にアカアマダイを指すようである。カジカのような美味な魚をしばしば「ナベコワシ」(あまりの美味さに皆で鍋を突っく結果、鍋が壊れる」と異名するのと正反対であるのが面白い。コブダイ(ベラ亜目ベラ科コブダイ属コブダイ Semicossyphus reticulatus)の異名にも「ナベクサラシ」があった。調べてみるに、どうも旬の問題らしく、アマダイやコブダイは秋・冬・春が寒い時期が旬であり、夏場に獲れたそれらは美味くないことに由来するように思われる。これは、同種がもともと脂肪分が少なく、淡白であるかわりに、柔らかく、水っぽいという食感にも起因するのかも知れない。

「淡州北村」海浜で旧村名で「北村」を有するのは「草加北村」で、現在の兵庫県淡路市草香北(グーグル・マップ・データ)であるが、ここか。北を除く東村・西村・南村は「徳島大学附属図書館」の「貴重資料高精細デジタルアーカイブ」のこちらの古地図(寛永一八(一六四一)年頃)内に見つけたが、単独の「北村」は遂に見出せなかった。

「シラ」「白(しら)」でシロアマダイであろう。

「クズナ」シロだのアカだのを限定して指すという記載が散見されるが、アマダイの総称と考えてよい。古書には「屈頭魚(くずな)」とあり、頭がへこんだように見えることに由来していると考えられます。サイト「プライドフィッシュ」にまさに後に出る「コビル(アカアマダイ)」の標題で産地を島根県として出し、そこに『アマダイという名前の由来は、身に上品な「甘」みがあることや、横顔を見ると』、『頭を眼のすぐ前で切り落とした様な顔つきをしており、頬被りした「尼」僧に似ていることからきていると言われています』とし、『このアカアマダイのことを、島根県では「コビル」と呼んでいます。これは、アカアマダイが鯛と名前のつく他の魚に比べて大きくならないことからついたとされる呼び名。ほかに「クズナ」という地方名もありますが、古書には「屈頭魚(くずな)」とあり、頭がへこんだように見えることに由来していると考えられます』とある。今一つ、「コビル」の由来が判らぬので、さらに調べてみたところ、サイト「日本の旬・魚のお話」の「甘鯛(あまだい)」に、『島根の方言辞典に「コビル・コビリ、甘鯛をいう」とあり、また、「コビレル、発音』(「発育」の誤りか)『不全で大きくならないこと」としてある。鯛と呼ばれる他の魚に較べ、小型であることの呼名であろう』によって概ね了解できた。

「大和本草」江戸時代の儒者・医師で本草家の貝原益軒(寛永七(一六三〇)年~正徳四(一七一四)年:名は篤信。黒田侯祐筆職貝原寛斎の五男。長崎で医学を修め、明暦元(一六五五)年に江戸に出て,翌年より黒田光之に仕え、藩医となった。寛文四(一六六四)年、三五歳で福岡に帰り、藩儒の実務をとった。同五年から死に至るまでの五十年間に、全九十八部二四七巻の著述を成し、儒学・医学・民俗・歴史・地理・教育などの各分野で先駆者的業績を残した)が七十九歳の時に完成、翌年に刊行された。明の李時珍の「本草綱目収載品の中から、日本に産しないもの及び薬効性の疑わしいものを除き、七百七十二種を採って、さらに他書からの引用及び日本特産品と、西洋からの渡来品などを加え、実に千三百六十二種の薬物を収載している。全体としては博物学的な傾向にあるが、しばしば薬効にも触れており、「養生訓」とともに益軒の代表作とされる。但し、彼は生涯の大半を福岡藩で過ごしたことから、種同定に大きな誤りがあり、それに対する小野蘭山の批判が、蘭山の「本草綱目啓蒙」の成立の一因ともなった。「大和本草」の水族の部は、先般、その総ての電子化注を終えている。以上の引用部も「大和本草卷之十三 魚之下 棘鬣魚(タヒ) (マダイを始めとする「~ダイ」と呼ぶ多様な種群)」で電子化注してある。以下もそこで私が施した「○方頭魚(くずな)」の部分の訓読を参考にした。

「本朝食鑑」は医師で本草学者であった人見必大(ひとみひつだい 寛永一九(一六四二)年頃?~元禄一四(一七〇一)年:本姓は小野、名は正竹、字(あざな)は千里、通称を伝左衛門といい、平野必大・野必大とも称した。父は四代将軍徳川家綱の幼少期の侍医を務めた人見元徳(玄徳)、兄友元も著名な儒学者であった)が元禄一〇(一六九七)年に刊行した本邦最初の本格的食物本草書。「本草綱目」に依拠しながらも、独自の見解をも加え、魚貝類など、庶民の日常食品について和漢文で解説したものである。以上の引用部は、国立国会図書館デジタルコレクションの原本画像の訓点に拠って訓読した。但し、二箇所に別けて出している。ここの左頁の五行目から十行目がそれであるが、畔田は途中の一部をカットしており、それをまた、本文内では分割して出している。省略部が判るように引用途中に二重鍵括弧を挿入してある。

