和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 山草類 上卷・萎蕤
[やぶちゃん注:上部の図に「倭」(日本産)、右下の図に引用書名「救荒本草」、左下の図に引用書名「三才圖會」とある。]
いずい 葳甤 萎䔟
女萎 萎香
萎蕤 委萎 熒【音行】
玉竹 地節
【和名惠美久佐
一云阿末奈】
本綱萎甤山中有之莖幹強直似竹箭簳有節其葉如竹
兩兩相値表白裏青三月開青花結圓實其根橫行似黃
精差小黃白色性柔多鬚最難燥嫩葉及根可煮淘食
氣味【甘平】 能升能降陽中陰也補中益氣止消渴潤心
肺補五勞七傷虛損腰脚疼痛目痛眥爛淚出
黃精萎甤二物功用大抵相近而萎甤之功更勝則二
物雖通用亦可
△按萎甤河州金剛山之産良其莖帶紫色葉似竹而厚
窄不對生而向上花如風鈴狀白色本末帶青結子
*
いずい 葳甤《いずい》 萎䔟《いい》
女萎《ぢよい》 萎香《いかう》
萎蕤 委萎《いい》 熒《けい》【音「行《カウ》」。】
玉竹《ぎよくちく》 地節《ぢせつ》
【和名、「惠美久佐《ゑみぐさ》」
一《いつ》に云《い》ふ、「阿末奈《あまな》」。】
「本綱」に曰はく、『萎甤、山中に、之《これ》、有り。莖幹《けいかん/くき》、強直《がうちやく》にして、竹-箭-簳《たけやがら》に似て、節《ふし》、有り。其≪の≫葉≪も≫、竹のごとし。兩兩《りやうりやう》[やぶちゃん注:二つずつ]、相《あひ》値《あた》ふ[やぶちゃん注:「二つずつ、向かい合っている。」の意。]。表《おもて》、白く、裏《うら》、青《あを》し。三月、青≪き≫花を開き、圓《まろ》き實《み》を結ぶ。其≪の≫根《ね》、橫行《わうかう》し、黃精《わうせい》に似て、差《や》や、小《ちいさ》く、黃白色《わうはくしよく》。性《せい》、柔《やはら》≪かにして≫鬚《ひげ》、多し。最《もつとも》、燥《かは》き難《がた》し。嫩葉《わかば》、及《および》、根《ね》、煮《に》≪て≫淘《すす》≪ぎ≫、食《く》≪ふ≫べし。』≪と≫。
『氣味【甘平】』『能《よく》、升《あが》り、能《よく》、降《くだ》≪る≫。陽中《やうちゆう》の陰《いん》なり。中《ちゆう》[やぶちゃん注:漢方で言う「脾胃」。]を補≪ひ≫、氣を益《えき》し、消渴《しやうけつ》[やぶちゃん注:口が渇き、小便が近い症状。糖尿病のこと。]を止《と》め、心肺を潤《うるほ》し、五勞七傷《ごらうしちしやう》、虛損、腰《こし》≪や≫脚《あし》≪の≫疼痛《とうつう》、目≪の≫痛《いた》≪み≫、眥《まなじり》≪の≫爛《ただれ》て淚《なみだ》≪の≫出《いづる》を補《ほ》す。』≪と≫。
『黃精《わうせい》・萎甤《いずい》≪の≫二物《にぶつ》の功用《こうよう》、大抵《たいてい》、相近《あひちかく》して、「萎甤の功、更《さら》に勝《まさ》≪れ≫り。」と云《いふ》時は[やぶちゃん注:「云」「時」は訓点にある。]、則《すなはち》、二物、通用《つうよう》すと雖《いへども》、亦《また》、可《か》なり。』≪と≫。
△按ずるに、萎甤、河州《かしう》[やぶちゃん注:河内の国。]、金剛山《こんがうさん/こんがうざん》の産、良し。其《その》莖《くき》、紫色《むらさきいろ》を帶≪び≫、葉、竹に似て、厚く窄(くぼ)く、對生《たいせい》せずして、上に向《むき》、花、風鈴《ふうりん》の狀《かたち》≪の≫ごとく、白色《はくしよく》にして、本《もと》≪と≫末《すゑ/さき》に、青(あを)みを帶《おび》、子《み》を結《むす》≪ぶ≫。
[やぶちゃん注:これは、日中ともに、
単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科アマドコロ(甘野老)連アマドコロ属アマドコロ変種アマドコロPolygonatum odoratum var. pluriflorum
であり、変種に、
ヤマアマドコロ Polygonatum odoratum var. thunbergi
