和漢三才図会巻第四十(末) 獸之用 皮(かは) //十二年半かけた「和漢三才図会」動物パート全十八巻のオリジナル電子化注を完遂した!!!
かは 皮【和名加波】
革【豆久利加波】
皮【音脾】
韋【奈女之加波】
靻【同右】
釋名云皮被也被覆體也剥取獸皮生曰皮理之曰革【音格】
去其毛革更也柔之曰韋【音爲】韋相背也獸皮之韋可以束
物枉戾相韋背故借以爲皮革【俗作※一字作非也】
[やぶちゃん注:「※1」は「韋」の「口」以下の下部を「吊」とした字。]
鞄人【柔革之工】柔革曰※2【奈女須】用稻藁灰汁和米糠畧煖之革
[やぶちゃん注:「※2」=(上)「比」+(中)「穴」+(下)「瓦」。「東洋文庫」訳では(上)「北」+(中){「穴」の第一画の点を除去した字}+(下)「瓦」であるが、私の原典は以上の通り。]
表裏能揉洗以※3張晒之俟稍乾以竹箆刮去肌肉
[やぶちゃん注:「※3」=「籤」の(たけかんむり)の下部部分に(きへん)「木」を添えたもの。]
凡洗韋垢※4者以糯糠揉洗之不糠去晒乾可揉
[やぶちゃん注:「※4」=「耳」+「黒」。]
凡皮褥夏月不宜藏置可見風日否則毛脫
肉【音辱】
[やぶちゃん注:以下の二行分は、原典では上記「肉」の標題の下に二行で載る。]
月【同】宍【古文】△按肉肥肉也月字中二畫竝連兩
傍與日月之月不同俗用完字者宍字謬矣完
【音桓】全也
*
かは 皮【和名「加波」。】
革【「豆久利加波〔(つくりかは)〕」。】
皮【音「脾」。】
韋【「奈女之加波〔(なめしかは)〕」。】
靻【同右。】
「釋名〔しやくみやう)〕」に云はく、『皮は「被」なり。體を被〔(かぶ)〕り覆ふなり』〔と〕[やぶちゃん注:「體を被〔(かぶ)〕り覆ふなり」は和文としてはちょっとおかしい。「體を被覆せるものなり」あたりがよかろう。]。獸の皮を剥(は)ぎ取〔れる〕生を「皮」と曰ひ、之れを理(をさ)むる[やぶちゃん注:皮製品として毛を除去して(後述している)調製加工する。]を「革」【音「格」。】と曰ふ。「其の毛を去りて、革(あらた)め、更〔(か)へ〕る」〔こと〕なり。之れを〔さらに〕柔(やはらかにす)るを「韋」【音「爲」。】と曰ふ。「韋」は「相ひ背〔(そむ)〕く」なり。獸皮の「韋」〔は〕以つて物を束(たば)ねるべし[やぶちゃん注:物を束ねることが出来る。]。枉〔(ま)げ〕戾〔しても〕、相ひ韋-背〔(そりかへ)る〕。故に〔この字を〕借りて以つて「皮革」と爲す【俗に「※」の一字に作〔るは〕非なり。】[やぶちゃん注:「※1」は「韋」の「口」以下の下部を「吊」とした字。]。
鞄人〔(はうじん)〕【革を柔かにするの工〔(たくみ)〕[やぶちゃん注:職人。]。】革を柔かにするを、「※2[やぶちゃん注:音不詳。]」[やぶちゃん注:「※2」=(上)「比」+(中)「穴」+(下)「瓦」。]【「奈女須〔(なめす)〕」。】と曰ふ。稻藁の灰汁(あく)を用ひて、米糠に和(ま)ぜて、畧〔(ほぼ)〕、之れを煖〔(あたた)〕め、革の表裏〔を〕、能く揉み洗ひ、※3(たけぐし)[やぶちゃん注:「※3」=「籤」の(たけかんむり)の下部部分に(きへん)「木」を添えたもの。竹串。]を以つて張りて、之れを晒〔(さら)〕し、稍〔(やや)〕乾くを俟〔(ま)〕ちて、竹箆(〔たけ〕へら)を以つて、肌肉を刮(こそ)げ去る。
凡そ、「韋」の垢-※4(よご)[やぶちゃん注:「※4」=「耳」+「黒」。]れたる者を洗ふに、糯糠(もちぬか)を以つて之れを揉(も)み洗ひ、糠を去らずして、晒し乾し、揉むべし。
凡そ、皮の褥〔(しとね)〕、夏月、藏(をさ)め置く〔は〕宜しからず。風・日を見すべし[やぶちゃん注:風通しがよく、一定時間は太陽光線が射す場所に置いておくのがよい。]。〔かく〕否(〔せ〕ざ)れば、則ち、毛、脫(ぬ)ける。
肉【音「辱〔(ニク)〕」。】
