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カテゴリー「「和漢三才圖會」植物部」の354件の記事

2026/02/01

「和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 目録・山草類 上卷・人參」の原文・訓読文のみフライング

実は、「和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 目録・山草類 上卷・人參」は、かなり前に、原文と訓読文は電子化している。桑原羊次郞「松江に於ける八雲の私生活」の電子化注に入れ込んでしまったため、一昨日から注に入ろうと思っていたところが、「漢籍リポジトリ」が作動していないために、ちょっと、やる気が折れてしまった。それでも、本日、注に入ろうと思うが、ものがものだけに、注に恐ろしく時間が掛かると踏んでいる。されば、ここで原文と訓読文のみを示して、暫く、お茶を濁しておく。悪しからず。

   *

[やぶちゃん注:草体の根に繋がる上部地下茎から上の草体図の上に、明らかに異なる種の二つの根茎部の二図。]

 

 

にんじん  人薓 人䘖

      海腴 神草

人參   黃參 地精

      鬼葢 土精

ジン スヱン 皺面還丹

[やぶちゃん字注:「𮑵」原本では、「氵」+(「𮑵」―「氵」)であるが、この字形を用いた。「面」は中央の「はしご」状の部分の上部が欠落した「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、通常の「面」とした。]

 

本綱人參爲藥切要與甘草同功有人參𠙚上有紫氣揺

[やぶちゃん字注:「揺」は「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、通常の「揺」に代えた。]

光星散而爲人參實神草也根有手足靣目如人者爲神

生上黨【今潞州也】山谷及遼東【髙麗乃朝鮮也】者爲最上春生苗多於

深山背陰近椵樹【似桐甚大】下濕潤𠙚初生小者三四寸許一

椏五葉四五年後生兩椏五葉未有花莖至十年後生三

椏年深者生四椏各五葉中心生一莖俗名之百尺杵三

四月有花細小如粟蕊如絲紫白色秋後結子或七八枚

如大豆生青熟紅自落

朝鮮人參猶來中國互市亦可收子於十月下種如種菜

法秋冬采者堅實春夏采者虛軟非地產虛實也僞者皆

以沙參薺苨桔梗采根造作亂之【沙參體虛無心而味淡荷芭體虛無心而味甘桔梗體堅有心而味苦人參體實有心而甘微苦】近有以人參先浸取汁自啜乃

晒乾復售謂之湯參不任用

人參生時背陽故頻見風日則昜蛀納新噐中入細辛與

參相間收之宻封可經年不壞一法用淋過竃灰晒乾鑵

收亦可

凡用時宜隔紙焙之【熟用則氣温生用則氣凉】並忌鐵噐伏苓爲之使

反藜蘆畏五靈脂惡皂莢黒豆【人參可去蘆不去則令人吐蘆者頭耑莖之根】

 得升麻則補上焦之元氣瀉肺中之火

 得茯苓則補下焦之元氣瀉腎中之火

 得黃茋甘草則除大熟瀉陰火補元氣

 得麥門冬則生脉 得乾薑則補氣

凡血脫者用人參益氣則血自生藥品之聖也

△按人參可用不可用之病症本草諸家之辨論區區也

 共不可徧執今時亦然焉一槪有泥其功不詳虛實而

[やぶちゃん字注:「槪」は原本では、「槪」の(つくり)の下に、さらに「木」のある字体であるが、こんな異体字は見当たらないので、かく、した。]

 動則人參多入用者稱之人參醫師

 凡人靣白或黃或青黧悴者皆脾肺腎不足可用也靣

 赤或黒者氣壯神強不可用也

 凡脉之浮而芤濡虛大遲緩無力沉而

 無力者皆虛而不足可用也若數有力者

[やぶちゃん注:「」は今でいう「・」相当の記号である。訓読では、それに代える。]

 皆火鬱內實不可用也蓋此說可以爲的𢴃也

朝鮮人參 朝鮮北韃靼南境有大山名白頭山自然生

 人參爲最上其葉花與和人參相似而實異初青熟赤

 圓如南天實其根似胡蘿萄而白色使甘草汁蒸乾黃

 色亦益其味頭𨕙有橫文體重實而中亦潤黃者爲上

 經年者大愈佳似人形者亦百斤中有一二本此雖有

 神而不甚佳出於咸鏡道者潤白透通爲極上最鮮

判事人參 是亦白頭山之產出於韃靼而未知修治良

 方故功稍劣

蝦手人參 右同蓋韃靼土地水不清毒多故其富儫者

[やぶちゃん字注:「儫」「豪」の異体字。]

 常浸人參於井中用其水更採出人參販之故帶飴色

 而尾耑曲似蝦形所謂湯人參之類乎

唐人參 卽中𬜻之產山西之潞安【古之上黨】北京之永平雲

 南之姚安共爲上而下種植成故功不如朝鮮自然生

 者其大者俗呼曰唐大

小人參 非大人參中擇出者而本自一種小者其根長

 一二寸許猶罌粟與美人草近年不來俗以尾人參稱

 小人參者非也

凡大人參老者則大而功勝嫩者小而力劣焉體輕虛色

 枯白者俗謂浮虛人參無効

 

   *

 

にんじん  人薓(《にん》じん) 人䘖《にんがん》

      海腴《かいゆ》 神草《しんさう》

人參   黃參《わうじん》 地精《ちせい》

      鬼葢《きがい》 土精《どせい》

ジン スヱン 皺面還丹《しゆうめんかんたん》

 

「本綱」に曰はく、『人參は、藥《やく》の切要《せつえう》[やぶちゃん注:極めて重要な対象であること。]と爲す。甘草《かんざう》と功を同《おなじう》す。人參、有る𠙚《ところ》、上に、紫《むらさき》の氣、有り、揺光星《やうくわうせい》の≪光≫、散じて、人參と爲《な》る。實《まこと》に神草《しんさう》なり。根に、手・足・靣《おもて》・目《め》、有《あり》て、人のごとくなる者を『神《しん》』と爲《なし》、上黨【今の潞州《ろしう》なり。】の山谷、及《および》、遼東《りやうとう》【髙麗。乃《すなはち》、朝鮮なり。】の者、最上と爲《なす》。春、苗《なへ》を生ず。深山の背陰《はいいん》[やぶちゃん注:北向きの日陰。]椵樹《かじゆ》【桐に似て、甚だしく、大なり。】に近き下(ほとり)≪の≫、濕潤の𠙚《ところ》に多し。初生、小《ちさ》き者、三、四寸許《ばかり》。一椏《ひとまた》≪に≫五葉。四、五年にして、後《のち》、兩椏《ふたまた》五葉を生ず。未だ、花・莖、有らず。十年後《のち》に至《いたり》て、三椏《みつまた》を生ず。年《とし》深き者は、四椏《よつまた》を生ず。各(《おの》おの[やぶちゃん注:原本ではルビがない代わりに、送り仮名に踊り字「〱」がある。])、五葉≪を≫中心に、一莖《いつけい》を生ず。俗に、之を、「百尺杵《ひやくしやくしよ》」と名《なづ》く。三、四月、花、有り、細小にして、粟《あは》のごとく、蕊《しべ》、絲《いと》のごとし。紫白色。秋の後《のち》、子《み》を結ぶ。或《あるひ》は、七、八枚《たり》。大豆のごとく、生《わかき》は青く、熟《じゆくせ》ば、紅《くれなゐ》んして自《おのづから》落《おつ。》』≪と≫。

『朝鮮人參《は》、猶《なほ》、中國に來《きたり》て、互市《ごし》す[やぶちゃん注:「互市」は中国諸王朝と北辺・西辺諸国との陸上貿易を指す語。後注参照。]、亦、可なり。收子《み》を十月に收め、種《たね》を下《おろ》し、菜《な》を種《うう》る法《はう》のごとくにして、秋・冬、采《と》る者≪は≫、堅《けん》にして實《じつ》し。≪對して、≫春・夏、采る者≪は≫、虛にして軟《やは》らかなり。地產の虛・實には、非《あら》≪ざる≫なり。僞《いつは》る者、皆、沙參《しやじん》・薺苨《せいねい》・桔梗《ききやう》を以《もつ》て、根を采り、造り作(な)し、之≪を≫亂《みだ》す≪ものなり≫【沙參は、體《たい》、虛《きよ》、無心《むしん》にして、味、淡《あはし》。荷芭は、體、虛、無心にして、味、甘《あまし》。桔梗は、體、堅《けん》、心、有りて、味、苦《にがし》。人參は、體、實《じつ》にして、心、有りて、甘《あまく》、微《やや》苦《にがし》。】。近《ちか》ごろ、人參を以て、先《ま》づ、浸《ひた》して、汁を取り、自《みづから》啜《すゝ》り、乃《の》ち、晒乾《さらしほ》して、復た、售(う)る。之を「湯參《たうじん》」と謂ふ≪も≫、用に任《た》へず。』≪と≫。

『人參、生《しやう》ずる時、陽《やう》[やぶちゃん注:太陽。陽光。]を背《そむ》く。故《ゆゑ》、頻《しき》りに、風・日を見る時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。ここは「強い風・過剰な太陽光を受けた際には」の意。]、則《すなはち》、蛀(むしいり)、昜《やす》し。新≪しき≫噐《うつは》の中《うち》に納め、細辛《さいしん》と參《じん》[やぶちゃん注:「人參」。]とを、相間(あひはさみ)に[やぶちゃん注:細辛の間に人参を挟み込んで。]、之を收《をさ》め、宻封して、年を經て、壞《くわ》≪れ≫ざる一法≪として≫、淋過《りんくわ》≪し≫たる竃《かまど》の灰[やぶちゃん注:東洋文庫訳では、『水をそそぎ』、濾『過』(ろか)『した竃(かまど)の灰』とある。後注を見よ。]を用《もちひ》て、晒乾《さらしほし》、鑵《くわん》に收《をさむ》るも亦、可なり。』≪と≫。

『凡《およそ》、用《もちふ》る時、宜《よろしく》、紙を隔《へだて》て、之≪を≫焙るべし【熟して用れば、則ち、氣、温《おん》なり。生《なま》にて用れば、則ち、氣、凉《れう》なり。】。並《ならび》に[やぶちゃん注:孰れの場合でも。]、鐵噐を忌む。伏苓《ぶくりやう》、之《これ》が、使《し》[やぶちゃん注:既に何度も出た「引薬」の意。反応を効果的に進めるための補助薬。]たり。藜蘆《れいろ》に反《はん》し、五靈脂《ごれいし》を畏《おそ》れ、皂莢《さうきやう》・黒豆《くろまめ》を惡《い》む。【人參、「蘆(ろ)」を去るべし。則ち、人をして吐かしむ。「蘆」とは、頭《かしら》の耑莖《たんけい》の根≪なり≫。】』≪と≫。

『升麻《しやうま》を得れば、則《すなはち》、上焦の元氣を補ひ、肺中の火《くわ》を瀉《しや》す。』≪と≫。

『茯苓を得れば、則、下焦の元氣を補ひ、腎中の火を瀉す。』≪と≫。

『黃茋・甘草を得れば、則、大熟を除き、陰火を瀉し、元氣を補ふ。』≪と≫。

『麥門冬を得れば、則、脉《みやく》を生ず。』≪と≫。『乾薑《かんきやう》を得れば、則、氣を補す。』≪と≫。

『凡《およそ》、血脫(《ち》たり)[やぶちゃん注:出血が続いている患者のこと。]の者には、人參を用て、氣を益する時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則、血、自《おのづか》ら、生《しやう》ず。「藥品の聖《せい》」なり。』≪と≫。

△按ずるに、人參、用ふべきと、用ふべからざるの病症、本草諸家の辨論、區區(まちまち)なり。共《とも》に、徧執《へんしふ》すべからず。今時《こんじ》も亦、然《しか》り。一槪に、其《その》功に泥(なづ)んで、虛實を詳《つまびらか》にせずして、動(やゝも)すれば、則《すなはち》、人參、多く入用《いれもちひ》る者、有《あり》。之を「人參醫師《にんじんいし》」と稱す。

凡そ、人の靣《おもて》、白く、或《あるい》は、黃《き》、或は、青黧(《あを》ぐろ)く悴(かじ)けたる者[やぶちゃん注:生気がなくなって如何にも衰える者。]、皆、脾・肺・腎、不足なり。用《もちふ》べきなり。靣、赤、或は、黒き者は、氣、壯(さか)んに、神《しん》[やぶちゃん注:神経。]、強く、用ふべからざるなり。

 凡そ、脉《みやく》の浮《ふ》にして、芤《こう》[やぶちゃん注:東洋文庫版訳の割注に『脈は浮』(ふ)『か』、『沈』(ちん)『で中ほどは空虚』とある。]・濡《じゆ》[やぶちゃん注:同前で『(細くて弱い)』とある。]・虛大・遲緩、力《ちから》無く、沉《ぢん》にして、遲《おそし》・濇《しぶる》・弱《よはし》・細《ほそし》・結《むすぼほる/むすぼる[やぶちゃん注:結滞すること。]》・代《とどこほる》≪容態《ようだい》にて≫、力《ちから》、無き者は皆、虛にして、不足なり。用《もちふ》べしなり。若《も》し、弦《つよきはる》・長《ながし》・緊《きつし》・實《つよし》・滑《なめらか》・數(さく)[やぶちゃん注:]≪にして≫、力《ちから》、有る者は、皆、火鬱內實《くわうつないじつ》なり[やぶちゃん注:AIのものしか出てこないのだが、取り敢えず、掲げておく。漢方に於いて、ストレスなどで生じた熱(「火」)が体「内」に籠もり(「鬱」)、それが消化器や体幹に実熱(「実」証の熱)として溜まっている状態を指す。イライラ・怒りっぽい・逆上(のぼ)せ・顔面紅潮・便秘・口腔内の苦みなどの熱症状が強く出るもの。後注で再検証する。]。用≪ふ≫べからざるなり。蓋し、此說、以て、的𢴃《てききよ》[やぶちゃん注:「極めて的(まと)を得たもの。]と爲《なす》べし。

朝鮮人參 朝鮮の北、韃靼(だつたん)の南境《みなみさかひ》に、大山《おほやま》、有り、「白頭山(はくとう《さん》)」と名《なづ》く。自然と、人參を生ず。最上なり。其の葉と花は、和人參《わにんじん》と相《あひ》似て、實(み)は、異《こと》なり。初《はじめ》は青く、熟≪せば≫、赤《あか》≪く≫圓《まろ》≪く≫、南天の實《み》のごとし。其《その》根、胡蘿萄(にんじん)に似て、白色。甘草の汁をして、蒸乾《むしほ》≪せば≫、黃色ならしめ、亦、益《えき》す。其味、頭《かしら》の𨕙(めぐ)り、橫文《わうもん》、有り。體《たい》、重く、實《じつ》≪に≫して、中《なか》も亦、潤《うるほひ》黃《き》なる者を、上《じやう》と爲《なす。》年を經る者は、大にして、愈(《いよ》いよ[やぶちゃん注:送り仮名に踊り字「〱」がある。])、佳《よ》し。人の形に似たる者も亦、百斤[やぶちゃん注:六十キログラム。]中、一、二本、有り。此《これ》、「神《しん》」[やぶちゃん注:極めて珍しいもの。]、有《ある》と雖も、而≪れども≫、甚だ≪には≫佳《か》ならず。咸鏡道(かがんどう[やぶちゃん注:ママ。])より出《いづ》者は、潤《うるほひ》≪て≫白《しろく》、透通(すきとほ)り、極上と爲《なす》。最《もつとも》、鮮(すくな)し。

判事(ハンス)人參 是《これ》も亦、白頭山の產にして、韃靼より出《いづ》る。而≪れども≫、未だ、修治の良方を知らず。故《ゆゑ》に、功、稍《やや》、劣れり。

蝦手(えびで[やぶちゃん注:ママ。])人參 右に同じ。蓋し、韃靼の土地は、水、清《きよ》からず、毒、多し。故《ゆゑ》、其《その》富儫《ふがう》の者は、常に、人參を井中《ゐちゆう》に浸《ひた》し、其水を用ふ。更に、人參を採出《とりいだ》≪し≫、之を、販(う)る。故《ゆゑ》、飴色(あめ《いろ》)を帶《おび》て、尾の耑(はし)、曲(まが)り、蝦の形に似たり。所謂《いはゆ》る、「湯人參」の類《たぐひ》か。

唐人參《たうにんじん》 卽ち、中𬜻の產。山西(サンスイ)の潞安《ろあん》【古への上黨《じやうたう》。】北京(ポツキン)の永平(ヨンピン)、雲南(イユンナン)の姚安(テウアン)、共(とも)に、上と爲《なし》て、種を下《くだ》し、植成《しよくせい》す。故に、功、朝鮮の自然生《じねんしやう》の者に、如《し》かず。其《その》大なる者、俗、呼《よん》で、「唐大《たうだい》」と曰ふ。

小人參《しやうにんじん》 大人參の中より擇出《えらびいだ》し者に≪は≫非ずして、本《もと》、自《おのづか》ら一種の小《ちさ》き者≪なり≫。其《その》根、長さ、一、二寸許《ばかり》。猶《なほ》、罌粟(けし)と美人草《びじんさう》と≪の≫ごとし。近年、來らず。俗、「尾人參(ひげ《にんじん》)」を以て、「小人參《しやうにんじん》」と稱《しやう》≪するは≫、非なり。

凡そ、「大人參」≪の≫老する者は、則《すなはち》、大にして、功、勝《まさ》れり。嫩(わか)き者は、小にして、力《ちから》、劣る。體《からだ》、輕虛《けいきよ》にして、色、枯白《こはく》[やぶちゃん注:ひねこびて白くなったもの。]なる者を、俗、「浮虛人參(ぶく《にんじん》)」と謂《いふ》≪も≫、効、無し。

2025/12/19

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 目録・山草類 上卷・黃耆

 

Ougi

 

わうぎ   黃茋 戴糝

      戴椹 芰草

黃耆   王孫 百本

    【耆長也色黃爲

     諸藥之長故名】

     【倭名夜波良】

ハアン スウ 久佐

 

綱目黃茋葉似槐葉而微尖小又似蒺藜葉而微濶大青

白色開黃紫花大如槐花結小尖𧢲長寸許根長二三尺

[やぶちゃん注:「𧢲」は「角」の元字。]

以緊實如箭簳者爲良嫩苗亦可𤉬淘茹食其子收之十

月下種如種菜法亦可有數種

 白水黃茋 赤水黃茋 綿黃茋 土黃茋

蓋白水赤水者共陝西之鄕名綿者出於山西沁州綿上

故名或云用其皮折之柔靱如綿者爲良乃謂之綿黃茋

木黃茋者短而理橫今人多以苜蓿根假之俗呼爲土黃

耆伹堅而脆味苦令人瘦黃耆柔而味甘令人肥大異用

者宜審木黃耆亦勿用

氣味【甘徵温氣薄味厚】 可升可降陰中陽也人參補中黃耆實

 表藥中補益呼爲羊肉其用有五補諸虛不足益元

 氣壯脾胃去肌熱排膿止痛活血內托陰疽爲

 瘡家聖藥元氣弱肥白而多汗者止之虛熱無汗

 則發之防風能制黃耆黃耆得防風其功愈大乃相畏

 相使也【伏苓爲之使悪𬹝甲白鮮皮】

[やぶちゃん字注:「𬹝」は「龜」の異体字。]

△按今藥肆不論出𠙚好悪皆號綿黃茋售之伹擇取切

 口黃色柔靱者可用是亦經年者爲堅實而不佳故新

 渡者良又出於倭者名富士黃耆經久則堅脆味亦不

 甘疑此苜蓿根矣不堪用故令售者禁止也

 

   *

 

わうぎ   黃茋《わうぎ》 戴糝《たいさん》

      戴椹《たいじん》 芰草《きさう》

黃耆   王孫《わうそん》 百本《ひやくほん》

    【「耆」は「長《ちやう》」なり。色、黃に

     して、諸藥の「長」爲す。故、名づく。】

     【倭名、「夜波良久佐《やはらぐさ》」。】

ハアン スウ

 

「綱目」に曰はく、『黃茋、葉、槐《えんじゆ》の葉に似て、微《やや》、尖《とが》り、小《ちさ》し。又、蒺藜《しつり》の葉に似て、微《やや》、濶(ひろ)く、大《おほき》く、青白色《せいはくしよく》。黃紫《きむらさき》の花を開く。大《おほい》さ、槐の花のごとく、小《ちさ》く、尖《とが》りたる𧢲《さや》を結ぶ。長さ、寸許《ばかり》。根の長さ、二、三尺。緊實《きんじつ》にして箭-簳(やがら)のごときなる者を以《もつて》、良と爲《なす》。嫩《わかき》苗≪も≫亦、𤉬(ゆ)で[やぶちゃん注:「茹で」に同じ。]、淘《よな》≪ぎて≫[やぶちゃん注:水で綺麗に洗い流して。]、茹-食(くら)ふべし。其《その》子《み》、之《これ》を收《をさ》めて、十月に、種《たね》を下《くだ》す。菜を種《うう》る法《はう》のごとくにして、亦、可なり。數種、有り。』≪と≫。

[やぶちゃん注:以下は、五つの名は、ブラウザの不具合を考えて、一行で分けた。]

『白水《はくすい》の黃茋《わうぎ》』

『赤水《せきすい》≪の≫黃茋』

『綿《めん》≪の≫黃茋』

『土《ど》≪の≫黃茋』

『蓋《けだ》し、「白水」・「赤水」とは、共に陝西の鄕《がう》の名なり。「綿」とは、山西《さんせい》の沁州《しんしう》綿上《めんじやう》より、出《いづ》る。故《ゆゑ》に名《なづく》るなり。或《ある》人の云《いは》く[やぶちゃん注:「人」は送り仮名にある。]、「其《その》皮を用《もちひ》て、之を折るに、柔-靱(しな)へて、綿のごとくなる者を、良《よし》と爲《なし》、乃《すなはち》、之を、『綿黃茋』と謂ふ。」と。「木黃茋」は、短《みじかく》して、理-橫(すぢざま)なり。今の人、多《おほく》、「苜蓿根《もくしゆくこん/むらさきむまごやしのね》」を以て、之に假(に)せる。俗、呼《よん》で、爲「土黃耆《どわうぎ》」と爲《なす》。伹《ただし》、堅《かたく》して脆《もろ》く、味、苦《にが》く、人をして瘦(や)させしむ。黃耆の《✕→は》、柔《やはらか》にして、味、甘く、人をして肥《こえ》れ《✕→せしむ》と、大《おほき》に異《こと》なり《✕→なれり》。用《もちふ》る者、宜《よろしく》、審(つまびら)かにすべし。「木黃耆」も亦、用ること、勿《なか》れ。』≪と≫。

『氣味【甘、徵温。氣、薄《うすく》、味、厚《あつ》し。】』『升《のぼ》すべく、降《くだ》すべく、陰中《いんちゆう》の陽《やう》なり。人參は、中《ちゆう》を補《おぎな》ひ、黃耆は、表《へう》[やぶちゃん注:皮膚。]を實《じつ》[やぶちゃん注:本来の正常な生き生きとした皮膚の状態を指す。]≪に≫す。藥中《やくちゆう》の補益、呼んで、「羊肉《やうにく》」と爲《なし》、其《その》用、五つ、有り。諸《もろもろ》≪の≫虛《きよ》≪の≫不足を補ふ【一つ。】。元氣を益す【二つ。】。脾胃《ひい》を壯《さう/さかん》にす【三つ。】。肌熱《ひねつ》を去る【四つ。】。膿《うみ》を排《のぞ》き、痛《いたみ》を止《と》め、血を活《かつ》し、陰疽《いんそ》[やぶちゃん注:東洋文庫訳の割注に『(表面に出ない瘍)』とある。]を內托《ないたく》す[やぶちゃん注:『膿を外へ追い出す力もないような』患者『の体力をつけて、体の内側の回復力(免疫力)を高めて、膿を排出させ、肉芽の形成を促進させる』こと。引用元等、必ず、後注を見られたい。]。瘡家《さうか》[やぶちゃん注:皮膚科医。]の聖藥と爲《なす》なり[やぶちゃん注:この「也」は割注の下にあるが、引き上げた。]【五つ。】。元氣、弱(《よ》は)く、肥白《ひはく》[やぶちゃん注:肉付きが強く、肌の色が白いこと。]にして、汗、多き者は、之を止《と》め、虛熱《きよねつ》にして、汗、無きは、則《すなはち》、之を發《はつ》す[やぶちゃん注:発汗させる。]。防風《ばうふう》、能く、黃耆を制し[やぶちゃん注:ここは、「最も効果的に制御し」の意。]、黃耆は、防風を得て、其功、愈(《いよ》いよ[やぶちゃん注:原本では「愈」の右下に踊り字「〱」がある。])、大なり。乃《すなはち》、相畏《あひおそ》れて、相《あひ》使《し》なり[やぶちゃん注:互いに相畏(そうい:互いに相手の作用を弱めることで、毒性や刺激性、副作用を軽減する配合のこと)であることを言う。「藥品(6) 相畏」を参照のこと。]【伏苓《ぶくりやう》、之れが使《し》と爲す。𬹝甲《きつかう》・白鮮皮《はくせんひ》を悪《い》む。】。』≪と≫。

△按ずるに、今、藥肆《やくし》に、出𠙚《しゆつしよ》・好悪《よしあし》を論ぜずして、皆、「綿黃茋《めんわうぎ》」と號《がう》して[やぶちゃん注:称して。]、之を售(う)る。伹《ただし》、切口《きりくち》≪の≫黃色にして、柔-靱(しな)へたる者を擇-取(えらびと)り、用《もち》ふべし。≪然れども、≫是《これ》亦、年《とし》經《へ》たる者は、爲(《た》め)に、堅實《けんじつ》にして、佳《か》ならず。故《ゆゑ》、新渡《しんわたり》の者、良し。又、倭《わ》より出《いづ》る者、「富士黃耆《ふじわうぎ》」と名《なづ》く。久《ひさしき》を經《へ》れば、則《すなはち》、堅《かたく》脆《もろ》く、味、亦、甘《あま》からず。疑《うたが》ふらくは、此《これ》、「苜蓿根」か。用《もちふ》るに、堪へず。故《ゆゑ》、售《う》り者をして、禁止しせし《むる》なり。

 

[やぶちゃん注:この「黃耆」=「黃茋」は二度ほど、注をしてあるが、独立項なので、詳細に解説する。まず、基原は、

双子葉植物綱マメ目マメ科ゲンゲ(紫雲英・翹揺)属キバナオウギ(黄花黄耆) Astragalus membranaceus の根

及び

ゲンゲ属ナイモウオウギ(黄花黄耆:別名モウコオウギ(蒙古黄耆))Astragalus mongholicus の根

で、「東京生薬協会」公式サイトの「新常用和漢薬集」の「オウギ (黄耆)」に拠れば、「産地」は『日本(北海道,岩手県),中国(内蒙古自治区,山西,黒竜江,河北省など),韓国,ロシアなどで栽培』するとあり、「性状」は『ほぼ円柱形を呈し,長さ 30 100 cm,径 0.7 2 cmで』、『ところどころに小さい側根の基部を付け,根頭部の近くはねじれている.外面は淡灰黄色 ~ 淡褐黄色で,不規則な粗い縦じわと』、『横長の皮目様の模様がある.折りにくく,折面は繊維性である.横切面をルーペ視するとき,最外層は周皮で,皮部は淡黄白色,木部は淡黄色,形成層付近は』、『やや褐色を帯びる.皮部の厚さは木部の径の約1/3 1/2で,細いものでは木部から皮部にわたって白色の放射組織が認められるが,太いものではしばしば放射状の裂け目となっている.通例,髄は認めない.』とし、『弱いにおいがあり,味は甘い.』とある。本文の選別に関わる点で、大事な部分は「選品」の項で、そこには『柔軟で質が緻密で甘味があり,香気の高いものが良い.質が粗雑で苦味があり,黒色をおびるものは良くない.』とする。「適応」の項には、『止汗,利尿,強壮の効を期待し,身体虚弱・皮下組織の水毒停滞を改善し,皮膚の増殖,排膿を目的とする薬方に配合する.』とあった(根・生体の写真有り)。因みに、「備考」に『基原植物の変種のタイツリオウギ A. membranaceus var. obtusus が日本に分布している.イワオウギ Hedysarum iwawogiは和黄耆として用いられたが』、『現在は共に正品ではない.』とある。

 さても。やはり、久しぶりに各個植物に戻ったので、最も信頼している神農子さんのものを引用させて戴く。「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 黄耆(オウギ)」である。

   《引用開始》

 黄耆は『神農本草経』の上品に収載された補益薬(補気薬)で、「味甘微温。主癰疽久敗瘡排膿止痛大風癩疾五痔鼠瘻補虚小児百病」と記載されました。現在でも「補中益気湯」「十全大補湯」「防己黄耆湯」など虚証を対象とした多くの重要処方中に高い割合で配合されています。華岡青洲方に収載されている「帰耆建中湯」での黄耆の役割も、気血を補い、肌を生かし、托裏排毒であるとされ、まさに『神農本草経』の記載のとおりです。李時珍は、「耆」には長の意味があり、黄耆は黄色で補薬の長であるから名前がついたと書いています。黄耆は中国人が人参以上に愛する補益薬です。

 黄耆にはいくつかの種類があります。それぞれ「綿黄耆」「紅耆(晋耆)」「土黄耆(木耆)」「和黄耆」などと称され、原植物が違っています。「綿黄耆」は現在黄耆の正品とされているもので、マメ科のキバナオウギ Astragalus membranaceus Bunge 又は ナイモウオウギ Amongholicus Bunge の根とされます。また、「紅耆」はマメ科の Hedysarum polybotrys Hand.-Mazz.の根、「土黄耆」は中国安徽省や山西省に産し、やはりマメ科のムラサキウマゴヤシ Medicago sativa L.、シナガワハギ Melilotus suaveolens Ledeb.、コゴメハギ Melilotus albus Desr.などの根で、これらはすべて黄耆の代用品とされています。また、「和黄耆」はわが国に野生するイワオウギ Hedysarum vicioides Turcz.の根で、かつてわが国で黄耆が品薄のときに代用されていました。

 以上のごとく原植物は4属にわたっていますが、『図経本草』に「黄耆の茎は一本立ちし、叢生する。根皮を折ると綿のように繊維質であるので綿黄耆と言うのだ」とあるところから、Astragalus 属植物を正品としてよいように思われますが、花の色が「黄紫」と記されている点は合致せず、宋代にはすでに原植物が混乱していた現れのように思われます。上述の植物の中ではムラサキウマゴヤシのみが紫系の花を咲かせます。なお、Astragalus Hedysarum は互いによく似ていますが、植物分類学的な相違は、豆果が Astragalus 属では全体的に膨れるのに対し Hedysarum 属では種子毎にくびれて節状になることです。『図経本草』の図には花も豆果もなく属を判断することはできませんが、清代に書かれた中国初の植物図鑑『植物名実図考』の図は 、豆果が全体的に膨れていることから Astragalus 属だと判断されます。

 Astragalus 属以外の黄耆のうち「紅耆」は、『中葯志』に黄耆とは別項に収載され、性味・功効は全く同じで、黄耆と同様に使用できるとされています。本品は古くから「晋耆」の名前で良質品として利用されてきたものです。この紅耆は中国の薬局方である『中華人民共和国薬典』では1977年度版には記載が見られますが、1985年度版以降は収載されていません。また和黄耆の原植物 Hedysarum vicioides も同様に利用できるとする書物もありますが、わが国では第8改正日本薬局方から純度試験の項で「内部形態的に繊維束の外辺にシュウ酸カルシウムの単晶を含む結晶細胞列のある」和黄耆は不適となりました。同時に、それまで良質品とされていた同属植物由来の紅耆も局方不適となりました。なお、品質的には、味がわずかに甘く、噛むと豆の香りがし、質は堅いが折れにくく、断面は繊維質で粉性に富み、内部は黄白色、外部の黄色いものが良質品であるとされます。[やぶちゃん注:この箇所、本本文の謂いと一致を見る。]