オオアマドコロ Polygonatum odoratum var. maximowiczii
がある。「維基百科」の同種では、「玉竹」とあり、別名として『萎蕤、尾参、地管子、铃铛菜』を挙げてある。そこでは、
玉竹 Polygonatum odoratum
とあるが、冒頭のアマドコロの広義のシノニムである。以下の二つの変種も、広義では、アマドコロに含まれる。当該ウィキに拠れば(注記記号はカットした。太字は私が附した。)、『日当たりのよい山野に生え、草丈50センチメートル前後で、長楕円形の葉を左右に互生する。春に、葉の付け根から』、壺『形の白い花を垂れ下げて咲かせる。食用や薬用にもなる』。『和名アマドコロは、根茎の見た目が』、『ヤマノイモ科』Dioscoreaceae『の』一群の『トコロ』類(ヤマノイモ属 Dioscorea )『に似ており、甘みがあることが由来になっている。「トコロ」の語源については』、『よくわかっていないが、ヤマノイモの仲間のオニドコロ』(鬼野老:Dioscorea tokoro:「トコロ」と言った場合に、しばしば、この種を指す場合がある。)『やハシリドコロ』(走野老:Scopolia japonica:有毒)『のように、多肉の地下茎をもつ植物を指す名に使われている』。『別名で、ジョウシュウアマドコロともよばれる。地方により、キツネノチョウチン、アマナ(甘菜)、イズイ、エミグサ、カラスユリ、キツネノマクラ、チョウチンバナ、ナルコ、ヘビスズラン、ヘビユリなどともよばれている。中国植物名は玉竹(ぎょくちく)』。『花言葉は、「元気を出して」「心の痛みがわかる人」である』。『ヨーロッパ・東アジアに分布する。日本では、北海道、本州、四国、九州にかけて分布する。原野、丘陵、山麓、尾根筋などに群生して見られ、日当たりのよい山野などの草原や、林縁、落葉樹の木陰などに自生する』。『栽培されることも多く、庭先や鉢植えなどで葉に斑入りの園芸種を見かける。栽培では、夏季は冷涼なところを好むことから、腐葉土で水はけをよくして半日陰の場所で育て、秋に根分けさせる』。『多年草。地下には横走する多肉質の地下茎があり、浅く横に長く這い、伸びた先に花茎を立てる。地下茎(根茎)は円柱形でところどころには節があり、節間は長く細いひげ根が生える』。『草丈は30 - 80センチメートルで、変種のオオアマドコロでは草丈1メートル、茎径1センチメートルにもなる。茎は地下茎の先端から毎年1本、毛筆を逆さにしたような芽を出して、少し斜めに立ち、4 - 6本の稜角(縦筋)があり、触ると』、『少し』、『角張った感じがする。少し』、『紫褐色を帯びるものもある。茎から枝を出すことはない。葉は互生し、葉身は』笹(単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科に属する植物の中で、その茎に当たる「稈(かん)」を包んでいる葉鞘が枯れる時まで残るものの総称)『に似た楕円形から幅広い長楕円形で』、『両端が』、『やや尖り、普通の緑のものと』、『斑入』(ふい)『りの園芸種がある』。『花期は春から初夏(4 - 5月)ころ。各葉の付け根から1 - 2個の細い花柄を伸ばして、細長いつぼ型(鐘形)をした白色から』、『緑白色の花を垂れ下げてつける。花は長さは2センチメートル (cm) 、6花被片が合体した筒状形で、合弁と花被の先に緑色の点がある』。『果実は液果で、径1センチメートルほどの球形をしていて、花と同様に茎に下向きに垂れ下がる。果実の色は、夏から秋に暗緑色から青黒く熟す。種子は、楕円形や卵球形で』、『大きめの』臍(へそ)『が目立ち、色は茶褐色をしている。種子は低温にあたることで休眠状態が打破されるため、一冬越すと翌春に芽生える。さらに、もう一冬を越さなければ、地上で葉を開いて生長することができない』。『初夏に花を下垂させて美しいことから、庭に植えて観賞用に栽培される。班入り葉の園芸種も作出されている。