「月」【同。】。「宍」【古文。】。[やぶちゃん注:同義字を掲げているので、通常項のように改行した。]
△按ずるに、肉は「肥肉」なり。「月」の字、中の二畫、竝びに〔→びて〕兩傍に連なる。「日月」の「月」と〔は〕同じからず。俗に「完」の字を用ひるには〔→用ひるは〕、「宍」の字の謬〔(あやま)〕り〔なり〕。「完」【音「桓」。】は「全きもの」〔の意〕なり〔→なればなり〕。
[やぶちゃん注:「釋名〔しやくみやう)〕」後漢末の劉熙が著した辞典。全八巻。ウィキの「釈名」によれば、その形式は「爾雅」に似るが、『類語を集めたものではない。声訓を用いた説明を採用しているところに特徴がある』。『著者の劉熙については、北海(今の山東省)出身の学者で』、『後漢の末』頃『に交州にいた』『ということのほかは』、『ほとんど不明である』「隋書」の「経籍志」には、『劉熙の著作として』本書の他に「謚法」(しほう:普通名詞としては「諡(おくりな)をつける法則」のことを指す)及び「孟子」注を『載せている』。『成立年代は不明だが』、二七三年に『韋昭が投獄されたときの上表文に「又見劉熙所作釈名」とある』。清の官僚で歴史家でもあった畢沅(ひつげん 一七三〇年~一七九七年)は、『釈州国篇の地名に建安年間』(後漢の献帝(劉協)の治世に用いられた元号。一九六年から二二〇年まで)『以降のものがあることなどから、後漢末から魏のはじめにかけての著作としている』が、清中期の考証学者銭大昕(せんたいきん 一七二八年~一八〇四年)は『三国時代』(「黄巾の乱」の蜂起(一八四年)による漢朝の動揺期から、西晋による中国再統一(二八〇年)まで。狭義には後漢滅亡(二二〇年)から晋が天下を統一した二八〇年までを、最狭義には三国が鼎立した二二二年から蜀漢が滅亡した二六三年までを指す)『の作とする説に反対し』、『後漢末の作とする』。なお、「後漢書」には劉珍の著書にも「釈名」が『あったことを記すが』、『劉熙とは時代が異なり、どういう関係にあるのか不明である』とある。以下は、同書の「釋形體」に、
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皮、被也、被覆體也。
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とあるものである。
「枉〔(ま)げ〕戾〔しても〕、相ひ韋-背〔(そりかへ)る〕」東洋文庫訳では『反対に巻き戻してもすぐもとに背(そり)かえる』とあり、私の添え文もそれを参考にさせて貰った。
『「※2」(「※2」=(上)「比」+(中)「穴」+(下)「瓦」)【「奈女須〔(なめす)〕」。】』現在の「鞣」(なめす)である。動物の皮は柔軟性に富み、非常に丈夫であるが、そのまま使用すると、すぐに腐敗したり、乾燥すると、板のように硬くなって柔軟性がなくなってしまう。この大きなデメリットの属性を、樹液や種々の薬品を使って変化させる方法が「鞣し」である。ここは製革業者団体「日本タンナーズ協会」公式サイト内の『「鞣す(なめす)」とは』に拠った。
「糯糠(もちぬか)」「糯(もち)」とはイネ(単子葉植物綱イネ目イネ科イネ亜科イネ属イネ Oryza sativa)やオオムギ(イネ科オオムギ属オオムギ Hordeum vulgare)などの作物の内で、アミロース(amylose:多数のα-グルコースス(α-glucose)分子がグリコシド結合(glycosidic bond:炭水化物(糖)分子と別の有機化合物とが脱水縮合して形成する共有結合)によって重合し、直鎖状になった高分子。デンプン分子であるが、形状の違いにより、異なる性質を持つ)を全く或いは殆んど含まない特定品種を指す。対義語は「粳(うるち)」で、組成としてアミロースを含む通常の米飯に用いるそれを「粳米(うるちまい)」と呼ぶ(以上はウィキの「糯」に拠った)。]