 黄耆の原植物の混乱は、マメ科植物の地上部や地下部の形態がよく似ていることに起因したものと考えられますが、一方で中国ではこれら原植物の異なる黄耆を同効品として扱ってきました。黄耆は、原植物が同属でなくとも同じ薬効を有する数少ない例なのかも知れません。日華子は「木耆の効能は黄耆とほとんど同じであるが、力が及ばないので倍量を用いればよい」としています。限りある資源の有効利用を考えるとき、こうした利用方法も選択枝として考えるべきかも知れません。

   《引用終了》

『倭名、「夜波良久佐《やはらぐさ》」』これは、ゲンゲ属モメンヅル Astragalus reflexistipulus であるが、以上の記載に出現しない。しかし、「林野庁 近畿中国森林管理局」のパンフレットで、二〇一三年七月一日発行の第五十四号の『箕面森林ふれあい推進センター・こだま通信』PDF)の、「箕面国有林の植物紹介モメンヅル(学名:Astragalus reflexistipulus)」(斜体でないのはママ)に、『牧野薬草大図鑑によれば、漢方のオウギの代用に使用されたこともあるそうです。』とあった。但し、この書名は、恐らく「原色牧野和漢藥草大圖鑑」が正式な書名と思われる。国立国会図書館デジタルコレクションでは、閲覧出来なかったので、確認はしていない。その内、図書館で確認しようとは思っているが、所持される方は、載っているかどうかだけでも、お教え下さると助かります。

「槐」「卷第八十三 喬木類 槐」を見られたい。

「蒺藜」漢方としてならば、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 蒺藜子(シツリシ)」に、基原を、ハマビシ目ハマビシ科ハマビシ属『ハマビシ Tribulus terrestris L. の未成熟果実』とする。当該ウィキに拠れば、『南アジアから東欧にかけてみられるハマビシ科の多年草である。砂浜に生える海浜植物であるが、乾燥地帯では内陸にも生育する』とある。私の好きな花である。

「茹-食(くら)ふ」「奈良文化研究所」公式サイトの「なぶんけんブログ」の『「茹でる」のナゾ』の一部を示す。

   《引用開始》

 さて、調理法の基本のキの一つは"ゆでる"です。魚やドングリをとっていた縄文時代でも、多彩なインスタント袋麺が並ぶ現代でも欠かせない調理法です。漢字では「茹でる」と書き、正倉院文書に残る写経所への食材配給の記録に「薪一荷 大豆茹料」や「薪十束 二束麦茹料」、市での買物記録に「羹茹料」などの表記が見られます。薪は燃料ですし羹は汁物料理なので「茹」も現代と同じ意味に見えますが、実はこれがなかなか曲者なのです。漢字発祥の国である中国ではこの字を"ゆでる"という意味では使わないからです。

 「茹」の動詞での本来の意味は"たべる"だとされます。漢代成立の漢字字典であり日本でも律令制の大学寮で用いられた『爾雅』にも「茹」は「啜」の同義語として載っているので、大学寮で教育を受けた役人のタマゴたちも"たべる"という意味を知っていたと思われます。なお、くさかんむりの字ですが用例は草食限定ではなく、仏典に「茹菜」という文言もあるものの、儒家経典の『礼記』では「飲其血、茹其毛=まだ火を使えない頃の人類が肉を生で食べる様子」というかなり血なまぐさいイメージで使われています。

 一方で「茹」は名詞としては"たべられる草"という意味になり、前漢の歴史を記す『漢書』に「菜茹は畦に有り」という語句があります。これは現代の日本で食用にする草しか「菜」と呼ばないのと同じような使い分けかもしれません。この点を考えると「羹茹」は"羹に入れる野菜"という意味でも通じます。中国でも時代が下る宋代の『爾雅翼』という辞書では"加熱調理した菜"という意味にとれる用例があるのですが、ヨモギ類の説明文中で「蒸して茹と為す」というので"ゆで野菜"ではありません。

 ここで改めて日本における"ゆでる"という調理法の意味を確認すると、かなり限定的な調理法を指していることに気付きます。なぜなら野菜でも魚でも、ダシや調味料を加えた湯で加熱調理することは「煮る」というからです。つまり"ゆでる"とは特に白湯か塩湯で加熱調理する場合のみを指しており、日本の調理文化はこの違いを明確に区別しているのです。

   《引用終了》

とあった。良安が、この二字に対して、かく振ったのは、まさに「食べる」の意としているのであり、「草本の一種を食べる」という正確な中国語の意味を正確に振っているのだと判明するのである。

「白水の黃茋」「白水」は以下にある通り、中国の地名である。「富山県薬業連合会」の富山県薬事研究所 付設薬用植物指導センター所長村上守一氏の「配置薬に使用される生薬の特徴②」PDF)に、『黄耆はマメ科ゲンゲ属のキバナオウギ(A. membranaceus)とナイモウオウギ(A. mongholicus)の 2 種を原植物としています。中国では主に内蒙古、山西、黒龍江、河北省等で生産され、上述の山西省泌州綿上』(現在の山西省沁源県北部。グーグル・マップ・データ。以下、無指示は同じ)『産の綿黄耆や陜西省同州白水』(現在の陝西省渭南市白水県。ここに「綿上学校」が確認出来る)『産の白水黄耆が良品のものとされ、質が柔靭で皮の色が微黄褐色、中が白色のものです。他に赤水黄耆、木黄耆、土黄耆等がありますが、いずれも品質がおちます。 日本では江戸時代に国産の黄耆が探されたようで、ゲンゲ属のモメンズルやムラサキモメンズル』( Astragalus adsurgens )『等が試験されたようです。特に「加州白山、越州立山、和州金剛山より出す者根、柔にして味甘し」と記されている種はキバナオウギの変種、タイツリオウギ』(鯛釣黄耆)『(A. membranaceus var. obtusus)と推測されます。名前の由来は鞘果にあります。1㎝程の柄があり、長さ23㎝、幅11.5㎝で大きく膨らんで下垂する鞘果の様子が数匹の鯛を吊り下げたように見えるためです。キバナオウギやナイモウオウギの鞘果も同様です。』とあった。

「赤水黃茋」これは、貴州省四川省を経て、四川省瀘州市合江県(ごうこうけん)で長江に流入する赤水河(せいきすいが)の流域、或いは、貴州省遵義市に位置する赤水市辺りの産のものを指すものと思われる。

「苜蓿根《もくしゆくこん/むらさきむまごやしのね》」この場合の、「苜蓿」は、本邦で「アルファルファ」(スペイン語:alfalfa)で知られる、中央アジア原産の帰化植物(江戸時代頃、国外の荷物に挟み込む緩衝材として本邦に渡来した)であるマメ目マメ科マメ亜科シャジクソウ連ウマゴヤシ(馬肥・苜蓿)属ウマゴヤシ Medicago polymorpha の、

西南アジア原産の古い品種であるムラサキウマゴヤシ(紫苜蓿・紫馬肥) Medicago sativa の根

を指す。ハーブのショップ/スクールサイトである「クラウターハウス」の「牧草の女王は栄養価の高い機能性野菜~アルファルファ」が、学術的で、非常によく書けている。転写出来ないようになっているので、各自で、お読みあれ。

「羊肉」サイト「ピヨの漢方」の「羊肉の薬効と活用法:東洋医学の視点から」に拠ると、漢方では、『羊肉は東洋医学において、非常に「熱性」の強い食材とされています』とした上で、『羊肉には主に3つの重要な薬効があります。特に冷えに悩む方や体力回復が必要な方に適した食材です。』とし、『1. 温陽暖下(おんようだんげ)』で、『体を内側から温め、下半身の冷えを改善する効果があります』。『脾胃虚寒(ひいきょかん)による食欲不振の改善』、『小腹冷痛(へその下)の冷え痛みの緩和』、『重症の冷え性の改善』とある。次に、『2. 益気補虚(えっきほきょ)』では、『気を補い、虚弱体質を改善する効果があります』。『過労による体力低下の回復』、『腎虚(じんきょ)による腰膝の痛みの緩和』、『脾腎両虚(ひじんりょうきょ)による慢性下痢の改善』、『気虚による不安定な精神を落ち着かせる』、『気虚による動悸の軽減』、『高齢者や虚弱体質の方の肩腰の痛みや冷えの解消』を列挙する。而して、『3. 通乳治帯(つうにゅうちたい)』で、『産後の健康回復を助ける効果があります。』として、『出産後の母乳分泌不足の改善』、『帯下(たいげ:おりもの)の調整』とあった。まさに、薬剤としての広範な有効性を持った模範的食材であり、そうした「羊肉」に匹敵する薬効を讃えて、この別名を与えたのであろうことが推察出来る。

「脾胃」何度も注しているが、漢方で「消化器系全般の働き」を指す。

「虛熱」陽気は正常値であるが、陰気が不足しているために発生する熱性症状を指す。

「防風」セリ目セリ科ボウフウ属ボウフウ Saposhnikovia divaricata の根、及び、根茎を乾燥させた生薬名。但し、本種は中国原産で本邦には自生はしない。発汗・鎮痛作用があり、風邪の頭痛・眩暈(めまい)・関節痛などに効果を持つ。漢字名は「風邪から守る」の意である。なお、本邦産で和名の最後に「ボウフウ」を持つ種が多くあるが、本首都は全くの別属であり、植物学的にも、漢方薬剤としても、ボウフウとは全く無関係であるので注意されたい。

「伏苓」先行する「茯苓」を見よ。

「𬹝甲」「藥品(5) 藥七情」の「龜甲」の私の注の引用の中で、明らかにされている。

「白鮮皮」既出既注だが、再掲すると、ムクロジ目ミカン科ハクセン属ハクセン Dictamnus albus の根皮を基原とする生薬で、当該ウィキによれば、『唐以降の書物に見られ』、『解毒や痒み止めなどに用いられていたが、現在は』殆んど『用いられない。ヨーロッパでは、皮膚病の薬や堕胎薬として用いられていた』とある。]

2025/12/11

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 目録・山草類 上卷・甘草

[やぶちゃん注:まず、「目録」。早稲田大学図書館「古典総合データベース」の私と同じ画像で示すと、ここと、ここである。原本は三段で記載されてあるが、一段で示した。ルビは丸括弧で下に附した。歴史的仮名遣としておかしい箇所があるが、そのまま示した。ママ注記は附していない。また、下にある附記(別名・ポイント落ち)は【 】で普通のポイントで示した。なお、現在、一般に見知られていない植物名が多く出るが、ここでは、種同定はしない。既に、概ね、「藥品」パートの私の注で同定比定しているものではある。]

 

   山草類

 

甘草(かんざう)

黃茋(わうぎ)

人參(にんじん)

尾人參(ひげにんじん)

和人參(わにんじん)

沙參(しやじん)

羊⻆菜(つるにんじん)【和沙參】

躍草(をどりぐさ)

薺苨(さいねい)

桔梗(ききやう)

長松(まつばぐさ)

黃精(わうせい)

萎甤(いずい)

[やぶちゃん注:「甤」原本は異体字で、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]

知母(ちも)

肉蓯蓉(にくじうよう)

草蓯蓉(さうじうやう)

鎻陽(さやう)

惠布里古(ゑぶりこ)

天麻(てんま)

蒼术(さうじゆつ)

[やぶちゃん注:「术」は「朮」の異体字。次も同じ。]

白术(びやくじゆつ)

狗脊(ぜんまい)

貫衆(やまぐさ)

巴戟天(はげぎてん)

觀音草(くわんおんさう)

遠志(をんじ)

淫羊藿(おんようくはく)

[やぶちゃん注:「羊」原本は異体字で、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]

仙茅(せんばう)

玄參(げんしん)

地榆(ちゆ)

丹參(たんざん)

[やぶちゃん注:「丹」原本は異体字で、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]

紫參(しじん)

王孫(ぬはりぐさ)

紫草(むらさき)

白頭翁(かくづをう)【をきな草】

山芹菜(くさぼたん)

伊波奈之(いばなし)

 

   *   *   *

 

和漢三才圖會卷第九十二之本

      攝陽 城醫法橋寺島良安尚順

  山草類上卷

 

 

Kanzou

 

かんざう  𮔉甘 𮔉草

      美草 蕗草

甘草   靈通  國老

      【其大美者

唐音     名粉草】

     【和名阿末木】

 

本綱春生靑苗枝葉悉如槐髙五六尺伹葉端微尖而糙

濇似有白毛七月開紫花似柰冬結實作𧢲如相思⻆作

一本生至熟時𧢲折子扁如小豆極堅齒囓不破根長者

三四尺粗細不定皮赤色上有横梁梁下皆細根也以大

徑寸而結緊斷文者爲佳謂之粉草其輕虛細小者不及

之安南國甘草大者如柱土人以架屋不識果然否也

氣味【甘平氣薄味厚】 可升可降陰中陽也此草治七十二種

 乳石毒解一千二百般草木毒調和衆藥有功故爲國

 老經方少有不用者猶如香中有沉香也凡使須去頭

 尾尖𠙚其頭尾吐人【苦參乾𣾰爲之使惡遠志反大戟芫花甘遂海藻】

生用則【氣平】補脾胃不足而大潟心火

炙用則【氣温】補三焦元氣而散表寒除邪熱去咽痛

 凡甘草性能緩急而又協和諸藥使之不争故熱藥得

 之緩其熱寒藥得之緩其寒寒熱相雜者用之得其平

 凡中滿嘔吐酒客之病不可用甘草甘者令人中滿

△按甘草出於南京陝西河東山西者爲上皆稱之南京

 甘草出於福州者細脆帶微苦味又細而如䅌者俗謂

 之藁手又大者名粉草俗謂之鞭手

 徃昔日本有甘草延喜式云陸奧出羽常陸毎年貢之

 如今絶不出雖希有而細硬不佳

 

   *

 

かんざう  𮔉甘《みつかん》 𮔉草《みつさう》

      美草《びさう》  蕗草《ろさう》

甘草   靈通《れいつう》  國老《こくらう》

      【其《その》大《おほき》く美なる者、

唐音     「粉草《ふんさう》」と名づく。】

     【和名「阿末木《あまき》」。】

 

「本綱」に曰はく、『春、靑苗《せいびやう》を生ず。枝葉、悉《ことごと》く、槐(ゑえんじゆ)のごとく、髙《たかさ》、五、六尺。伹《ただし》、葉の端《はし》、微《やや》、尖《とが》りて、糙-濇(あらあら)しく、白毛《はくもう》、有るに似たり。

七月に紫≪の≫花を開く。柰《だい》[やぶちゃん注:広義のリンゴ=リンゴ属 Malus 「卷第八十七 山果類 柰」の私の注の冒頭にある比定考証部を見よ。東洋文庫訳では割注で『セイヨウリンゴ』とするが、私は従えない。]に似て、冬、實を結び、𧢲《さや》[やぶちゃん注:この漢字は「角」の本字。篆文(てんぶん)にごく近い字体である。ここは「莢(さや)」の意である。]を作る。「相思《さうし/たうごま》」の⻆《さや》に《✕→の》ごとく、一本を作《な》して、生ず。熟する時に至《いたり》て、𧢲《さや》、折(くじ)け、子《み》、扁《ひら》たく、小豆《あずき》のごとし。極《きはめ》て堅《かたく》して、齒にて囓(か)むに、破れず。根、長き者、三、四尺。粗(ふと)・細(ほそ)、定まらず。皮、赤色。上に、横≪に≫梁(ふしくれ)、有り。梁《ふしくれ》の下。皆、細≪き≫根なり。以大《おほい》さ、徑《さしわた》し、寸[やぶちゃん注:三センチメートル。]にして、結緊《けつきん》・斷文《だんもん》の者[やぶちゃん注:「節くれが、堅く引き締まっているもの・切れ切れに紋様が続いて生じているもの」の意。]、佳《よし》と爲《なす》。之《これ》を「粉草《ふんさう》」と謂《いふ》。其《それ》、輕虛《けいきよ》・細小なる者、之《これ》に及ばず。安南國《アンナンこく》の甘草は、大なる者、柱《はしら》のごとし。土人、以て、屋に架(つく)りす。《→と雖も、》識らず。果《はた》して、然《しか》るや否や。』≪と≫。

『氣味【甘、平。氣、薄く、味、厚《あつ》し。】 升(のぼ)すべく、降《くだ》すべく、陰中《いんちゆう》の陽《やう》なり。此の草、七十二種の乳石《にゆうせき》[やぶちゃん注:これは、本間久英・中田正隆・新井利枝共同論文「薬石に関する資料」(『東京学芸大学紀要』第4部門(数学・自然科学)・巻四十八・一九九六年八月発行・「東京学芸大学リポジトリ」のここからダウンロード可能)を管見した限りでは、恐らくは、鍾乳石由来の薬、及び、諸石・鉱物由来の薬全般を指している語と推定された。]の毒を治し、一千二百般[やぶちゃん注:「種」に同じ。]の草木の毒を解して、衆藥《しゆやく》を調和するの功、有る故《ゆゑ》に、「國老」と爲《なす》。經《けい》[やぶちゃん注:中医学で「気血の通路」を指す。]≪の≫方《はう》で、用《もちひ》ざる者、有ること、少《すくな》し。猶を[やぶちゃん注:ママ。]、香中《かうちゆう》に沉香《ぢんかう》有るがごとし。凡そ、使ふに、須《よろしく》、頭尾≪の≫尖《とがれる》𠙚《ところ》を去るべし。其《その》頭尾、人を吐《はか》す《✕→人をして吐かせしむ》。【「苦參《くじん》」・「乾𣾰《かんしつ》」、之れの使《し》と爲す。「遠志《をんじ》」を惡《にく》み、「大戟《たいげき》」・「芫花《げんくわ》」・「甘遂《かんすい》」・「海藻」に反《はん》す。】。』≪と≫。

『生《なま》にて用《もちふ》れば、則《すなはち》【氣、平。】、脾胃の不足を補《おぎなひ》て、大《おほき》に心火《しんくわ》[やぶちゃん注:五行思想で「心」は「火」に属す。]を潟《しや》す。』≪と≫。

『炙《あぶ》り用れば、則《すなはち》【氣、温。】、三焦の元氣を補ひて、表寒《へうかん》を散じ、邪熱を除《のぞ》き、咽《のど》の痛《いたみ》を去る。』≪と≫。『凡《およそ》、甘草の性《しやう》、能く、急《きふ》を緩(ゆる)め、而《しかして》又、諸藥を協和す。之をして、争(《あら》そ)はざらしむ。故《ゆゑ》、熱藥≪は≫、之を得《う》れば、其熱を緩《ゆる》くし[やぶちゃん注:原本では、この下に「ハ」とあるが、衍字か誤刻であろうと判断し、カットした。]、寒藥、之を得れば、其寒を緩くし、寒・熱、相《あひ》雜《まぢ》る者は、之を用《もちひ》て、其《その》平《へい》を得《う》。』≪と≫。

『凡《およそ》、中滿《ちゆうまん》[やぶちゃん注:「肥満」の意。]・嘔吐・酒客《しゆかく》[やぶちゃん注:酒飲み。酒精中毒者。]の病《やまひ》には、甘草を用ふべからず。甘《かん/あまき》は、人をして中滿ならしむ。』≪と≫。

△按ずるに、甘草、南京・陝西・河東・山西(《シヤン》スイ)[やぶちゃん注:「山西」は現在、拼音で“Shānxī” (shān xī)では、音写は「シャン・シー」となる。「スイ」というのは音写の一つとしておかしくはないと思われる。]より出《いづ》る者、上《じやう》と爲《なす》。皆、之『南京甘草』と稱す。福州(ホクチウ)[やぶちゃん注:閩東語で「福州」(Hók-ciŭ:音写「フッチュ」)であるから、その音写の一つとして違和感はない。]より出る者は、細《ほそ》≪く≫脆《もろ》く、微《やや》、苦味を帶《おび》て、又、細くして、䅌(むぎわら)のごとくなる者を、俗、之を、『藁手(わらで)』と謂《いふ》。又、大《だい》なる者を、俗、『粉草《ふんさう》』と名《なづ》く。俗、之を『鞭手(ぶちで)』[やぶちゃん注:「鞭」には「ぶち」の訓読みが存在する。大学生になった際に購入した「角川新版 古語辞典」(五十五版・昭和五〇(一九七五)年刊)に『「むち」の転。「―ばかり腰に差いておぢやる』〔狂・鞍馬婿〕」とある。通常は「鞍馬聟」であるが、制作年は未詳なものの、この用法を良安が用いてもおかしくないと私は判断する。]と謂ふ。

 徃昔(いにしへ)は、日本に、甘草、有り。「延喜式」に云《いは》く、『陸奧・出羽・常陸、毎年、之を貢す』と。如今《ぢよこん》、絶《たえ》て、出《い》≪で≫ず。希(《ま》れ)に有ると雖も、細く、硬《かたく》佳《か》ならず。

 

[やぶちゃん注:私は、長い間、愚かにも、カンゾウは本邦にも自生すると思っていた。しかし、数年前、小学館「日本国語大辞典」の記載を見て、『中国に野生し、日本では、まれに栽培される』と知って、我の愚かさを知ったのであった。そこで、「甘草」に就いては、まず、ボリュームのある平凡社「世界大百科事典」を引くこととしよう。『カンゾウ(甘草)』『カンゾウ Glycyrrhiza uralensis Fisch.』は、『根や茎の基部が漢方薬で甘草と呼ばれ重用されるマメ科の多年草。カンゾウ属 Glycyrrhiza 23種が同じ用途に利用される。これらを英名でlicorice という。高さ数十cm,ときには1mになり,根茎は円柱状で,それにつづく主根は深く土中にのびる。直立する地上茎には白色の短毛や腺毛がある。葉は互生,奇数羽状複葉で48対の小葉がある。花は67月,腋生(えきせい)した花梗の先端に密集してつき淡紫色,1.52cmほど。豆果は長楕円形で鎌状に曲がり,長さ68cm,褐色のとげ状腺毛を密生する。種子は黒色で光沢がある。同属で,果実に腺毛のない G. glabra L.(中国名は洋甘草,欧甘草)や,G. kansuensis Chang et Peng(中国名は黄甘草)なども前種と同様に用いられる。カンゾウはシベリアから中国北部に,G. glabra はヨーロッパ南部からアフガニスタンに分布している。甘みはサポニン,グリチルリチン glycyrrhizin(ショ糖の150倍の甘みがある)やブドウ糖を含有していることによる。そのほかにフラボノイド flavonoid も含み,鎮咳(ちんがい),鎮痛や利尿作用がある。そのため風邪や咽喉の病気,さらに胃腸薬として用いられている。また漢方薬の甘味づけや錠剤の形成薬にも利用されている。日本ではしょうゆの甘味料として大量に消費され,また人工甘味料としての用途が広い』。『なお』、全く縁のない『カヤツリグサ科のカンエンガヤツリ[やぶちゃん注:単子葉植物綱イネ目カヤツリグサ(蚊帳吊)科カンエンガヤツリ(灌園蚊帳吊)Cyperus exaltatus var. iwasakii ]やユリ科のキスゲ類[やぶちゃん注:単子葉植物綱ユリ目ユリ科キジカクシ目ワスレグサ科ワスレグサ亜科ワスレグサ属 Hemerocallis の異名。]もそれぞれカンゾウ(莞草,萱草)と呼ばれる』とある。特に、後者のワスレグサ属を中国ではモロに「萱草屬(或いは「黃花菜屬」)とする(「維基百科」の当該属を見よ)ので、注意が必要である。)。

 次いで、基原を示すと、「日本漢方生薬製剤協会」の「カンゾウ (甘草)」のページに拠ると、二種が掲げられている。

双子葉植物綱マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属の

ウラルカンゾウ Glycyrrhiza uralensis (当該ウィキに拠れば、別名を「東北甘草」と呼び、)

スペインカンゾウ Glycyrrhiza glabra

の根、及び、ストロンを乾燥したもの、時には周皮を除いたもの

である。前者の、ウラルカンゾウは『草丈3080cm,時には1mにも達する.葉は互生し,長さ824cm,奇数羽状複葉で小葉は517枚,倒卵形から楕円形.67月に葉腋の総状花序に淡紫色の花を多数密生する.莢果は常に湾曲し,鎌刀状或いは環状を呈し,密に腺毛で被われている.』とあり、後者、スペインカンゾウは『草丈6090cm,葉は互生し,奇数羽状複葉で小葉は,917枚,楕円形~長楕円形,鈍頭,裏面は,小腺点を有し粘る.総状花序に淡青色の花を多数密生する.莢果はまっすぐ或いは微かに曲がり,無毛或いはまばらに柔毛がある.』とある(二種とも生体写真が有る)。

 「産地」は『中国 (内蒙古自治区,甘粛省,陝西省,寧夏回族自治区,黒龍江省,吉林省,新彊ウイグル自治区等),アフガニスタン,オーストラリア,ロシア等』で、「生薬の性状」の項に、『本品はほぼ円柱形を呈し,径0.53cm,長さ1m以上に及ぶ.外面は暗褐色 ~ 赤褐色で縦じわがあり,しばしば皮目,小芽及び鱗片葉を付ける.周皮を除いたものは外面が淡黄色で繊維性である.横切面では,皮部と木部の境界がほぼ明らかで,放射状の構造を現し,しばしば放射状に裂け目がある.ストロンに基づくものでは髄を認めるが,根に基づくものではこれを認めない』。『本品は弱いにおいがあり,味は甘い』とし、『本品の横切片を鏡検するとき,黄褐色の多細胞層のコルク層と』、『その内側に13細胞層のコルク皮層がある.二次皮層には放射組織が師部と交互に放射状に配列し,師部』(植物の維管束の内、体内物質の移動の通路となり、また、機械組織・貯蔵組織ともなる部分を言う語)『には』、『厚壁で木化不十分な師部繊維群があり,その周囲に結晶細胞が認められる.周皮を除いたものでは』、『二次皮層の一部を欠くものがある.木部には黄色で巨大な道管の列と310細胞列の放射組織が交互に放射状に配列する.道管は結晶細胞で囲まれた木部繊維及び木部柔細胞を伴う.ストロンに基づくものでは』、『柔細胞性の髄がある.柔細胞は』、『でんぷん粒を含み,また,しばしばシュウ酸カルシウムの単晶を含む.縦切片の鏡検では,師部繊維又は木部繊維の周囲の結晶細胞は列をなす.』とある。この解説の下には、『東北甘草(2号)内蒙古自治区産』・『西北甘草(西正甘草・乙)内蒙古自治区産』のキャプションを持つ生薬製品の写真がある。以下、「成分」と本邦での「規格値」があるが、各自で見られたい。次に、「適用」として、『かぜ薬,解熱鎮痛消炎薬,鎮痛鎮痙薬,鎮咳去痰薬,健胃消化薬,止瀉整腸薬とみなされる処方に配合されている.』とあった。(最後に「配合される主な漢方処方」が列挙されるが、これも各自で見られたい)。

 なお、ウィキの「ウラルカンゾウ」に拠れば、別名を「東北甘草」と呼び、『日本では主に中国から輸入しているが、中国政府は2000年ごろより土地の砂漠化を理由に甘草の輸出を制限するようになり、甘草の取り扱いを許可制とした。日本の漢方薬企業大手のツムラは、甘草の日本国内での大規模栽培を行い、中国産からの切り替えを始めている』。『また、日本の製薬企業によるオーストラリアでの本格的な栽培も行われている』。『日本国内でも栽培可能だが』、『ウラルカンゾウ・スペインカンゾウ』、『いずれも種子の発芽率はあまり良くない。発芽しても初期の成長がかなり遅い上に土壌の過湿に弱い。ストロン(走出茎)は数センチ毎に節があり芽が付いているのでストロンを切り離して植えつけたほうが成長が早い。ストロンは地中で株元から伸び始めた当初は表面が白いが時間の経過と共に茶色くなって木の枝のような色になる。ハーブや生薬として利用する時は乾燥させるが生の状態でかじっても甘味を感じる。56月に紫色の花が開花する事もあるが、日本の気候では開花結実しにくいとされている』とある。ウィキの「スペインカンゾウ」もあるが、こちらは特に新知見はない。而して、やはり、最も読みたくなり、信頼している神農子さんの記載を引用して、皮切りのシメとしたい。特に第一段落の本邦への渡来の箇所が、良安に評言の事実を確認するキモとなる。しかも、良安が本書を成立させた八年後に甲府で甘草が発見され、幕府が栽培奨励を行ったという、新知見が見出せた! これに就いては、「甲州市」公式サイトの「旧高野家住宅 (甘草屋敷)」で解説されている。また、中国のカンゾウ栽培による砂漠化問題も、大切な部分だ。神農子様さまである!

   《引用開始》

 甘草は『神農本草経』の上品に収載され,解毒や諸薬の調和など多数の効を有し,「国老(皇帝の師の意味)」とも称される重要な生薬です。日本にもたらされた時期は不明確ですが,正倉院薬物として現存していることから,8世紀にはすでに日本にあったことがわかります。正倉院薬物の調査結果によると,甘草は当初は960斤納められていたのですが,100年後には452両にまで減っており,この間に多量に消費されていたそうです。このことから,甘草は当時から需要の高い薬物であったことが伺えます。現在の日本においても,漢方処方中に配合される生薬の中で,甘草は最も配合機会が多い生薬です。また,主要成分であるグリチルリチンの製剤や甘草エキスなど多数の製品が製造販売されています。さらに,甘草は甘味料や醤油の味付けにも使われています。このように,甘草は古くから現在に至るまで繁用され続けている生薬です。

 甘草の原植物である Glycyrrhiza 属植物(以後カンゾウ)は日本に自生せず,国内の需要は,これまで輸入に頼ってきました。しかし,近年,主な輸入相手国であった中国が,野生甘草の採取や輸出に関する規制を強化しつつあります。規制強化の背景には,甘草の中国内外での需要の高まりにともない野生のカンゾウが乱獲され,環境破壊や資源の枯渇が深刻な問題になってきたことがあります。カンゾウは地表面に水分がほとんど存在しない乾燥した地域に生育しており,地下水脈など地中深くの水分を利用して生きています。そのため,カンゾウの根茎は水平に四方に伸び広がるとともに,根は下方に深く伸びています。そこで,薬用部位である根茎や根を採集するためには,大きく深い穴を掘る必要があり,カンゾウを採集することにより周囲の環境が大きく破壊されてしまうのです。そのため,生育地は砂漠化し,風により上空に舞い上がった砂は現地では砂嵐となり,また黄砂の一因にもなっています。

 以上のような事情から,今後日本において甘草の入手がより難しくなる恐れがあります。現在中国ではカンゾウの自生地などで栽培が行われていますが,日本薬局方カンゾウにおけるグリチルリチン酸含量の規定値(2.5% 以上)を超える薬材を産出するのには数年かかることが知られています。そこで,近年,日本においてもカンゾウの栽培研究が行われつつあり,最近では,大学,研究所,企業の共同研究成果として,水耕栽培により,短期間でグリチルリチン酸含量の規定値を超える根が生産できることが発表されました。今後,研究がさらに進み,国内で需要がまかなえるようになることが期待されています。

 カンゾウの栽培は,かつては日本においても行われていました。江戸時代の享保五年(1720)に,甲州上於曽村(現在の山梨県塩山市)の伊兵衛の屋敷でカンゾウらしきものが栽培されているのが見つかり,幕府が専門家にその植物を調査させところ,本物のカンゾウであることが確認されました。折しも幕府は財政を立て直すために国産品生薬を奨励していましたので,上於曽村のカンゾウに対して費用などを拠出し,保護,栽培の拡大を行ったといいます。伊兵衛の屋敷は,その後一般に「甘草屋敷」と称されるようになりました。一方,甘草が甲州で栽培されていたという記録は大永五年(1525)の薬種寄附状の記載にまで遡るともいわれており,甲州ではかなり古くからカンゾウが栽培されていたようです。江戸時代に甘草の生産は幕府の保護のもとに行われており,その製品は幕府に納められていたといいます。しかし,江戸時代から現在に至る間にカンゾウの栽培は廃れ,現在の日本では商業的な規模での栽培は行われていません。

 甘草は重要な生薬であることから資源枯渇の問題は一層深刻ですが,甘草以外にも資源的に対処すべき生薬は数多くあります。今後はそのような生薬にもスポットをあて,栽培化に向けた研究など,早急な資源確保対策の推進が望まれます。

   《引用終了》

「相思《さうし/たうごま》」双子葉植物綱マメ目マメ科マメ亜科トウアズキ属トウアズキ Abrus precatorius である。「卷第八十三 喬木類 相思子」を見よ。

「梁(ふしくれ)」「梁」には「節くれ」の意はないが、ウィキの「ウラルカンゾウ」のストロンの乾燥して裁断した写真を見ると、見た目、家屋の梁(はり)の横木のようなものが固まっているように見えるので、納得出来る。

「安南國《アンナンこく》の甘草は、大なる者、柱《はしら》のごとし。土人、以て、屋に架(つく)りす。《→と雖も、》識らず。果《はた》して、然《しか》るた否や。』「安南國」はヴェトナム北部から中部を指す歴史的地域名称で、唐代に置かれた安南都護府に由来する呼称である。しかし、草本で、堅い根とはいえ、実際の家屋の屋柱となるというのは、流石に、私も信じられない。事実、そういうものが存在するということを御存知の方は是非、お教え下さい!