地方によってオオアマドコロやヤマアマドコロなど』、『さまざまな種類があり、若い茎葉や花は食用に、根茎は食用と薬用に利用される。なめらかな舌触りと、特有の甘味がある美味しい山菜として知られている』。『若芽、花、地下茎が食用になる。春の若芽や地下茎には甘みがあり、山菜として食用にされる。若芽は、筆の先のように膨らんでいるものを利用する。根茎は栄養価が高く、昔は凶作時の救荒食物として利用された』。『若芽の採取時期は、暖地で』三~五『月ごろ、寒冷地で』四~五『月が適期とされる。主に10センチメートルほどに伸びた若芽を地中部の白い部分から採取するか、10 - 20センチメートルほど伸びた芽を地上部で摘み取り、そのまま天ぷらにしたり、茹でてマヨネーズをつけて食べたり、和え物、おひたし、煮物、炒め物、汁の実などにする。花は初夏に摘み取って、軽く茹でて酢の物に利用したり、寒天寄せや花酒にもできる。若芽や花は灰汁が少なく、下ごしらえに軽く茹でて』、『冷水に冷やして使い、塩漬け、ぬか漬けにして保存できる』。『根茎は』、『一年中』、『利用できるが、特に晩秋(10月ごろ)が旬とされ、太った根を掘り取って』、『ひげ根を取り除き、砂糖と醤油で甘く煮て食べたり、天ぷらやフライにすると美味とされる。また、根を刻んで』、『天日で干してアマドコロ酒をつくる』。以下、「薬用」の項。『薬用部位となる根茎には配糖体のコンバラリン、粘液質のマンノースなどを含んでいる。マンノースには、胃や腸の粘膜を保護する作用や消炎作用があるほか、分解して体に吸収されると滋養になるといわれ』、「本草綱目」『でも滋養強壮、消炎薬として紹介されている』。『漢方では滋養強壮剤であるが、伝統的な漢方方剤では』、『あまり使われず、日本薬局方にも収録されていないが、かつては民間薬として利用された。地上部の茎葉が黄変して枯れはじめる10 - 11月ごろに地下茎を掘り上げて、ヒゲ根や茎を取り除いて水洗いし、きざんで』、『天日乾燥させたものを萎蕤(いずい)、漢方では玉竹(ぎょくちく)ともいう生薬である。かつて滋養強壮に用いられていたが、現在では』、『あまり使われていない。咳や疲労倦怠にも効果があるとされ、1日量5 - 10グラムを600 ㏄で30分ほど半量になるまで煎じ、3回に分けて服用される。また、根茎を漬けた薬用酒も作られる』。『打ち身、捻挫の薬として用いられることもあり、生の根茎をすり下ろしたものや、粉末または絞り汁は』、『食酢と小麦粉を加えて練り合わせて』、『ペースト状にしたものをガーゼや布に伸ばして、湿布として利用』する。『若い芽生えの時期に似ている植物に、ナルコユリ(キジカクシ科)、オオナルコユリ(同)、ユキザサ(同)、ホウチャクソウ』(宝鐸草:単子葉植物綱ユリ目イヌサフラン科チゴユリ属ホウチャクソウ変品種ホウチャクソウ Disporum sessile f. var. sessile )『などがある』。『同属のナルコユリ』(鳴子百合: Polygonatum falcatum )『とよく似ているが、ナルコユリは』、『花のつけ根に緑色の突起があるのに対し、アマドコロでは花と花柄のつなぎ目が突起状にならないことで区別がつく。また、ナルコユリの茎は円柱形であるが、アマドコロの茎では角張っている。花の数は多く、ナルコユリの』方『は3個以上ずつ付くが、アマドコロは1 - 2個ずつ付けて垂れ下がる』。『ナルコユリやユキザサはアマドコロと同じように食べることができ、茎に陵がなく、草丈が60 - 100センチメートルになる点で区別できる』。『ホウチャクソウは若芽に有毒成分を含んでいる有毒植物である』(当該ウィキに拠れば『全草有毒といわれているが、成分などは明らかにはなって』おらず、『若芽にアルカロイド成分を含む』とあった)。『若芽の見た目はアマドコロに似ているが、ホウチャクソウの根は毛根で、アマドコロには太い地下茎があるので区別できる。食用にはならず、地下茎がないこと、芽生えの葉の先に蕾が包まれていること、茎は枝を打つことなどの外見上の違いを見ることができる。また、ホウチャクソウは摘んだときに悪臭があるので、摘んだ時に臭いを確かめるのも大事だと言われている』とある。