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本項を以って、私の「和漢三才図会」の動物部の総て、全十八巻のオリジナル電子化注を遂に完遂した(別に藻類の一巻がある)。
思えば、私が、その中、最初に電子化注を開始したのは、私が幼少時からフリークであった貝類の「卷第四十七 介貝部」で、それは実に凡そ十二年と半年前の、二〇〇七年四月二十八日のことであった。
その時の私は、正直、偏愛する海産生物パートの完成だけでも、自信がなく、まさか、総ての動物パートをやり遂げられるとは、実は夢にも思っていなかった。
海洋生物パートの貫徹も、幾人かの方のエールゆえ、であったと言ってよい。
その数少ない方の中には、チョウザメの本邦での本格商品化飼育と販売を立ち上げられながら、東日本大地震によって頓挫された方がおられた。
また、某国立大学名誉教授で日本有数の魚類学者(既に鬼籍に入られた)の方もおられた。「あなたの仕事は実に楽しく、また、有意義です」というメールを頂戴し、また、私の『栗本丹洲「栗氏千蟲譜」卷九』では、この先生の伝手で、無脊椎動物の幾つかの種の同定について、専門家の意見を伺うことも出来たのであった。
ここに改めてその方々に謝意を表したい。
以下、サイト「鬼火」と本ブログ「鬼火~日々の迷走」に分散しているため、全部に就いてリンクを張っておく。
ブログ・カテゴリ「卷第三十七 畜類」(各個版)
ブログ・カテゴリ「卷第三十八 獸類」(各個版)
ブログ・カテゴリ「卷第三十九 鼠類+「動物之用」(ブログ各個版。「動物之用」は本来は以下の「卷第四十 寓類 恠類」の後に附録するパートであるが、ここに添えた)
卷第四十 寓類 恠類(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
ブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 鳥類」(★各個版で以下の四巻総て★)
卷第四十一 禽部 水禽類
卷第四十二 禽部 原禽類
卷第四十三 禽部 林禽類
卷第四十四 禽部 山禽類
卷第四十五 龍蛇部 龍類 蛇類(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第四十七 介貝部(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第四十八 魚部 河湖有鱗魚(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第四十九 魚部 江海有鱗魚(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第五十 魚部 河湖無鱗魚(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
卷第五十一 魚部 江海無鱗魚(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
ブログ・カテゴリ「和漢三才圖會 蟲類」(★各個版で以下の三巻総て★)
卷第五十二 蟲部 卵生類
卷第五十三 蟲部 化生類
卷第五十四 蟲部 濕生類
が動物部の総てであり、それに附録して、私のフリーク対象である海藻類を含む
卷第九十七 水草部 藻類 苔類(サイト「鬼火」の「心朽窩旧館」HTML版)
が加えてある。
なお、私は植物は苦手で、向後も纏めてそれをやる意志は今のところ、ない。
一つの私の「時代」が終わった――という感を――強く――しみじみと感じている。……では……また……何時か……何処かで…………