「苦參《くじん》」既注だが、再掲すると、マメ目マメ科マメ亜科クララ連クララ属クララ Sophora flavescens の根、又は、外の皮を除いて乾燥したものを基原とする生薬。当該ウィキによれば、『利尿、消炎、鎮痒作用、苦味健胃作用があ』る、とする。なお、『和名の由来は、根を噛むとクラクラするほど苦いことから、眩草(くららぐさ)と呼ばれ、これが転じてクララと呼ばれるようになったといわれる』とあった。

「乾𣾰《かんしつ》」「卷第八十三 喬木類 𣾰」を見られたい。

「遠志《をんじ》」「藥品(11) 製法毋輕忽」の私の注を見られたい。

「大戟《たいげき》」「藥品(1)」で子細に注したので、見られたい。

「芫花《げんくわ》」「藥品(2) 六陳」で既注済み。

「甘遂《かんすい》」同じく、「藥品(2) 六陳」の私の「芫花」の引用内で語られてあるので、見られたい。

「三焦」既出既注だが、再掲すると、伝統中医学に於ける仮想の「六腑」の一つ「三焦」(さんしょう)。「上焦」・「中焦」・「下焦」の三つからなり、「上焦」は「心臓の下、胃の上にあって飲食物を胃の中へ入れる器官で、心・肺を含み、その生理機能は呼吸や血脈を掌り、飲食物の栄養分(飲食水穀の精気)を全身に巡らし、全身の臓腑・組織を滋養する器官とされる」とされ、「中焦」は「胃の中脘(ちゅうかん:本来は当該部のツボ名)にあって消化器官」とされ、「下焦」は「膀胱の上にあって排泄をつかさどる器官」とされる。因みに、所謂、「病い、膏肓に入る。」の諺の「膏肓」とは、この「三焦」を指し、これらが人体の内、最も奥に存在し、漢方の処方も、そこを原因とする病いの場合、うまく届けることが困難であることから、医師も「匙を投げる」部位なのである。

「表寒《へうかん》」中医学の「風寒表証」に同じい。「こだま堂漢方」のこちらに、『「証」が短期間に変化しやすい代表的な病気としては「風邪」があげられます。初めはゾクゾク寒気がしていたのに、2~3日後には寒気が無くなり発熱と熱感へ、また数日経つと今度は鼻水や咳が出てきて…というように数時間~1日単位で症状が変わりますが、これが「証」の変化です。初めにゾクゾク寒気がするのは、風寒邪が肌表を侵襲し、正気と邪気が戦っている状態です。このときの証は「風寒表証」といい、風寒の邪気を外に追い出す働きがある辛温解表剤(桂枝湯・葛根湯など)を用います。ここで風邪を追い出せたら、その先には症状が進まずに治りますが、体内に入ってしまい、邪気が鬱して化熱してしまうこともあります。そうなると「証」が変わり、もう辛温解表薬を使う時期ではありません。例えば「寒鬱化熱証」に使う柴葛解肌湯などに変えなければなりません。』とあった。

 なお、以上の「本草綱目」の引用は、「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」「卷十二上」の「草之一【山草類上一十三種】」の冒頭の長い「甘草」のパッチワークである。

「南京甘草」現行では使用される様子はないが、江戸中期には、この語が本草書の中にあることが、関西医療大学の基礎医学ユニットの戸田静男氏の『総説』『甘草と炙甘草の修治について 本草書からの考察』PDF)で確認出来た。]

2025/12/06

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(15) 百草 / 草類 藥品~了

[やぶちゃん注:以下、早稲田大学図書館「古典総合データベース」で見て貰うと判る通り、本文の最後の「羅山文集」から引いた草類漢方名は、二部六段落で構成されているが、ブラウザの不具合を考えて、完全に一段とした。

 「百草」は、「ひやくさう・ももくさ」と読み(ここでは漢方系の用法であるから、前者で読みたい)、通常の「千草」、辞書的な意味では、「いろいろな草」の意に過ぎないが、既に述べた通り、ここでは、漢方生剤の植物、及び、その漢方生剤としての基原を示すものである。

 なお、長かった「草類 藥品」パートは、これを以って、終わっている。私は複数の電子化注を扱っている関係上、実に、このパートだけで、二ヶ月、かかった。やっと、これから、「草類」の各個植物体記事に入ることが出来る。

 

  百草

「本草≪綱目≫」五月五日采百種草隂乾燒灰和石灰爲團煆硏傅

金瘡止血亦傅犬咬又治腋臭及瘰癧已破【各有方】

又取百草花煮汁釀酒服之治百病或采百草花水潰泥

封埋百日煎爲丸卒死者納口中卽活也

△按牝鹿衘草以飴其牡蜘蛛齧芋以磨其腹虎中毒箭

 食清泥而解之豬中毒箭豗齊苨而食【見朝野僉載及五雜組】

 蓋三獸之事未見之蜘蛛之所爲予靣見之犬中馬錢

 毒則吞水解之又蛇見蛞蝓之涎則避地不到又犬䑕

 共好油而見桐油不敢近【誤舐桐油犬毛悉脫】物猶知藥與毒

 况於人乎


○寬永十四年十二月板倉卜齋請紀伊亞相望請藥草

 根幷核實於朝鮮國【見羅山文集】

[やぶちゃん注:「板倉卜齋」は調べても見出せない。東洋文庫訳では、「倉」にママ注記があり、「倉」の下に『(坂)』の割注があるので、「板坂卜齋」であることが判った。後注に、『板坂如春』(いたざかじょしゅん:国立国会図書館デジタルコレクションで現代のものを、複数、調べたが、雅号の読みを添えているものはなかった。しかし、さればこそ、一般的な習慣的読みから、この読みでよかろう)。『医家。常に家康に近侍し、のち命に從って紀伊頼宜に仕えた。致仕してのちは江戸浅草に住した。『板坂卜斎覚書』三巻がある。』とあった。講談社「デジタル版 日本人名大辞典+Plus」に拠れば、彼は初代板坂卜斎』(いたざかぼくさい:生没年未詳:『板坂惟順の孫。代々京都で朝廷の医官をつとめる。出家して南禅寺東禅院にはいるが,武田信玄のすすめで還俗』『して医師となる。永禄』一一(一五六八)年に『信玄を診察し,その余命を予言。天正』『年間に徳川家康につかえた。名は宗商。』と同リンク先に並置されてある)]『の子』で、天正六(一五七八)年生まれで、『吉田宗桂(そうけい)・宗恂(そうじゅん),施薬院宗伯にまなぶ。徳川家康,徳川秀忠,紀伊』『和歌山藩主徳川頼宣(よりのぶ)につかえた。晩年は江戸浅草にすみ,「浅草文庫」と称して蔵書を公開した。明暦元』(一六五五)年『死去』。七十八『歳。通称は別に如春,東赤』とあった。訓読文では、特異的に名を訂した。

沙參

丹參

蕓薹子

蜀葵花

葶藶子

何首烏

防已

白薇

五味子

石楠葉

菴䕡子

蜜䝉花[やぶちゃん字注:「䝉」は「蒙」の異体字。]

升麻

常山

佛耳草

白頭翁

黃蜀葵花

前胡

射干

馬藺

劉寄奴草【以上二十一種要其核實】

萆薢

百部根

延胡索

胡黃連

山豆根

鬱金

啇陸[やぶちゃん注:「啇」は「商」の異体字。]

天仙藤

銀茈胡

藜蘆

續斷

烏頭

薑黃

漏蘆【以上十五種要其根】

 

   *

 

  百草

「本草≪綱目≫」≪に≫、『五月五日、百種の草を采《とり》て、隂乾《かげぼし》し、燒灰《やきばひ》にし、石灰《いしばひ》に和《わ》して、團《だんご》と爲《なし》、煆.硏《かけん》[やぶちゃん注:焼き削って。]し、金瘡《かなさう》に傅《つけ》て、血を止む。亦、犬の咬《かみ》たるに傅《つ》け、又、腋-臭《わきが》、及《および》、瘰癧《るいれき》≪の≫已《すで》に破《やぶれ》るを治す【各《おのおの》、方《はう》、有り。】。』≪と≫。

又、百草《ひやくさう》の花《はな》を取《とり》て、汁《しる》≪に≫煮《に》、酒に釀《かもし》、之《これを》服すれば、百病を治《ぢす》。或《あるい》は、百草の花を采《と》り、水に漬《つけ》て、泥封《でいふう》≪して≫、埋《うづ》むこと、百日にして、煎《せん》じて、丸《ぐわん》と爲《なし》、卒死《そつし》する者[やぶちゃん注:この場合は、急死したように見える直後の様態を指す。]≪の≫、口中《こうちゆう》に納《をさむ》れば、卽《すなはち》、活(い)くなり。

△按《あんずるに》、牝鹿《めじか》、草《くさ》を衘(ふく)みて[やぶちゃん注:「衘」は音「カン・ガン」で、「啣」の異体字。]、以《もつて》、其《その》牡《をす》に飴(くら)はしむ。蜘蛛(く《も[やぶちゃん注:原本では欠字。]》)、芋《いも》を齧(か)みて、以《もつて》、其《その》腹を磨(す)る。虎、毒の箭《や》に中《あた》れば、清≪き≫泥を食《くひ》て、之《これを》解す。野-豬(ゐのしゝ)、毒の箭に中れば、齊苨(せいねい)を豗(ほ)りて、食ふ【「朝野僉載《てうやせんさい》」及び「五雜組」に見ゆ。】。蓋《けだ》し、三獸の事、未だ、之れを見ず。蜘蛛の爲(す)る所は、予、靣(まのあたり)、之を見る。犬、馬錢(まちん)の毒に中《あた》れば、則《すなはち》、水を吞んで、之を解す。又、蛇(へび)、蛞蝓(なめくぢり)の涎(よだれ)を見れば、則、地を避(さ)けて、到(いた)らず。又、犬・䑕《ねずみ》、共に、油《あぶら》を好(す)く。而るに、桐油《きりあぶら》を見ては、敢《あへ》て近づかず【誤《あやまり》て、桐油を舐(ねぶ)る犬は、毛、悉《ことご》く、脫《だつす》。】。物《ぶつ》[やぶちゃん注:この場合は、「人」に対するところの「動物」を指す。]、猶を[やぶちゃん注:ママ。]、藥《くすり》と、毒と、知るごとし。况《いはん》や、人をや。


○寬永十四年十二月[やぶちゃん注:東洋文庫訳は割注で元号部の後に割注して『(一八三七)』としているが、旧暦を、ちゃんと確認していない。この年は閏三月があり、グレゴリオ暦では同年十二月は、既に一六三八年一月十五日から二月十三日である。]、板坂卜齋《いたざかぼくさい》、紀伊の亞相《あしやう》[やぶちゃん注:既注した注に出る紀伊和歌山藩主徳川頼宣を指す。彼は寛永三(一六二六)年八月十九日、従二位権大納言(ごんだいなごん)に敘任されている。この「亞相」は「大納言」の唐名。「権」は正規の員数を越えて任命する官職を指し、事実上、同一位となる。]に請《こひ》て、藥草≪の≫根《ね》、幷《ならび》に、核-實《さね》を、朝鮮國に望《のぞ》≪めり≫【「羅山文集」に見ゆ。】。[やぶちゃん注:以下は、その朝鮮国(当時は李氏朝鮮。既に両国は慶長一四(一六〇九)年(既に江戸時代)に和約し、朝鮮通信使を通して相互に外交関係の修復にも力を入れていた)から求めることが出来た漢方薬(この場合は皆、基原が核(さね)・実(み)・根のもの)三十六種を並べたものである。但し、漢名の漢方であり、中には中国原産のものが含まれている。推定音読みの部分は、現在の漢方名表記法に従い、カタカナにした。

沙參《シヤジン》

丹參《タンジン》

蕓薹子《ウンダイシ》

蜀葵花《シヨクキクワ/たちあふひ》

葶藶子《テイレキシ》

何首烏《カシユウ》

防已《バウイ》

白薇《ビヤクビ》

五味子《ゴミシ》

石楠葉《セキナンエフ》

菴䕡子《アンリヨウシ/いぬよもぎ》

𮔉䝉花《ミツマウクワ》

升麻《シヤウマ》

常山《ジヤウザン》

佛耳草《ブツジサウ》

白頭翁《ハクトウワウ》

黃蜀葵花《ワウシヨクキクワ/とろろ》

前胡《ゼンコ》

射干《シヤカン》

馬藺《バイヰ/バレン》

劉寄奴草《リウキドサウ》【以上、二十一種、其の核《さね》・實《み》を要《もと》めり。】

薤《カイ/おほにら》

萆薢《ヒカイ》

百部根《ビヤクブコン》

延胡索《エンコサク》

胡黃連《コワウレン》

山豆根《サンヅコン》

鬱金《ウコン》

啇陸《シヤウリク/やまごばう》

天仙藤《テンセンタウ》

銀茈胡《ギンサイコ》

藜蘆《レイロ/しゆろさう》

續斷《ゾクダン》

烏頭《ウズ》

薑黃《キヤウワウ》

漏蘆《ラウロ/ひごたい》【以上、十五種、其の根を要めたり。】

 

[やぶちゃん注:『「本草≪綱目≫」≪に≫、『五月五日、百種の草を采《とり》て、隂乾《かげぼし》し、燒灰《やきばひ》にし、石灰《いしばひ》に和《わ》して、團《だんご》と爲《なし》、煆.硏《かけん》[やぶちゃん注:焼き削って。]し、金瘡《かなさう》に傅《つけ》て、血を止む。亦、犬の咬《かみ》たるに傅《つ》け、又、腋-臭《わきが》、及《および》、瘰癧《るいれき》≪の≫已《すで》に破《やぶれ》るを治す【各《おのおの》、方《はう》、有り。】。』≪と≫。』『又、百草《ひやくさう》の花《はな》を取《とり》て、汁《しる》≪に≫煮《に》、酒に釀《かもし》、之《これを》服すれば、百病を治《ぢす》。或《あるい》は、百草の花を采《と》り、水に漬《つけ》て、泥封《でいふう》≪して≫、埋《うづ》むこと、百日にして、煎《せん》じて、丸《ぐわん》と爲《なし》、卒死《そつし》する者[やぶちゃん注:この場合は、急死したように見える直後の様態を指す。]≪の≫、口中《こうちゆう》に納《をさむ》れば、卽《すなはち》、活(い)くなり。』「漢籍リポジトリ」の「本草綱目卷二十一」の「草之十一【雜草及有名未用共一百五十三種】」(ガイド・ナンバー[057-13a])の以下からの抜粋である。但し、割注部は良安の附加したものである。表記に手を加えた。

   *

雜草【九種】

 百草【拾遺藏器曰五月五日采一百種草陰乾燒灰和石灰爲團煆研傅金瘡止血亦傅犬咬又燒灰和井華水作團煆白以釅醋和作餅腋下夹之乾卽易當抽一身盡痛悶瘡出卽止以小便洗之不過三度愈時珍曰按千金方治洞注下痢以五月五日百草灰吹入下部又治瘰癧已破五月五日采一切雜草煑汁洗之】

 百草【花拾遺藏器曰主治百病長生神仙亦煑汁釀酒服按異類云鳳剛者漁陽人常采百花水漬泥封埋百日煎爲丸卒死者納口中卽活也剛服藥百餘歲入地肺山】

   *

「牝鹿《めじか》、草《くさ》を衘(ふく)みて、以《もつて》、其《その》牡《をす》に飴(くら)はしむ」「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 鹿(しか) (シカ・ニホンジカ他)」には、この記載はない。但し、『能く良草を別〔(わか)〕つ。食ふときは、則ち、相ひ呼び、行くときは、則ち、同じ旅を〔し〕、居るときは、則ち、角を環〔(まは)すに〕外に向けて、以つて害を防ぎ、臥すときは、則ち、口〔を〕尾閭〔(びりよ)〕[やぶちゃん注:肛門。]に朝〔(む)けて〕[やぶちゃん注:向けて。]以つて督脉〔(とくみやく)〕に通〔(つう)〕す。』という箇所には、通性が認められる。しかし、雌が雄に、という方向性は見出せない。一応、「本草綱目」の「鹿」(「漢籍リポジトリ」の「卷五十一上」の「獸之二」の「鹿」。ガイド・ナンバー[119-32a])も通覧したが、このような記載はないから、この言い伝えは、割注にある「朝野僉載」・「五雜組」である。前者は、唐代の則天武后の頃、張族鳥が朝廷と民間とで見聞した事柄を書き留めた随筆集。しかし、「維基文庫」と「中國哲學書電子化計劃」で電子化物を検索したが、見当たらなかった。後者は、「中國哲學書電子化計劃」の「卷十一・物部三」で、以下のように確認出来た。□は表示出来ない字である。下線と太字は私が附した。下線が、ここの話である。

   *

迎春也,半夏也,忍冬也,以時名者也;劉寄奴也,徐長卿也,使君子也,王孫也,杜仲也,丁公藤也,蒲公英也,以人名者也;鹿跑草也,淫羊藿也,麋銜草也,以物名者也;高良、常山、天竺、迦南,以地名者也;虎掌、狗脊、馬鞭、烏喙、鵝尾、鴨□、鶴虱、鼠耳,以形名者也;預知子、不留行、骨碎補、益母、狼毒,以性名者也;無名異、沒石子、威靈仙、沒藥景、天三七,則無名而強名之者也。牝鹿銜草,以飴其牡,蜘蛛嚙芋,以磨其腹;物之微者,猶知藥餌,而人反不知也,可乎?

   *

「蜘蛛(く《も》)、芋《いも》を齧(か)みて、以《もつて》、其《その》腹を磨(す)る」前の引用の太字が、当該部。しかも、後で、良安は、『蓋《けだ》し、蜘蛛の爲(す)る所は、予、靣(まのあたり)、之を見る。』と目撃を断言している。しかし、こうしたクモの行動(昆虫嫌いの私は、特異的にクモ類は気持ちが悪い気がしない)を見たことが無い。クモ愛好家の御教授を乞うものである。

「齊苨(せいねい)」前二書では、確認出来ない。東洋文庫訳は、割注して、『(山草類ソバナ)』とある。これは、以下の「第九十二之本」に立項する。一応、キキョウ目キキョウ科ツリガネニンジン属ソバナ(岨菜・蕎麦菜・杣菜)Adenophora remotiflora に比定しておき、本項で再検証する。当該ウィキに拠れば(注記号はカットした)、『春の出たばかりの黄色味を帯びている若い芽は、山菜として食用にされる。採取時期は関西以西が4月、関東地方が4 - 5月、東北・中部の寒冷地は5月ごろとされ、根元から摘んで採取する。さっと茹でて』、『水にさらし、おひたし、酢の物、ごま・酢味噌などの和え物などにし、生のまま天ぷら、汁の実にする。クセがほぼないため』、『さまざまな料理に使える。歯切れがよく美味であり、飢饉の時には蕎麦の代用品として主食同様に用いられたと推測される。花は軽く茹でて』、『酢の物にできる』とあるばかりであった。但し、画像からも察せられたが、これ、ツリガネニンジン(釣鐘人参)Adenophora triphylla var. japonicaの近縁種である。一方、個人サイトらしき「薬草と花紀行のホームページ」の「ソバナ (岨菜、蕎麦菜)」には、『根をセイネイ』(薺苨)と称し』、『漢方では解毒(虫毒、腫毒)や去痰薬にする』としつつも、『成分は未詳。』とある。

「豗(ほ)りて」所持する「廣漢和辭典」に、第一義として『うつ。互いにうちあう。たたきあう」とし、★第二義で『いのこが地を掘る。』とあった。

「馬錢(まちん)」「和漢三才圖會卷第三十七 畜類 狗(ゑぬ いぬ) (イヌ)」の私の注の「番-木-鼈〔(マチン)〕」(=「馬錢」)を見られたい。

「蛇(へび)、蛞蝓(なめくぢり)の涎(よだれ)を見れば、則、地を避(さ)けて、到(いた)らず」所謂る、「三竦(すく)み」で、「虫拳(むしけん)」の遊びにもなっている。ウィキの「三すくみ」によれば、『ヘビはカエルを一飲みにする。ヘビには負けるカエルだが、相手がナメクジならば』、『やすやすと舌でとって食べる。しかし』、『カエルに負けるナメクジには』、『ヘビ毒が効かず、身体の粘液で(カエルより強いはずの)ヘビを溶かしてしまう』。『このときにカエルがナメクジを食べると、その後』、『ヘビに食べられてしまうので、ナメクジを食べられない。ヘビ、ナメクジも同様の状態で、三者とも身動きがとれず三すくみとなる』。『日本最古の三すくみで、当時は日本では「ナメクジはヘビを溶かす」と信じられていたが、実際にはそのようなことはおこらず、ナミヘビ科にはナメクジを捕食する種もいる』とある。私は、嘗て、親友の早稲田大学歴史学教室有給助手と、この問題の事実性を問題にしたことがあったが、彼は、「孰れも科学的根拠がある。」とし、完全否定の私と一晩、論議したが、ケリがつかず、彼の友人の生物学講師に、午前零時に電話をして聴いたところ、けんもほろろに否定された。序でに、彼が、私が「ホヤは尾索動物亜門ホヤ綱で、彼らは、脊椎動物のすぐ下に位置する高等動物である。」と言ったのを、笑い飛ばしたので、「あれも、序でに、聴いてみなよ。」と言ったところ、相手の言葉で、黙って電話を切った。私の完全勝利だったのだ。……その彼も、昨年、腎臓の遺伝病である多発性嚢胞腎で亡った。過ぎし日の青春の一コマだったな、三晴よ……

「犬・䑕《ねずみ》、共に、油《あぶら》を好(す)く。而るに、桐油《きりあぶら》を見ては、敢《あへ》て近づかず【誤《あやまり》て、桐油を舐(ねぶ)る犬は、毛、悉《ことご》く、脫《だつす》。】」さる論文を見たところ、イヌは特定の脂肪・脂肪酸に対する拒絶反応はないとし、それはイヌが、本来、腐肉食者であることと関係があるかも知れない、とあった。因みに、猫は、ココナツ油のような中鎖脂肪酸の多い植物油はだめだそうである。ネズミは油を好む。一方、「桐油」は、当該ウィキに拠れば、『アブラギリ類』(キントラノオ目トウダイグサ科アブラギリ属 Vernicia )『の種子(種核)を搾油して得られる油脂。毒性があるため食用に用いられず、主に工業用途に古くから使用されてきた。流通する桐油の大半はシナアブラギリ』Vernicia fordii 『由来のシナ桐油(tung oil)である』とし、『江戸時代には燈火油、油紙、雨合羽などに利用され』、『農村では防虫剤として重要な役割を果たした』とあり、その毒性物質はエレオステアリン酸(Eleostearic acid, ELA)或いは、α-エレオステアリン酸(α-eleostearic acid)で、キリ油では約八十%も含まれおり、「J-STAGE」の『日本化學雜誌』(第八十一巻三号・一九六〇年発行)の「油脂の生化学的研究(第12報)β-エレオステアリン酸の環状化と環化生成物の毒性について」の著者松尾登氏の抄録には、『基礎飼料に 10% 混合, 白ネズミに投与して動物実験を行ったところ, いずれの場合も 7 日以内にす斃死した』とあったから、イヌも恐らく脱毛症状は必須であろう。

「沙參《シヤジン》」キキョウ目キキョウ科ツリガネニンジン(釣鐘人参)属トウシャジン(唐沙参) Adenophora stricta の根茎を乾したもの。去痰・鎮咳に効果があるとされる。

「丹參《タンジン》」「藥品(5) 相反」の私の「五參」の注を見よ。

「蕓薹子《ウンダイシ》」菜種油。「蕓薹」は、恐らくは「あぶらな」或いは「なたね」と訓じており、既出既注。言うまでもなくアブラナ Brassica rapa var. nippo-oleifera 、「菜の花」のことである。しかし、当該ウィキに拠れば、『原種は、西アジアから北ヨーロッパの大麦畑に生えていた雑草で、農耕文化と共に移動したと考えられている。漢代の中国に渡ると栽培作物となり多様な野菜を生むなど、東アジアで古くから栽培されている。日本では弥生時代以降から利用されたとみられる』とあるので、ここで、わざわざ、李朝朝鮮から齎すこともなかろうが、向こうが、本邦にあるかないかを確認する術(すべ)がないわけで、これを、敢えて入れたものと思われる。

「蜀葵花《シヨクキクワ/たちあふひ》」アオイ亜科タチアオイ属タチアオイ Althaea rosea の中文名(「維基百科」を見よ)にして、本邦での同種の古名であるので、問題ない。但し、当該ウィキに拠れば、『当初は中国原産と考えられていたが、現在はビロードアオイ属(Althaea)のトルコ原産種と東ヨーロッパ原産種との雑種( Althaea setosa × Althaea pallida )とする説が有力である』とするものの、『日本には、古くから薬用として渡来したといわれている』とあるので、これも既に当時の本邦にあったものと推定される。

「葶藶子《テイレキシ》」「金澤 中屋彦十郞藥局」の「●蒂歴子・亭歴子(テイレキシ、ていれきし)」に拠れば、『蔕歴子(亭歴子・葶藶子)は神農本草経の下品に収載されている』とし、基原は、『1)中国産:アブラナ科のマメグンバイナズナ』(豆軍配薺:アブラナ目アブラナ科マメグンバイナズナ属マメグンバイナズナ Lepidium virginicum )『、ヒメグンバイナズナ』( Lepidium apetalum )『、クジラグサ』(鯨草:アブラナ科クジラグサ属クジラグサ Descurainia sophia )『および東北蔕歴子』(シソ目 シソ科ムラサキシキブ属変品種コバムラサキシキブ Callicarpa japonica var. japonica f. taquetii )『の種子を乾燥したもの』、『2)朝鮮産:タネツケバナ』(種漬花・種付花:アブラナ科タネツケバナ属タネツケバナ Cardamine occulta )『の種子を乾燥したもの』、『3)日本産;イヌナズナ』(アブラナ科イヌナズナ属イヌナズナ Draba nemorosa )『の種子を乾燥したもの』とあり、『現在は市場品の殆どは中国産である』とある。「産地」は『中国、朝鮮半島、日本』で、「成分」は1)ヒメグンバイナズナは配糖体ヘルペチョコシド、芥子油配糖体シナルビン、脂肪油、蛋白質、糖類』で、『2)東北蔕歴子は配糖体ヘルペチョコシド、揮発油などを含有する』とする。「用法・用量」は『煎剤、丸剤、散剤』で、『1日1.5~3.0g』とある。

「何首烏《カシユウ》」既出だが、再掲する。基原は、タデ目タデ科ツルドクダミ(蕺・蕺草・蕺菜)属ツルドクダミ Reynoutria multiflora の根である。詳しくは、先行する「藥品(4) 有南北土地之異」の「夜合草《よるあひぐさ》」の私の注を見られたい。

「防已《バウイ》」本篇の冒頭の「卷第九十二之本 目録 草類 藥品(1)」の私の注を見られたい。

「白薇《ビヤクビ》」リンドウ目キョウチクトウ科カモメヅル属フナバラソウ(舟腹草) Vincetoxicum atratum 当該ウィキには薬効が記されていないだけでなく、本邦種のように記してある。しかし、「百度百科」の「白薇」には、『中国の黒龍江省・吉林省・遼寧省などの省で生産されている。また、韓国と日本にも分布する。主に標高百~千八百メートルの河川沿い・乾燥した荒れ地・草原・山間の峡谷・森林草原に生育する。温暖で湿潤な気候を好み、耐寒性はあるが、水浸しには弱い。野生の白牡丹は、主に遼東省の山岳地帯に分布している。野生の白牡丹の価格が高騰し続けているため、人々は利益のために際限なく採取しており、野生資源の絶滅に近づいている』とあり、「維基百科」の「白薇(植物)」には、『伝統中国医学では』、『清熱・清血、排尿促進・排便困難の緩和、解毒・傷の治癒などの効能があるとされている。温邪が滋養気を損ねることによる発熱・陰虚による発熱・骨蒸れや疲労による発熱・産後血虚による発熱・尿路感染症・血尿・癰疽(かゆみ)・腫れ物・刃物による傷などに用いる。現代医学では、この生薬には、利尿作用・解毒作用・心臓の健康促進などの効能があるとされている。但し、妊婦へは慎重に使用する必要がある』とあった。

「五味子《ゴミシ》」「藥品(8) 忌鐵」の私の注を見よ。

「石楠葉《セキナンエフ》」『有毒なシャクナゲでは、絶対に、ない!』という推定で調べたところ、「熊本大学薬学部薬用植物園 薬草データベース」の「オオカナメモチ」にまず、行き逢った。基原は、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 石南葉(セキナンヨウ)」に拠れば、

バラ亜綱バラ目バラ科ナシ亜科カナメモチ(要黐)属 オオカナメモチ Photinia serratifolia

の葉

である。前者から引用すると、「産地と分布」は『岡山県,愛媛県宇和島,奄美諸島,西表島,および台湾,中国南部,インドネシアに分布する』とあり、『常緑高木.樹高46 m.葉は革質で長楕円形,または長倒卵形か卵状楕円形,縁には基部を除いて鋭い細鋸歯があり,幼時中肋上に軟毛があるがのち両面無毛になる.枝先に多数の白色花を散房花序に付ける.果実はほぼ球形で紅紫色に熟する』とある。而して、『日本で「石楠」,「石楠花」と書けばツツジ科のシャクナゲのことを言うが,本来はオオカナメモチのことを指す』と明快である。「薬効と用途」には『鎮痛作用があり,神経性疼痛,足腰の無力感,リウマチ痛などに用いる』とあった。後者は引用しないが、そちらも、例によって、読むに、価値ある。

「菴䕡子《アンリヨウシ/いぬよもぎ》」これは、キク亜綱キク目キク科キク亜科ヨモギ属イヌヨモギ Artemisia keiskeana で、「跡見群芳譜」の「野草譜」の「いぬよもぎ(犬よもぎ」の項に拠れば、『中国では、全草・果実を薬用にする。』とあるので、この場合の基原は、同種の種子(果実)である。同ページに『北海道・本州・四国・九州・朝鮮・ロシア沿海地方・遼寧・吉林・黑龍江・河北・山東に分布』するとある「百度百科」に「菴があり、それによれば、『辛味・苦味・温感を持ち、月経促進・止血・除湿・血行促進等の作用がある。主に、瘀血』(おけつ:血液の巡りが悪くなって、体の中で滞った状態を指す)『による無月経・外傷・関節リウマチの痛みなどの治療に用いる。煎じ薬や粉末にして内服するのが一般的である。果実も単独で薬として用いられる。但し、妊婦は本薬を服用してはいけない。瘀血や湿熱のない人は特に注意して服用するようにせねばならない。』とあった。