☆ここで、冒頭の図のキャプションに就いて、注しておく。「救荒本草」は、明の太祖の第五子周定王朱橚(しゅしゅく 一三六一年~一四二五年)の撰になる本草書。飢饉の際の救荒食物として利用出来る植物を解説している。全二巻、一四〇六年刊で、収載品目は四百余種に及び、その形態を文章と図で示し、簡単な料理法を記しているが、画期的なのは、その総てを実際に園圃に植えて育て、実地に観察して描いている点である。植物図は他の本草書に比べても遙かに正確であり、明代に利用されていた薬草の実態を知る上で重要な文献とされる。「漢籍リポジトリ」の同書の「卷三」の「草部」の「葉可食【新增四十二種】 根可食【本草原有九種新増十五種】」の「萎蕤」(ガイド・ナンバー[003-43b])を転写しておく。
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萎蕤 本草一名女萎一名熒一名地節一名玉竹一名馬薰生太山山谷及舒州滁州均州今南陽府馬鞍山亦有苗高一二尺莖斑葉似竹葉濶短而肥厚葉尖處有黄㸃又似百合葉却頗窄小葉下結青子如椒粒大其根似黄精而小異節上有鬚味甘性平無毒
救飢採根換水煮極熟食之
治病文具本草草部條下
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さらに、一六三九年に出版された徐光啓の「農政全書」の「荒政」の部分は、実は「救荒本草」に徐光啓の附語を加筆したものである。この書は、私は、ブログ・カテゴリ『「大和本草」の水族の部』で親しんだ優れた書物で、享保元(一七一六)年版の訓点附きが、国立国会図書館デジタルコレクションで全巻視認出来る。なんと言っても、絵が素晴らしいのである。そこで、そこの部分(ここと、ここ)も、大盤振る舞いで、トリミングして以下に示す。修正はサイズ縮小以外は行っていない。十分、判読出来る。良安が選んだのは、右側の伸び上がった方の図を基にしている。
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「三才圖會」書誌説明は、いらんだろう。東京大学の「三才圖會データベース」(清刊本・槐蔭草堂藏板のもの。メイン・ページ「明代の図像資料」に同データベースにリンクがある)の「萎蕤」図説をダウンロードしたものをトリミングして(二図・図と解説。やや汚損があるので、図だけは軽く清拭した)、以下に示す。良安が選んだのは、左下の右の図である。
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「竹-箭-簳《たけやがら》」竹で出来た簳(やがら)。矢の幹(みき)を指し、鏃(やじり)と矢羽根を除いた部分。普通は雌竹(めだけ:単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科メダケ属メダケ Pleioblastus Simonii )で作る。「篦(の)」・「矢篦(やの)」とも言う。同種は多年生常緑笹(ささ)であるが、葉(枝)が上部にしか出来ないこと、「芽溝(がこう)」と呼ばれる棹の窪みが、浅くて、太さが一定であることに拠る。
「黃精《わうせい》」前の「黃精」を見よ。
「五勞七傷」前の「黃精」で既注だが、再掲すると、東洋文庫後注に、『心労・肝労・脾勞・肺労・腎勞など、五臟のつかれによって、陰寒・陽萎・裏急・精漏・精少・精清・小便頻数などの症狀のでること。』とある。
「金剛山」同前だが、再掲する。奈良県御所市(ごせし)と大阪府南河内郡千早赤阪村(ちはやあかさかむら)との境目にある山。ここ(グーグル・マップ)。]















