教え子の女性の葬儀が、ある教会で行われる、という通知を受けて私は出かけようとする。
母は何故か、「行かない方がよい」と制止するのだったが、振り切って、出かけた。
外人のシスターが待っていた。
参列者は、何故か、私一人らしい。
シスターは、彼女は自死であったことを私に告げ、遺品一式――
何かが書かれた手札大の薄い木片のようなもの・私へ宛てた煌びやかな便箋一枚・赤ワイン一本・卵三個
の入った段ボールを渡し、礼拝堂へ案内した。
何人もの葬儀が行われており、彼女のそれはずっと後だということであった。
私は私宛の便箋を読んだ。それは遺書ではなく、彼女が何処か外国から私へ宛てて書いたものであって、記されたそれは聞いたことのない国名なのであった。しかし、添えられた絵はインドか東南アジアの、ヒンズー教か仏教の寺院らしい建物が、極彩色の色鉛筆で美事に描かれているのであった。内容は、それらの美しさと神秘性を私に伝える敬体の文章であり、如何にも旅を楽しんでいる便りなのであって、自死の気配は微塵もないのであった。
ただ、末尾に、
「そんな旅先で不思議なものを見つけました。先生に読み解いて貰えたらと思いい、同封します。」
とあるのであった。どうも今一つの遺品の木片様のものがそれであるらしい。手に取ると、それは木をごく薄く削いで圧縮した、人工の木製紙で出来ていた。
しかも、そこには何故か、漢字仮名混じりの古文が三行(五十字程であった)に亙って書かれていた。
「其時■■須■威出で給ひ……」で始まっていた。
[やぶちゃん注:本夢は私の夢の特異点で、その文字列を、覚醒した時には全文はっきりと覚えていたのであった。しかし、急速に記憶から消えてしまった。直ぐに書き取ればよかった。非常に残念である。]
私は彼女の葬儀が始まるまで、熱心に、それを現代語訳した。
[やぶちゃん注:覚醒時はその訳も確かに覚えていたのだが、これも忘れた。ただ、その内容は、まさに彼女の自死を予言する内容であったことは確言出来る。しかも今、これを書きながら(遅まきながら)、私にはこの木片は、例のインドにあるとされる「アガスティアの葉」であることが明確に理解された。紀元前三千年の昔に実在したとされるインドの聖者アガスティアの残した全人類各個人の情報(自身の過去・現在・未来)について全てが記されているという「木の葉」である。ネットを調べれば判るが、事実、ある、のである。但し、すこぶる怪しいものではある。しかし、正に木簡のようなものなのである(私は実際の朴のような大きな葉っぱに書かれているのだと思っていたが、今、調べてみたところが、例えばここでは、まさに木簡状であった)。]
彼女の葬儀が始まる。
やはり私一人なのであった。彼女の親族はいない(来ない?)らしい。
式を行うのは先のシスター一人であった。
祈禱を終えると、シスターが、遺体はこちらの墓地に埋葬する旨を語った後、
「遺品はどうなさいます?」
と訊ねてきた。
私が躊躇して黙っていると、
「こちらで貴方が天へ送られるのが、よろしいでしょう。」
と言い、礼拝堂の裏手へと導くのであった。
そこには霊安室のような、殺風景な部屋があった。
私はそこで、小さな釜の中にワインを流し込み、便箋と木片をそれに浸した上、三つの卵を、割り入れた。
ところが、三つ目の卵を割ると、そこからは黄色い色をしたアーモンド形の種子のようなものが出てきた。
私はそれらが、ぐつぐつと釜の中で煮られるのを
――凝っと
見つめていた…………