「𮔉䝉花《ミツマウクワ》」漢方サイトでは、「蜜蒙花」は「密蒙花」と表記するものが、かなり多くあり、「維基百科」でも「密蒙花」である。さらに、基原についても、

ゴマノハグサ目フジウツギ科フジウツギ属ワタフジウツギ Buddleja officinalis の花序や花蕾を乾燥したもの

としつつも、例えば、「家庭の中医学」の「ミツモウカ・・密蒙花」では、我々にはお馴染みの、

フトモモ目ジンチョウゲ科ミツマタ属ミツマタ Edgeworthia chrysantha

『とするものもある』とある(記載がないので、同じく基原は「花序や花蕾を乾燥したもの」であろう)。前者のワタフジウツギは中国原産で、本邦には自生しないものの、本邦でも栽培はされている。また、「伝統医薬データベース」の「密蒙花」の「備考」には、『中国市場では密蒙花の他,老密蒙花,老蒙花と称される.わが国に輸入される密蒙花は上記正條品であるが,ときに多量の芫花〔ジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)のフジモドキ Daphne genkwa Sieb. et Zucc. の花蕾〕の混入(約17%)が認められる.中国湖北省黄崗,四川省雲陽等に産する密蒙花は,ジンチョウゲ科(Thymelaeaceae)のミツマタ Edgeworthia chrysantha Lindl. の花蕾であって,通常「新蒙花」または「蒙花珠」と称している.中国市場にはこのものも多く出まわっている.』とある(学名は私が斜体化した)。「ナガエ薬局」の「蜜蒙花(ミツモウカ)」(☜ここでは「蜜」である)には、「臨床応用」に『生薬分類は、清熱明目薬。中薬の効能は清肝、明目、退翳。蜜蒙花は、清肝熱で明目退翳の効能があるので、肝熱による眼赤、腫痛、益明、流涙、目やに、視力障害などに用いる。』とある。その他のネット記載を見ても、目の機能障害への効果で共通している。

「升麻《シヤウマ》」キンポウゲ目キンポウゲ科サラシナショウマ属サラシナショウマ Cimicifuga simplex の根茎を天日乾燥させたもの。ウィキの「サラシナショウマ」によれば、これは、『発汗、解熱、解毒、胃液・腸液の分泌を促して胃炎、腸炎、消化不良に効果があるとされ』、各種『漢方処方に配剤されている』とあり、さらに、『民間では』、一『日量』二『グラムの升麻を煎じて、うがいに用いられる』とする。さらに、『なお、本種に似たものや、混同されて生薬として用いられたものなど、幅広い植物にショウマの名が用いられている』とある。最後の部分は、ウィキの「ショウマ(植物の名)」も参照されたい。

「常山《ジヤウザン》」「藥品(3) 名義」で既出既注。

「佛耳草《ブツジサウ》」これは、皆、知っている、

キク目キク科キク亜科ハハコグサ(母子草)連ハハコグサ属ハハコグサ Pseudognaphalium affine

である。「日本薬学会」の「生薬の花」の解説が、ほっこりとした「心」があって、とてもよいので、以下、全文を引用させて戴く。高松智氏・小池佑果氏・磯田進氏による共同記事である。

   《引用開始》

 ハハコグサ(母子草)は全国の日当たりのよい畑地、原野、道端などにごく普通に見られるキク科の越年草です。高さは2030 cmほどで全体に白軟毛があり、葉は先が丸みを帯びたへら状で、互生します。46月に茎の先端に頭状花序の黄色い小花を多数つけます。春の季語として古くから俳句や短歌などにたびたび登場します。冬期はロゼット葉で過ごし、春になると茎を伸ばして花を付けます。花後にはタンポポと同じように、長さ約2 mmの綿毛のある種子をつけます。

 和名のハハコグサにはオギョウ、ゴギョウ(御形)、ホオコグサ(這子草)、ブツジグサ(仏耳草)、ソジ(鼠耳)、モチバナ(餅花)などの別名が知られています。名の由来は諸説ありますが、はっきりとはしていません。英語名はCottonweedJersey Cudweedです。ハハコグサ属はかつてのnaphaliumからPseudognaphaliumへ変更されました。従来の属名は、ギリシャ語の「gnaphallon(尨毛(むくげ=獣の毛))」が語源であり、現在のものはこれにPseudo(偽の)が付けられました。種小名affineは、「近似の、酷似の」を意味します。

 開花期に全草を採取し、水洗いして天日でよく乾燥させたものを、生薬ソキクソウ(鼠麹草)といいます。漢名でもある鼠麹草は、葉に毛があって鼠の耳のような形をしていることと、花が粒状で黄色の麹(こうじ)に似ていることから名付けられたようです。

 ソキクソウの煎液は鎮咳、去痰、扁桃炎、のどの腫れに有効で、他に利尿作用があるため急性腎炎に伴うむくみの軽減に効果があると言われています。また、江戸時代中期に編纂された日本の類書(百科事典の種)の「和漢三才図絵」にはソキクソウ、フキの花、熟地黄をそれぞれ焙り、混ぜたものを三奇散(さんきさん)といい、炉にくべて煙を吸うと痰咳によいと記されています。皮膚病には全草の黒焼き粉を作り、ゴマ油で練ったものを患部に塗布するとよいとされていました。

 ハハコグサの若い茎葉は食用とされ、春の七草の一つです。かつては葉を草餅や団子のなかに入れましたが、緑色の鮮明なヨモギがこれに取って代わり、今では草餅に用いることはほとんどありません。

 このようにハハコグサは色の映えにはやや劣ものの、粥や天ぷらの食材として、母から子へ受け継がれるべき植物であることは確かなようです。

   《引用終了》

なお、「維基百科」の同種のページは「鼠麴草」で、別名として、『清明菜・田艾・佛耳草』(☜)『・母子草・黃花麴草・米麴・鼠耳・水膩子・棉子菜・黃蒿・黃花艾・毛耳朵・無心草・水蟻草・金錢草・追骨風』と並んでいる。

「白頭翁《ハクトウワウ》」基原は、

キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科オキナグサ(翁草)属ヒロハオキナグサ Pulsatilla chinensis の根を乾燥したもの

である。例によって、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 白頭翁(ハクトウオウ)」を引用させて戴く。

   《引用開始》

 「白頭翁」は消炎,収斂,止血,止瀉薬として熱性下痢,腹痛,鼻血,痔出血などに応用され,白頭翁湯や白頭翁加甘草阿膠湯などの処方に配合される清熱涼血薬です.その基源には諸説があり,古来非常に異物同名品が多い生薬であったようです.

 「白頭翁」は『神農本草経』の下品に収載され,陶弘景は「根に近い部分に白茸があってその状が白頭の老翁のようだから名づけられたのだ」といい,蘇敬は「葉は芍薬に似て大きく,一本の茎が抽きでて,その茎の先端に木僅花に似た紫色の一個の花を開く.実は大きいもので鶏卵ほどもあり,一寸あまりの白毛があってそれが一揃いに下った様子は纛(はたばこ)のようで,まさに白頭の老翁に似ているから,かく名付けられたのだ」といっています.その後の蘇頌は陶弘景の説をとり寇宋奭は蘇敬の説を支持していますが,その形状からみてどちらの説ももっともな部分があります.これらの説から察するに,その基源は Pulsatilla 属植物のものと考えられますが,他にも根頭に白茸のあるものや果実に白毛のある植物が多いことから,多くの異物同名品が生じたようで,現在でも中国では正條品以外にキンポウゲ科,キク科,バラ科,ナデシコ科などの根または全草に由来する10 数種類の異物同名品が市場に出回っているようです.わが国へは主に正條品が輸入されますが,かつてはリンドウ科の Gentiana dahurica やキク科の Gnaphalis indica が白頭翁として輸入されたことがありました.また日本に自生する同属のオキナグサ P. cernua の乾燥根が「白頭翁」や「和泰艽」などと称されて市販されていましたが,現在では全く市場性はありません.

 オキナグサは,かつて日本の平地の春を彩る代表的な植物でした.花の咲く頃の茎は 10 cm 前後ですが,開花後に伸長して 40 cm にもなります.落ち着いた赤紫色の花は,直径 34 cm の鐘形で,45 月に下向きに開き,花が終わると,茎は直立します.痩果は多数が球状に集まり,直径 34 cm で,白い毛が密生し,和名はこの様子を老人の頭に見立てオキナグサと呼んだものとされています.本州から九州,朝鮮半島,中国東北部,ロシア極東地方に分布しますが,日本では園芸目的の採集等によって個体数が激減しており絶滅危惧種Ⅱ類に分類されています.オキナグサにはネコグサ,ネコバナ,オバガシラ,オジノヒゲなど様々な地方名がある事からも,かつては身近な植物だったようです.『万葉集』に登場する「ねつこぐさ」も,おそらく地方名のネコグサあたりから転じたものと言われています.

 ヒロハオキナグサは多年生草本で,高さ1040cm,全株が白色の長い柔毛で密に覆われています.主根は比較的太く,葉は根出し,束生し,全体に日本のオキナグサに似ています.花は葉の展開に先立って咲き,開花期は 35 月,結実期は 56 月.黒竜江,吉林,遼寧,河北,山東,河南,安徽,山西,陝西,江蘇省などに分布し,山野や山の斜面,田畑などに生えています.

 これらのオキナグサ属やAnemone属,Clematis属などのキンポウゲ科植物は葉や茎を傷つけたり,折ったりすると刺激性の汁が出て,それが皮膚につくと皮膚炎(水泡)を起こすことがあります.その原因物質はプロトアネモニン[やぶちゃん注:ProtoanemoninC5H4O2。]です.これらの植物は配糖体であるラヌンクリン[やぶちゃん注:RanunculinC11H16O8。]を含有しており,傷つけたり,折ったりする事によってラヌンクリンの糖がはずれ,プロトアネモニンが生じます.しかし,プロトアネモニンは乾燥や熱によって刺激性のないアネモニンへと変わりますので,乾燥した植物では炎症は起きません.

   《引用終了》

「黃蜀葵花《ワウシヨクキクワ/とろろ》」「黃蜀葵」は、アオイ目アオイ科Malvoideae亜科フヨウ連アオイ亜科トロロアオイ属トロロアオイ Abelmoschus manihot当該ウィキの「医療品」に拠れば、『外皮を剥いだ根を乾燥したものが黄蜀葵根(おうしょくきこん)である』。『現代では薬用として用いられることは稀であるが、アルテア根の代用として、煎剤を丸薬を練るときのつなぎにする』。『主成分はペントサン (pentosan) などからなる粘液で、約16%含まれる』。『根は』男色の肛門性交『で使用される通和散の原料として千年以上前から使用されてきた。これはヒドロキシエチルセルロース』(Hydroxyethyl cellulose:セルロースにエチレンオキシド(ethylene oxide)を附加させることによって水溶性を持たせた高分子化合物)『が薬効成分で現代で直腸の触診や下部内視鏡検査などで肛門から異物挿入する時に使用される医療用潤滑剤の主成分でもある。同じアオイ科トロロアオイ属のオクラ』( Abelmoschus esculentus )『などにはヒドロキシエチルセルロースが含まれておらず』、『トロロアオイだけの特徴である』とある。

「前胡《ゼンコ》」双子葉植物綱バラ亜綱セリ目セリ科シシウド属ノダケ Angelica decursiva。根を薄く切って日干しにしたものを「前胡」と称し、生薬とする。

「射干《シヤカン》」やはり、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 白頭翁(ハクトウオウ)」を引用させて戴く。基原は、

単子葉植物綱キジカクシ(雉隠し)目アヤメ科アヤメ属ヒオウギ  Iris domestica Goldblatt & Mabb. (2005)  の根茎を乾燥したもの

である。なお、引用先の冒頭の基原では、ヒオウギの学名が、ヒオウギ属ヒオウギ Belamcanda chinensis (L.) DC. となっているが、同種は、二〇〇五年の分子生物学によるDNA解析の結果から、アヤメ属に編入されている。

   《引用開始》

 ヒオウギは、カキツバタやシャガといった同じアヤメ科で近縁のアヤメ属植物の花に遅れること3ヶ月程して、7月から8月にかけて花を咲かせます。日本の本州から南西諸島、朝鮮半島、中国に至るまで分布し、各地の山野や草原などに野生する植物ですが、観賞用に栽培もされています。花は直径5センチ程で鮮やかなオレンジ色に赤い斑点があり、花後にできる蒴果は裂開して黒い光沢のある種子を覗かせます。この目立つ種子は古くは烏羽玉(ウバタマ)と呼ばれ、万葉和歌に黒や夜の枕詞として登場します。ヒオウギの根茎を乾燥させた物が生薬「射干(ヤカン)」です。

 射干は『神農本草経』の下品に収載された薬物で、『図経本草』には「茎、梗がまばらで長く、さながら射る矢の長竿のようだ。名称はここから起こったのである」とあります。また『新修本草』に「鳶尾は、葉はすべて射干に似ているが、花が紫碧色で、高い茎は抽き出ない」、『本草拾遺』に「射干、鳶尾の二物はよく似ているので、一般には区別せぬ(略)」、『本草綱目』には「震亨曰く、(略)紫花のものが正しい。紅花のものは違う」などという記載があり、鳶尾(エンビ:アヤメ科のイチハツ)」との混乱もあったようです。さらに、射干の別名の1つである「扁竹」が、萹蓄(タデ科ミチヤナギ Polygonum aviculare L.)の別名にもあり、注意する必要があります。

 和名のヒオウギは古く宮中で使用されていた「檜扇」に由来し、扇形に広がる葉から連想されたものと言われています。李時珍も「その葉は叢生して横に一面に舗き、烏の翅や扇などの形のようだ。故に烏扇、鬼扇などの名がある」と、同じく「扇」を連想しています。実際、長さ 3040 センチ、幅約3センチの剣状の葉が扇状に付いています。ここから生じる花茎は1メートル程に達し、総状花序が頂生します。花被は6枚でアヤメ属に近縁ですが、アヤメ属に見られる平らな花柱枝や横向きの柱頭がないという特徴があります。薬用部位の根茎は鮮黄色で多数のひげ根を付けています。春または秋に収穫し、土砂や茎、ひげ根を落としたものを乾燥させ生薬にします。修治に関して『本草綱目』では他書を引用して「およそこの根を採ったならば、まず米泔水に一夜浸して漉出し、しかる後に箽竹葉を用いて正午から午後十二時まで煮て、日光で乾かして用いる」、「寒なり。多く服すれば人をして瀉せしめる」とまとめています。当時は有害作用を除去するための修治法が採られていたようですが、現在はこうした工程は省略されています。

 生薬は不規則な結節状を呈し、表面は褐色〜黒褐色です。表面は縮んで、密集した環紋があります。断面は黄色で顆粒性が認められます。質は堅く、香りは薄く、味は苦くやや辛いとされています。古来、太くて丈夫で、質が堅く、断面が黄色を呈する物が良いとされてきました。現在は主に中国の河南省、湖北省、江蘇省などで生産されています。

 中医学的な薬効は、火を降ろす、解毒する、血を散らす、痰を消すなどで、清熱解毒、消炎、利咽を目的に咽喉痛、咳嗽、喀痰、リンパ腫、腫れ物等に用いられます。また、喉痺咽痛の要薬とされ、扁桃炎による咽喉の腫痛には単独、あるいは他の生薬と配合して煎じ薬としての利用法もあります。『本草綱目』には「咽喉の腫痛:射干花の根、山豆根を陰乾し、末にして吹く、神の如き効がある(袖珍方)」などが収載されています。『金匱要略』の射干麻黄湯は気管支喘息で咳嗽や喀痰がみられるときに用いられるようです。

 日本では馴染みのない生薬ですが、中国の生薬市場では必ず店頭で目にする生薬です。現在まで消えずに残っているという事実が、この生薬の有効性を示しているようです。

   《引用終了》

「馬藺《バイヰ/バレン》」読み二種は、「コトバンク」の日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」に拠った。さて、嘗て、「大和本草卷之八 草之四 水草類 藺・燈心草 (イ=イグサ)」の注で私は、『これは単子葉植物綱キジカクシ目アヤメ科アヤメ属ネジアヤメ Iris biglumis の漢名であり、朝鮮・中国・チベット・ロシアに分布するので、外来種であるが、江戸時代以前に移入されたか。ともかくも本来の漢語の「藺」にはイグサの意はない。』とした。「伝統医薬データベース」の「馬藺子(ばりんし)」には、「薬理作用」に、『馬藺子のアルコールエキスを,雌のマウスに内服さすと,卵の抗生育,抗着床作用がある.この作用は種皮にあって,種仁にない.馬藺子の避妊作用は動物実験ではある程度有効であるが,臨床的には確実性がなく,月経の時期,量に不定の影響を及ぼし,帯下がやや多くなるなどの副作用があるので,避妊薬としては不完全なものである.』とあり、「臨床応用」には、『止血,利尿,解毒薬として,吐血,衂血,婦人の月経過多,帯下,疝痛,咽喉腫痛,癰腫などに応用する.』として、「頻用疾患」として『小便不利, 吐血, 鼻血, 月経過多, 帯下, 咽喉痛』が挙げてあった。

「劉寄奴草《リウキドサウ》」先行する「藥品(3) 名義」の私の注の「劉寄奴」を見られたい。

「薤《カイ/おほにら》」「オオニラ」はネギ属ラッキョウ Allium chinense の別称である。「細野漢方診療所」公式サイト内の「漢方戯言」の「ラッキョウ(薤)」に以下のようにある。

   《引用開始》

中国には「薤」というものが古い昔からあった。「薤」とはつまり、ラッキョのことである。

ラッキョはニンニクに似ているが、ニンニクほど強烈な苦味や臭みはない。私は、あのニンニクは嫌いだが、ラッキョは好きだ。考えてみると、中国でも、ことに北部の人々は、南部の人々がラッキョを好むのに比して、ニンニクを用いるのを見ると、それは人々の好みの相違のためであるには違いないが、総じて、気候の寒暖の相違から起こったようにも思える。つまり寒冷を凌ぐのに適する脂っこい食物の味の調整のためには、ラッキョウは駄目で、ニンニクだけがあいものなのらしい。

ラッキョは酢漬けがあっさりして最もよく、酒のぬか漬けものもあるが、少しもっさりとしてラッキョ本来のあっさりした味が求められない。ラッキョは、ニンニクや葱類と同様、わずかに抗菌作用があると言われている。そのために、日本食のようなビタミン群の少ない食事をしていても葱やラッキョなどを少し多量に食していると、脚気様症候群が現れてこないのであろう。それなくば、いかにビタミンの多い食物を摂取しても、腸内の大腸菌などの破壊作用によって常にビタミン不足の状態になり、脚気様症候群をひきおこすことになるのであろう。

私はそれよりも、もっと大切な役割をラッキョは人間の生体に与えているように思う。「本草備要」という中国の薬物書を見ると、「薤」は身体の中を調え、体の陽気をつけ、血が固まろうとするのを防ぎ、善良な肌肉を生ぜしめ、下腹のある諸臓器―特に大腸の機能の渋滞を解き、下痢や排便がしぶるのを治し、更に、狭心症や心筋梗塞のときのような、胸のつまり、刺すような痛みを治す作用があると書いてある。また、喘息のように、喉のつまり、ぜりつく[やぶちゃん注:意味不明。「ひりつく」か?]ようなものにもよい。ことに、漢方では、この「胸痺刺痛」を治す作用を重要視して、二千年以上昔からラッキョを薬用に用いている。すなわち、枳実薤白桂枝湯とか、括呂薤白白酒湯、瓜呂薤白半夏湯などという処方を用い、心臓の病気でも、肋間神経痛のような胸の痛みのある病にも広く応用して、誠に立派な効果を収めている。

私は日常、強いてラッキョの酢漬けを愛用するが、それはまた科学的にははっきりしていないまでも、心筋梗塞や狭心症の予防には欠くことができないのではないかと思って、できるだけ毎日、少しずつでも食べることにしている。それにしても、ラッキョを食うと、ラッキョ独特の悪臭が口臭として出るので、まあ他人に迷惑をかけることになりかねないところから、ラッキョを食べる日と時刻、それに分量とに、予め注意することにしている。

   《引用終了》

「萆薢《ヒカイ》」中医学情報サイト「草根木皮みな藥」の「萆薢(ひかい)」に拠れば、これには「粉萆薢」(「ふんひかい」と音読みしておく。次も同じ)と「綿萆薢」(めんひかい)の二種があり、「粉萆薢」は単子葉植物綱ユリ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属オニドコロ Dioscorea tokoro や同属の Dioscorea hypoglauca などの根茎(担根体)を、「綿萆薢」は同属のキクバドコロ Dioscorea septemloba Dioscorea futschauensis などの根茎が原材料である、とあった(但し、私から一言言っておくと、これら狭義のトコロ類は強烈な苦みがあって灰汁抜きしない限りは食用にはならないので注意されたい)。効能は「膏淋」(こうりん:混濁尿・尿量減少・排尿困難・残尿感などの諸症状)の常用薬、とあった。

「百部根《ビヤクブコン》」基原は、

単子葉植物綱タコノキ目ビャクブ科ビャクブ属ビャクブ Stemona japonica ・タチビャクブ S. sessilifolia ・タマビャクブ S. tuberosa の肥大根を乾燥したもの

である。たびたびで悪いが、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 百部(ビャクブ)」を引用させて戴く。

   《引用開始》

 百部は『名医別録』の中品に収載され,現代中薬学で止咳平喘薬に分類される薬物ですが,古来駆虫薬としても使用されてきました。生薬名に関して李時珍は「その根が多く,百数十の根の様子が5人組がいくつも合わさって一群となった部隊のようにみえるのでこのように名付けられたのだ」と説明しています.原植物の形態に関しては、蘇頌が「春苗が生えて藤蔓となり,葉は大きく尖って長く,頗る竹葉に似たもので,表面は青く光る」と言っており,これらは現在の市場品の一種であるビャクブ科のビャクブであろうと考えられます.

 ビャクブ科は単子葉植物に属する4属30種からなる小さな群で,東南アジアからオーストラリア北部,東アジア,北アメリカ東南部に隔離分布しています.多年生草本で,単子葉植物としては変わった4数性の花をつけ,地下には肥大した根を発達させます.

 ビャクブ Stemona japonica はジャポニカという種小名をもちますが,中国原産で江戸時代に薬草として日本に渡来した植物です.茎は上部がつる状になり縦に筋があり高さ6090 cm,全体がなめらかで無毛.肥大根は多肉質で紡錘形,数本から数十本が束生します.葉は通常 4 枚が輪生し,卵形もしくは卵状披針形,先端は鋭先形か漸鋭先形,基部は円形か切形に近く,全縁もしくはわずかに波状を呈し,59 本の平行脈があります.葉柄は線形で長さ 1.52.5 cm5月に各柄に花被片4枚からなる淡緑色の小さな花が単生します.分布は山東,安徽,江蘇,浙江,福建,江西,湖南,湖北,四川,陝西省などです.

 タチビャクブは高さ 3060 cm,茎は直立して分枝せず縦に筋があり,葉はふつう 34 枚が輪生し,ほぼ無柄であることでビャクブとは区別できます。開花期は34月.分布は山東,河南,安徽,江蘇,浙江,福建,江西省などです.

 タマビャクブはより大型になり,茎上部は他物によじのぼって高さ5mに達します.葉は広卵形で通常対生する点で先の2種とは区別され,また長さ46 cmの葉柄があります.塊根は多肉質で紡錘形か円柱形,長さ1530 cm.開花期は5〜6月で花被片に紫色の脈紋があります.分布は台湾,福建,広東,広西,湖南,湖北,四川,貴州,雲南省などです.

 これらの植物に由来する百部は,ステモニン,ステモニジンなどのアルカロイドを含有します.これらのアルカロイドは呼吸中枢の興奮を抑制して鎮咳作用を示すと考えられますが,多量だと呼吸障害をおこします.また,煎液には抗菌作用,真菌抑制作用があり,エタノールエキスにはシラミなどに対する殺虫作用があります.古来駆虫・殺虫薬として使用されてきた所以です.漢方では潤肺,止咳などの効能を期待して,急性・慢性咳嗽,百日咳などに使用され,特に「肺癆咳嗽の要薬」として知られています.風邪などで咳が長く続く時には紫苑・白前・桔梗などと配合する止嗽散.肺結核などの肺陰虚で咳が続き,血痰のみられるときには生地黄・熟地黄・阿膠などと配合する月華丸などがあります.また,駆虫,殺虫などの作用を期待して,回虫症や蟯虫症に対して内服,あるいは蟯虫症には煎液を注腸したり,シラミや疥癬,トリコモナスなどでは煎液を患部に塗布したりします.かつて日本でも茎を「しらみひも」といって,シラミやノミを忌避するために下着に縫い込んでいたそうです.

 一方,雲南省や四川省の一地区ではユリ科の Asparagus pseudofilicinus の塊茎を『百部』として用いています.これは天門冬の仲間で,やはり地下部が紡錘形に肥大して百部によく似ています.李時珍は「百部には茴香のような細葉のものもある.その茎は色青くて肥え,若いうちには煮て食べる」と記しており,『政和本草』の『峡州百部』の図や『本草綱目』の『小葉百部』の図は正に Asparagus 属植物であり,『図経本草』の天門冬の項にも「南獄では百部という」とあり,古くから混乱していたようです.ただし,含有成分から判断する限り,駆虫薬としての作用は期待できないと考えられます.

   《引用終了》

「延胡索《エンコサク》」「藥品(1)」の「玄胡索」の注を、太字を入れて、引く。キンポウゲ目ケシ科ケマンソウ(華鬘草)亜科キケマン(黄華鬘)属エンゴサク(延胡索) Corydalis yanhusuo 、及び、東北延胡索 Corydalis ambigua の塊茎を基原とする漢方生薬。日本語のウィキもあるが、対象種の学名(しかも品種である)が不審なので、中文の「維基百科」の「延胡索」に基づいた。そこに異名として「玄胡索」もあるのである。そこに『中国本土の安徽省・山東省・浙江省・江蘇省・湖北省・河北省・河南省桔河市及び信陽市に分布し、主に丘陵地帯の草原で見られ、模式種の原産地は浙江省杭州』とあり、『辛味、苦味、温感を持つ様々なアルカロイドが含まれており、主に血液循環の促進・気の促進・鎮痛・鎮静・催眠効果がある』といったことが書かれてある。

「胡黃連《コワウレン》」「藥品(13) 服藥食忌」の同注を見られたい。

「山豆根《サンヅコン》」これは、マメ目マメ科クララ(エンジュ)連クララ属クララ Sophora flavescens であろう。本邦にも植生する。漢名「苦参」。和名は「眩草(くららぐさ)」で、根を噛むと、クラクラするほど苦いことに由来するという。ウィキの「クララ」によれば、『全草有毒であり、根の部分が特に毒性が強い』。『アルカロイド』(alkaloid:窒素原子を含み、ほとんどの場合で塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称)『のマトリン』(Matrine)『が後述の薬効の元であるが、薬理作用が激しく、量を間違えると大脳の麻痺を引き起こし、場合によっては呼吸困難で死に至る。素人が安易に手を出すのは非常に危険である』。『根は、苦参(くじん)という生薬であり、日本薬局方に収録されている。消炎、鎮痒作用、苦味健胃作用があり、苦参湯(くじんとう)、当帰貝母苦参丸料(とうきばいもくじんがんりょう)などの漢方方剤に配合される。また、全草の煎汁は、農作物の害虫駆除薬や牛馬など家畜の皮膚寄生虫駆除薬に用いられる』。『なお、延喜式には苦参を紙の原料としたことが記されているが、苦参紙と呼ばれる和紙が発見された例が存在せず、実態は不明である』が、二〇一〇年の『宮内庁正倉院事務所の調査で「続々修正倉院古文書第五帙第四巻」の』一『枚目は和紙、手触りや色合いが』、『延喜式での工程や繊維の特徴を持ち』、二『枚目は苦参の可能性が高いと判断した』とある。但し、平凡社「世界大百科事典」によれば、本邦では全くの別種であるマメ目マメ科ミヤマトベラ(深山扉木)Euchresta japonica を「山豆根」と称し、特に前者の毒性が強いことから、注意が必要である。こちらは本州(茨城県以西)・四国・九州、及び、中国大陸に分布する(最近までは日本固有種とされていた)。本邦の漢方では、根を乾燥して「山豆根(さんずこん)」の名称で、口腔・咽喉の病気に用いていた、とある。ここは、「和漢三才図会巻第三十九 鼠類 鼫鼠(りす) (リス類)」で注したものを援用した。

「鬱金《ウコン》」ここは、一度、悩まされた結果、その後遺症で、素直に注出来ないでいる。先行する「藥品(1)」の『「薑黃《きやうわう》」を以《もつて》、「鬱金《うこん》」と言《いふ》。』への迂遠な私の注を、どうぞ!!!

「啇陸《シヤウリク/やまごばう》」これは、古い八年前に公開した「和漢三才圖會第四十三 林禽類 杜鵑(ほととぎす)」で、私が詳細に考証してあるので、そちらを見られたい。

「天仙藤《テンセンタウ》」「跡見群芳譜」の「樹木譜」の「つづらふじ(葛藤)」によって、この名の正当な種は、『兩廣・雲南・インドシナ産』の、

キンポウゲ目ツヅラフジ科アオツヅラフジ(中文名:天仙藤)属天仙藤(中文名。「黃藤」とも呼ぶ)Fibraurea recisa

であることが判った。而して、馬鹿正直に、

この学名で「百度百科」を見ると……

……おや? 「黄藤素」に出てくるぞ?……

……さて? この「黄藤素」というのは、なんじゃい?……

英名に“Palmatine”とある。

当該ウィキによれば、『パルマチン』『は、プロトベルベリン系のアルカロイドである。キハダ( Phellodendron amurense )、Rhizoma coptidis Coptis Chinensis Corydalis yanhusuo 等の様々な植物に含まれる』。『また、Enantia chloranthaから抽出されるプロトベルベリンの主要成分である』。『黄疸、赤痢、高血圧、炎症、肝臓関連病の治療薬として期待されている』。『またIn vitro』(イン・ヴィトロ:生物学の実験などに於いて、試験管内などの人工的に構成された条件下、すなわち、各種の実験条件が人為的にコントロールされた環境であることを意味する語。語源は「ガラスの中で(試験管内で)」を意味するラテン語。以上は当該ウィキに拠った)『では』、『弱い抗フラビウイルス活性も示す』とあった。

いや! ちょっと待たんカイ!

……じゃんじゃんFibraurea recisa から離れとらんかい?

……しかし、「黄藤素」の下の方を見ると、『主要活性成分』『本品防己科植物黄藤Fibraurea recisa Pierre.干燥藤茎中提取得到的生物碱。』とあるなあ。後半は、同種の『乾燥した茎から抽出されたアルカロイドである。』の意だ。さらに下の、「適応症」を見ると、『上気道感染症・扁桃炎・腸炎・赤痢・尿路感染症、外科領域、及び、婦人科領域の細菌感染症の治療に用いられる。局所適用』として『点眼薬は結膜炎の治療に、膣点眼薬はカンジダ・アルビカンス感染症の治療に用いられる』とある。

……でも……やっぱ……何となく……これで、ええんやろうか? と疑問がモリモリしてきたのであった。

 そこで、再度、調べてみた。すると、流石、神農子さんだ!

「生薬の玉手箱 | 馬兜鈴(バトウレイ)」に違う「天仙藤」が登場しているノダ!!!