「物類稱呼」江戸後期の全国的規模で採集された方言辞書。越谷吾山(こしがやござん) 著。五巻。安永四(一七七五)年刊。天地・人倫・動物・生植・器用・衣食・言語の七類に分類して約五百五十語を選んで、それに対する全国各地の方言約四千語を示し、さらに古書の用例を引くなどして詳しい解説を付す。「甘鯛」は巻二の「動物」の「棘鬣魚(たひ)」の小見出しに出る。以下の引用はPDFで所持する(岡島昭浩先生の電子化画像)昭和八(一九三三)年立命館出版部刊の吉澤義則撰「校本物類稱呼 諸國方言索引」に拠った。

   *

甘鯛、畿内西國、東武共に「あまだひ」と呼。出雲にて◦こびるといふ。關東にて◦興津鯛と呼(駿州興津にて多く是をとる。鱗に富士のかたち有と云つたふ)

   *

「華夷考」(かいかこう)以下、漢籍であるから、これは明の慎懋官(しん ぼうかん)撰になる「華夷花木鳥獣珍玩考」のことであろう。

「閩中海錯疏」(びんちゅうかいさくそ)明の屠本畯(とほんしゅん 一五四二年~一六二二年)が撰した福建省(「閩」(びん)は同省の略称)周辺の水産動物を記した博物書。一五九六年成立。

「漳州府志」(しょうしゅうふし)は、原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。

「八閩通志」明の黄仲昭の編になる福建省の地誌。福建省は宋代に福州・建州・泉州・漳州・汀州・南剣州の六州と邵武・興化の二郡に分かれていたことから、かくも称される。一四九〇年跋。全八十七巻。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。

「國公の頭上の冠」中国の皇帝や国王(古くは本邦でも)が頭に被った冕冠(べんかん)。冠の上に冕板(延とも)と呼ばれる長方形の木板を乗せ、冕板前後の端には旒(りゅう:宝玉を糸で貫いて垂らした飾り)を垂らした。中文ウィキの画像(明朝定陵出土の十二旒冕冠)をリンクさせておく。

「駿河興津」現在の静岡県静岡市清水区興津本町はここ(グーグル・マップ・データ)。

「鱗に富士のかたち、有る」個人ブログ「世の中のうまい話」の「甘鯛(アマダイ)」に、『「駿河湾沿岸で獲れるアマダイのウロコは富士山の形をしている」と言い伝えられ、縁起物としてもてはやされた。しかし、一般的に何処で獲れてもウロコは山の形をしているようだ』とされ、『ちなみに、徳川家康が天ぷらの食べすぎで死んだと言う話は有名だが、アマダイの天ぷらだったと言うのが最も有力』で、『イワシであったとか、真鯛であったとか言う人もいるようです』とある。サイト「ORETSURI」の編集長であられる平田剛士氏の書かれた「アマダイの若狭焼きを上手につくるなんて10年早えよ」にあるこの画像がよい。確かに!🗻富士山🗻!]

2020/10/13

畔田翠山「水族志」 オナガダヒ (ハマダイ)

 

(六)

オナガダヒ[やぶちゃん注:「オ」はママ。]【紀州日高郡薗浦】

形狀棘鬣ニ同乄其尾上尖末長ク糸出テ下尖ハ短シ

 

○やぶちゃんの書き下し文

(六)

オナガダヒ【紀州日高郡薗浦。】

形狀、棘鬣(たひ)に同じくして、其の尾の上、尖(さき)の末、長く糸出でて、下の尖は短し。

 

[やぶちゃん注:本文はここスズキ目スズキ亜目フエダイ科ハマダイ属ハマダイ Etelis coruscans か。本種は関東で「オナガ」(尾長)の異名を持つ。但し、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のハマダイの画像を見て戴くと判るが、凡そ「棘鬣(たひ)」(マダイ)には似ていない。解説によれば、「浜鯛」と漢字で書くが、しかし、この和名のもとは『不明だが、推測で「はま」は実は「幅」の変化で、大きいことを現すという説があり、これをとると「大きい」、「鯛」は左右に側扁している、もしくは赤いという意味合いを現しているのではないか』とあり、成魚は一メートル『前後になる。体色は背の部分が赤く、腹側は赤味を帯びて白い。目が大きく、側扁(左右に平たい)し、細長い。尾鰭がとても長い』とあり、英語名も「Deepwater longtail red snapper」である。「snapper」は広くフエダイ科 Lutjanidae の仲間を指す語で、彼らは多く口が頭部のやや下にあって、前に突き出てており、口笛を吹くように見えることから、和名では「笛鯛」とし、英語の「snapper」は「パチッと鳴るもの」・「がみがみ言う人」の意で腑に落ちる。

「紀州日高郡薗浦」現在の御坊市(グーグル・マップ・データ)内であるが、地名は残っていないようである【2020年10月15日追記】いつも御教授戴くT氏の御指摘を頂戴した。私がろくに探さずいただけであったちゃんと地名に残っていた。和歌山県御坊市薗(その)(グーグル・マップ・データ)である。T氏が添付して下さった「天保國繪圖紀伊國日高郡御坊付近」の中央に「薗浦」とあった(「ヱビスダヒ」の注を見られたい)。何時もながら、T氏に感謝申し上げる。

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