そこでは、基原を、

『ウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)のマルバウマノスズクサ Aristolochia contorta Bunge およびウマノスズクサ A. debilis Siebold et Zucc. の成熟果実を乾燥したもの。』

とする。

   《引用開始》

 チョウの仲間は孵化後に幼虫が食す植物に卵を産み付けます。日本固有種で個体数が減少しているギフチョウの幼虫はウマノスズクサ科のカンアオイ属植物を食草とし、また雄成虫が麝香のような芳香を放つことで知られるジャコウアゲハの幼虫は今回の話題生薬「馬兜鈴」の原植物であるマルバノウマノスズクサやウマノスズクサなど、ウマノスズクサ属を食草とします。ウマノスズクサ属(Aristolochia)は熱帯や亜熱帯地域に広く分布し、500種以上が知られています。多くはつる性の草本または木本で、低木状になるものもあります。属名のアリストロキアはギリシャ語の「アリストス(aristos=最良の)」と「ロキア(lochia=出産)」からなり、古くから出産の痛みを和らげるためにこの属の植物が使われたことによるとされています。

 馬兜鈴は『開宝本草』に収載された薬物で、『本草衍義』の著者の寇宗奭は「つる性のもので、木に付いて上に伸び、葉が落ちてからもその実がなお垂れ、その形状が馬の首に付ける鈴のようなものだからこの名称が起こったのだ」と記しています。また、根は獨行根や土青木香、地上部は天仙藤などと呼ばれ、それぞれ薬用とされています。現在、中国市場には馬兜鈴、青木香、天仙藤のなどの生薬が流通しています。

 マルバウマノスズクサは多年生のつる性草本で、長さは1m 以上になります。葉は互生し、葉身は三角状の広卵形で長さ2.57 cm、幅 2.57 cm、全縁で先端は鈍形か鈍くとがり、基部は心臓形。独特の形をした花は310個が葉腋間に束生し、花被は暗紫色で長さ1.53.5cm、ほぼ斜めに湾曲し、上部は斜めのラッパ状で、先端は漸線形、中央部は管状を呈し、下部は花柱を包み、ふくれて球形をなしています。薬用部の蒴果も特徴的で、長さ34 cmの倒広卵形か楕円状倒広卵形を呈し、未熟な頃は緑色で成熟すると黄緑色になり、室間にそって6弁に開裂し、果柄上で裂けて56本の糸状となってぶら下がります。このぶら下がった果実の形が馬の首にかける鈴に似ていることから中国で馬兜鈴の名称が生まれ、日本ではウマノスズクサと呼んでいます。結実期は9月です。

 果実にはアリストロキア酸やアリストロキン、マグノフロリンなどが含まれ、去痰、気管支拡張、抗菌作用などが知られています。漢方では止咳・化痰の効能があり、咽頭炎や気管支炎などの咳嗽や喀痰、血痰、嗄声などの症状に用いられます。小児の喘息や咽痛、咳嗽、血痰のみられるときには阿膠・杏仁・牛蒡子などと配合する阿膠散などがあります。このほか痔の出血や肛門周囲の腫痛にも用いられます。痔の治療には一般に内服しますが、馬兜鈴を瓶の中に入れて焼いて患部を薫じるという方法もあります。しかし、ウマノスズクサ科植物特有の成分であるアリストロキア酸は、重篤な腎障害を引き起こします。かつて、バルカン半島の農村部で起こったバルカン腎炎の原因物質でもあり、漢方薬原料としてもAristolochia属植物由来の「関木通」の長期服用による重篤な腎障害が問題となりました。そのため、馬兜鈴に限らず、近縁植物に由来する生薬の内服には十分な注意が必要です。

 毒と薬は紙一重とよく言われます。馬兜鈴や附子などのように先人たちは毒草をよく理解し、少量を短期間に限って使用することによって治療薬として利用してきました。一方、自然界においても、ジャコウアゲハの幼虫は食した葉に含まれるアリストロキア酸をそのまま体内に溜め込み、さらにそのまま成虫にも移行保存されることによって外敵から身を守っていることが知られています。自然界における毒の有効利用ということでしょうか。さらに、別にジャコウアゲハに擬態することで我が身を守っている昆虫がいるそうですから、自然界の妙には驚かずにおれません。

   《引用終了》

脱線だけど、この最後の一段落が、神農子さんの本骨頂で、チョーいいね!

 さて。

この時、板坂卜齋が入手した朝鮮から齎された「天仙藤」が、果して、どっちだったのか、それは、判らぬ。

しかし、だ!

実は、このずっと後の「卷第九十六」の「蔓草類」に、「天仙藤」は、載る。而して、東洋文庫訳で、竹島淳夫氏は、これを割注で、『(ウマノスズクサ科)』としておられる。私も、単に、この疲れたドライヴの果てに、マルバウマノスズクサ・ウマノスズクサに落ち着いて眠りたい気がしているのである。識者の御意見を乞うものである。

「銀茈胡《ギンサイコ》」サイト「ミシマサイコという薬草を知っていますか! 相模原柴胡の会」の『古いにしえより伝わりし「柴胡が原さいこがはら」とミシマサイコ!』の、『漢方生薬「柴胡」に関する古典史料』の『「神農本草経」(西暦112年頃)』のコーナーに、『古代中国の神農が著したとされる最も古い中医薬学(本草学)の書物で、植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されている。薬性により上薬、中薬、下薬に分類されている』とし、『柴胡は上薬の部に『茈胡』』(☜)『の名で収載され、薬能は「心腹を主り、腸、胃中の結気、飲食積聚、寒熱邪気を除き、推陳致新(新陳代謝)を主る」と記されて』い『る』とあったので、これは「銀柴胡」と同義と採る。ただの「柴胡」なら、複数回既出既注で、セリ目セリ科ミシマサイコ(三島柴胡)属(或いはホタルサイコ属)ミシマサイコ Bupleurum stenophyllum の根である。解熱・鎮痛作用があり、多くの著名な漢方方剤に配合されている。ウィキの「ミシマサイコ」によれば、『和名は、静岡県の三島市付近の柴胡が生薬の産地として優れていたことに由来する(現在の産地は、宮崎県、鹿児島県、中国、韓国など)。』とある。しかし、「銀柴胡」は、それとは全く異なるものである。「金澤 中屋彦十郞藥局」の「●銀柴胡(ぎんさいこ、ギンサイコ)」によれば、『健康食品』とし、『銀柴胡の名は本草綱目に収載されて』おり、『色白く柔らかい』とし、基原は、『ナデシコ科の多年草、フタマタハコベ』『、またはその近縁植物の根であって』、『柴胡とは全く違う』と断じてある。『銀柴胡とはもともとは銀州に産する柴胡という意味であつたが』、『柴胡はセリ科の植物で全く異なる』と述べ、『フタマタハコベは乾燥した草原や岩の間に生え、ハコベに似た花が咲く』とする。「産地」は『中国』で、「成分」は『サポニン』とし、「応用」の項には、『かつては栄養の補給に使われた』とする。而して、このフタマタハコベは、「跡見群芳譜」の「野草譜」の「はこべ」に、以下の二つの学名が載る。

・ハコベ属フタマタハコベ Stellaria dichotoma (中文名『叉岐繁縷』。産地は『河北・西北・遼寧・吉林・黑龍江・モンゴリア・シベリア・極東ロシア産』

・フタマタハコベ Stellaria dichotoma f. lanceolata(中文名『狹葉叉岐繁縷』の他、『銀柴胡・牛肚根・沙參兒・白根子・土參』を挙げる)

しかし、この後者は、「維基百科」の、まさに「銀柴胡」の学名であった。そして、その「外部連結」の一つのリンク、「中藥標本數據庫 (香港浸會大學中醫藥學院)」のみが生きていた。ここである。そこには、基原は、『根と根茎』とあり、『原産地』は『主に甘粛省・寧夏回族自治区・陝西省・内モンゴル自治区などで生産されている。』とあり、「特徴」の項には、『亜円筒形で、時に枝分かれし、長さ1540cm、直径0.52.5cm。表面は淡黄褐色から淡褐色で、ねじれた縦皺と細根痕があり、しばしば、穴状または円盤状の窪みがある。砂穴の点で折ると、褐色の亀裂から細かい砂が出ているのが見える。根の頭はわずかに膨らみ、芽、茎、または、根茎の残骸が密集した疣状の突起がある。硬くて脆く、折れやすく、破断面は不均一で比較的緩く、亀裂があり、樹皮は非常に薄く、黄色と白の放射状の縞模様が交互に現れる木質である。微かな匂いがあり、味は甘い。栽培品種は枝分かれし、下部はねじれていることが多く、直径0.31.2cmである。表面は淡黄褐色、又は、淡黄褐色で、細く明瞭な縦皺があり、細根痕は点状の窪みとして現れることが多い。根頭には多数の疣状突起があり、穴は殆んどない。割面は比較的緻密で、裂け目は殆んどなく、僅かに粉状で、材の放射状の条線は、あまり、目立たない。味は、やや甘みがある』とし、「効果」の項に、『清熱作用と清血作用があり、肺結核の発熱、慢性マラリアに伴う陰虚、発熱を伴う衰弱した小児に効果がある』と記す。しかし、そこにある学名は、変種

Stellaria dichotoma L. var. lanceolata 

であった。私がデイグ出来たのは、ここまでである。

「藜蘆《レイロ/しゆろさう》」「藥七情」で既出既注。そちらの私の注を見られたい。

「續斷《ゾクダン》」「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 続断(ゾクダン)」では、「基原」として『中国産は』 Dipsacus asperoidesC.Y Cheng et T.M.Ai(マツムシソウ科 Dipsacaceae)の根を乾燥したもの』としており、最後に『続断の原植物は未だに混乱し,明らかにはされていません。一般に,本生薬のように,薬効が生薬名となったものには異物同名品が多いようです』と記されてある。

「烏頭《ウズ》」「烏頭」は猛毒で知られるモクレン亜綱キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科トリカブト(鳥兜・草鳥頭)属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。

「薑黃《キヤウワウ》」前の「鬱金《ウコン》」の注と同じで、先行する「藥品(1)」の『「薑黃《きやうわう》」を以《もつて》、「鬱金《うこん》」と言《いふ》。』への迂遠な私の注を見よ。

「漏蘆《ラウロ/ひごたい》」植物体は、一つに、

キク目キク科ヒゴタイ属ヒゴタイ Echinops setifer

とする。当該ウィキに拠れば、『多年生植物』で、『和名の漢字表示については「平江帯」(貝原益軒の大和本草)または「肥後躰」(肥後細川家写生帖)などがある』。『日当たりの良い山野に生える。葉はアザミに似て切れ込みがあり、棘を有する』。『花期は8月から9月。花茎が11.5m程度直立し、その先に直径5cm程の青い球形の花が咲く。これは瑠璃色の小さな花が球状にかたまって咲いたもので、写真のように一株に』、『複数』、『咲く』。『朝鮮半島の南部から、西日本の所々に咲く。日本では愛知県、岐阜県、広島県と九州の特定箇所で見られる。九州中部の九重山から阿蘇山周辺の草原では、元々自生していたが、今では野生以外に種を蒔いて増やした株も見られる』とあるが、「維基百科」の同種「糙毛蓝刺头」によれば、『日本、韓国、中国本土の河南省と山東省の一部に分布し、主に丘陵の斜面に生育する』とある。但し、本種の正確な薬効は、遂に見出せなかった。

別に、

キク目キク科ヒゴタイ属オクルリヒゴタイ Echinops latifolius

とする。「伝統医薬データベース」の「漏蘆」で、その学名を示し、「臨床応用」に『解熱,解毒,抗炎症,排膿,催乳薬として,癰疽,疔瘡腫毒,瘰癧,乳癰,乳汁不通などに応用する.近年本品の黒焼きを痔疾に外用している.』とあり、「頻用疾患」には、『皮膚化膿症, 乳房が張って痛む, 乳汁分泌不全, 発熱, 痔』とあった。]

2025/12/02

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(14) 飮食禁忌

[やぶちゃん注:以下、早稲田大学図書館「古典総合データベース」で見て貰うと判る通り、本文は、良安の評言の前の最後「河豚」の一行を除いて、第一部が、二つの項目で一行で空欄を設けて記載されてあるのだが、無駄に空けると、ブラウザの不具合が生じるので、原文の部は引き上げて、独立の一文とした。

 本篇は、特定の飲食に際して、同時に合わせて食べてはいけない禁忌となる食物を記したものである。本邦で言うところの、所謂、「食い合わせ」に相当するものである。今までと同様に漢方学的なものは注を附すが、漢字で判る動植物(言うまでもないが、メイン部分は、今までと同じ、基本は「本草綱目」を中心とした中国の本草書からのものである)は、中国と日本で異なるもの場合のみとする。

 

  飮食禁忌【如牛馬羊犬者本朝人不食故省故不記之】

雞肉 忌蒜葱芥末糯米鯉野雞

沙餹 忌鯽魚笋

[やぶちゃん注:「鯽」は、原本では、「魚」が「𩵋」、(つくり)の中央部の最初の一点が存在せず、下部は「ヒ」ではなく、縦画の中央右に二つの「―」が突き出している。しかし、そのような異体字は存在しないので、「鯽」の字で示した。]

雉肉 忌蕎麥木耳胡桃鯽鮎魚

蕎麥 忌雉𮌇猪𮌇

螃蠏 忌荊芥柿橘軟棗

木耳 忌雉𮌇野鴨

鰕子 忌鷄𮌇猪𮌇

芥子 忌鯽雞鼈兎

綠豆 忌榧子殺人又忌鯉魚鮓

乾笋 忌沙餹鱘魚

胡桃 忌野鴨雉及酒

批杷 忌熱麪

胡蒜 忌魚鱠魚鮓鯽魚雞

桃子 忌鼈𮌇

鼈𮌇 忌莧菜薄荷芥菜桃雞子

銀杏 忌鰻鱺

鯽魚 忌芥末蒜餹雞雉

楊梅 忌生葱

魚鮓 忌豆藿麥醬蒜緑豆

慈姑 忌茱萸

河豚 忌煤炲荊芥防風菊花桔梗甘草烏頭附子

 

△按今人食鷄𮌇多入葱蒜爲臛呼名南蠻

 又有食鯽鱠胡葱蒜和芥醋者

 又有食野鴨臛木耳椎茸之類者呼名𤎅鳥

 本草所謂鯽與芥菜同食成腫疾雞與生葱同食成蟲

 痔然則雖急不有害好食之者甚不可

相傳蕎麥與西瓜同食煩悶多至死又鰻鱺浸醋乃鰻鱺

 膨張於腹中故使人煩悶也蓋西瓜似水而速降故先

 西瓜後蕎麥則無害乎今人毎炙鰻鱺合蓼醋食之亦

 無害多食則必損人至死者有之

 

   *

 

  飮食≪の≫禁忌【牛・馬《むま》・羊・犬のごときは、本朝の人、食≪せ≫ず。故《ゆゑ》、省《はぶき》て、之≪を≫記《しる》さず。】

雞《にはとり》≪の≫肉 蒜《にんにく》・葱《ねぎ》・芥《からし》の末《まつ》[やぶちゃん注:粉末。]・糯米《もちごめ》・鯉《こひ》・野-雞(きじ)を忌《いむ》[やぶちゃん注:以下、全部同じであるが、面倒なので「忌む」で示す。]。

沙餹《さたう》 鯽魚《ふな》・笋《たかんな/たけのこ》を忌む。

雉肉《きじにく》 蕎麥《そば》・木耳《きくらげ》・胡桃《くるみ》・鯽《ふな》・鮎魚《なまづ[やぶちゃん注:要注意! 「あゆ」ではない! 後注参照!]》を忌む。

蕎麥 雉肉・猪肉《ゐのこにく》を忌む。

螃蠏(かに)[やぶちゃん注:広義のカニ。] 荊芥《けいがい》・柿《かき》・橘《いつ》・軟-棗《なつめ》を忌む。

木耳(きくらげ) 雉《きじ》𮌇・野-鴨(かも)を忌む。

鰕子(えび[やぶちゃん注:この場合は「子」は「小」で、中国語で、比較的小さなエビ、或いは、製品としての干しエビを指す。]) 鷄𮌇《けいにく》・猪𮌇《ゐのこにく》を忌む。

芥子(からしのこ) 鯽・雞・鼈《すつぽん》・兎《うさぎ》を忌む。

緑豆(ぶんどう) 榧《かや》の子《み》≪を≫忌む。人≪を≫殺《ころす》。又、鯉--鮓《こひのすし》を忌む。

乾笋《めんま》 沙餹・鱘魚《てふざめ》を忌む。

胡桃(くるみ) 野-鴨《かも》・雉、及《および》、酒を忌む。

批杷《びは》 熱-麪《ねつめん》[やぶちゃん注:汁の熱い麺類物。]を忌む。

胡(にんにく) 魚-鱠(なます)・魚《うを》の鮓《すし》・鯽魚・雞を忌む。

桃の子《み》 鼈《すつぽん》の𮌇を忌む。

-𮌇《すつぽん≪のにく≫》 莧-菜(ひゆ≪な≫)・薄荷《はつか》・芥-菜(からし)・桃・雞子《けいらん》を忌む。

銀杏《ぎんあん[やぶちゃん注:ママ。]》 鰻-鱺(うなぎ)を忌む。

-魚《ふな》 芥《からし》の末《まつ》・蒜《にんにく》・餹《さたう》・雞《にはとり》・雉を忌む。

楊梅(やまもゝのみ) 生《なま》≪の≫葱《ねぎ》を忌む。

魚鮓(《うを》のすし) 豆-藿(まめのは)・麥-醬(しやうゆ)・蒜《にんにく》・緑豆《りよくたう》を忌む。

慈姑(くわい) 茱萸(ぐみ)を忌む。

河豚(ふくとう[やぶちゃん注:江戸時代のフグの呼称の一つ。]) 煤-炲(すす)・荊芥《けいがい》・防風《ばうふう》・菊花《きくくわ》・桔梗《ききやう》・甘草《かんざう》・烏頭《うず》・附子《ぶす》を忌む。

 

△按ずるに、今≪の≫人、鷄𮌇《けいにく》を食し、多《おほく》、葱《ねぎ》・蒜《にんにく》を入《いれ》て、臛(にもの)と爲《なし》、呼んで、「南蠻煑《なんばんに》」と名《なづ》く。

 又、鯽-鱠《ふなのなます》を食≪ふと≫、胡-葱(あさつき)・蒜《にんにく》を芥-醋《からしず》を和《まぜる》者、有《あり》。

 又、野-鴨(かも)の臛《あつもの》を食≪ふに≫、木耳《きくらげ》・椎茸の類《たぐゐ》を入《いれる》者、有り、呼《よん》で、「𤎅鳥(いりとり)」と名《なづ》く。

 「本草≪綱目≫」に、所謂《いはゆ》る、『鯽《ふな》と芥菜《からしな》を同《おなじく》食へば、腫疾《しゆしつ》を成《しやう》ず』、『雞《にはとり》と生葱《なまのねぎ》を同《おなじく》食へば、蟲痔《ちゆうじ》と成《な》る』と云《いふ》[やぶちゃん注:「云」は送り仮名にある。]。然《しか》れば、則《すなはち》、急に≪は≫、害、有らずと雖も、好んで、之れを食ふは、甚《はなはだ》、不可なり。

相傳《あひつた》ふ、「蕎麥《そば》と西瓜《すいか》と、同食すれば、煩悶して、多《おほく》、死に至る。」≪と≫。又、「鰻鱺《うなぎ》を醋《す》に浸《ひた》せば、乃《すなはち》、鰻鱺、腹≪の≫中に膨張す。」≪と≫。故《ゆゑ》、人をして煩悶せしむなり。蓋し、西瓜は、「水《すい》」[やぶちゃん注:五行の「水」であるので、音で読んだ。]に似て、速《すみや》かに、降《くだ》る。故《ゆゑ》、西瓜を先にし、蕎麥を後にする時は[やぶちゃん注:「時」は送り仮名にある。]、則《すなはち》、害、無きか。今の人毎《ごと》に、鰻鱺に《✕→を》炙《あぶ》り[やぶちゃん注:一・二点はないが、脱落と断じて、返して訓読した。]、蓼醋(たです)を合《あはし》て、之≪れを≫食へども、亦、害、無し。≪但し、≫多《おほく》食へば、則《すなはち》、必《かならず》、人を損ず。死に至《いたる》者、之《これ》、有《あり》。

 

[やぶちゃん注:「牛・馬《むま》・羊・犬のごときは、本朝の人、食≪せ≫ず。」本邦では、永く、農耕に使うもの、家畜、及び、縄文以降、猟犬としていた犬(縄文人は亡くなった犬を丁重に埋葬している。これを最初に発見したのは、父が石器・土器研究を直接に指導して下さった考古学者酒詰仲男先生である。先生については、私のサイト「鬼火」のホームページに、『落葉籠――昭和22(1947)年群馬県多野郡神流川流域縄文遺跡調査行ドキュメント――日本考古学の「種蒔く人」酒詰仲男先生の思い出に藪野豊昭(画像附word文書 18MB)』があり、先生は、詩人でもあられ、同じ場所に『土岐仲男詩集「人」 附やぶちゃん注』もあるので、是非、読まれたい。)等は、基本、一般人の食の対象ではなかった(古代から野生の鹿・猪は普通に食された。また、武士が台頭してくると、彼らの間で「珍味」として好んで食われた事実はある)。特に仏教伝来以後、殺生戒によって忌避されるようになった。但し、江戸時代まで、「藥食ひ」と称して、一般庶民が獣肉を食うことがあったことは御存知であろう。ウィキの「日本の獣肉食の歴史」は、問題なく、細部も、よく書けている方なので、見られたい。なお、「馬《むま》」の訓は、「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 野馬(やまむま) (モウコノウマ或いはウマ)」の読みを採った。

「鯉」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の冒頭の「鯉」を見られたいが、これは、初版が二〇〇七年で、実は、二〇〇八年に馬渕浩司氏が、論文「mtDNA 解析により暴かれたコイ外来系統の隠れた大規模侵略」によって、日本在来コイと、大陸由来のコイがいることが明らかになった。詳しくは、「国立環境研究所」公式サイト内の馬渕先生の「DNAが語る日本のコイの物語 特集 日本の自然共生とグローバルな視点 【研究ノート】」を見られたい。

「野-雞(きじ)」中国と本邦では、種が異なる。「和漢三才圖會第四十二 原禽類 野鷄(きじ きぎす)」の私の冒頭注を参照されたい。

「沙餹」砂糖に同じ。

「鯽魚」「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の「鯉」の次の「鮒 ふな」を見られたい。但し、フナ属の分類は非常に難しいことが知られており、そこでは、総てをリストしていないので、取り敢えず、ウィキの「フナ」をリンクさせておく。日中で同一種ではないかとされる種、日本固有種、及び、中国・日本には自然棲息はしない条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科コイ亜科フナ属ヨーロッパブナ Carassius carassius(但し、中国のフナ養殖では大半が本種である)がいる。

「鮎魚《なまづ》」「和漢三才圖會 卷第五十 魚類 河湖無鱗魚」の冒頭の「鮎 なまづ」、及び、以下に続く各種で、散々ぱら、問題にしたが、知られた「瓢鮎圖」で知られる通り、

中国では――「鮎」及び「鮧」は――ナマズ目ナマズ科 Siluridae のナマズを指す

のである。

「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり、アカザ科のアリタソウとは全く別の物である』とある。

「橘《いつ》」何度も注してきたが、「卷第八十七 山果類 橘」の注で言った通りで、「橘」は中古・近世までの中国では、双子葉植物綱ムクロジ(無患子)目ミカン科ミカン亜科ミカン連ミカン亜連ミカン属 Citrus 、或いは、その上位のタクソンに含まれる、広義のミカン類を総称するものであって、特定種に限定することは出来ないのである。なお、これを和名の「たちばな」とやらかしたら、一発退場なのだ。ミカン属タチバナ(橘) Citrus tachibana日本固有種だからである。

「軟-棗」「卷第八十六 果部 五果類 棗」を見られたい。音の歴史的仮名遣では「カンサウ」ではあるが、如何にも佶屈聱牙なので、特異的に訓じた。

「木耳(きくらげ)」菌界担子菌門真正担子菌綱キクラゲ目キクラゲ科キクラゲ属キクラゲ Auricularia auricula-judae当該ウィキによれば、学名の『属名はラテン語の「耳介」に由来する。種小名は「ユダの耳」を意味し、ユダが首を吊ったニワトコ』(マツムシソウ目レンプクソウ科ニワトコ属セイヨウニワトコ Sambucus nigra であろう)『の木からこのキノコが生えたという伝承に基づく。英語でも同様に「ユダヤ人の耳」を意味するJew's earという。この伝承もあってヨーロッパではあまり食用にしていない』とある)。既に述べたが、種小名は差別学名の臭いが濃厚で、私は変更すべきものと考えている。

「芥子(からしのこ)」フウチョウソウ(風蝶草)目アブラナ目アブラナ科アブラナ属セイヨウカラシナ変種カラシナ Brassica juncea var. cernua であるが、この良安の「のこ」のは、思うに草体を乾して粉砕した「粉(こ)」の意であろうと思われる。

「緑豆(ぶんどう)」双子葉植物綱マメ目マメ科マメ亜科ササゲ属ヤエナリ Vigna radiata の種子の名である。「維基百科」の同種は「绿豆」である。要は、我々が食べている「もやし」の種だ! 注することが貧しいので、当該ウィキを引いてお茶を濁しておく(注記号はカットした)。『食品および食品原料として利用される。別名は青小豆(あおあずき)、八重生(やえなり)、文豆(ぶんどう)。英名から「ムング豆」とも呼ばれる。アズキ ( V. angularis ) とは同属。 グリーンピースは別属別種のエンドウ』(マメ亜科エンドウ属エンドウ Pisum sativum )『の種子』。『インド原産で、現在はおもに東アジアから南アジア、アフリカ、南アメリカ、オーストラリアで栽培されている。日本では』十七『世紀頃に栽培の記録がある』。これには、注釈があって、『一時』、『日本では縄文時代にすでに渡来していたといわれていたが、現在では』、『この時代の遺跡からの出土種子はアズキ』(マメ亜科ササゲ属アズキ変種アズキ Vigna angularis var. angularis )『の栽培化初期のものとみなされており、リョクトウの縄文時代栽培は否定されている』とあった)。『ヤエナリは一年生草本、葉は複葉で』三『枚の小葉からなる。花は淡黄色。自殖で結実し、さやは』五~十センチメートル、『黄褐色から黒色で、中に』十~十五個『の種子を持つ。種子は長さが』四~五ミリメートル、『幅が』三~四ミリメートル『の長球形で、一般には緑色であるが』、『黄色、褐色、黒いまだらなどの種類もある』。『日本においては、もやしの原料(種子)として利用されることがほとんどで』、『ほぼ全量を中国(内モンゴル)から輸入している』。『中国では、春雨の原料にする』『ほか、月餅などの甘い餡や、粥、天津煎餅のような料理の材料としても食べられる。北京独特の飲料としてリョクトウからデンプンを採る際の上澄みを原料に、これを発酵させた豆汁がある』。中国の『凉粉』(りょうふん:北京の夏のおやつで、緑豆で作った「ところてん」状のものを切って、その上に酢・ニンニク・ゴマのペースト・醬油などをまぶして食べるもの)『の原料にも使われる』。『朝鮮半島では』十六『世紀前半の』韓国最古の調理書「需雲雜方」に、『リョクトウのデンプンを水溶きして加熱し、これを孔をあけたヒョウタンの殻に入れて、孔から熱湯にたらし麺状にして水にさらす食品が記載されている』。一六七〇『年頃の』朝鮮時代の張桂香撰になる料理書「飮食知味方」『では、同様な製法で麻糸のようにした食品を匙麺(サミョン)として記している。また、伝統的にリョクトウデンプンはネンミョンのつなぎとして利用されていた。 咸鏡道ではリョクトウのデンプンのみを使った』「押しだし麺」『がある。中国と同様に餡にするほか、水に漬けた上ですり潰したものを生地としてチヂミの一種ピンデトッにしたり、デンプンを漉しとってムㇰという寄せものにする。リョクトウから作ったムㇰをノクトゥムㇰ(ノクトゥ=緑豆)と呼び、特にクチナシの実で着色したものをファンポムㇰ、着色しないものをチョンポムㇰと呼ぶ。なお、朝鮮語ではこのリョクトウにちなんで、デンプンのことを一般的に「ノンマル」(녹말=綠末、「緑豆粉末」の略)と呼ぶ』。『香港やシンガポール、ベトナムでは、甘く煮て汁粉の様なデザート(広東料理の糖水、ベトナムのチェーなど)にすることが多く、それを冷やし固めたようなアイスキャンディーもある。リョクトウの糖水を緑豆湯または緑豆沙、リョクトウのチェーをチェー・ダウ・サイン(Chè đậu xanh)と呼ぶ』。『緑豆糕(りょくとうこう)と呼ばれる、木型に入れて成形した菓子は、ベトナムのハイズオン』(ここ。グーグル・マップ・データ)『や中国の北京、桂林などの名物となっている』。『インドやネパール、アフガニスタン、パキスタンでは、去皮して二つに割ったリョクトウをダール(豆を煮たペースト)にする。リョクトウと米を炊きあわせた米料理(キチュリなど)は、南アジアから中央アジアにかけて広く食べられている。南インドでは、ドーサに似たクレープ状の軽食ペサラットゥ』『が作られる』。『また、漢方薬のひとつとして、解熱、解毒、消炎作用があるとされる』。『リョクトウには、血糖値の上昇を抑制する効果のあるα-グルコシダーゼ阻害作用がある』とある。糖尿病歴十年になんなんとする私だから、せいぜい、「もやし」、食うかな。

「榧《かや》の子《みを》忌む。人≪を≫殺《ころす》」これは、「卷第八十八 夷果類 榧」にも記されてあるのだが、その時も調べたが、人を殺すまでの有毒性を持っているとする記載は何処にも見当たらなかった。しかし、例えば、貝原益軒の「養生訓」の「巻第一 總論 上」に、『○綠豆(ぶんどう)に榧子(かや)を食し合(あは)すれば人を殺す。』とあり、直ぐ後にも、『○和俗の云(いふ)、蕨粉(わらびこ)を餠とし、綠豆を「あん」にして食へば、人、殺す。』とあるので、よっぽど、「緑豆」には「食い合わせ」の最悪の限定反応性毒性があるものと考えられていたらしいなぁ……わけワカメだけど……。

「鯉--鮓《こひのすし》」これは、強い酢でシメたものである。以下、「鮓」は同じ。老婆心乍ら、ゆめゆめ、日本の寿司を想起されぬように。

「乾笋《めんま》」日中辞典で「干笋」を見て読み振った。所謂、「メンマ」は、ミャンマー(ビルマ)北部から中華人民共和国南部や台湾にかけて分布する単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科タケ連属マチク(麻竹)属マチクDendrocalamus latiflorus の筍(たけのこ)から作る。

「鱘魚《てふざめ》」東洋文庫訳では『かじき』とルビしてあるが、私は、完全な誤りであると断ずる。確かに、「和漢三才圖會 卷第五十一 魚類 江海無鱗魚」の「鱘 かぢとをし)」では、目録のヘッドでは、『[ハシナガチョウザメ/カジキ]』とは、した。しかし、私は、

『「本草綱目」の著者李時珍は、殆んど海辺に出向いて、海洋性魚類の観察なんぞは、全くしていなんだぞ? しかも、カジキだぞ!?! 俺は海洋生物フリークだけど、カジキの魚体の生体さえ、見たこと、ないんだぞ? おかしかねえか!?! そもそも、中国の圧倒的立地性は内陸なんだ! こいつは、海性魚類じゃねえんじゃないか? そもそも、この巻は「無鱗魚」だぞ? ヘンだべ!!!――鱗あるけど、ないようにも見える淡水魚!――いるぞ! いるぞッツ!――チョウザメだよ!

と気づいたのだ!

以下、私が、そちらの注で述べた決定打を引く。

   *

これについては、本ページを読まれた「釜石キャビア株式会社」というところで、チョウザメに係わるお仕事に従事しておられるY氏から、二〇〇八年六月六日、この「かじとうし」の絵は、長江に生息するハシナガチョウザメであると考えらるというメールを頂戴した(リンク先は私のブログ記事)。以下に、メール本文の一部を引用する。 

   ◇〔引用開始〕

「かじとうし」の絵、長江に生息します、ハシナガチョウザメと考えられます。チョウザメの仲間の中では特異な姿をしており、口に歯がはえております(チョウザメ類には歯が無い)。現在、長江でも絶滅したと考えられ、わずかな尾数を中国政府が保護飼育しております。添付図は中国のハシナガチョウザメの切手でございます。

China23

   ◇〔引用終了〕

私は本ページで「鱣」・「鱘」・「鮪」にチョウザメの影を感じてきてはいたのであったが、メールを頂いた当初は、これは良安がオリジナルに描いたのだから、幾ら何でも当然、海産のスズキ目メカジキ科 Xiphiidae 及びマカジキ科 Istiophoridae の二科に属する魚(カジキマグロとは通称で正式和名ではない)の絵であるだろうと思っていたのだが、そのように言われて、よく見ると、これは時珍の「本草綱目」の「鱘魚」の叙述に従って、頬に星の模様まで入れて描いた想像図、カジキの実見描画ではなかったのである。これは、もう、間違いなく、Y氏の指摘された、英名“ Chinese swordfish ”、硬骨魚綱条鰭亜綱軟質区チョウザメ目ヘラチョウザメ科ハシナガチョウザメ属の異形種であるハシナガチョウザメ(古くはシナヘラチョウザメと呼称した) Psephurus gladius の叙述と考えてよい。Y氏から提供して戴いた中国切手の画像も以下に示す。まさにチョウ! 極似じゃないか!

私は、何時か、このY氏を釜石に訪ねし、親しくお逢いしたく思っていた。しかし、二〇一一年の大震災で被災され、ネットで調べても、「釜石キャビア株式会社」はサイトがなくなっていた。痛恨の極みであった。どこかで、再起され、チョウザメを飼育されておられることを心から祈っている……。

   *

この経験は、当時の私にとって、最大の自信となったのだ。実際、私の以上の記載は、後に、さる学術論文に引用されたのである。私がデジタル・クリエーターとしての本当の一歩は、芥川龍之介ではなく、この引用だったのだと、今、思い至ったのであった。

「莧-菜(ひゆ≪な≫)」既注だが再掲すると、「莧」の音は「カン」。これは、

双子葉植物綱ナデシコ目ヒユ科 Amaranthaceae 、及び、その近縁種の総称

である。食用になる。中でもよく知られるものに、私の家の庭にもある、

ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属スベリヒユ Portulaca oleracea

がある。夏に全草を採って根を除き、水洗いして日干し乾燥したものは生薬になり、馬歯莧(ばしけん)と称されている。民間薬として、解熱・解毒・利尿や、虫刺されに効用があるとされる。

「楊梅(やまもゝのみ)」「卷第八十七 山果類 楊梅」を見よ。

「豆-藿(まめのは)」この熟語は広く、「豆の葉」の意の他に、「藿」が「藿香」(カッコウ)というシソ科の多年草を基原とする漢方の意味がある。後者は既に「藥品(1)」で詳注してあるが、「豆」と頭につけているので、後者とはうまく合わないから、前者の「食用とするマメ科の葉」の一般通称と採ってよい。

「慈姑(くわい)」これは、一言では言えない。良安が具体な植物体を致命的に同定誤認しているからである。「卷第九十一 水果類 慈姑」の迂遠な私の注を見られたい。

「茱萸(ぐみ)」これも、ちと、厄介。バラ目グミ科グミ属 Elaeagnus のグミ類ではないからである。「第八十九 味果類 蜀椒」の「茱萸《しゆゆ》」の私の注を、必ず、見られたい。

「河豚(ふくとう)」現代中国語ではイルカをも指すが、ここは、フグでよい。

「煤-炲(すす)」中国語で、「煤」(すす)、「煙の中に含まれる黒い微粒子」の意。

「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。

「防風」セリ目セリ科ボウフウ属ボウフウ Saposhnikovia divaricata の根及び根茎を乾燥させた生薬名。但し、本種は中国原産で本邦には自生はしない。

「烏頭」「烏頭」は猛毒で知られるモクレン亜綱キンポウゲ(金鳳花)目キンポウゲ科トリカブト(鳥兜・草鳥頭)属 Aconitum を指す。種にもよるが、致命的な毒性を持ち、狩猟や薬用に利用されてきた歴史がある。

「附子」何度も注しているが、再掲する。「鳥頭」(うず)と同義。トリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。猛毒であるが、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。

『「本草≪綱目≫」に、所謂《いはゆ》る、『鯽《ふな》と芥菜《からしな》を同《おなじく》食へば、腫疾《しゆしつ》を成《しやう》ず』、『雞《にはとり》と生葱《なまのねぎ》を同《おなじく》食へば、蟲痔《ちゆうじ》と成《な》る』と云《いふ》』前者は、「維基文庫」の「菜之一」の「芥」の項の「莖葉」の「【氣味】」の最後に、『思邈曰:同兔肉食,成惡邪病。同鯽魚食,發水腫。』とあり、後者は、「維基文庫」の「禽部」の「禽之二」の冒頭の「雞」の「諸雞肉氣味食忌」の最後に、『弘景曰︰小兒五歲以下食雞生蛔蟲。雞肉不可合葫蒜、芥、李食,不可合犬肝、犬腎食,並令人泄痢。同兔食成痢,同魚汁食成心瘕,同鯉魚食成癰癤,同獺肉食成遁尸,同生蔥食成蟲痔,同糯米食生蛔蟲。』とあるのが、それである。]

2025/12/01

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(13) 服藥食忌

[やぶちゃん注:以下、早稲田大学図書館「古典総合データベース」で見て貰うと判る通り、原本標題の割注は一字空白で、本文は、最後の一行を除いて、第一部が二段、第二段が四段体裁で、その間が有意に空いて下方の一部は横に並べてあるのであるが、無駄に空けると、ブラウザの不具合が生じるので、実際には、内容は続いていることからも一字空けとし、訓読では引き上げて、独立の一文とした。

 本篇は、特定の服薬をするに際し、患者が食べてはいけない禁忌となる食物を記したものである。]

 

  服藥食忌【如羊犬狸𮌇者本朝人嘗不食故忌之藥省不記之】

[やぶちゃん注:「羊」は「グリフウィキ」のこの異体字の、上部が「ハ」の字形のものだが、表示出来ないので、通用字を用いた。「𮌇」は「肉」の異体字。]

有白朮蒼朮 勿食桃李雀𮌇胡荽大蒜青魚鮓等物

[やぶちゃん注:実は、原本では「白蒼木」となっているのだが、これは、以上の通り、「白朮蒼朮」の誤りである。恐らく良安の誤りではなく、版元の誤刻である。特異的に訂した。

有荊芥   勿食河豚及一切無鱗魚蟹

有天門冬紫蘓丹砂龍骨 忌鯉魚

[やぶちゃん注:「蘓」の字は「グリフウィキ」のこの異体字であるが、表示出来ないので、通用字を用いた。同じく、「鯉」の(へん)の「魚」が「𩵋」であるが、表示出来ないので通用字を用いた。]

有黃連桔梗鳥梅胡黃連 忌猪𮌇

有土荻苓威靈仙 忌麪及茶

有茯苓茯神丹參 忌醋及一切酸

有地黃何首烏 忌蘿蔔葱


有常山 勿食生葱生菜

有甘草 勿食菘菜海藻

有巴豆 勿食野猪𮌇

有半夏菖蒲 勿食飴糖

有牡丹 勿食蒜胡荽

有厚朴蓖麻 勿食炒豆

有當歸 勿食濕麪

有薄荷 勿食鼈𮌇

有鼈甲 勿食莧菜

有檳榔 勿食橙橘

 凡服藥不可多食生蒜胡菜生葱諸果油膩物

 

   *

 

  服藥《ふくやく》≪の≫食忌《しよくき》【羊・犬・狸≪の≫𮌇ごときは、本朝《ほんてう》の人、嘗(もとよ)り、食はず。故《ゆゑ》、之を忌《い》む藥は、省(はぶ)きて。之を記《しる》さず。】

白朮《びやくじゆつ》・蒼朮《さうじゆつ》、有らば、桃李《たうり》・雀≪の≫𮌇・胡荽《こずい》・大蒜《おほひる》・青魚《さば》≪の≫鮓《すし》等の物を食ふ勿《なか》れ。

荊芥《けいがい》、有らば、河豚《ふぐ》、及《および》、一切≪の≫無鱗魚・蟹《かに》を食ふ勿れ。

天門冬《てんもんどう》・紫蘓《しそ》・丹砂《たんしや》・龍骨《りゆうこつ》、有らば、 鯉魚《こい》を忌《い》む。

黃連《わうれん》・桔梗《ききやう》・烏梅《うばい》・胡黃連《こわうれん》、有らば、 猪《ゐのしし》の𮌇を忌む。

土茯苓《どぶくりやう》・威靈仙《いれいせん》、有らば、麪《めん》、及≪び≫、茶を忌む。

茯苓・茯神《ぶくじん》・丹參《たんじん》、有らば、醋《す》、及《および》、一切の酸《さん》を忌む。

地黃《ぢわう》・何首烏《かしゆう》、有らば、蘿蔔《すずしろ/だいこん》・葱《ひともじ/ねぎ》を忌む。


常山《じやうざん》、有らば、生葱《なまねぎ》・生菜《なまな》を食ふ勿れ。

甘草《かんざう》、有らば、菘菜・海藻を食ふ勿れ。

巴豆《はづ》、有らば、野-猪(ゐのしゝ)の𮌇を食ふ勿れ。

半夏《はんげ》・菖蒲《しやうぶ》、有らば、飴-糖(あめ)を食ふ勿れ。

牡丹、有らば、蒜《にんいく》・胡荽《こずい》を食ふ勿れ。

厚朴《こうぼく》・蓖麻(たうごま)、有れば、炒豆《いりまめ》を食ふ勿れ。

當歸《たうき》、有れば、濕《しめ》≪れる≫麪《めん》を食ふ勿れ。

薄荷《はつか》、有れば、鼈-𮌇(すつぽんの《にく》)を食ふ勿れ。

鼈甲《べつかう》、有れば、莧-菜(ひゆ)を食ふ勿れ。

檳榔《びんらう》、有れば、橙(だいだい)・橘(みかん)を食ふ勿れ。

 凡《およそ》、服藥≪せる時は≫、生蒜《なまにんいく》・胡菜《こさい》・生葱《なまねぎ》・諸果・油膩物(あぶらけ《もの》)を多食《おほくくら》ふべからず。

 

[やぶちゃん注:「白朮」キク目キク科オケラ属オケラ Atractylodes japonica 、或いは、オオバオケラ Atractylodes ovataの根茎を基原植物とし、一般には、健胃・利尿効果があるとされるが、実際には、これらの根茎を、作用させる異なる器官(無論、漢方の)の疾患に、臨機応変に用いているようである。

「蒼朮」「日本漢方生薬製剤協会」の「ソウジュツ (蒼朮)」に、基原は、中国産のホソバオケラ Atractylodes lancea 、又は、それらの雑種 (キク科 Compositae) の根茎で、健胃消化薬・止瀉整腸薬・利尿薬・鎮暈薬・滋養強壮保健薬・鎮痛薬と見做される処方、及び、その他の処方に、比較的、高頻度で配合されている、とあった。

「桃李」良安は「和漢三才圖會卷第八十六 果部 五果類 李」で文末に出る「桃李」に「ツハイモモ」とルビを振っている。双子葉植物綱バラ目バラ科サクラ亜科モモ属モモ変種(突然変異)ズバイモモ Amygdalus persica var. nectarina で、ネクタリンの標準和名であり、日中共通である。

「胡荽」「卷第八十四 灌木類 牡荊」の「胡妥子《こすいし》」を見られたい。これは「本草綱目」でもこの漢字になっているが、これは、原書自体の誤りで「胡荽子(コスイシ)」が正しい。今や、食材・香辛料として英語の「コリアンダー」(corianderですっかりメジャーになった、セリ目セリ科コエンドロ属コエンドロ Coriandrum sativum の成熟果実である。「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 胡荽子(コズイシ)」に拠れば、『『嘉祐本草』には全草の薬効として「穀物を消化し、五臓を治し、不足を補い、大小腸を利し、小腹の気を通じ、四肢の熱を抜き、頭痛を止め、痧疹(発疹の類)を療ず。豌豆瘡の出ぬものは酒にして飲めばたちどころに出る。心竅に通ずるものだ。久しく食すれば人をして多くを忘れさす」と記載されています。『本草綱目』では果実、すなわち胡荽子の薬効として「痘疹を発し、魚腥を殺す」と記載されています。実際、胡荽子は健胃、発表薬として消化不良、麻疹が発透せず不快なときなどに用いるようです。また歯痛には煎じ液で含嗽したり、痔瘡脱肛には焼いて患部を燻すとされています。』と薬効を記す。

「大蒜」ニンニク。

「青魚」本邦では単に「さば」と呼ぶ場合は、スズキ目サバ科サバサバ亜科属マサバ Scomber japonicus、或いは、サバ属ゴマサバ Scomber australasicus を指す。私の「大和本草卷之十三 魚之下 鯖(さば)」を見られたい。

「荊芥」「薑芥(きやうがい)」とも。中国の本草書「神農本草経」(「鼠實」)や東洋文庫訳の割注(「めづみ草」)によれば、シソ目シソ科イヌハッカ属ケイガイ Schizonepeta tenuifolia のこととなる。ウィキの「ケイガイ」によれば、『薬用植物』とし、『中国原産の草本で花期は初夏から夏』。『花穂は発汗、解熱、鎮痛、止血作用などがあり、日本薬局方に生薬「荊芥(ケイガイ)」として収録されている。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)などの漢方方剤に配合される。「アリタソウ」という別名がある。ただし、本種はシソ科であり、アカザ科のアリタソウとは全く別の物である』とある。

「天門冬」「藥品(11) 製法毋輕忽」の「「天≪門冬《てんもんどう》≫」の私の注を見られたい。

「紫蘓《しそ》」シソ目シソ科シソ属エゴマ(荏胡麻)変種シソ Perilla frutescens var. crispa サイト「脂育研究所」の「しそが漢方に用いられる理由。どんな漢方に配合されているかを解説」に拠れば、『漢方での生薬名は、「蘇葉(そよう)」、もしくは「紫蘇葉(しそよう)」です。また、しその種を用いた生薬を「紫蘇子(しそし)」といいます』とし、『蘇葉、または紫蘇葉、紫蘇子には、発汗作用や解熱作用、胃液の分泌を良くして胃腸の働きを整える作用、魚介類による食中毒時の解毒・予防などが期待されています』。『そのため、風邪の症状や胃腸の不調などの症状に良いとされる漢方薬に広く用いられています』とあった。

「丹砂」「辰砂」「朱砂」に同じ。水銀と硫黄とからなる鉱物。深紅色又は褐赤色で、塊状・粒状で産出する。水銀製造の原料、また、赤色顔料の主要材料とされる。漢方では、消炎・鎮静薬などに用いる。

「龍骨」「藥品(1)」の、私の「死龍骨」の注を見られたい。

「鯉魚」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十八 魚類 河湖有鱗魚」の冒頭の「鯉」を見られたい。

「黃連」キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica の髭根を殆んど除いた根茎を乾燥させたもの。

「桔梗」「きちかう(きちこう)」とも読む。ここは生薬名で「桔梗根」とも称する。キク目キキョウ科キキョウ属キキョウ Platycodon grandiflorus の根でサポニン(saponin)を多く含み、去痰・鎮咳・鎮痛・鎮静・解熱作用があるとされる。

「烏梅」これは、梅の木ではなく、梅の実を加工した漢方生薬名である。「卷第八十六 果部 五果類 梅」の私の注を見られたい。

「胡黃連」高山性多年草の、シソ目ゴマノハグサ科コオウレン属コオウレン Picrorhiza kurrooa(ヒマラヤ西部からカシミールに分布)及びPicrorhiza scrophulariiflora(ネパール・チベット・雲南省・四川省に分布)の根茎を乾かしたもの。古代インドからの生薬で、健胃・解熱薬として用い、正倉院の薬物中にも見いだされる。根茎に苦味があり、配糖体ピクロリジン(picrorhizin)を含むものの、薬理効果は不明である。なお、「黃連」があるが、これは小型の多年生草本である、キンポウゲ目キンポウゲ科オウレン属オウレン Coptis japonica 及び同属のトウオウレン Coptis chinensisCoptis deltoidea の根茎を乾燥させたもので、全く異なるものである

「猪」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 野豬(ゐのしし) (イノシシ)」を見られたい。

「土茯苓」中国南部・台湾に自生する多年生草本である単子葉植物綱ユリ目サルトリイバラ科シオデ属ドブクリョウ(土茯苓) Smilax glabra 。但し、その塊茎を乾したものを基原とする漢方生薬は「山帰来」(さんきらい)と言う。私の「譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(21)」の「山歸來」の注を見よ。

「威靈仙」「藥品(3) 名義」の私の「威靈仙《イレイセン》」の注を見られたい。

「茯苓」「卷第八十五 目録(寓木類・苞木(竹之類)・樹竹之用)・茯苓」を見よ。

「茯神」同前を見よ。

「丹參」「藥品(5) 相反」の私の「五參」の注を見よ。

「地黃」先の「藥品(10) 忌銅鐵」で既出既注。

「何首烏」既出だが、再掲する。基原は、タデ目タデ科ツルドクダミ(蕺・蕺草・蕺菜)属ツルドクダミ Reynoutria multiflora の根である。詳しくは、先行する「藥品(4) 有南北土地之異」の「夜合草《よるあひぐさ》」の私の注を見られたい。

「常山」「藥品(3) 名義」で既出既注。

「甘草」既注だが、再掲する。マメ目マメ科マメ亜科カンゾウ属 Glycyrrhiza当該ウィキによれば、『漢方薬に広範囲にわたって用いられる生薬であり、日本国内で発売されている漢方薬の約』七『割に用いられている』とある。

「菘菜」東洋文庫では、『とうな』とルビする。実は、「卷第八十四 灌木類 南天燭」(2024年9月8日公開)の注では、未詳としていたのだが、そこで候補として掲げた種が、誤っていたので、全面削除し、先ほど、新たに調べ、書き変えた。「漢字ペディア」の「菘」に、『すずな。カブ(蕪)の古名。春の七草の一つ。 とうな(唐菜)。野菜の名。つけな。』とあった。さても、この場合は、植物体ではなく、禁忌食品と採れるので、の義を採用する。

「巴豆」「卷第八十三 喬木類 巴豆」の私の注を見られたい。

「半夏」単子葉植物綱ヤシ亜綱サトイモ目サトイモ科ハンゲ属カラスビシャク(烏柄杓)Pinellia ternata のコルク層を除いた塊茎。嘔気や嘔吐によく使われる生薬である。私の「耳囊 卷之七 咳の藥の事」も参照されたい。

「菖蒲」「藥品(8) 忌鐵」を見られたい。

「飴-糖(あめ)」飴。

「牡丹」中国の花の王、ユキノシタ目ボタン科ボタン属ボタン Paeonia suffruticosa 。基原は同種の根皮で、漢方では「牡丹皮」(ボタンピ)と称する。後の「第九十三」で注することになるので、ここでは、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 牡丹皮(ボタンピ)」をリンクするに留める。

「厚朴」」「卷第八十三 喬木類 厚朴」を見よ。

「蓖麻(たうごま)」トウダイグサ目トウダイグサ科トウゴマ(唐胡麻)Ricinus communis 。詳しくは、「卷第八十三 喬木類 相思子」の私の注を参照されたい。

「當歸」知られた生薬名。基原は、被子植物門双子葉植物綱セリ目セリ科シシウド属トウキ Angelica acutiloba の根、或いは、ホッカイトウキ Angelica acutiloba var. sugiyamae の根を、通例では、湯通しし、乾燥したものである。

「薄荷」シソ目シソ科ハッカ属 Mentha の類。種は多い。当該ウィキ「ミント」を見られたい。

「鼈」私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」の「鼈(すつほん) かはかめ [シナスッポン/ニホンスッポン]」を見られたい。

「鼈甲」「藥品(5) 藥七情」の「龜甲」の私の注の引用の中で、明らかにされている。

「莧-菜(ひゆ)」「莧」の音は「カン」。これは、

双子葉植物綱ナデシコ目ヒユ科 Amaranthaceae 、及び、その近縁種の総称

である。食用になる。中でもよく知られるものに、私の家の庭にもある、

ナデシコ目スベリヒユ科スベリヒユ属スベリヒユ Portulaca oleracea

がある。夏に全草を採って根を除き、水洗いして日干し乾燥したものは生薬になり、馬歯莧(ばしけん)と称されている。民間薬として、解熱・解毒・利尿や、虫刺されに効用があるとされる。

「檳榔」「卷第八十八 夷果類 檳榔子」を参照されたい。]

2025/11/23

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(11) 製法毋輕忽

[やぶちゃん注:以下、一本を除いて、原本本文は二段体裁であるが、ブラウザの不具合を考え、一段とした。但し、中には、明らかに前の謂いに続いて述べている箇所があり、訓読では、それは繋げた。]

 

   製法毋輕忽

 

芫花本利水無醋不能通

菉豆本解毒帶殼不見功

草菓消膨効連壳反脹胸

[やぶちゃん注:「壳」は「殼」の異体字。原本では「グリフウィキ」のこれに近いが、完全一せず(七画目の水平の頭部が完全に左右に突き出て「兀」の形になってしまっている)、それも表示出来ないので、これで示した。]

黑丑生利水遠志苗毒逢

蒲黃生通血熟補血運通

地榆醫血藥連稍不住紅

[やぶちゃん注:この「稍」は文脈から、「梢」の誤刻と判断されるので、訓読では訂した。]

陳皮専理氣連白補胃中

附子救陰藥生用走皮風

草烏解風痺生用使人䝉

[やぶちゃん注:「䝉」は「蒙」(フライングしておくと、この場合は「愚か」の意)の異体字。原本では、「グリフウィキ」のこれだが、表示出来ないので、かく、した。]


人言燒過用諸石火煆紅而入醋能爲末製度必須工

當歸頭止血尾破血

麻黃身發汗根止汗

𮔉成於蜂𮔉温而蜂寒

油生於麻麻温而油寒

穀屬金而糠之性熱

麥屬陽而麩之性凉

山茱萸補腎固精元

其核滑精故須去核


猪苓茯苓厚朴桑白皮之類

不去皮耗人元氣

栢子火麻益智草菓之類

不去皮令人心痞

人參桔梗常山之類

不去苗蘆令人嘔吐

[やぶちゃん注:「蘆」は「グリフウィキ」のこの異体字であるが、表示出来ないので、かく、した。]

遠志巴戟門冬蓮子烏藥之類

不去心令人煩燥

知母桑白皮天麥門冬地黃何首烏

犯鐵必患三消

 

   *

 

   製法(せいはう)、輕-忽(ゆるが)せにすること、毋(なか)れ。

 

芫花《げんくわ》は、本《も》と、水《すい》を利す。醋《す》、無《なき》には、通《つう》すること、能はず。

[やぶちゃん注:「水《すい》」東洋文庫訳では、ルビを振らない。恐らく「みず」と読ませている。しかし、後の部分で、明らかに五行思想の他の五元素を示す下りがあるから、ここは私は、「みづ」ではなく、「すい」で読むべきと考える。中医学で言う「水気」である。

菉豆《ぶんどう》の《✕→は》、本《も》と、毒を解《かい》す。≪然れども、≫殼《から》を帶《おび》れば、功《こう》を見ず。

草菓《さうくわ》は、≪腹部の≫膨《ふくれ》を消《しやう》する効あり。≪然れども、≫壳《から》を連《つる》れば、反《かへり》て、脹-胸《ちやうきよう》す。

黑丑(くろけんごし)、生《なま》は、水《すい》を利《りす》。

遠志《をんじ》の苗《なへ》≪は≫、毒に逢を《✕→ふ》。

蒲黃《ほかう》の生《なま》は、血を通じ、熟《じゆくせ》ば、血を補《おぎなひ》て、運《めぐり》≪を≫通《つう》ず。

地榆《ぢゆ》は、血を醫《いや》する藥《やく》≪なり≫。≪然れども、≫梢《こずゑ》を連《つら》≪ねては≫、紅《べに》[やぶちゃん注:「血液」の意。]を住《ぢゆう》せず[やぶちゃん注:この「住」は「留(とど)まる・止める」の意で、「出血を止めることは出来ない・止血することは不可能である」の意。]。

陳皮《ちんぴ》は、専《もつぱ》ら、氣《き》を理(をさ)む。白《しろ》みを連《つらな》れば、胃中《いちゆう》を補ふ。

附子《ぶし》は、陰《いん》を救《すく》ふ藥《やく》≪なり≫。生《なま》にて用《もちひ》れば[やぶちゃん注:送り仮名がスレているので、推測で訓じた。]、皮風《ひふう》を走る。

草烏《さうう》は、風痺《ふうひ》を解《かい》す。生《なま》にて用《もちふ》れば、人をして、䝉《おろか》ならしむ[やぶちゃん注:愚鈍にさせる。]。


人言(ひさうせき)[やぶちゃん注:「砒霜石」。]は、燒過《しやうくわ》[やぶちゃん注:十二分に焼灼(しょうしゃく)すること。]して用ふ。諸石《しよせき》は、火《ひ》を紅《くれなゐ》にして、煆《か》して[やぶちゃん注:真っ赤になるまで炙って乾かす。]、醋《す》に入れて、能《よく》、末《まつ》と爲《な》して、製《せい》≪する≫度《ど/ほどあひ》≪は≫、必《かならず》、須《すべか》らく、工《たくみ》にすべし。

[やぶちゃん注:「諸石」は、東洋文庫訳でも、そのまま「諸石」なのだが、とすれば、「もろもろの薬用にする鉱石類総て」の意となるが、どうも私には納得出来ないものを感じるのである。例えば、漢方では、磨り潰して、熱を加えずに、ただ磨り潰して用いるとする鉱物は多く存在するし、強烈に焼灼してしまうと本来の薬効物質が破壊されてしまう鉱物も存在するからである。一応、あるままに訓読したが、私は別な特定の鉱物薬剤の誤字・脱字の可能性を後の注で示しておく。

當歸《たうき》≪の根≫の頭《かしら》[やぶちゃん注:太い部分。]、血を止め、尾《を》[やぶちゃん注:根の細い先の部分。]は、血を破《やぶ》る[やぶちゃん注:東洋文庫訳では、『血の』鬱滞した『流れを順調にする』とある。]。

麻黃《まわう》[やぶちゃん注:基原は同種の地上茎である。]の身《み》は、汗を發し、根は[やぶちゃん注:地上茎の最下方にある鬚根か。]、汗を止《と》む。

𮔉《みつ》は、蜂《はち》より成る。𮔉は、温《おん》にして、蜂は、寒《かん》なり。

油《あぶら》は麻《あさ》より生《しやう》じ、麻は、温にして、油は、寒なり。

穀(こめ)は金《ごん》に屬して、糠(ぬか)の性≪は≫、熱《ねつ》なり。

麥《むぎ》は陽《やう》に屬して、麩(こがす)[やぶちゃん注:原本のルビは『コカス』。小麦の粉を採った残りの滓(かす)で、一般には「ふすま」の読みが知られるが、「こがす・もみじ・からこ」等とも呼ぶ。]の性《しやう》は、凉《りやう》なり。

山茱萸《さんしゆゆ/やまぐみ》は、腎を補い[やぶちゃん注:ママ。]、精《せい》≪の≫元《もと》を固《かたく》す。其《その》核《さね》は、精を滑《なめらか》にす。故《ゆゑ》に、須らく、核を去るべし。


猪苓《ちよれい》・茯苓《ぶくりやう》・厚朴《こうぼく》・桑白皮《さうはくひ》の類≪は≫、皮を去らざれば、人の元氣を耗(へ)らす。

栢子《はくし》・火麻《あさ》[やぶちゃん注:大麻のこと。]・益智《やくち》・草菓《さうくわ》の類《るゐ》≪は≫、皮を去らざれば、人をして、心-痞(むえつかへ[やぶちゃん注:ママ。「胸痞(むねつかへ)」。])せしむ。

人參《にんじん》・桔梗《ききやう》・常山《じやうざん》の類《るゐ》は、苗蘆《びやうろ》[やぶちゃん注:以上の三種の漢方の基原植物は、総てが「根」であるから、地上に出ている「苗」のような葉体部や、ヨシ・アシ(蘆)のような茎部を指していよう。]を去らざれば、人をして嘔吐せしむ。

[やぶちゃん注:「蘆」は「グリフウィキ」のこの異体字であるが、表示出来ないので、かく、した。]

遠志《をんじ》・巴戟《はげき》・門冬《もんとう》[やぶちゃん注:次の条に載る二つの「天門冬」と「麥門冬」を指すのであろう。]・蓮子《はすのみ》・烏藥《うやく》の類《るゐ》≪は≫、心《しん》[やぶちゃん注:「芯」に同じ。]を去らざれば、人をして煩燥《はんさう》せしむ[やぶちゃん注:「煩躁」は漢方用語で「いらいらしてじっとしていられない状態」を指す。]。

知母《ちも》・桑白皮・天≪門冬《てんもんどう》≫・麥門冬・地黃《ぢわう》・何首烏《かしゆう》≪は≫、鐵《くろがね》、犯《をか》せば、必《かならず》、「三消《さんしやう》」を患《わづら》ふ。

 

[やぶちゃん注:「芫花」先行する「藥品(2) 六陳」で既注済み。

「菉豆」は「卷第八十七 山果類 橘」で私が注している。この「ぶんどう」とは、マメ目マメ科マメ亜科ササゲ属ヤエナリ(八重生) Vigna radiata の種子を指す語である。同種の「維基百科」の「綠豆」を見ると、草体自体も「綠豆」である。本邦のウィキには、『アズキ』(小豆)『( V. angularis )とは同属』で、『グリーン』・『ピース』(green peas)『は別属別種のエンドウ』(エンドウ属エンドウ Pisum sativum )『の種子』とあり、『インド原産で、現在はおもに東アジアから南アジア、アフリカ』、『南アメリカ、オーストラリアで栽培されている。日本では』十七『世紀頃に栽培の記録がある』。『日本においては、もやしの原料(種子)として利用されることがほとんどで』、『ほぼ全量を中国(内モンゴル)から輸入している』。『中国では、春雨の原料にする』『ほか、月餅などの甘い餡や、粥、天津煎餅のような料理の材料としても食べられる』とあった。

「草菓」これは「草果(さうか)」が正しい。基原は、本邦には植生しない、

単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ランクサンギア属ソウカ Lanxangia tsaoko の成熟果実を乾燥したもの

である。ウィキの「ソウカ」によれば(注記号はカットした)、『ショウガに似た植物であり、以前はAmomum tsao-ko 』(現在はシノニムとされている)『として知られていた。英語では文字転写された中国語の名称 cao guo(中国語:草果;拼音:cǎoguǒ)と呼ばれる。雲南省の高地やベトナム北部の山岳地方にも生育する。野生植物と栽培植物のどちらも医学的に使われ、料理にも使われる』。因みに、種小名 Tsaoko 『は』、『この植物の雲南省での呼称である』。『ソウカの成熟果実を乾燥したものが』、『カルダモン』(英語:Cardamomcardamoncardamum。正確には、「ブラックカルダモン」に属する。ウィキの「カルダモン」を見られたい)『類生薬「草果」である。小島(1969)によれば、「"草果" の基原植物については Amomum medium Lour.= Alpinia alba A. DIesrHellenia alba Willd.)といい、Amomum costatum Benth. et Hook. といい、あるいはAmomum tsao-ko Crevost et Lemarieともいわれ、いまだ定説がなく、また、いずれのものが正しいか、これを確認することはできない」』とある。以下、「形態」の項。『多年生常緑草本で、高さは2.53メートルに成長する。植物体全てが辛香味を有する。横に伸びる根茎は淡紫紅色で、ショウガのように肥大する。その側面と頂点はピンクである。根茎上の葉芽から直立した茎が出る。茎は深緑色で、基部は紫紅色、円柱形の節がある。一般に、1216片の葉を付ける。葉は2列で、短い柄または無柄である。大きな皮針形の葉は両面とも滑らかで毛はない』。『穂状花序は』、『根茎から出て、球形である。それぞれの穂は螺旋状に配置された60120個の紅色の花を有する』。『楕円形』又は『紡錘形の肉質の蒴果は短果柄を有する。果実は初めは』、『鮮紅色で、成熟すると紫紅色となり、開裂せず、日光または火で乾燥させると茶色となる。それぞれの果実内には2066個の種子が存在する。種子は多角形で、長さ0.40.7 cm、幅0.30.5 cm、仁は白色で、1000粒の平均重量は120140 gで、強い辛辣香気を有する』。以下、「用途」。『中医学では、干乾し』或いは『炒めた焦げ黄色の草果を使用し、殻を除いたものは草果仁と呼ばれる』。『伝統的な中華料理では肉、特に煮込んだ牛肉と羊肉の臭みを隠すために草果の辛辣香気が常用される。草果は五香粉、カレー粉、十三香といった混合調味料の材料としても使われる』。『その他、ソウカの茎、葉、果実からも芳香油が抽出され、製薬、香料等の工業原料として用いられる』とあったが、対応疾患が記されていないので、「維基百科」の「草果」の「用途」を見たところ、『中医学では、天日干しして、黄金色になるまで焙煎したカルダモンを用いる。殻を取り除いたカルダモンは、カルダモン核とも呼ばれる。カルダモン核は、辛味と温感を持つとされ、脾臓と胃の経絡に入り、湿を清め、中焦を温め、痰を取り除き、マラリアを治す作用がある。臨床的には、胃の膨満感・痛み・吐き気・嘔吐・咳・マラリアなどの症状の治療に加え、アルコールの解毒や口臭の除去にも用いられる。』とあった。

「反て、脹-胸す。」東洋文庫訳では、『かえって膨張(ぼうちょう)を促進するものとなる。』とあるが、どうだろう? ここは、「却って、腹部膨満は改善されず、上部の胸部の病的膨張を引き起こす。」とすべきではあるまいか?

「黑丑(くろけんごし)」この読みは、「黑牽牛子」で、これは、お馴染みの「朝顔」、

ナス目ヒルガオ科サツマイモ属アサガオ Ipomoea nil の種子

である。「イー薬草・ドット・コム」の「薬用植物総合一覧表」の「アサガオ」に(太字は私が附した)、『9~10月に種子を採取して天日で乾燥します。果皮は、からからに乾いたら取り除き、種子だけを集めて乾燥させます』。『これを生薬で、牽牛子(けんごし)といいます』。『種皮の黒紫色のものを黒丑(こくちゅう)、黒牽牛子(くろけんごし)、黄白色のものを白丑(はくちゅう)、白牽牛子(しろけんごし)といいます』とあり、『薬効・用い方』の項に、『有効成分は、アサガオの種子には樹脂配糖体ファルビチンほか』で、『利尿、殺虫を兼ねた峻下剤』(しゅんげざい:腸の粘膜を直接刺激し、大腸の蠕動運動を促進して強い便意をもたらす下剤)『として下半身の水腫や尿閉症に用います。用い方は煎剤としては1日量2~5グラム、粉末として用いるときは、1日量0.5~1.5グラムを服用しますが、空腹時によく効き目があります』。但し、読者もご存知の通り、種子には強い毒性があり、『強力な下剤作用は含有されるファルビチン』(pharbitin:樹脂配糖体)『によるもので、腸粘膜を始め下腹部に充血をきたして、蠕動』『運動を亢進』『して寫下(しゃげ)効果をあらわします』。『そのため』、『作用は強烈ですから』、『使用に際しては、用量を間違えずに過量を用いないことが大切です』とあった。因みに、「その他」の項に、『中国では、本草綱目』『に、王の大病をこの種子で治して謝礼にと、当時は財産であった牛を与えられて、牛を牽(ひ)いて帰ったということから、漢名の牽牛子(けんごし)とつけたという記述があります』。なお、『山上憶良』『の詠んだ、秋の七草の歌に朝顔の花が出てきますが、この時代には、アサガオは日本に渡来していないことから、この朝顔とは、キキョウのことを詠んだという説が知られ』ています、とあった。

「遠志《をんじ》の苗《なへ》≪は≫、毒に逢を《✕→ふ》」「遠志」(オンジ)の基原は、

マメ目ヒメハギ科ヒメハギ属イトヒメハギ Polygala tenuifolia の開花期の根

である。当該ウィキによれば、『去痰作用がある。帰脾湯、加味帰脾湯、人参養栄湯などの漢方方剤に使われる。脳の記憶機能を活性化し、中年期以降の物忘れを改善する効果もある』とあった。また、「熊本大学薬学部薬用植物園」公式サイト内の「薬草データベースイトヒメハギ」には、『成分』として、『サポニン(onjisaponin AG),キサントン(3-hydroxy-2,6,7,8-tetramethoxyxanthone)』とし、『産地と分布』で『朝鮮北部,中国北部,シベリアに分布する.』とあり、『多年草.根茎はやや木質化,1根から多数の細い茎を叢生する.葉は互生し,針状披針形で,特に茎の上部の葉は細い.茎の先に総状花序をだし,片側にまばらに緑白色の小さな花を開く.さく果は倒心形で平たい.』。『和名は,糸姫萩の意味で,ヒメハギに近く,葉が糸状に細いので名付けられた.』とある。また、『薬効と用途』にも『鎮静,去痰,抗炎症,強壮作用があり,精神不安,神経衰弱,病後の不眠,動悸,気管支炎,気管支喘息などに用いる.漢方処方では,加味帰脾湯,人参養栄湯などに配合される.花粉症,咳に用いられる遠志シロップの製造原料.』とあり、ここに書かれてある『遠志の苗は』「毒に逢」「ふ」=『毒となる』(二重鍵括弧部分は東洋文庫訳)ということは、書かれていない。サポニンとキサントンも諸辞書と、ある論文一件を調べたが、有意なヒト毒性を記載するものは見当たらなかった。従って、この言説は不詳である。「苗」と限定している部分がミソなのだが、識者の御教授を乞うものである。なお、本文は東洋文庫訳では、前の部分とカップリングして、

『黒丑(くろけんごし)(蔓草類アサガオ)の生(なま)は水を通利するが、遠志(おんじ)(山草類)の苗は毒となる。』

と訳してあるが、私は、並べる理由が全く感じられないので、分離した。

「蒲黃」単子葉植物綱イネ目ガマ科ガマ属 Typha の花粉。薬用。「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | 蒲黄(ホオウ)」を引用する。

   《引用開始》

基源:ヒメガマTypha angustifolia L., ガマT.latifolia L., コガマT.orientalis Presl.(ガマ科Typhaceae)の成熟した花粉を乾燥したもの。

 ガマは開けた湿地や池沼のほとり、休耕田などに多く生える単子葉植物です。わが国には上記の3種類が生え、外見は互いによく似ています。雌雄同種で、茎の先端に特徴的な花穂をつけます。先端には雄花が密集して黄金色の細長い雄花穂を作り、その下に多数の雌花が群生して褐色の太いソーセージ状の雌花穂を作ります。花は花被を持たず、雄花はおしべと毛からなり、雌花は子房と基部にある毛からなります。ガマは高さ1〜2mになり、葉の巾が約2cmで、雌花穂が緑褐色を呈します。コガマとヒメガマは全体にやや小型で、葉の巾は約1cm、前者の雌花穂は赤褐色で雄花穂と雌花穂が近接しており、後者の雌花穂は太さが約15mmと細くて雄花穂との間に花軸が露出していることなどで、3種は容易に区別できます。

 生薬としての「蒲黄」は、『神農本草経』上品に「甘平。心腹、膀胱の寒熱を主治し、小便を利し、血を止め、★血を消し[やぶちゃん注:この『★』部分、気になったので、「維基文庫」の電子化された同書を確認したところ、『消瘀血』とあった。これは、「血の巡りが悪くなっている状態を解消する」の意である。]、久しく服すれば身を軽くし、気力を益し、年を延ばし、神仙となる」と収載され、次いで「香蒲」が「甘平。五臓、心下の邪気、口中の爛臭を主治し、目を明らかにし、耳を聡くし、久しく服すれば身を軽くし、老衰を防ぐ」と収載されました。陶弘景は、「蒲黄」は花の上の黄粉であるとし、明らかに花粉であったことを示しています。一方の「香蒲」については、『新修本草』で「蒲黄は香蒲の花である」とし、『図経本草』でも「香蒲は蒲黄の苗である」としているように、両者は同一植物由来のようです。香蒲は医薬品と言うよりはもっぱら莚(むしろ)を編むのに利用されていたようで、「蒲団」の語源ともなっています。また、『新修本草』には莚としての利用の他、「初春には漬物や蒸し物にして食べる」とも記されています。

 さて、わが国では古来ガマは『古事記』に載せられた「因幡の白兎伝説」でよく知られている植物です。ワニ(サメ)を欺いたために皮をむかれて丸裸にされ、さらに大国主命の兄たちに海水を塗って陽にあたるよう教えられてひりひりと赤くなった皮膚に、後から通りがかった大国主命が清水で洗って「蒲黄」をつけることを教え、兎を救う話です。童謡では「蒲の穂綿に包まれば」とありますが、『古事記』には「蒲黄」とあります。ちなみに、「蒲の穂綿」とは雌花穂の果実が熟して先から長く伸びた糸状体が綿のように伸びたものをいい、古来[やぶちゃん注:読点が欲しい。]詰めものに利用され、また硝石を混ぜて火打ち石による発火の火口にもされました。「蒲黄」と「穂綿」では成熟時期が異なりますので、大国主命が出雲に旅行した季節がはっきりすれば、どちらが利用されたか特定できますが、いずれ神話の中の話であり、ガマが古来[やぶちゃん注:読点が欲しい。]薬用植物として利用されていたことにこそ注目するべきでしょう。

 蒲黄の原植物については、一般にはヒメガマが筆頭に充てられますが、これは花粉の量が多いからのようです。一色直太郎氏[やぶちゃん注:大正期の和漢薬研究家。]は蒲黄の品質について、「微かに特異な臭いがあり、全質一様に深黄色を呈し、顕微鏡下では単粒のもの」が良品であるとしています。ガマの花粉は4個が密着した複粒であり、他の2種では単粒であることから、コガマかヒメガマが良品質であることを示しているようです。「蒲黄」は古来「利小便、止血、散?血」の生薬ですが、破血、消腫に用いるときには生用し、補血、止血に用いるときには炒用することが『日華子諸家本草』に記されています。なお同書に蒲黄を篩うと赤色の滓が残る(これを蒲黄滓と言い,花芯や細毛で,別に渋腸止瀉血薬とする)と記されていることから、蒲黄の採集方法としては成熟花粉のみを振り落すのではなく、雄花穂全体を花軸からしごき取っていたものと考えられます。

   《引用終了》

「地榆」これは、

バラ目バラ科バラ亜科ワレモコウ(吾亦紅)属ワレモコウ Sanguisorba officinalisの根茎を乾燥したもの

を指す。当該ウィキによれば、『秋に葉が枯れてから掘り上げて水洗いし、茎・細根を取り除いて天日乾燥して調製される』。『タンニンやサポニン多くを含み、収斂薬や、止血や火傷、湿疹の治療に用いられる』。『漢方では清肺湯(せいはいとう)、槐角丸(かいかくがん)などに配合されている』とある。

「陳皮」「藥品(2) 六陳」で既出既注。

「附子」何度も注しているが、再掲する。「鳥頭」(うず)と同義。トリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。猛毒であるが、殺虫・鎮痛・麻酔などの薬用に用いられる。「そううず」「いぶす」とも言う。

「陰を救ふ藥」漢方で言う「陰證(陰証)」。「飯塚病院 漢方診療科」のサイトの「陰証・陽証(いんしょう・ようしょう)…身体のバランス」のページに、『陰証を示唆する症候』に、『寒がりで厚着を好む』・『電気毛布など温熱刺激を好む』・『口渇はないが温かい湯茶を好む』・『顔面が蒼白』・『低体温(36.2℃以下)傾向』・『温めると症状が軽減する』とあった。非常に判り易い内容である。

「皮風を走る」全く意味不明。識者の御教授を乞う。因みに、東洋文庫訳では、『皮膚の表面にまで行き亘(わた)る』となっている。

「草烏」正しくは、「草烏頭」(そううず)。やはり、トリカブト(モクレン亜綱キンポウゲ目キンポウゲ科トリカブト属 Aconitum )のトリカブト類の若い根。既に述べた通り、猛毒。

「風痺」先行する「卷第八十四 灌木類 接骨木」で、東洋文庫訳に割注して、『(身体がだるく』、『痛みが身体のあちこちに走る症』』とある。

「人言(ひさうせき)」割注した通り、「砒霜石」(ひそうせき)「砒霜」のこと。「藥品(6) 相畏」で既出既注。

「諸石」割注で特異的に疑義を示した。私が、気がついたのは、

代謝石(たいしゃせき)の脱字の可能性

である。「デジタル大辞泉」に、『たいしゃ‐せき【代×赭石】』として『土状』(つちじょう)『をした軟質の赤鉄鉱。顔料や研磨材に利用。また、漢方で補血・止血薬に用いる。』とあった。「金澤 中屋彦太郞藥局」の「代謝石」に、『第二類医薬品、代赭石は神農本草経の下品に収載されている。』『赭とは赤色という意味である。』基原は、Fe2O3『を主成分とする天然の赤鉄鉱の塊。』で、『「産地」』は『中国(山西、河北、山東、河南、四川、広東省など)。』『「成分」』はFe2O3『で、そのうちFe70%、O30%、その他』に、SiO3,AL,Mg,』『Caなどを含む。』(一箇所、理解出来ない元素記号があったので、カットした)『「応用」』に『補血、収斂、止血、鎮静目的に応用される。』とし、『外傷の出血には粉末を塗布するといい。』とする。『「薬性」』は『苦、寒。』で、『「処方例」』に『旋覆花代赭石湯』とある。『「用法・用量」』は『煎薬、外用。1日10~30g。』とあった。これなら、きつく焼灼しないと、土状になった中に微生物がいる危険性があるからである。如何?!

「當歸」知られた生薬名。基原は、被子植物門双子葉植物綱セリ目セリ科シシウド属トウキ Angelica acutiloba の根、或いは、ホッカイトウキ Angelica acutiloba var. sugiyamae の根を、通例では、湯通しし、乾燥したものである。

「麻黃」中国では、裸子植物門グネツム綱グネツム目マオウ科マオウ属シナマオウEphedra sinica(「草麻黄」)などの地上茎が、古くから生薬の麻黄として用いられた。日本薬局方では、そのシナマオウ・チュウマオウEphedra intermedia(中麻黄)・モクゾクマオウEphedra equisetina(木賊麻黄:「トクサマオウ」とも読む)を麻黄の基原植物とし、それらの地上茎を用いると定義している(ウィキの「マオウ属」によった)。また、漢方内科「証(あかし)クリニック」公式サイト内の「暮らしと漢方」の「麻黄…エフェドリンのお話」が非常に詳しいので、見られたい。

「山茱萸」「卷第八十四 灌木類 山茱萸」を見よ。

「猪苓」菌界担子菌門真正担子菌綱チョレイマイタケ目サルノコシカケ科チョレイマイタケ属チョレイマイタケ Polyporus umbellatus を基原とする。先行する「卷第八十五 寓木類 猪苓」を見られたい。

「茯苓」「卷第八十五 目録(寓木類・苞木(竹之類)・樹竹之用)・茯苓」を見よ。

「厚朴」「卷第八十三 喬木類 厚朴」を見よ。

「桑白皮」バラ目クワ科クワ属 Morus の桑類の根皮。消炎・利尿・鎮咳効果を持つ。基原は、マグワ Morus alba の根皮。詳しくは、先行する『卷第八十四 灌木類 目録・桑』の私の注を見られたい。

「栢子」一言では述べられない。「卷第八十二 木部 香木類 目録・柏」の私の注を見られたい。

「益智」私は、初めて見た。基原は、

単子葉植物綱ショウガ目ショウガ科ハナミョウガ属ヤクチ Alpinia oxyphylla の果実

である。当該ウィキには、『中国南部に分布する多年生草本』で、『草丈は1.5-3m』。『果実は益智(ヤクチ)という生薬として利用され、健胃、抗利尿、唾液分泌抑制作用がある』。『中国の福建、広西、雲南各省で生産栽培されている』とあるだけである。ここは、やはり、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 | ヤクチ(益智)」の神農子さんに伺うしか、ない。

   《引用開始》

 日本でショウガ科の植物というとショウガ、ミョウガ、ウコンなどが有名ですが、これらはいずれも栽培種であり自生種ではありません。日本に自生するショウガ科の植物は Alpinia 属のみで、ゲットウやハナミョウガなど、関東地方南部から四国、九州、沖縄地方に分布しています。ショウガ科植物は熱帯地方に豊富で、根茎、葉、花、果実などを食用や薬用にするなど、生活に欠かすことができない一群です。益智の原植物もこの Alpinia 属です。

 益智という名称について、『本草綱目』では「脾は智を司るものだ。この物はよく脾、胃を益するところからの名称である。龍眼が益智と呼ばれるのと同一の意味だ。」と述べています。続けて「按ずるに、蘇東坡の書に“海南に益智を産する。花も実も長い穂で三節に分かれているが、その上、中、下の三節に現れる結実状態の早、中、晩で穀作の豊凶が卜える。大豊作のときは三節悉く実り、大凶作のときは全部が実らない。しかし三節全部が熟するというは稀有のことだ。この物は薬にしてはただ水を治するだけで、智を益す功力はない。益智なる名称はやはりその歳の豊凶を知るところから名付けられたのではないか思う”」と、蘇東坡の時珍とは異なる意見も紹介されています。

 植物の特徴として『新修本草』には「益智子は連翹子の頭のまだ開かないものに似たものだ。苗、葉、花、根は豆蒄と異ならない。ただ子が小さいだけだ」、また『本草綱目』の引用には「益智は二月花が開いて実が連なって著き、五六月に熟する。その子は両端が筆の先のように尖り、長さ七八分のものだ。」とあり、現在の原植物Alpinia oxyphyllaの特徴と一致しています。

 Alpinia oxyphyllaはショウガ科の多年性草本で、中国南部、海南島、広東省の雷州半島などに分布します。日本には分布しないので植物和名はありませんが、生薬名を音読みしてヤクチと称するのが一般的です。林下の陰湿地に自生し、高さは3mにも達します。葉身は披針形で長さ 2535 cm、先端は尾状に尖ります。類似植物がありますが、葉舌が2裂することも鑑別点です。春から夏にかけて葉鞘の先端から総状花序を出し、白色で紅色の脈紋がある美しい花を着けます。薬用にされる成熟した蒴果は長さ1.5cm2.0cm、径1cmほどになります。先に結実の困難さについて紹介しましたが、日本ではさらに結実することが稀で、人口受粉している温室施設でなければ果実をみる機会はほとんどありません。

 生薬は球形または紡錘形、外面は褐色〜暗褐色で縦方向に多数の隆起線があります。果皮は 0.3 mm程度、内部の種子塊と密着していて剥ぎにくくなっています。内部は3室に分かれ、各室には仮種皮によって接合する5〜8個の種子があります。種子は不整多角形を呈し、径約3.5 mm で褐色〜暗褐色です。大粒で外面が淡黄色〜淡黄褐色を呈する芳香の強いものが良品とされています。

 その薬効について、『本草綱目』には「益智は大いに辛し。陽を行らし陰を退ける薬であって、三焦、命門の気弱のものに適する。按ずるに、楊士瀛の直指方に“心は脾の母であって、食が進めばただ脾を和すのみに止まらず、火がよく土を生ずるものだから、心薬を脾、胃の薬の中に入れて、やがて相共にその功を発揮せしむべきものである。故に古人が食を進める薬の中に多く益智を用いたのは、土中に火を益する目的なのだ”といっている」とあります。現在でも脾、胃、心、腎の四経に入り、足の太陰、少陰の薬物とされています。

 日本では芳香性健胃薬、整腸薬として縮砂と同様に用いられますが、漢方処方に配合されることは希で、しばしば家庭薬に配合されています。

 益智、縮砂、小豆蒄(カルダモン)など、ショウガ科植物の種子に由来するいわゆる豆蒄類生薬には重要なものもあります。それぞれ区別して使用されてきた歴史がありますので、日本では比較的なじみの薄い生薬ですが上手に使い分けしたいものです。

   《引用終了》

「常山」「藥品(3) 名義」で既出既注。

「巴戟」これも初めてだ。たびたびで、済まないが、正確な日本語の記載はそこしかないので、「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 |巴戟天(ハゲキテン) 」を引用するしかない。

   《引用開始》

 巴戟天は漢方薬に配合されないため日本ではなじみの薄い生薬ですが、中国では強壮薬として良く知られ、何処の生薬店でも見られるほど一般的な薬物です。

 巴戟天の歴史は古く、中国最古の薬物書である『神農本草経』の上品に「味は甘くて辛味もあり、服用するとわずかに体を温かくし、主に邪悪な風によっておこる病気やインポテンツを主治し、また筋骨を強くし、五臓を安んじ、消化吸収機能を良くし、志を増し、気を益す」と記載があります。現代中医学では、体を補益する薬物として、腎陽虚(腎の元気が衰えた状態)による頻尿や尿失禁、また腎虚による神経痛、リウマチ、腰膝の疼痛、軟弱無力、筋肉の萎縮などの治療に応用されます。淫羊藿(メギ科のイカリソウの仲間の葉)に似た効能を有するとされますが、淫羊藿に比して性質が柔順で発散させる力や陽を強くする作用が弱く、また温めて煩燥させる性質も弱いことから、婦女の生殖器の冷えによる不妊症、月経不調、下腹の冷痛などに適するとされます。

 原植物はMorinda officinalis Howと名付けられたアカネ科の蔓性植物で、中国南部の暖地に分布し、日本にはありません。根は湾曲した円柱形を呈し、直径約12cm。生薬は表面が灰黄色で太く浅い縦皺と深くくぼんだ横紋があり、所々で皮部が裂けて木部が露出し、その結果特徴的な長さ13cmの念珠状を呈します。『新修本草』に「苗を俗に三蔓草と呼ぶ。葉は茗に似て冬を経ても枯れず、根は珠を連ねたようだ。古い根は青く若い根は白紫だが用途はやはり同一だ。その連珠のような肉多く厚いものが勝れている」と記されたものは本植物のようですが、古来異物同名品が多く、我が国にも中国から様々なものが輸入され、一方で和産も開発されたようです。

 異物同名品に関して、江戸時代に書かれた『用薬須知』後編に「和漢ともにあり、和のものには茶葉の巴戟というものと江戸で柳葉草という葉が丸くて狭いものの2種があり、又別に麦門葉の巴戟がある。種樹家はモジズリといい、他国ではネジクサという。漢渡の棒様の巴戟疑は是であろう。(中略)。京師のものは高さ一尺以上あり東国には高さ五、六尺になるものがある」また、同書の後編正誤では「葉の丸くて狭いものには二種ある。今は茶葉、柿葉、柳葉、桃葉、梔子葉の数種がある。また水巴戟は香附子の一名である」、さらに続編では「巴戟の根が紫色のものを紫巴戟という」など、多数の原植物の存在が示唆されています。いずれにせよ日本では根が念珠状をなす複数の植物が代用されていたようです。中国における異物同名品としてこれ迄に、ヒメハギ科のPolygala reinii、ラン科のネジバナSpiranthes spiralis、トウダイグサ科のEuphorbia chamaesyce、ゴマノハグサ科のBacopa monnieria などが報告されています。台湾でネジバナが民間的に強壮約として利用されているのはその名残かも知れません。

 さて、沖縄を旅行すると果物の一種の“ノニ”を宣伝する看板をよく見かけます。テレビでも取り上げられたことがありますので、ご存知の方も多いと思います。実はこのノニが巴戟天と同じMorinda属植物なのです。ノニはもともと東南アジア~オセアニアにかけての熱帯地域に原産するM. citrifoliaの果実で、現地ではNoniNonuNonoなどと称され、日本では琉球諸島や小笠原諸島に分布し、和名をヤエヤマアオキと言います。ポリネシア諸島では古くから有用植物として、薬用、食用、染料などに利用されてきました。インドネシアの伝統医学であるジャムーではPace(パチェ)の名称で、果実が鎮吐、下剤、血圧降下剤として、葉が止血、解熱、皮膚を軟化させる目的で使用され、その他蛔虫駆除、去痰、鎮咳、通経にも用いられるなど、幅広い用途で利用されています。また、根がカゼをひいた時の処方に疲労回復薬として配合されます。

 Morinda officinalisもヤエヤマアオキも、共に地下部が強壮薬的に使用されるという共通点に興味を覚えます。ヤエヤマアオキも今後の科学的研究が待たれる薬用植物のひとつでしょう。

   《引用終了》

「烏藥」「卷第八十二 木部 香木類 烏藥」を見よ。

「知母」「藥七情」で注したものを転写する。単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科リュウゼツラン亜科ハナスゲ属ハナスゲ Anemarrhena asphodeloides の根茎の生薬名。当該ウィキによれば、『中国東北部・河北などに自生する多年生草本』『で』、五~六『月頃に』、『白黄色から淡青紫色の花を咲かせる』。『根茎は知母(チモ)という生薬で日本薬局方に収録されている』。『消炎・解熱作用、鎮静作用、利尿作用などがある』。「消風散」・「桂芍知母湯」(けいしゃくちもとう)・「酸棗仁湯」(さんそうにんとう)『などの漢方方剤に配合される』とある。

「天≪門冬《てんもんどう》≫」基原の属レベルは、

単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科クサスギカズラ亜科クサスギカズラ属 Asparagus

であるが、ラテン語の属学名を見て戴くと判る通り、

同属のタイプ種はアスパラガス Asparagus officinalis

である。而して、基原は、「養命酒」公式サイト内の「元気通信|生薬百選」の「天門冬(テンモンドウ)」で(このサイトは引用禁止なので、そちらを見られたい)、「日本薬局方」に、

Asparagus cochinchinensis

の学名で書かれているとし、和名を『クサスギカズラ』としてある。そこにある写真を見ると、同種の根が基原であることが判る。調べると、当該ウィキがあった。漢字表記は、

「草杉蔓」

である。

引用する(注記号はカットした)。『関東地方南部から沖縄諸島、台湾、中国などの温帯から亜熱帯の海辺の砂地に分布するつる性の多年草。草丈は100150センチメートルほどになる。短い根茎に、紡錘形~円柱形の塊茎が多数つく。茎は下部が木化し、上部はつる性となる。茎につく葉の一部はトゲに変化しており、これを使って他の植物などに巻きついてつるを伸ばす。小枝に付く葉は退化して鱗片状になっており、葉のように見える葉状枝と呼ばれる部分で光合成を行う。5-6月頃になると、葉腋に淡黄色の小さな花を13個ずつ付ける。果実は球形で、中に黒い種子が1個ある。他のクサスギカズラ属と異なり白色に熟する。スギのような葉をつけ、茎がつる状になる草本植物であることから「草杉蔓」と呼ばれるようになったとされる』。『生薬「天門冬(てんもんどう)」の基原植物の一つとして日本薬局方で定められており、5月頃にコルク化した外層の大部分を除いた根を収穫し、湯通しまたは蒸したものを用いる。根が飴色をしていて太くて長く、甘味の強いものが良品であるとされる。同属別種の植物であるタチテンモンドウ( Asparagus cochinchinensis var. pygnaeus )は天門冬として利用しない。鎮咳、利尿、滋養強壮などの効果があるとされ、滋陰降火湯や清肺湯などの漢方薬に配合されている。 アミノ酸の一種であるアスパラギンやサポニンの一種であるアスパラサポニン(asparasaponin)類、ベータ・シトステロールなどを含む』とあった。

「麥門冬」単子葉植物綱キジカクシ目キジカクシ科スズラン亜科 Ophiopogonae 連ジャノヒゲ属ジャノヒゲ Ophiopogon japonicus の根の生薬名。現行では、これで「バクモンドウ」と濁る。鎮咳・強壮などに用いる。

「地黃」先の「藥品(10) 忌銅鐵」で既出既注。

「何首烏」基原は、タデ目タデ科ツルドクダミ(蕺・蕺草・蕺菜)属ツルドクダミ Reynoutria multiflora の根である。詳しくは、先行する「藥品(4) 有南北土地之異」の「夜合草《よるあひぐさ》」の私の注を見られたい。

「三消《さんしやう》」当初、私は「三焦」の誤記ではないか? と思ったのだが、ネットを調べるうち、「糖尿病ネットワーク」の「私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み」の「56.中国医学と糖尿病」の「3. 消渇」で、『金時代の4大家の1人といわれた劉河間は、消渇を上消、中消、下消に分け、上消は上焦の疾患で隔消ともいい、多尿だが少食で尿は薄く、これは邪気が上焦にあることで起こり、治療は湿を流して燥を潤すこと。中消は胃であり食べると栄養はすぐに燃えるので多食になり尿は黄色。治療は熱があるので熱を下げること。下消(腎消)ははじめ尿の出が悪く尿線に勢いがなく尿は粘稠性で混濁し進行すると顔色が黒くなり、痩せて耳朶が脱水状になる。治療は血を養い熱を除き下げること。その後の補足、修正を入れたのが表2である。』として、『表2 消渇(糖尿病)の三消』で、詳しく表になっている(画像のため、引用しない)。私は、それで、納得出来た。

2025/11/20

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(10) 忌火

 

  忌火   三十二種

 

靑黛 犀⻆ 茵陳 茜根 柴胡 木香 羚羊⻆

雲母 芒消 朴消 滑石 雄黃 菊花 禹餘粮

川芎 藍葉 乳香 甘松 桂心 丁子 鍾乳石

白檀 藿香 牛黃 薄荷 紫草 沈香 薫陸香

白芷 胡椒 麝香 檳榔

 

   *

 

  (ひ)を忌(い)   三十二種

 

青黛《せいたい》      犀⻆《さいかく》

茵陳《いんちん》      茜根《せいこん》

柴胡《さいこ》       木香《もくかう》

羚羊⻆《れいようかく》   雲母《うんも》

芒消《ばうしやう》     朴消《ぼくしやう》

滑石《かつせき》      雄黃《ゆうわう》

菊花《きくくわ》      禹餘粮《うよらう》

川芎《せんきゆう》     藍葉《らんえふ》

乳香《にゆうかう》     甘松《かんしよう》

桂心《けいしん》      丁子《ちやうじ》

鍾乳石《しようにゆうせき》 白檀《びやくだん》

藿香《かくかう》      牛黃《ごわう》

薄荷《はつか》       紫草《しさう》

沈香《じんかう》      薫陸香《くんろくかう》

白芷《びやくし》      胡椒《こしやう》

麝香《じやかう》      檳榔《びんらう》

 

[やぶちゃん注:訓読ではブラウザの不具合を考えて、以上の配置とした。

「青黛」「慶應義塾大学医学部消化器内科」公式サイト内の「慶應義塾大学病院IBD(炎症性腸疾患)センター」の「センターからのお知らせ」の「青黛もしくは青黛を含有している漢方薬を使用している患者さんへ」の冒頭部に、『 青黛(せいたい)とは、リュウキュウアイ、ホソバタイセイ等の植物から得られるもので、中国では生薬等として、国内でも染料()や健康食品等として用いられています。近年、潰瘍性大腸炎に対する有効性が期待され、臨床研究が実施されているほか、潰瘍性大腸炎患者が個人の判断で摂取する事例が認められています』。しかし、『今般、青黛を長期に服用した潰瘍性大腸炎患者において、青黛の服用と因果関係の否定できない肺動脈性肺高血圧症が発現した症例が複数存在することが判明したことから、厚生労働省が関係学会等に対して注意喚起を行いました』(以下略)とあった。例示された基原植物は、シソ目キツネノマゴ科イセハナビ属リュウキュウアイ Strobilanthes cusia と、アブラナ目アブラナ科タイセイ属ホソバタイセイ Isatis tinctoria である。

「犀⻆」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 犀(さい) (サイ)」を見られたいが、私は、少なくとも、そちらの引用で『時珍が言っているような薬としての特別な効用が』サイ類の角に『あるとは私には思われない』と否定見解を添えている。しかし、「豊橋市の漢方薬局 桃華堂」(「とうかどう」と読む)の「生薬辞典」の「犀角(さいかく)」には、『世界には5種類のサイが現生しており、その中でもインドサイ、ジャワサイ、スマトラサイ、クロサイの角が犀角として使用されていました。インドサイ・ジャワサイの角を烏犀角(うさいかく)、クロサイ・スマトラサイの角を水犀角(すいさいかく)と呼んでいます。特に烏犀角の方が良品とされています』。『生息域の開発と、犀角を目当てにした密猟により、現在5種類のサイすべてが絶滅の危機に瀕しています。ワシントン条約により国際取引は禁止されており、犀角を新たに手に入れることはほぼ不可能になっています。そのため、犀角はかなりの高額で取引され骨董品としての価値も上昇傾向にあり、角1本で数十万の値がつくと言われています』。『角質の一種であり、成分の大半はケラチン』(Keratin(ドイツ語)は、硫黄を含んだ蛋白質で、毛髪・爪・角・羽毛などの主成分。当該ウィキによれば、『細胞骨格を構成するタンパク質の一つ』で、『細胞骨格には太い方から順に、微小管、中間径フィラメント、アクチンフィラメントと3種類あるが、このうち、上皮細胞の中間径フィラメントを構成するタンパク質がケラチンである。』とある)『からできています。現在では水牛や牛の角を代用する場合も多くなっているようです。ただし、水牛角の場合は犀角の10倍ほどの量を使わないと同等の効果を発揮できないと言われています』。『火熱が血に及んで』、『出血や発熱するものを治療する清熱涼血薬(せいねつりょうけつやく)に分類され、同じような効能を持つ生薬に生地黄(しょうじおう)・牡丹皮(ぼたんぴ)・赤芍(せきしゃく)があります』。『解熱の働きがあり、出血・熱感・充血・発疹が出る症状を改善するために用います。特に小児の麻疹の特効薬として使用されていました』(☜過去形に注意)。『熱入営血による夜間の高熱・意識障害・うわごとなどに用いられます。代表的な漢方薬に、黄連(おうれん)と一緒に配合された清営湯(せいえいとう)があります』。『熱入営血』(血液内に熱が籠った状態を指す)『・血熱妄行』(熱感とともに出血傾向が現れる状態を指す)『による皮下出血・吐血・鼻出血などに用いられます。代表的な漢方薬に、生地黄と一緒に配合された犀角地黄湯(さいかくじおうとう)があります』。『犀角と石膏は清熱の要薬ですが、犀角は血分実熱を、石膏は気分実熱を清解するので、外感熱病で気血両燔』(火勢が盛んな様態)『のときに併用すると効果が著しく発揮できます』。『熱入営血ではない場合には、安易に用いない方がよいです』。『妊婦には慎重に用います。』とあった。孰れにせよ、「ワシントン条約」によって保護されている絶滅の危機に瀕しているサイ類の角を用いることは止めねばならない。

「茵陳」「藥品(1)」で既出既注。再掲すると、ネット検索では、「茵陳蒿」(いんちんこう)で掛かる。「大峰堂薬品工業株式会社」公式サイトの「生薬辞典」の「茵蔯蒿(いんちんこう)」では、基原をキク亜綱キク目キク科ヨモギ属カワラヨモギ(河原蓬・河原艾)Artemisia capillaris 『の頭花。地上部を乾燥させてから花穂と茎を分離させる』とし、「主な薬効」に『消炎、利胆、解熱、利尿作用』とある。

「茜根」「藥品(8) 忌鐵」で既出既注。長いので、そちらを見られたい。

「柴胡」複数回既出既注。セリ目セリ科ミシマサイコ(三島柴胡)属(或いはホタルサイコ属)ミシマサイコ Bupleurum stenophyllum の根。解熱・鎮痛作用があり、多くの著名な漢方方剤に配合されている。ウィキの「ミシマサイコ」によれば、『和名は、静岡県の三島市付近の柴胡が生薬の産地として優れていたことに由来する(現在の産地は、宮崎県、鹿児島県、中国、韓国など)。』とある。

「木香」これは、問題のある薬名である。「藥品(1)」の注の中で、私は『解明出来るかどうかは判らぬが、後の「卷第九十三」に出る「木香」で考証してみることを約束しておく。』と、特異的にペンディングしたので、そちらを覗いて下され。

「羚羊⻆」基原は、

哺乳綱ウシ目反芻亜目ウシ科ヤギ亜科サイガ属サイガ (別にサイガレイヨウ・ロシアサイガの和名異名があるようだ)Saiga tataricano の角

である。当該ウィキによれば、『亜種モンゴルサイガを独立種とする説もある』とし、学名を、

モンゴルサイガ Saiga tatarica mongolica

を掲げ、『現生種は中央アジアの草原地帯を中心に分布しているが、同属の更新世や前期完新世における分布は現代よりも広く、ブリテン諸島を含むヨーロッパからカムチャッカ半島や日本列島』『や北米大陸北部にも達しており、ヨーロッパでは後期更新世時代の洞窟壁画にもサイガが描かれている』とある。「生態」と「人間との関係」の項は引用しないが、狭義のサイガは近危急種、モンゴルサイガは絶滅危惧種であり、必ず読まれたい。「原薬局」の「商品紹介」の「羚羊角って何?!」を引用しておく。後半部の引用は、一部を後に分離してして示した。

   《引用開始》

レイヨウカクは、サイガレイヨウというウシ科の動物の角です。見た目は鹿で動きは軽快そうですが、鈍重なイメージのウシ科というのが意外です。

カザフスタンやモンゴルに住み、オスだけに角がありますが、直接頭蓋骨から生えているので、鹿のように生え変わることはありません。

その角は粉末にして古くから中国で生薬原料として使われており、鎮静作用や解熱作用があります。誰がどのようなきっかけでレイヨウの角に効能があると発見したのか、まさに中国医薬4千年の長い歴史の賜物です。

同じような効能にサイカク(クロサイ、インドサイの角)がありましたが、1980年のワシントン条約で使用禁止となったため、その代替えとしてレイヨウカクが広く使われるようになりました。当社も以前はサイカクを使用しており、レイヨウカクに変更した経緯があります。ちなみに、サイの角は骨ではなく、体毛が固まって変化したものなので、繊維質で粉末にするのは大変でした。

そのサイガレイヨウカクも絶滅が危惧され、代替も検討されていますが、一部養殖されたレイヨウカクも流通しています。

レイヨウカクを使用した医薬品は、宇津救命丸、救心の他、配置薬に多く見られます。

   《引用終了》

疾患有効性については、『高熱による痙攣に対応』とし、漢方生剤の『別名』として『羚羊尖』とあり、『解熱・鎮痙・鎮静作用があります。感冒やインフルエンザの解熱薬や抗炎症薬として使用されます』。『※1973年にワシントンで採択されたことから単にワシントン条約とも言う。 生薬の中では、麝香、熊胆、虎骨、犀角、羚羊角、石斛などが国際取引禁止となっている』とある。なお、「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 麢羊(かもしか・にく)・山驢 (カモシカ・ヨツヅノレイヨウ)」では、良安は、「かもしか」の訓を添え、本邦固有種であるニホンカモシカ Capricornis crispus を「羚羊」の漢名を使っているように見えるので、注意が必要である。実際、『「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 「南方雜記」パート タウボシは唐乾飯也』(私の電子化注)で、熊楠は、『物の諸部分や諸效用の中に就て、一を採つて、其物の名とした例は、羚羊《れいよう》を褥(にく)、綿羊を羅紗綿(らしやめん)、玳瑁龜(たいまいがめ)を鼈甲(べつかう)、その他、多々有るべく、「姓氏錄《しやうじろく》」や「古語拾遺」に、秦(はだ)氏の祖が獻じた絹帛(きぬ)が、軟らかで、肌膚(はだ)を溫煖(あたた)めたにめでゝ、仁德帝が、彼に「波多公(はだのきみ)」の姓を賜ひ、其より、「秦(しん)」を「ハダ」と訓《よ》むと出《で》るを、本居宣長は、

『若し、此等の義ならば、「溫か」・「軟《やはら》か」の言《いひ》を取つてこそ、名づくべけれ、「肌」と云ふ言を取るべき樣、なし。』

と難じた。』と述べており、これは、明らかにニホンカモシカを指しているのである。

「雲母」先行する「藥品(5) 相反」で既出既注。

「芒消」「朴消」先行する「藥品(6) 相畏」の私の「朴消」の注を見られたい。なお、「芒消」の表記に就いては、良安の誤字ではないことは、渡辺武氏の論文「芒消と朴消」(一九五六年発行『日本東洋醫學』所収・PDF)で、語られてある。

「滑石」「藥品(1)」で既出既注であるが、再掲すると、珪酸塩鉱物の一種で、フィロケイ酸塩鉱物(Phyllosilicates)に分類される鉱物、或いは、この鉱物を主成分とする岩石の名称。世界的には「タルク(talc:英語)」のほか、「ステアタイト」(Steatite:凍石)・「ソープストーン」(Soapstone:石鹸石)・「フレンチ・チョーク」(French chalk)・「ラバ」(Lava:原義は「溶岩」。本鉱石は変成岩である)とも呼ばれる。Mg3Si4O10OH2。水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる鉱物で、粘土鉱物の一種(当該ウィキ他に拠った)。利尿・清熱・消炎作用を持ち、むくみ・排尿困難・膀胱炎・夏の口渇・下痢・皮膚の湿疹などに用いられる。

「雄黃」「藥品(9) 忌銅」で既出既注。

「菊花」「藥品(1)」で既出既注であるが、再掲すると、漢方薬品メーカー「つむら」の公式サイト「Kampo View」の「菊花」に拠れば、「基原」で、キク目キク科『シマカンギク』(島寒菊) Chrysanthemum indicum Linné 又はキク』 Chrysanthemum morifoliumRamatuelleCompositae)の頭花』とし、「薬能」には、『眼疾患を治す。目のカスミを取り去り、洗眼にも用いる。(一本堂薬選)』とある。

「禹餘粮」一応、小学館「日本国語大辞典」には、『日本や中国に見られる岩石の一種。小さい石が酸化鉄と結合したもの。中に空所があって粘土を含む。ハッタイ石、岩壺など多くの呼び名がある。』とあるが、これは、そんな一言では述べられ代物である。私の記事を古い順に示すと、

『「南方隨筆」底本正規表現版「紀州俗傳」パート 「六」』

「和漢三才圖會」卷第六十一「雜石類」の内の「禹餘粮」

『小野蘭山述「重訂本草啓蒙」巻之六「石之四」中の「禹餘粮」・「太一餘粮」・「石中黃子」』

「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 鷲石考(2) / 「第二篇 禹餘糧等について」

「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 鷲石考(4) / 「附錄」の「○鷲石に關する一說」

である。総て読まれるには、相応の御覚悟が必要である。念のため。

「川芎」私の「譚 海 卷之十五 諸病妙藥聞書(13)」から、全部を引用する。

   *

既出既注。底本の竹内利美氏の後注に、『センキュウ。セリ科の草木。その根茎が頭痛などの薬剤になる。薬用として栽培された』とある。当該ウィキによれば、『中国北部原産で秋に白い花をつけるセリ科の多年草センキュウCnidium officinaleの根茎を、通例、湯通しして乾燥したもので』、『本来は芎窮(きゅうきゅう)と呼ばれていたが、四川省のものが優良品であったため、この名称になったという。日本では主に北海道で栽培される。断面が淡黄色または黄褐色で、刺激性のある辛みと、セロリに似た強いにおいがある。主要成分としてリグスチリドなどがあげられる』。『現在の分析では鎮痙剤・鎮痛剤・鎮静剤としての効能が認められ、貧血や月経不順、冷え性、生理痛、頭痛などに処方されて』おり、『漢方では』「当帰芍薬散」に『配合され』、『婦人病』、所謂「血の道」の『薬として』、『よく用いられる』とあった。

   *

「藍葉」基原は、タデ目タデ科イヌタデ属アイ Persicaria tinctoria の葉。但し、実は「藍実(らんじつ)」として別な漢方名を持つ。「日本フードアナリスト協会」公式サイト内の「藍を食す」によれば、『藍は、薬草として珍重された歴史は古く、書物にも記述が数多くあります。たとえば、『本草和名』(918 年)には、解熱剤として藍実を紹介。『原色牧野和漢薬草図鑑』(北隆館発刊)には、「生藍の葉、乾燥葉、種子の生および煎じ液が、消炎、解毒、止血、虫さされ、痔、扁桃腺円、喉頭炎に効果あり」と記されています。また、すくもを生で食べるとフグ中毒に効果があるといわれ、江戸時代、藍の商人が長州を訪ね、ひと握りのすくもと交換にふぐ料理をごちそうになったというエピソードも残こります。』とあり、『●葉 [⽣薬名:藍葉(らんよう)]』の項には、『藍の葉は、ちぎったところから根を生やすほど生命力が旺盛』とし、『生葉の絞り汁』は『やけど、口内炎、唇荒れ、腫れ物、毒⾍の刺し傷、肋膜炎、月経不順、便秘に効果がある』とあり、『葉の煎じ液』は『解熱、解毒、痔、⿂やキノコの中毒に効果がある』とあって、『生葉、干葉』は、『冷え症の人がお腹の上に置いて寝ると効果がある。また、頭の上に置いて眠ると安眠効果がある』とする。因みに、『実 [⽣薬名:藍実(らんじつ)]』には、『生葉の絞り汁』として、『解熱、解毒、魚やキノコの中毒、精力衰退、腹痛に効果がある。また、煮出したお茶は、滋養強壮に効果がある』と記す。以下、『藍の食べ方』には、『藍は、葉も実も食用として親しまれていた身近な薬草です。藍の、食あたり防止や解毒作用といった薬効をごく自然に食生活に役立てていました』として、昔の食べ方が列記されてあるので、見られたい。

「乳香」先行する「卷第八十二 木部 香木類 乳香」を見られたい。

「甘松」一属一種のマツムシソウ目スイカズラ科 Nardostachys Nardostachys jatamansi で、香りがよく、味も甘いもので、薫香・香水・漢方薬にも用いられることが記されてはある。「維基百科」の「甘松」を見られたい。そこには、『根と根茎は、香料や香水の原料として利用されるほか、薬としても用いられる。温熱作用と甘味があり、気の調整や鎮痛作用がある。主に胸腹部の膨満感や痛みなどの症状に用いられる』とあった。

「桂心」「卷第八十二 木部 香木類 肉桂」中の中項目「桂心」を見られたい。

「丁子」「卷第八十二 木部 香木類 丁子」を見られたい。

「鍾乳石」既注だが、再掲する。「地層科学研究所」公式サイト内の「地層と健康いろいろ(前編)」に、「鍾乳床(しょうにゅうしょう)」とし、『正倉院に現存する』とあり、『鍾乳石の破片であり、鉱物としては方解石(CaCO3)』(=炭酸カルシウム)『です。用途は止渇薬、利尿薬などです』とある。食酢のような弱酸の薄い溶液でも、表面を溶かすことが出来る。

「白檀」基原は、双子葉植物綱ビャクダン目ビャクダン科ビャクダン属ビャクダン Santalum album の木質心材を乾燥したもの。「ナガエ薬局」公式サイト内のこちらに、『【臨床応用】』『生薬分類は、行気薬。中薬の効能は理気調中、散寒止痛。寒凝気滞による胸部や腹部の疼痛および胃寒による疼痛、清水を嘔吐に使用する。』とあった。

「藿香」「藥品(1)」で既注だが、一部を再掲すると、シソ目シソ科ミズトラノオ(水虎の尾)属パチョリ(英語:patchouliPogostemon cablin の地上部を基原とするもの。「日本薬学会」公式サイト内の「薬学コラム」の「生薬の花」の「パチョリ」「 Pogostemon cablin (Blanco) Benth. (シソ科)」に拠れば、『漢方医学や中医学では,パチョリの地上部を生薬藿香(カッコウ)として使用し,解熱・鎮吐・健胃作用を目的に藿香正気散(かっこうしょうきさん)や香砂平胃散(こうしゃへいいさん),香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)などの処方に配合しています。成分としてはパチョリアルコールやメチルチャビコール,シンナムアルデヒド,オイゲノール等を含みます。藿香の基原植物として,パチョリ以外にシソ科のカワミドリ( Agastache rugosa  (Fisch. et C.A.Mey.) Kuntze )が使用されることがあります。カワミドリに由来するものを土藿香,川藿香と呼ぶのに対し,パチョリに由来するものは広藿香と呼びますが,これは東南アジアから導入されたパチョリが中国の広州で栽培されてきたためです。中国の本草書や植物誌の藿香に関する記述の中にはパチョリについて記載したものとカワミドリについて記載したものが両方存在し,古くから基原植物が混乱していたようです。一般に市場に流通するものの多くはパチョリに由来する広藿香であり,第十八改正日本薬局方でも基原植物は Pogostemon cablin 1種のみとなっています』とある。因みに、「維基百科」のパチョリは「廣藿香」となっている。

「牛黃」牛の体内結石、及び、悪性・良性の腫瘍や変性物質等である。私の「和漢三才圖會卷第三十七 畜類 牛黃(ごわう・うしのたま) (ウシの結石など)」の私の注を参照されたい。

「薄荷」シソ目シソ科ハッカ属 Mentha の類。種は多い。当該ウィキ「ミント」を見られたい。

「紫草」読みは多くの記載を見るに、「紫草」で「むらさき」と訓じているので、それを採用した。基原は、シソ目ムラサキ科ムラサキ属ムラサキ Lithospermum erythrorhizon の根。当該ウィキによれば(注記号はカットした)、『和名ムラサキの語源は、本種が群れて咲くことから「群ら咲き」であるとする説が一般的であるが、図鑑等には紫色の根が由来と説明するものもある』。『日本の北海道・本州・四国・九州に分布し、比較的冷たい山地の草原に自生する』(とあるが、「維基百科」の同種のページには、『日本・韓国・中国本土、特に遼寧省・山西省・湖南省・甘粛省・山東省・湖北省・広西チワン族自治区・四川省・陝西省・貴州省・江西省・河北省・河南省に分布する』とあり、この本邦の記事はマズい)『野生では自生地の環境悪化によって、自生のものは非常に少なく、絶滅危惧種になっている。しばしば、栽培もされている。半日陰の排水のよい土地を好む』。『多年生の草本。根は太く、乾燥すると暗紫色になる。茎は直立し、草丈は30 - 80センチメートル』『ほどになり、上部は枝分かれする。葉とともに、斜め上向きに粗毛が多い。葉は互生し、葉柄は無く、葉身は披針形で先端と基部は細くなっており』、『葉縁は全縁で、やや平行するように少数の葉脈がある』。『花期は初夏から夏にかけて(6 - 8月)、茎先の葉腋についた葉状の苞葉の間に、5弁の小さな白い花が咲く。果実は灰白色で、4分果からなる』。『近縁のセイヨウムラサキ』( Lithospermum officinale )『は繁殖力が強く、茎は枝分かれして花が小さいことで、ムラサキとは異なる』とある。以下、『生薬』の項。『乾燥した根は暗紫色で、紫根(しこん)と称される生薬である。この生薬は日本薬局方に収録されており、抗炎症作用、創傷治癒の促進作用、殺菌作用などがあり、紫雲膏などの漢方方剤に外用薬として配合される。主要成分はナフトキノン誘導体のシコニン(shikonin) 、アセチルシコニン、イソブチルシコニンなどであり、最近では、日本でも抗炎症薬として、口内炎・舌炎の治療に使用される。民間療法では、解熱、解毒、利尿、肉芽の発生を促すため皮膚病、やけど、痔に、1日量3 - 5グラムを水400 ccで半量になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている』とある。

「沈香」先行する「卷第八十二 木部 香木類 沈香」を参照されたい。

「薫陸香」先行する「卷第八十二 木部 香木類 薰陸香」を参照されたい。

「白芷」セリ目セリ科シシウド属ヨロイグサ(漢名:ビャクシ) Angelica dahurica の根。当該ウィキ(漢名「ビャクシ」を標題としている)によれば、『薬効成分はフロクマリン誘導体及び精油。消炎・鎮痛・排膿・肉芽形成作用がある。皮膚の痒みをとる。日本薬局方にも記載』。『血管拡張と消炎の作用から、肌を潤しむくみを取るとして、古来中国の宮廷の女性達により美容用とされていた。また鎮痛、鎮静の効果のため、五積散などの漢方処方に配合される』とある。なお、『中国産は』、『その変種のカラビャクシの根』とあった。そちらの学名は、Angelica dahurica var. pai-chi である。

「胡椒」先行する「卷第八十九 味果類 胡椒」を参照されたい。

「麝香」私の「和漢三才圖會卷第三十八 獸類 麝(じやかう) (ジャコウジカ)」を参照されたい。

「檳榔」「卷第八十八 夷果類 檳榔子」を参照されたい。]

2025/11/18

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(10) 忌銅鐵

 

  忌銅鐵  四種

地黃 玄参 益母草 肉豆𦶲

 

   *

 

  (あかゝね)・(くろかね)を忌(い)

                     四種

地黃《ぢわう》    玄参《げんさん》

益母草《やくもさう》 肉豆蔲《にくづく》

 

[やぶちゃん注:標題の「銅(あかゝね)・鐵(くろかね)」はママ。それぞれ「あかがね」・「くろがね」である。また、ブラウザでの不具合を考えて、訓読では、位置を変えた。

「地黃」先の「(10) 忌銅鐵」で既出既注。

「玄参」この植物体は、熱帯性の常緑高木である

双子葉植物綱シソ目ゴマノハグサ科ゲンジン(玄参)Scrophularia ningpoensis

である。「維基百科」の「玄參」に、別称を『元參、烏元參、黑玄參、黑參』とあるのである。中国原産で、「本草綱目」にも記載があり、古くから乾燥した根が生薬として使用されてきたものである。本邦には植生しない。当該ウィキによれば(注記号はカットした)、分布は『インドネシアのモルッカ諸島(別名は香料諸島)原産である。現在では、アフリカ、インド、スリランカ、ヒマラヤ、中国南部、台湾、東南アジア、西インド諸島、中南米など世界中の熱帯地域で栽培されている』とあり、『香辛料のナツメグおよびメースの原料となる』。『雌雄異株(雄花と雌花が別の個体につく)であり、花は小さく、黄白色でつぼ形』で、『果実は熟すと』、『縦に裂開し、赤い仮種皮で包まれた種子が露出する』。『この仮種皮がメースに、種子中の胚乳がナツメグになる。胚乳は生薬ともされ、肉荳蔲(ニクズク)とよばれる』とある。「食用」の項から注意事項を引くと、『ナツメグはミリスチシン』(MyristicinC11H12O3当該ウィキによれば、『ナツメグの精油中に少量』、『存在し、また更に量は少ないが、パセリやイノンド』(セリ目セリ科イノンド属イノンド Anethum graveolens 。所謂、英語由来の「ディル」(dill)でお馴染みである。)『等にも含まれる。水に不溶だが、エタノールやアセトンに可溶である』。『ナツメグは、通常料理に使われる量以上を摂取すると』、『向精神作用を持つ。また、生のナツメグは、ミリスチシン及びエレミシンのため、抗コリン性の症状を引き起こすことがあるとの報告がある。また、ナツメグの中毒の症状は人によって異なるが、しばしば頭痛、吐き気、めまい、口内の乾燥、目の充血、記憶の混濁等を伴って、興奮状態や混乱状態になることが報告されている。さらに視覚の歪みや妄想観念等の幻覚誘発の作用もあることが報告されている。ナツメグの中毒では、最大の作用が表れるまでに摂取から数時間を要するとされている。この作用は数日間続く』)『など』の『有害物質を含むため、大量に摂取すると有毒であり、幻覚作用や肝毒性を示すことがある』とある。

「益母草」植物体は草本で、

シソ目シソ科オドリコソウ亜科メハジキ(目弾き・茺蔚(じゅういし:中国での原称。「維基百科」の「益母草」を見よ)属メハジキ Leonurus japonicus

である。当該ウィキによれば(注記号はカットした)、『花の時期の全草を採取し乾燥させたものを、漢方で産前産後の保健薬にしたことから、益母草(やくもそう)と称し、種子は茺蔚子(じゅういし)と称する生薬になる。初夏の開花始めのときに地上部を刈り取って、屋内で風干しして、長さ2 cmぐらいに刻んで調製し、紙袋で貯蔵される。全草(益母草)は、止血、浄血、婦人病薬としての補精、浴湯料として薬効があるとされ、種子(茺蔚子)は水腫、目の疾患、利尿に効果があるとされる。全草、種子ともに婦人の要薬、特に産後の止血、浄血、補精、月経不順、腹痛に効用があるといわれている』とあり、『和名メハジキは、「目弾き」の意で、茎に弾力があり、昔は子どもたちが短く切った茎の切れ端を、瞼につっかえ棒にして張って、目を大きく開かせて遊んだことによる』とある。「分布と生育環境」の項には、『日本では、北海道、本州、四国、九州、琉球に分布し、国外では、朝鮮半島、台湾、中国大陸、ロシア沿海地方、東南アジア、南アジアに分布する。また、北アメリカに帰化している。山野、野原、堤防、道ばた、荒れ地などに自生する』とある。

「肉豆蔲」基原は、モクレン目ニクズク科ニクズク属ニクズク Myristica fragrans の種子で、以下の引用先には、『通例、種皮を除いたもの』とある。この種子とは、お馴染みのナツメグ(nutmeg)である。

 而して、いつもの「株式会社 ウチダ和漢薬」公式サイトの「生薬の玉手箱 |ニクズク(肉豆蔲)」を引用させて戴く(種小名は斜体にし、太字は私が附した)。

   《引用開始》

 肉豆蔲は、小豆蔲(ショウズク)、草豆蔲(ソウズク)、白豆蔲(ビャクズク)など、ショウガ科植物の果実に由来するいわゆるカルダモン(豆蔲)類生薬と名称が似ていますが、全く別の分類群に由来する生薬です。肉豆蔲の名称について、初収載された『開宝本草』には「肉豆蔲とは草豆蔲に対する名称であって、殻を棄て去って肉のみを用いるものである」とあり草豆蔲と同類と考えられていたことが分かります。また植物に関する記載についても宋代の『図経本草』には「今は嶺南地方の人家でも栽培する。春苗を生じ、夏茎が抽き出で、花を開き実を結ぶ。その実は豆蔲に似たものだ。六月、七月に採取する」とあり、明代の『本草綱目』には「花、実いずれも豆蔲に似ているが核がないものだから命名したものだ」とあり、これらは真のニクズクではなくショウガ科植物を表現しているようです。肉豆蔲の特異な味や香りが、多様なショウガ科植物の一種と考える混乱を生じさせたのかもしれません。実際のニクズクは常緑高木で、播種後も7年ほど経たないと結実しない成長の遅い植物です。中国には分布せず、宋代の頃に交易により生薬のみがもたらされたのでしょう。

 ニクズクはインドネシアのモルッカ諸島原産の植物で、インドネシア、マレーシアの低地の熱帯雨林に自生また栽培される常緑高木です。葉は光沢のある革質で長楕円形、先端は尖っています。雌雄異株で1cmに満たない小さな花をつけます。果実は桃に似た形で直径5cmほどで、肉厚な果皮の内側に大型の種子があります。熟すと果皮が裂け、種子とともに種子を覆う深紅の仮種皮が見えます。この仮種皮がメース(mace)と称される香辛料で、その内側にある殻状の種皮を割って取り出した種仁が肉豆蔲で、ナツメグ(nutmeg)と称されているものです。香辛料としてのナツメグとメースは香りも味も似ていますが、メースの方が上品な香りで、一つの果実から少量しか採れないので高価で取引されたようです。

 肉豆蔲は長さ1.53.0 cm、径1.32.0 cmの卵球形〜長球形です。外面は灰褐色、表面には縦に走る広くて浅い溝と網目様の細かいしわがあります。楕円形の一端には灰白色〜灰黄色のわずかに突出したへそがあり、他端には灰褐色〜暗褐色のわずかに凹んだ合点があります。横断面は暗褐色の薄い外胚乳が淡黄白色〜淡褐色の内胚乳に不規則に入り込んで、大理石様の模様を呈しています。この断面の赤みの鮮やかなものが良品とされています。特異な強いにおいがあり、味は辛くてわずかに苦味があります。学名(種小名)の「fragrans」は「芳香のある」という意味です。

 肉豆蔲は収斂、止瀉、特に芳香性健胃薬として使用されます。胃腸の虚寒や気滞のために腹部が膨満して痛み、嘔吐や食欲不振、下痢などが続くときに用いられます。早朝になると下痢をする症状には四神丸(補骨脂、五味子、肉豆蔲、呉茱萸、大棗、生姜を水煎し、麦粉で丸にしたもの)が使用されます。また家庭薬の種々の胃腸薬にも配合されています。

 肉豆蔲は薬用以外にも香辛料のナツメグとして重要です。ニクズクの原産地であるモルッカ諸島は別名「香辛料諸島」と称されるほど、チョウジやニクズクを代表とする香辛料原料植物の産地です。15〜16世紀の大航海時代、モルッカ諸島を支配したポルトガルはヨーロッパへのニクズクの貿易を独占しました。ナツメグは薬としての用途に加え、やがて食肉の防腐剤としても使用されるようになるとさらに高価に取り引きされるようになりました。ヨーロッパ諸国は貿易の独占を目指してモルッカ諸島の争奪戦をもおこないました。ニクズクはその優れた幅広い用途故に、小さな島の運命を翻弄する原因にもなったわけです。現在、ニクズクは中米のグレナダが主産地となっています。グレナダの国旗にはニクズクの実が図案化されて描かれています。

   《引用終了》

とある。一応、ウィキの「ニクズク」と、「維基百科」の「肉豆蔻」をリンクさせておく。]

和漢三才圖會卷第九十二之本 草類 藥品(9) 忌銅

  忌銅    二種

辰砂 雄黃

 

   *

 

  (あかヽね)を忌(い)  二種

辰砂《しんしや》 雄黃《ゆうわう》

 

[やぶちゃん注:「銅(あかヽね)」は「あかがね」である。

「辰砂」水銀と硫黄とからなる鉱物。深紅色又は褐赤色で、塊状・粒状で産出する。水銀製造の原料、また、赤色顔料の主要材料とされる。漢方では、消炎・鎮静薬などに用いる。「丹砂」「朱砂」とも呼ぶ。

「雄黃」ヒ素の硫化鉱物で「石黄」とも呼ばれる。化学式はAs2S3。漢方では解毒・抗炎症剤として用いられた。しかし、強い毒性を持つため、使用は禁止されている。なお、「雌黃」もある。前掲の「雄黃」についてのウィキの記載によると、漢方の流れをくむ現代中国の伝統的中国医学(中医学)にあっては『解毒剤や抗炎症剤として利用されているが、鶏冠石(realgar、AsS)との混同が見受けられ、鉱物としてどちらであるかは定かではない。なお、中国語では realgar を「雄黄」、orpiment を「雌黄」という。』とある。この文中の、“orpiment”がAs2S3の雄黄のことである。こちらも現在では、有毒として使用禁止とされている。]

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